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 本日は、王家主催の王城にて執り行われるデビュタントである。


 それは王族のみならず、貴族にとってもとても目出度い出来事の一つでもある。


 その王家主催のデビュタントで、王子のダンスの相手が予定とは違う女性だったというアクシデントが起こったとしても、流れがとん挫するなんて事はあり得ない。


 「では皆様本日という祝いの席を十分にお楽しみください」


 王子のダンスが終わると、進行役の男性が何事も無かったかのように告げ、予定通りの進行が進められる。


 そして、私のところには予定通り決められた相手が私を迎えに来て、決まりきった口上を述べたうえで、手を繋いでダンスフロアまでエスコートされたのだった。


 ■


 何曲かダンスを踊った後、私はようやく数曲分の休憩を与えられる。


 喉の渇きを潤す為、会場の端に用意されているテーブルに近づき、用意されているグラスを持ち、グラスに注がれている水分を口の中にふくんだ。


 乾いた喉を潤す刺激に、水って美味しかったのね、とどうでもいい感動を味わい、そのままフラフラとあてもなく目的もなく会場内を歩き回る。


 手に持ったグラスを傾けつつなんとなく周りに耳を澄ませば、やはり耳で拾える多くの話題は、あのピンクゴールドの髪の女性の事についてばかりだ。


 そこかしこから「あの女性を知っているか?」だとか、「あの珍しい髪の色からするとこの国の者ではないのでは?」だとか似たり寄ったりな会話が延々と続いている。


 新たなグラスを手にとり、気泡が浮いては消えていく金色の飲み物を口にふくむ。


 なんとなく周りから視線をそらしながら、頭上に浮かぶ豪奢なシャンデリアを見やり、金色に輝くシャンデリアを見ながらごくりと音を鳴らして飲み込んだ。炭酸の利いた飲み物がのどを刺激する。


 そういえば、と先程考えた事を思い出す。


 私は、頭上に浮かぶ豪奢なシャンデリアを目を細めて見つめたまま、前世の事を思い出した。


 ***


 前世、自分の眼で初めてこの豪奢なシャンデリアを眺めたのは、私が聖女として、また王太子妃になって数日の事だった。

 王太子妃となって初めての公の行事で、転生してきて一週間ほどだった。


 結婚して間もないという事もあり、王族としての立場に慣れる目的で催された夜会だった。


 なんとか周りに違和感を与えず、日常を過ごしていた私のその日の仕事は、王子の隣に立って微笑み、適度に相槌をうつという傾聴に重点を置かれていた。


 幸いに、それほど難しい事は無く、目に映るきらびやかな催しに心躍らせていた。


 リベリオ――当時の夫である――の隣で微笑み、社交辞令という名の美辞麗句に有頂天になり、聖女様からのサービススマイルですわよー。と心の声を乗せ笑みを作っていた。


 そんな私たちの前に、現れたのは、元悪役令嬢の父である公爵だった。


 公爵は、人好きの笑みを浮かべ、慣れた動作で丁寧に挨拶の口上を述べていた。


 程よく日に焼けた小麦色の肌に、白髪交じりの短い髭は悪役令嬢と同じ髪の色で、前髪を整髪剤で左右に整えた壮年の男性だった。


 エンドロールに流れた悪役令嬢の末路は、私とリベリオの成婚が済む前に貴族籍をはく奪され、公爵家から追い出された末、現在行方不明になっているはずであった。


 つまり、現在娘は行方不明という状況だ。


 悪役令嬢が貴族籍をはく奪されたとはいえ、娘が行方不明である親がこのような場に出るような余裕はないはずだった。

 しかし、公爵はそんな雰囲気を一切感じさせない明るさで、私と王子の成婚を祝ってくれたのだった。


 「まず、この度はお二人が無事ご成婚をすまされた事にお祝い申し上げます。私事で婚儀の式にお祝いを直接伝える事が叶わず、申し訳ありません。今、改めて、お二人のご結婚をお祝いいたします」


