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「フフフ! 良く来たわね、土方召! ノコノコ三人の前に現れた度胸だけは認めてあげるわ!」


 朱で統一した戦闘服を身にまとった朱乃は小さな身体で精一杯大きく身を仰け反る。その後ろに立っているひかりと椋は少々とまどい気味だ。

 翌日午後十時、場所は昨日と同じ公園。三人はそこで待ちかまえていた、土方召ではなく北条暁を。


「あんまりにも古風で陳腐で、あとバカげてたからな。笑いのネタに乗ってやっただけよ」


 ポケットから「果たし状」と書かれた紙を取り出し、投げ捨てる。


『本日午後十時。昨日の場所に召還したファンタジー最強種と共に現れたし。如月と片桐がお相手する』


 まったく自分勝手な文面に召は怒りを通り越して呆れた。

 自分がなぜ聖戦ではまったく無関係の如月と片桐の当主と戦わねばならないのかと。用があるのは北条ひかりのみで他と戦うことには意味がない。こういったバカげた話は無視するに限る。

 だが召はやってきた。朱乃の予定通りに。

 すでにひかりをリタイアさせろと命令を出している。それをしなければ暁を帰すこともできないし、他を召還することもできない。コッソリと襲うことぐらいは考えているだろうが朱乃と椋がひかりについたことを果たし状で宣言することで闇討ちの対策くらい練っていると思わせたのだ。


「お前らの目的はこいつだろ?」


 召は背後を親指で指す。


「パパ!」


 父親を見て思わず飛び出そうとするひかりを椋は手で制する。

 昨日と同じく正気ではない父親を見るとじっとしていられない。だがグッと我慢する。


「お前らもこいつがそいつの父親とでも言う気か?」

「あたしたちはファンタジーの住人でしょ。この世界が何でもありってことは身をもって知ってるはずでしょう?」


 あざ笑う召に朱乃は反論する。


「なるほど、そういう姿勢ね。まぁどうでもいいがな」


 召にとっては暁が本当にひかりの父親であるかどうかなどは興味がない。


「召還してから調べてみたんだが……こいつは結構使えそうでな。正面からやっても如月と片桐くらいの小物なら同時に相手にしても大丈夫な強さは持っている。ミスった召還とはいえ腐っても最強というキーワードだったな」


 ドラゴンを召還するつもりであっただけに出てきた人間の評価はどうしても低くなる。だが最強というキーワードで最低限の強さは確保しているとの認識はある。土方家の魔術はそういうものだし、暁の持つ武器についても知識がある。

 指を鳴らすと暁は召を庇うように前に出る。その操り人形のような様がひかりの心をひどく揺さぶる。


「……おい、如月。気がついてるか?」


 暗がりで見にくかったが近くなり暁の持つ武器が明らかになる。

 彼の身長と同等の長さの槍。黒鉄の柄は細く螺旋状。一見すると扱いにくそうだが使い慣れれば握る際、滑り止めになるので戦闘には適している。


「気がつきたくなかったかも」


 穂先は一つ。先は鋭く、幅は細く、厚さは薄く。

 穂先の中央には金の継ぎ接ぎ。その穂先の中心を螺旋の柄が刺さっている。穂先を柄に差し込むような形状というよりは柄を無理矢理穂先に差し込んだという印象を受ける。


「……ねぇ、『ロンギヌスの槍』って不敗伝説もあったっけ?」


 朱乃は有名な聖人が磔にされ、刺された槍の伝承を思い出す。


「『その槍を持つ者は世界を制する』ってのがあったな」


 さすがに敵対するかも知れない神具についての知識は持っている椋。だがそれが救いになるとは限らない。


「な、なら椋くん、ライバルよ。頑張ってね」


 神具の中には持つものを必ず勝利に導くなどの伝承を持った武器が多数存在する。神具系にとってはそれは戦うべき理由となる。

 不敗の武器が戦ったとするならそこに生じるのは矛盾。勝者が一人なら敗者が存在するから。

 クラウ・ソラスも不敗の剣と伝承がある。どちらが不敗かと雌雄を決する戦いに身を投じても聖戦では一般的なのだが……。


「クラウ・ソラスよ、来い!」


 椋は自分の剣を呼ぶ。闇夜を切り裂くような白銀の光が生まれる。


「そんなこといってもな」


 神具系のそれも不敗伝承のあるもの同士の戦いはまず相手と武器を離すことから始まる。神話において不敗の武器を持った英雄が敗北する理由はひとえに何らかの拍子で武器を手放したことによる不敗の消失。武器を一瞬でも手放せばその瞬間は不敗にあらず。

