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「ハァハァ……」


 結界内で両手をつき呼吸を整える。幼い頃から聖戦にいずれ参加することはわかっていた。無傷で勝つに越したことはないがそれはあり得ない。故にケガに耐える訓練はしてきたし、対処法もある。


「――朱き香りの癒しを。慈悲深き天使のごとく」


 イヤリングを両耳から外し触媒とする。いざというときのために使いやすい場所に赤い装飾品を身につけることが色魔術の基本。


「……ふぅ」


 治癒魔術で回復を感じつつ暁を見る。

結界を素手では無理と判断し手を伸ばし神具を呼ぶ。戦闘中でも呼べば神具はたとえ短い距離でも転送される。先ほどの魔力の弾丸が迫ってきたときも呼べたのだが転送が一瞬間に合わないと判断し避けることを選択した。

 染料を触媒とした結界でもそれなりの威力は持つが神具の一撃には耐えることはできないことは明白。


「さて」


 朱乃は指輪を見る。小さいが朱く輝く本物のルビー。今日朱乃が持ってきた触媒としてはもっとも高価な宝石。

これが今回の切り札となる。相手がひかりの父親である以上殺すわけにもいかないし、椋のサポートにまわる気でいたためにあえて制限した。だが今となっては後悔している。


暁の力量を読み間違えた。


(結界壊されるギリギリまで待って、隙を狙って叩き込むしかないかな)


 出し惜しみしても仕方ないと指輪を外そうとしたとき、


「――!!」


 後方から迫り来る椋の気配を感じとり、暁は転送された槍をその方向に差し出す。とくに狙いを定めていない突きを食らうほど椋は弱くない。かいくぐり懐に入る。

 剣と槍の最大の違いが武器の持つ長さ。間合いが長い槍で届かない距離から振るわれたなら剣に攻撃手段はない。逆に長いリーチの分、懐に死角ができるので鍔ぜりあいができる距離まで接近すれば剣が有利。つまりは間合いを制した方が勝ちなのだ。

 距離をとろうとする暁とさせまいと詰める椋。数合の剣戟。スピードに勝る椋が優勢で暁は受けることしかできない。

 結界から離れていく二人を見て使おうと思った指輪を一旦保留し、結界を解除。そして天然石を数珠繋ぎにしたブレスレットを外し、紐を切ってバラバラにしチャンスを待つ。


「逃がすか!」


 接触しての力比べから両腕を押し、その反動で距離をとろうとする暁。椋は刀身を指でなぞり、


「クラウ・ソラス! スパークモード!」


 クラウ・ソラスは椋の言葉に呼応し発光する。刀身より生まれた美しき発光はそのまま刃を形成。幅が三倍、長さが一.五倍になった光り輝くクラウ・ソラスは光の剣という銘に相応しい。


「くらえ!」


 闇を切り裂く。本来なら間合い外の一撃だが光は暁に吸い込まれるように伸びる。


――バシュゥゥゥ!


 槍を強く叩きつけることでどうにか光を相殺する。


「如月!」


 椋の言葉に朱乃は朱い天然石を暁の上空に投げることで応える。


「――朱き鎖の束縛を! 非情な鬼のごとく!」


 天然石は一斉に消滅。刹那、魔力の鎖が現れ暁の身体を拘束する。


――ギシギシ……。


 鎖は幾重にも折り重なる蛇のように暁の身体に巻き付く。必要以上の触媒と彼女の魔力は人を拘束するには十分だ。


「……ふぅ、洒落になんないよ」


 朱乃はようやく一息つく。


「まったくだな」


 椋も肩で息をしながらも安堵の表情を見せる。

 槍を振り下ろした体勢のまま腕と上半身を拘束され足以外は動かせない状態になる。ロンギヌスの槍の穂先は地に着いたままなので今の暁には鎖をキャンセルする術はなく、逃げるにしても不十分な体勢ならば椋から逃げられない。


「拘束したまま神具を引き離して、それから術者を狙う?」

「呼べばくるんだ、引き離しても無駄だろ。それよりしっかり拘束しておいてくれ。俺がさっさと片づけてくるよ」


 スパークモードのままだと魔力、体力共に消耗は激しいが見た目のインパクトがあるはずだと状態を維持。

 高見の見物と洒落こんでいた召を見る。暁が拘束されたことと戦闘に身を投じた者特有の眼光に気圧される。


「お、おい! そのままで終わる気か! 腐っても最強だろうが! このクズ!」


 ひかりを人質にしようと一瞬思ったが、暁で勝てると思いこんでいたのでひかりの居場所を把握していなかった。発見するがその中間には朱乃たちがいるので無理と判断し、苛立ちを隠さずに声を張り上げる。


「ムダよ。如月の魔術を甘くみないでよ。神具ならともかく何の魔力もない人間に破れるとでも思ってるの?」


 言葉に反応し鎖を力任せに解こうともがく様を見て朱乃は召を侮蔑の目で見る。


「仕方ないだろう? 身体張らない人間はそんなもんさ」


 椋は肩をすくめ、朱乃に背を向け進み出す。先ほどの言葉通り一人で召のところに行き、暁との契約を切らせるつもりだ。


「じゃ、お願……!! 椋くん!」


 手を振り、暁に顔を向ける。そこで見た光景に朱乃は絶句する。


「ああ? ――!!」


 声に振り向いた椋もその信じられない光景に言葉を失う。

 暁は槍から手を離す。地に着く前に自由に動く足で槍を蹴る。


――穂先が自分に向くように。


 石突きが地に着き一瞬静止したところを狙いすまし、


「――パパ!!」


――ズボッ!