 「ありがとう」


 リベリオが一瞬苦笑をうかべながらも公爵の言葉に短く返答し、私も笑みを浮かべて小さく頷いた。


 「お聞きしたところによると妃殿下は珍しい光の魔法をお使いになられるとか。これで、我が国の未来はさらなる、繁栄に満ちていける事でしょう。まったく、未来が楽しみだ!」


 嬉しそうに歯を見せて笑顔を作った公爵はそう言うと、すぐさま私たちの隣にいた王様と王妃様から話しかけられ少しばかり会話をしていた。


 娘の事はあれど、子供のころから知っている息子のような存在だった王子が成人し、妻を迎えた事を本当に喜んでいるように見えた。

 高校生だった私にはその公爵の態度が随分白状に見えたけれど、ここで何か言うような関係ではない事もあって、公爵に対して特に話しかける事なく、精一杯の微笑みを浮かべていた。


 しばらく、王様と王妃様と会話をした後、王様が思いついたかのように口を開いた。


 「エドアルトよ、レイラはダンスが得意なそうでな。せっかくだ、この機会に一度踊ってみてはどうだ?」


 にやりとからかうような笑みを公爵に向けた王様は、渋る公爵からリベリオに顔を向けさらに言葉を続けた。


 「リベリオもレイラのダンスの腕に異論はないだろう?」


尋ねられたリベリオは、溌剌とした爽やかな笑みを浮かべて胸を張って答えた。


 「えぇ。もちろん。それに、ロッセリーニ公が私の妻と踊っていただければ、嫁いだばかりの妻も王族としての自信になりましょう」


 「……そこまで言ってくださっては断るわけにもいきませんな」


 公爵も初めこそ躊躇していたものの、王の言葉と王太子たるリベリオの言葉もあってか、戸惑いがちにおずおずと私にダンスの申し込みの礼を取ってくれたのだった。


 柔らかなシルクの白いグローブの上からもわかるごつごつとした公爵の手にエスコートされ、ダンスフロアに躍り出る。

 私の背中に腕を回した公爵が私を見て微笑みを浮かべていた。


 「ダンスなんて一体何十年振りになるか。妻をなくしてから、随分こういった事からは離れていてね。もし、うまくターンが決められなければ、この老いぼれのせいだ。すまない」


 高い視線の位置から謝られる。


 近くにいる偉そうな立場の人が学校の先生くらいしかおもいつかない当時の私はその公爵の態度に目をパチクリして驚いたあと、公爵の腰の低さに好感を覚え、小さく笑みを向けた。


 「お気になさらないでください。私、ダンスだけは最低限の必須値以上を常にキープしてましたから」


 ゲームでのステータスについて胸を張って答えれば、公爵はその返しに驚いたのか、私以上に目を見開いて目じり小さな皺を作ってクスリと笑った。


 「本当にむす……、いえ、ロッセリーニ公爵様はこんなに素敵なのに、不思議ですね」


 思わず声に出した言葉と共に、公爵にほほ笑みかけたのだった。


 その一言に公爵は一度体を固くすると、今まで一番不格好な笑い顔を作っていた。


 「ははは、これはこれは妃殿下はお厳しい」


 私は訳がわからず首をかしげ、同時にタイミングをはかったように音楽が鳴り始め、ダンスを踊った。


 途中、余裕を見せた公爵と言葉を交わしたが、公爵が謙遜するほど下手というほどのダンスの腕前ではなかった事を伝えると、公爵は再び口元を引きつらせて笑ったのだった。


 ダンスを踊り終えリベリオの元に返されると、表情を硬くした公爵が簡単に挨拶だけ済ましてその場を去っていく。

 私はその公爵のダンスする前と打って変わった、よそよそしい態度に疑問を覚えつつ、再びリベリオの隣で微笑みを浮かべた。


 ――ここで、あえて言わせてもらうが、当時の私は勘違いに追加して、全ての人間が私の言動すべてを好意的に解釈してくれるゲーム攻略後の「皆幸せに暮らしました」という言葉通りのご褒美タイムだとおもっていた。


 裏の裏を読むなんて事はできないし、陰謀や計略を巡らすなんて考えもしていなかった。という事だけは伝えておこうと思う。


改稿(6/17)

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