 手っ取り早い方法としては相手の腕を切り落とすことだが、さすがにひかりの父親にそこまでするわけにはいかない。


「でも、やってくれるんでしょう?」


 朱乃の言葉に自ら前に出ることで答える。

 光の剣クラウ・ソラスを持つ片桐椋は右手に持ったまま軽く素振りをする。

 聖槍ロンギヌスの槍を持つ北条暁は両手で持ち微動だにしない。


「くだらん感傷だとは思うが……好きにしろ。俺は高見の見物させてもらうよ」


 召は神具を持つ二人から距離をとる。自分は安全なところに避難して戦わせる。一見卑怯と思うかも知れないが召還士としては当たり前のスタイル。


「死んでも俺を恨むなよ」


 笑う召を朱乃たちは非難する気はない。それこそが彼女たちの望んだ展開だった。


「ロンギヌスの槍って治癒の効果もあったよね?」

「俺の記憶が確かならな」

「なら思いっきりやっても大丈夫ね。ひかりちゃん、ちょっと派手にいくけどお父さんのことは心配ないから。あの神具はね、持ち主のケガを自動的に治癒する優れものだから。ちょっとやそっとのケガは問題ないから心配しないでね」

「あ、うん」


 目の前で父親がケガしても慌てないように今のうちに安心材料を与えておく。

 ロンギヌスの槍を暁が持っていたことはひかりにとっては安心材料だが朱乃と椋に対しては最悪だといえる。なにしろ不敗系だけでなく戦闘中のダメージがすぐさま回復するのだから。

 苦戦は必死。

だがそれでも引くわけにはいかない。


「ひかりちゃん、下がって!」


 椋と暁の間合いが徐々に近づく。戦闘の開始が近い。


「……朱ちゃん、片桐くん」

「約束したでしょう。あたしたちを信じてよ」


 この方法でいいのかといまだに迷う。そんなひかりに朱乃はとびっきりの笑顔で応える。


「お父さん、絶対取り戻そう」

「朱ちゃん……」


 ついで椋を見ると目は正面の暁を見たままだが片手をあげ、ひかりに振っている。


「朱ちゃん、それに片桐くん。ゴメンね、ありがとう、……お願い」



 ペコッと頭を下げ指示通り後方に下がる。これで公園の中央の開けた場所には三人になる。

 朱乃が立てた策とは非常にシンプル。椋と朱乃の二人がかりで暁を戦闘不能にし、そのまますぐに召に攻撃を仕掛ける。

 召還した暁が負けても死なない限りは契約が切れたことにならない。つまりその時点で召に朱乃の魔術もしくは椋の剣技から身を守る術はない。彼の姉から仕入れた情報通りなら土方家の召還術は術者の意志で契約を解除できるという。そうなった場合召は間違いなく暁との契約を切り、別の召還を行うだろう。契約が切れた場合、暁が正気に戻るという保証はない。だが可能性があると考えたのだ。


 ただ、その道のりははげしく険しい。


 勝たなくてはならない。だが殺してはならない。その縛りは口でいうほど簡単なものではない。最強のキーワードで召還された暁は元々は一般人という素性の割に強すぎる。直に対決した椋は手加減する余裕はない、そんなことをすれば逆にやられると正直に言い、朱乃のサポートを受けることにした。

 ひとつ間違えると暁をひかりの目の前で殺すことも――逆に朱乃と椋が殺されることも――あり得るのでひかりは連れて来たくはなかった。だが一緒にいないと召は暁を直接ひかりのところに送る可能性もあったし、ひかりのどんな結果になっても直接自分の目で見ておきたいと強い主張から一緒に来ている。戦闘中は足手まといなので絶対安全なところにいることを条件に。


(パパ。……朱ちゃん、片桐くん)


 指示通り大きく離れる。ひかりの心では期待と不安と恐怖がはげしくぶつかっている。今は恐怖のウェートが大きい。

 父が正気を取り戻さないまま友人に殺されるかもしれないことに。

 父が正気でないとはいえ友人を殺すかもしれないことに。

 ふたつの最悪のケースのどちらかになった場合自分はどうなるのか? どうするのか? まったく予想がつかない。


「パパ……お願い」


 ただ祈ることしかできない。ヒロインを目指している身としては悔しい限りだった。


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