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 三人掛けのソファの端に寄った私は引きつる口を無理やりあげた。


 「な、な、何のこと、でしょう?」


 無意識に声が上ずった。

 その行動と態度がロイスの言葉を全て肯定しているとは思えど、素直にうなずけるはずもなかった。


 「そういう態度をとるという事は、レイラ、君にもこの状況について理解しているんだね。今まで、一人で抱えていてつらかっただろう? こんな事、いくら夫とはいえリベリオにもそう簡単に打ち明けられたものではないだろう」


 今までにないほど誠実で優しそうな顔でロイスがそういうものだから、先ほどの得体の知れない恐怖も忘れて、当時の私は込み上げる何かを押し込めようとして、こらえきれずに涙が一粒零れたのだった。


 ※※※


 「ふー!! 滅せよロイス!」


 荒い息とともにこの時のロイスの顔を記憶という映像に赤線で×を描き、フラッシュバックを止めた。


 私は、この時の行動を未だに後悔している。


 あの時、ロイスに会う約束をしなければ、あの時ロイスの口車に乗らなければ! と前世で何度思ったかわからない。


 ロイスのやさしさに促されるまま、色々とした後の結果が未来の私(くろれきし)である。


 その憎きロイスが今回の対象者だというのだ。


 私は悲惨な過去を思い出し、この後起こる出来事にギリギリと歯を食いしばった。


 草陰から見える庭園に集まっている攻略対象者たちの多くは、本日のデビュタントに用があっての参加なのだろう。

 貴族の子息は貴族らしいきらびやかで品のある服装だ。


 その彼らと彼女らのきらびやかな服装のおかげで、この殺風景な庭園に彩りが追加され、何もない緑の庭園に見るも見事な色が追加されていた。


 その彩りの最後となるのが、私にとっての憎き男である王弟であるロイスである。

 ロイスが悠然と現れたところで、アーノルドが表情を固く変えロイスに声をかけた。


 「ロイス殿下までいらっしゃるとは……」


 少しばかり声に警戒をにじませたアーノルドの声に、集まっていた集団を少し遠目に距離を置いてみていたロイスは驚いたように眉を上げる。


 ロイスのわざとらしい驚いた顔はどうにも先ほどの滅したはずの優しく誠実なロイスとかぶるものだから、私の眉間に皺がよっていく。


 アーノルドの声に反応した攻略対象者たちは、ロイスの間に壁のように塞いでいた体をずらし、道を割るように左右に移動した。

 ロイスの視界の先にアーノルドがしっかりと映り込んだところでロイスは、わざとらしく大仰に両手を広げた。


 「誰かと思えば、次期宰相と名高いアーノルド・ローベル殿ではないか」


 良く通る声と王族らしい鷹揚な態度で答えるロイスに周りの攻略対象者たちは気のせいか少し落ち着かなそうに顔をふせた。


 そういえば、と私は前々世におけるゲームでの内容を思い出す。


 このロイスは最終攻略対象でありながら、最難関攻略対象キャラクターでもあった。

 というのも、王族という立場と魔術師や騎士をまとめ上げる軍人としての影響力が非常に高いおかげで、ほかの攻略対象者たちに大きな影響を与えるのだ。


 ゲーム中、今までコツコツと築きあげてきた好感度を一度の会話で5パーセントほど落とされたときは、ドライアイの私の瞳に潤いが戻ってきて悔しい思いをしたものだ。


 ロイスの登場で落ち着かない攻略対象のその行動をみれば、好感度に影響するという理由もどこか納得してしまう。

 もちろん、その影響を受けないという人物もいるが。


 そう思うと隣国の公爵家嫡男のイアンを視線に映した。


 イアンは眉ほどのながさのある前髪を後ろに整え、捉えどころのない雰囲気を醸し出している男で、彼の攻略は少しだけ謎解き要素が入っていたのだった。


 私がイアンから再びロイスに視線を戻すと、集団から距離を置いてゆっくりと歩いてきたロイスが、令嬢と攻略対象の集団に近づいて、その顔をじっくりと見まわした後にっこりと楽しそうに笑った。


 「みんなこんな何にもないところに集まっていったい何事だい?」


 優しそうな声色とは相反するような冷たい笑みを浮かべたロイスが、視線だけで一人一人を見まわしたあと、その集団の中でロイスのその視線から逃れるように、気まずそうにそらした令嬢がいた。

