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 公爵が去ってすぐ私とリベリオに向かって王弟であるロイスがやってきた。


 前にやってきたロイスはリベリオとは反対の白にほど近いプラチナブロンドの髪の毛を整髪剤でまとめ、黒のタキシードを着ていた。

 リベリオの隣に立ったロイスは、髪色と服の色合いからしてもゲームと同様に白と黒で、リベリオと対をなしているように見える。


 始めにロイスは兄である王と王妃に簡単に挨拶をすると、私とリベリオに向けて口を開いた。


 「やぁ、リベリオ、レイラ。いい夜だね」


 ロイスの子t場にリベリオは挨拶を返し、私もリベリオに次いで挨拶を返すと、ロイスは目を細めて私の素型を少しばかり眺め、リベリオに向けて顔を向けた。


 「レイラのそのドレスとっても良く似合っているよ」


 普段表情がはほとんど現れない(というゲーム上での設定だった)ロイスが笑みをむけ爽やかに語りかけ、私はスチルでもレアだった笑顔に興奮を覚えながらも微笑みを返した。

 リベリオは少しだけ、私の移り気な空気を感じ取ったかのように、ロイスと私の間に壁を作るように私とロイスの間に体を傾け、壁のように立ちはだかった。


 「普段はどんなにお願いしても夜会に参加してくださらない叔父上が、今日は珍しく夜会に参加してくださるとは。叔父上がそのように、私とレイラの結婚を祝福してくれるとは――、とてもうれしいかぎりです」


 リベリオは先ほどと同じように溌剌をした爽やかな笑みを浮かべていたが、その口調はどこか幼さを伴ったもので、公爵と話しをしていた時よりも幾分か19歳という年相応の受け答えに見え、ロイスとの気安さを現しているように見えてなんだか、心が嬉しくなったのだった。


 「今日は、成婚してからレイラにとって初めての夜会でもあるだろう? 友人として、様子を見にきただけだ。結婚したばかりだというのに、余裕のない男は嫌われるだけだぞ?」


