閑話2
「ひかり」
暁は娘の頭に手を置く。
「な~に? パパ」
ひかりは払おうとしない。ただ両手で父の手をさわる。その時はこれが最後のコミュニケーションになるとは思ってはいなかった。
「できればヒロインになるんだぞ」
「うん、まかせて!」
躍動感あるVサイン。素直に返事をする娘がかわいい反面、自分の言うことが伝わってるかどうか不安にもなる。
「ヒロインに必要なのはかわいさとか、優しさとか心の強さとかイロイロあると思うけどパパはどれだけ人の灯りになれるかだと思ってる」
「灯り?」
父の言うことは大好きですべて理解しようとしていたが、当時の彼女には理解できないことも多かった。
「うん。どんな人だって悩むし、迷うし、苦しむし、間違いを起こすものなんだよ。どんな人だってそうだよ」
「パパも?」
「そうだよ」
タレ目気味の瞳が細くなる。ひかりは父親のその寂しげな瞳だけは苦手だった。――自分も一緒に寂しくなるから。
「そういうつらい状況に陥ってる人間を助けることができるのがヒロインなんだよ。灯台が暗い海をさまよっている船を光で導くようにね」
「光?」
自分の名前ではなく一般的な単語の意味だと理解はする。だがそれだけではないとも直感し、じっと父親の顔を見つめる。
「そう、お前のひかりって名前はな、文字通り光って意味なんだ。誰か苦しんでいる人の光となりなさい。ファンタジーのヒロインのように」
「うん!」
パッと顔を明るくさせる。
「まかせて! 私、光になるから! パパだって照らしてあげるよ!」
満面の笑みを浮かべる娘がいとおしくてたまらない。大きく口を開き、歯を見せて笑う。
「ありがとう。……その時は頼むな」
「うん!」
暁はひかりから手を離す。
「じゃぁ、行ってくるよ。ママが帰ってくるまでよい子にしてるんだぞ」
「うん。おみやげよろしくね」
「わかってるよ。じゃぁいってきます」
旅行用の大きめのバッグを持つ。これから一人で海外に取材に行く予定だ。夏休みなので娘も連れて行きたいところだが治安が悪い国なので断念した。
「いってらっしゃい!」
寂しくて駄々をこねたが、今は納得したのか素直に見送る。
この先に二度と父の笑顔が見れないと知っていたならどんな手段を使っても引き留めただろう。
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