 ロイスはその人物に視線を止めると、わざとらしく声をあげた。


 「おや、君は確か――ヴィスコンティ侯爵家のご令嬢だったかな?」


 甘いマスクをさらに増長させるような青紫色の瞳にまっすぐエリザを捕らえたロイスは、小さくなるように肩をすくめ、豪奢な髪に似合いの大きな扇に顔のほとんどを隠しているエリザの名前を呼んだ。


 エリザは小さく肩を震わせると、ゆっくりと扇を閉じて先ほどと同様に丁寧なあいさつをした。


 「ご無沙汰しております。ヴィスコンティ侯爵家エリザ、御前失礼いたします。殿下におかれましては――」


 口上を続けようとしたところで、ロイスは左手を上げ、静止をかけた。


 「簡略でかまわぬ」


 「感謝いたします」


 「それで? エリザ嬢、どうしてこのようなところに? 見たところ集まっているものは多くの有力貴族の子息と――子女が集まっているようだが?」


 そういったロイスは少し間をあけ、不自然に私が隠れている草陰の方に一度視線を向けてから、エリザに尋ねた。


 なぜ、不自然なほどそろっている高位貴族でもある攻略対象者たちをほおってエリザなのか。その明らかに違和感のある行動に誰しもが一瞬眉根を寄せた。

 もちろん、尋ねられたエリザも同様に驚いたように目を見開き、深く頭を下げた。


 「私はただ、こちらのレイラ様と少し女性同士のお話をしていただけですの」


 扇を閉じたエリザは腹が座ったのか、悪さなどしていないと言わんばかりに先ほどの怯え様は消え、平然とした態度でそう言いのけると、どこかぎこちない笑みを浮かべてレイラに視線をむけた。


 皆の視線が主人公に集まっていく。


 その視線に少しだけ怯えを見せた主人公の前にアーノルドが一歩前に出て答えた。


 「殿下、こちらの女性は――」


 アーノルドがそう言いかけたところで、ロイスはさらに楽しそうに笑み深くして、レイラをかばうように立ったアーノルドを避けレイラに近づいた。


 レイラの目のまえに立ち、上からしげしげと主人公を観察した後、少し身長の低い主人公に視線を合わせるように腰をかがめる。

 ロイスと主人公の視線がばっちり合うと主人公の茫然とした表情に何を思ったのか少し含み笑いを浮かべた。


 「君は、さっき我が甥のリベリオとダンスを踊っていた令嬢だったかな。なるほど? リベリオの趣味は君のような女性だったか。確かに、この手の女性を貴族女性から探そうとするのはいささか難しいかもしれない。それに、確か君は――、辺境伯のところに……「殿下、大変申し訳ありませんが、殿下ともあろうお方がむやみに令嬢にお近づきになられるのはいささか問題が」」


 アーノルドは少し乱暴に言葉を放つとロイスの肩に手をかけた。

 瞬間、その行動に誰もが息を飲んだ。

 ロイスはかがめていた体を起こし、アーノルドの態度を気にした様子も見せずに、主人公とアーノルドの数度見てからため息をついた。


 「そういえば、ローベル殿は我が甥と友人だったか。友人思いと取るべきか、同好の士ととるべきか……」


 揶揄うような声色に乗せたその表情はどこか冷めていた。

 その声に隠された意図を察したらしいアーノルドは一瞬不快に眉を吊り上げ、ロイスと睨むとすぐ視線を外した。


 「殿下とこの件は関係ありません。どうかロイス殿下の広いお心で、王家に仕える一家臣としての忠言と思って頂ければと」


 アーノルドのロイスの肩をつかんでいた手はいつの間にかその胸におかれ、丁寧に頭をさげている。

 ロイスはその下げられた頭を一度見ると、再び周りの貴族を見た。

 ロイスの視線の先に見える攻略対象たちは誰もが決まずそうに顔を背けていた。

 それからロイスは声色を変え、雰囲気を変えるように口を開いた。


 「すっかり雰囲気を悪くしてしまったようだね。デビュタントはまだ始まったばかりだ。君たちもこんなところで大事な時を無駄にしてはいけない。やましいところが無いのなら、早く会場に戻る事をお勧めするよ」


 そう告げるとさっそうと元来た方向とは反対の方向に向かって姿を消した。

 それを見送ったアーノルドは一度深く息をはいてからレイラに向かって「君にはまだ聞きたい事があるんだ、悪いが女性同士の話とやらは、また今度の機械にしてもらっても構わないだろうか?」と言った後、令嬢に笑顔をむけた。


 アーノルドに微笑まれたエリザ様は、ロイスの時とは打って変わって頬を赤くしてこくりと頷いた。


改稿済み

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