 ロイスがリベリオの方を向いて揶揄うような返答すれば、リベリオは少しだけバツの悪そうな顔をする。


 「べ、別に牽制などしておりません。叔父上はすぐそうやってご冗談をおっしゃれる」


 リベリオがそう答え、少し困ったように眉を寄せていた。


 叔父と甥とい関係である二人だが、内実は少し年の離れた兄弟という方が近いように見える発言に私は思わず、ぷっと吹き出して笑った。

 それをみたロイスが攻略前には考えられないほどやさしい笑みを浮かべ私に笑いかけた。


 「先ほどレイラと公爵が一緒に踊っているのを見かけてね。どうだろう? 私とも一曲踊ってもらえるだろうか?」


 ロイスは私に手を差し出し、ダンスの申し込みをしてくる。


 私は申し出に差し出された手に手をのせて、笑みを向けた。


 再びダンスフロアに躍り出た私の背に手をまわし、優雅にリードするロイスを見つめる。


 珍しく参加しているという夜会で踊るロイスのダンスステップは想像よりも遥かに上手だった。


 そういえば、攻略イベントの一つにロイスからダンスの手ほどきを受けるイベントがあった事を思い出した。

 その時の事を思わず懐かしく思った私は自然と緩む口元にのせ言葉を口にした。


 「ロイス……殿下と一緒に踊るのはこれで二回目ですね」


 笑みを向けて微笑めば、少し視線が上にあるロイスの青みががった紫色の瞳と重なった。


 「えぇ、あの時よりもお上手になっておいでだ、レイラ嬢。いや、既に親族となったのだからレイラと呼ぶ方が正しいのかな?」


 少しふざけたように眉を持ち上げたロイスはそういうと、すぐさま私と重なる視線を外してリベリオの方を見た。


 つられ、私の視線もリベリオの方へと向かっていく。

 視線の先のリベリオは少し長い前髪を後ろに整え、いつもより少しだけ王子様然とした姿で側近たちとなにやら会話をしていた。

 その表情は普段よりいくらか和らいでいる事から、気難しい内容ではないのだろう。


 私がリベリオの事を見つめていると、視線を戻したロイスが思い出したかのように口を開いた。


 「そういえば、先ほど、公爵と踊っていたが、何か嫌な事を言われたりはしなかったか?」


 気づかうような優しい声が頭上から降ってきて、私はロイスの方へ視線を向けた。

 ロイスの青紫色の綺麗な瞳と少し細い女性的な弧を描いた眉で彩られたその表情はどこか不安そうに見えた。


 その表情の意味を当時の私は、ははーん、さては攻略された事で、成婚しても未だに他の攻略対象と同じく恋慕を抱き続け、私を心配しているのね。

 うふふふ。と高慢にも思考を巡らし納得すると、ロイスの問いかけを吹き飛ばすような満面の笑みを向けて返答した。


 「そんな事は全くございませんでしたわ。ロッセリーニ公もとても親切な方で、とても私に優しくしてくれました」


 それを聞いたロイスが驚いたように目を開いたが、すぐさま安心したようなやさしい目元になり、いくらか落ち着いた声で返答した。


 「それはよかった」


 「……――そんなに心配していたのですか?」


 ロイスの安堵の様子に意外に思った私は聞き返すと、ロイスは私の耳元に顔をよせ、誰も聞こえないような小さな声で耳元で囁いた。


 「兄上も今回の事で気を使ったんだろうが、レイラはまだ王族になったばかりだというのに、無茶をさせる。親族として――心配しないほうがおかしいだろう?」


 ロイスの不満げな声は私にしか聞こえない。


 親族という言葉を強調してはいたけれど、その発言はまるで、恋人を気遣うようなセリフだった。


 ロイスは言い終わると再び私と視線を合わせて、普段は滅多に見せないような色気たっぷりの笑みを向けて微笑んだ。


 □


 私はその時の回想を無理やり終え、豪奢なシャンデリアから視線を外し、ため息をついた。


 あの時のロイスは攻略済みのおかげか、ゲーム中盤まで冷や水を常に浴びせるような勢いだった態度が一変していた。

 そして、あの時私は、ロイスがこのように優しく声をかけてくれる事にも、まるで恋人同士のような事をされる事も一瞬驚きはしても、特別意外だと思う事もなかった。


 ただご褒美タイムだと早合点していた私が、それを享受した上で再び、「やっぱり、ご褒美タイム最高!」と高慢に拍車をかけていく事になるだけだった。


 あぁ! なんという愚かさか! 滅せよ過去の私!!


 私は思い出した過去を一掃すべく目をつむって深く深呼吸をした。

 脳内で再生される過去の経験を消し去るべく、ふーふーと通常より深い呼吸を繰り返した。


 少しだけ落ち着きを取り戻した私は、再び目をあける。


 目の前には先ほどと変わらぬ貴族のきらびやかなドレスで彩られた会場がある。

 私の周りにいた歓談の声は幾分か遠くなっていた。

 視線の先にある雑多に動く貴族や、当時胸を躍らせていたこの色とりどりの会場を見て、再びグラスの中身を口に含んだ。


 これから先に起きる黒歴史は先ほど回想した事など序章だと言わんばかりの内容だ。


 前世の記憶というものが私の中で抹殺されているとはいえ、オープニングと同じように主人公が登場してきたという事は、これから先あの黒歴史カムバックという事が大いに考えられる。


 ならば、その黒歴史を繰り返すであろう過去の私とどうむきあっていくか、それが問題である。


 『過去』がテーマとなった瞬間、グラスを持っていた手に力が入り普段よりも冷静さを欠いてしまう自分に気づく。

 すぐさま何度か深呼吸をし冷静さをとりもどすと、再び思考を初めようとする。


 そして、ふと入場してきたところとは別の出入り口に視線を向けた。


 そこは、人目につかないような地味な場所に存在する扉だった。


 装飾は華美ではなく控えめで、トイレだとか、ドレスを汚してしまったりだとか、そういった人目につかないように移動したい人達の為の非常口のような場所で、この会場の何か所かに用意されている扉だった。