 自らを刺す。


「……そんな」


 拘束された朱き鎖は穂先に触れ、霧散する。――そして、


「イヤァァァァァァー!!」


 暁の腹に突き刺さる槍を見てひかりは絶叫する。


「――――!!」


 暁は槍を持ち、力任せに引き抜く。同時に鮮血が勢いよく吹き出るが瞬時に止まる。


「……ロンギヌスの槍の……治癒?」


 再び槍を手にしたことで神具の力が戻り、傷ついた所有者を癒し始めた。

「ウソ、……でしょう」


 暁に朱乃の魔術を無効化する方法は一つしかない。手が動かない状態では手段がなかったとはいえ常軌を逸している。たとえ槍に治癒効果があるとしても力の加減ができないので一歩間違えば致命傷になりかねない。召還で操られているせいか、はたまたそれが暁の戦い方なのかは知るよしがなかったがハッキリしていることは一つ。再びピンチがおとずれたということ。


「――――!!」


 槍を振り、穂先についた自分の血を吹き飛ばす。標的をもっとも近場の朱乃に定め、走り出す。治癒の効果があるといえども神具での傷は――例え自らで傷つけたといっても――治りが遅いので先ほどまでの速度はない。だが生粋の魔術師には驚異だ。


「――ッハ!」


 切っ先に集中し初撃を後ろに跳んでかわす。だがそれが精一杯だった。


「……痛!」


 勢いを殺さないよう槍を回転させ石突きで胴を凪ぐ。すかさず魔術の準備に気をとられたうえに体勢不十分な朱乃にかわす術はなくまともに食らう。あばらにヒビが入った音がする。

 だがそれだけでは終わらない。


「キャァァァ」


 とっさに踏ん張った朱乃の身体に足で顔を蹴り、迎え撃つ形で槍で打つ。


「朱ちゃん!」


 その威力に吹き飛ばされる。どの時点で気を失ったかはわからないが受け身も取れず地を転がっていった。

 今度は追い打ちはしない。突然の出来事に反応できていない椋に矛先を向ける。


「――!!」


 間合い外から放たれる突きは伸びるようにまっすぐ椋を襲う。


「ナメんな!」


 当たれば確実に自分を貫く必殺の一撃を紙一重で避け、未だスパークモードな光の刀身を暁めがけて振り下ろそうとし、


「何!!」


 新たに迫りくる突きに気がつき剣で迎撃する。軌道をズラし攻撃に転じようと切り返し、――その先に見えた突きを三度迎撃。

 剣の斬撃を線とたとえるなら槍の突きは点。命中までの距離は点のほうが短いので速度がでる。突き主体の槍の使い手に近寄るのは困難である。かといって突きがすべてにおいて優れているわけではない。攻撃が直線である以上、始点さえわかれば到着予想地点が読みやすく避ける、もしくは軌道を変えることがされやすい。

 片桐の剣術は神速に喩えられ斬撃スピードで通常の使い手の突きを凌駕する。だが椋の剣術を持ってしても突いては引き、また突くという単純ながらも奥の深い攻撃に防戦する一方だった。


「……っく」


 突きをいくら弾いても懐に飛び込む前に次の突きが襲ってくる。戦士としての技量は椋がやや上、神具の能力も未知数なところもあるが大きな差はない。だが二人の実力には大きな隔たりがある。それは経験値。実戦経験、それも神具を使っての命を賭けた戦闘経験。それが圧倒的に不足している。その差が今の劣勢である。


「――ちぃ」


 凄まじき猛攻をしのぎきれず脇腹に裂傷をおう。クラウ・ソラスもロンギヌスの槍と同様治癒の効果がある。だが直るまで痛みはあり、椋は急激に動きが悪くなる。同じように痛みがあるはずの暁は平然と攻撃し、椋に傷を負わせていくというのにだ。


「――クソ!」


 致命傷こそ無いが数カ所の傷は足を止めさせる。

 暁はその一瞬を狙って心臓への一突き。

 椋は身を低くしてかわす。後頭部に風を切る気配を感じるが無視、身体を起こしつつ間合いを詰めようとするが、


「ガハッ!」


 前傾姿勢が仇となる。近寄ってきたところに狙いすました蹴りがアゴを突き上げる。


――舞う鮮血。


 完全に無防備状態になった胴体を槍で凪ぐ。本来なら致命傷の一撃。だが椋はどうにか意識を保ったまま倒れる。

 クラウ・ソラスが所有者の身に危険を察し、自らスパークモードを解除。治癒にあたった。


「く、くそ」


 とはいえ傷は深い。思うように身体が動かない。暁がとどめを刺そうと近づいてくるのにだ。

 槍を構える暁。治癒をギリギリまで粘り直前で避けるべきか、治癒を中断し無理矢理攻撃に転じるか。どちらも分が悪い賭である。

 そんな椋の思惑などお構いなしに暁は槍を構える。



 ようやく気がついた朱乃は状況を確認しようとする。身体が痛むのですぐには起きあがれないので顔だけ動かす。自分と同じように倒れている椋と止めを刺そうとしている暁。


「――!」


 そしてその後ろには……。

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