 出入りするのには近くにいる警備の騎士に声をかけるか、会場にいる使用人に案内されたりして使う扉である。


 私はその扉を見て、にっこりとほほ笑んだ。


 私は手に持ったグラスを傾け、光を楽しむようにグラスを動かした。


 冷静さを欠く過去と向き合わずに済み、それよりももっと簡単で面倒の少ない方法は――、と考えながら飲み物を口に含んだところで、私は閃いた。


 「そもそも、私が全クリしなければ転生……しないはずよね?」


 喜びに緩む口を手で隠し、手元のグラスをまじまじと眺めた。


 金色に輝くグラスに注がれた飲み物は、喉にぱちぱちとした刺激を与える。

 電気信号のようなその刺激は、私に一種の快感を齎し、短絡的に自分が納得できるような理由を見つけ出してくれた気がした。


 目をなんども瞬きして、その事を確認するように小さく言葉にする。


 「全クリした私がゲーム中の私の攻略を阻止すればいいのよ。そうすれば、私が将来王妃として転生してくる事もないかもしれないわ」


 そうつぶやいた私は、持っていたグラスをテーブルに戻した。


 無意識に内に握っていた口を押えていた方とは反対の手のひらの指を一つ一つ広げてから早急にしなければならない事を考えた。


 フレミングの左手を作った私は、その立った三本の指を眺め、目のまえが開けていく感覚に襲われ笑みを作った。


 この妨害に成功すれば、今のまま気楽な令嬢生活を続けながら、前世の私が作りあげた黒歴史を無かったことに出来る……かもしれない。


 唯一懸念するべきは、妨害工作がばれたときだろうが、詳しくはおいおい考えよう。

 とりあえずは、法にふれるような非道な事さえしなければ、大きな問題にならないだろう。


 能天気に結論を結び付け、癖のようになってしまっている人差し指を立てた。


 今のところ、ゲームは恐らくオープニングムービーのところだろう。


 王子と白地のドレス姿でダンスを踊るのは、オープニングと王子との最後の卒業パーティーの二回だけである。

 ゲーム自体の最後は卒業パーティーなので、まだ二年ほど余裕がある……はず。


 「今、オープニングだったとしたら、この後何が起きるんだったかしら? えーと、オープニングの次はチュートリアルが入るから……」


 そこまで口にしたところで、ハッとして周りを見回した。


 先程まで見えていた主人公の姿はなくなっている。

 さらに、先ほどまで会場に存在を確認できていた王子や他の攻略対象たちの姿も今は見えなくなっていた。


 その事に気づいた私はできるだけ優雅にスカートを片手で持ち、急いで会場を縫うように歩き出入り口に向かった。


 オープニングが終わった後、主人公は、チュートリアルに入る。

 それは、この会場から出た先のひと気のない庭園で「貴方一体何処のだれなのよ?!」という、どこの誰かわからない令嬢につるし上げにあうというありがちなイベントだ。


 ここで、好感度の上げ方だとか、一通りの説明を受けることになるのだが、もし、これが本当に前前世(ゲーム中)なのであれば、――攻略対象や主人公の姿が見えない事からそのイベントが発生しているに違いない。


 これまた幸いな、と言えばよいのか。


 不幸中の幸いな事に前世の記憶からイベントが起こるであろう庭園にあたりをつける。

 そして、かつて知ったる王城を一番最短ルートでその庭園に向かって歩いていく。


 カンカンとヒールを鳴らし、磨かれた床を進みながこの後起こる事を考えながら、笑みを浮かべて歩を進めた。



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