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8.防具屋

 正直期待はしていなかったので、中に入った瞬間驚いた。

  薄汚れて廃れた外観からは、想像も出来ない程綺麗に整っている。


「いらっしゃい!嬢ちゃん、この店に入るとはあんた見る目あんな!」


 そう言って話しかけて来たおっさんが、この店の店主だろう。

 気の良さそうな感じである。筋肉も凄い。いかにも昔は冒険者でした!みたいな見た目だな。斧が似合う。


「いえいえ、ギルドで教えてもらったんですよ」

「なんだ、そういう事か!けどビックリしただろ?外から見たらボロボロだからな!」


 ガハハと盛大に笑う。

 アリスがおっさんの迫力に押されて俺の後ろに隠れて、動こうとしない。

 人見知りのアリスにとってこのおっさんは天敵なのだ。

 怯えるアリスに追い打ちをかけるようにおっさんが、アリスに話しかける。


「おっ!可愛い嬢ちゃんがいるじゃねえか!なんだ人見知りか?」


 アリスは大きい声に更に怯えてしまった。


「すいません!この子は重度の人見知りなんですよ」

「そうかそうか!ガハハハ!そんでここに入ったって事は防具だよな?うーん、確かに嬢ちゃんの装備じゃスライムにも勝てないな!」


 流石にそれは言い過ぎではあるが、俺の装備は初期装備なだけあって耐久性が無い。

 スライムやキメラを倒せたのは、ステータスに補正がかかっていたお陰だ。

 スライム如きの攻撃で溶けるほど、この装備の耐久性は乏しいのだ。

 そう考えるとおっさんの見立て通りこの装備はスライムの攻撃すらまともに受ける事は出来ない。


 俺にはステータス補正があるから大丈夫と言いたい所だが、傲慢さは自分の破滅を呼ぶからな。

 装備は優秀な物を揃えて置いた方が良いに決まっている。


 それにこれからはアリスも一緒に戦う事になるので、尚更俺が倒れるわけにいかないのだ。

 俺が倒れたらアリスが襲われるからな。自分自身を守る事が、結果的にアリスを守る事に繋がるのである。


「これより防御力があって動きやすい物が欲しいんですけど、ありますか?」

「どのくらいまで出せるんだ?」

「金貨1枚くらいで」

「はああ!?」


 店主はいきなり大声を上げて顔面蒼白になった。


 金貨1枚じゃロクなもん買えねえぞ!という馬鹿にした驚きなのだろう。


「安いのか。それなら何枚くらい出せばいいんですか?私あんまりお金ないですよ」


 店主は頭を抱えてから、怒鳴った。


「冷やかしなら帰ってくれ!」


 意味がわからない。冷やかすつもりなど微塵も無いのだが、金貨1枚の価値が怒鳴られる程低いとは思わなかった。

 せっかく受付嬢さんに教えてもらった店なので、なるべく良い関係を築きたいが、謝って許してもらえるだろうか。


「すいません。私金貨の価値がよく分からなくて。金貨1枚でも手に入る様な安い武器で、良いのでください!」


 頭を深々と下げて謝罪した。

 アリスにこんな姿を見せるのは不甲斐ないが、謝る事の大切さを知る良い機会でもある。

 誠意を示したのだから、これ以上怒られる事はないだろう。

 頭を抱えておっさんが口を開く。さっきの様な怒りの声ではなく、落ち着いた声だ。


「頭を上げてくれ。すまねえな、大声を出して。嬢ちゃんが冷やかしで言ってんのかと思ったが、そういう訳じゃねえのか。本当に金貨の価値がわかんねえんだな?」


 おっさんはため息を吐いてから話を続ける。


「嬢ちゃんがまさかここまで世間知らずとは思わなかったぜ。言っておくが俺が驚いたのは、金貨1枚が安いからじゃねえ。金貨1枚ってのは銀貨1000枚に相当する価値があるんだ。ほれ!そこにある魔法剣(マジック・ブレード)はこの店で一番値が張るが、それでも銀貨520枚だ。分かったか?金貨1枚がどれだけの価値か。」

 

 魔法剣(マジック・ブレード)に例えられても良く分からないが、その隣に置いてある青銅の剣やらの値段と比べたらよく分かる。

 青銅の剣の値段は銀貨10枚、鉄の剣が銀貨32枚、鋼の剣が銀貨54枚といった感じだ。

 って事はクエスト報酬の銀貨110枚はかなり羽振りが良かったのか。

 金貨の価値は銀貨より高いのは何となく察していたけど、銀貨1000枚分とは思わなかった。精々銀貨100枚程度の認識だった。


 おっさんが良い人で本当に良かった。もしこの店じゃなくて他の胡散臭い店で、金貨を出していたら、ぼったくられていただろう。


 流石受付嬢さんのオススメの店の店主だ。


「金貨ってそんなに価値があったんですね。ありがとうございます。おかげで損しないで済みました。」

「あぁ、気をつけろよ!金貨なんてそこらの一般市民には手が届かないからな。さっきみたいにヒョイと出したら襲われちまうぞ!」

「わかりました」

「今回は、銀貨400枚程度で装備を選んでやる!」

「ありがとうございます!それとこの子の分もお願いします!私のより防御力がある奴を」

「そっちの嬢ちゃんも冒険者なのか?」


 驚くのは当然か。10歳くらいの小さな子が冒険者なのは、明らかに異質だ。


「うん、私もエレンお姉ちゃんと戦うの!」


 ここに来てアリスが初めて喋った。


 恐らくはアリスも、おっさんが悪い人じゃない事を悟ったのだろう。

 怒鳴ったのは怖かったけど、俺たちの事を思っての怒鳴りだ。

 それを理解したアリスは、怖がりながらも前に出てきた。


 おっさんは豪快に笑いながら言った。


「そうかそうか!良い妹だな嬢ちゃん!装備は任せておけ、直ぐに良いやつを選んでやる!」


 そう言って奥の部屋に行った。


 多分直ぐに戻ってくるだろうけど、それまでは暇なので、この店の物を色々と見る事にした。


 剣とか鎧とかって男のロマンだよな。カッコいい!これとかヤバイな日本刀みたいで凄え良い。これは、柄の無い太い剣だ。

 俺が剣に釘付けになっている間にアリスはローブを眺めていた。

 ただのローブではなく魔力を帯びたローブで、見た目もいいし実用性もある物だ。


 防御力は鎧にも引けを取らないらしい。ローブを編む際に防御系の魔法を組み込んでいるみたいで、軽いし耐久性はピカイチ。理想の防具である。


 それぞれ夢中になっているとおっさんが戻ってきた。

 鎖帷子やアーマー、ガントレットとかを机に一気に並べた。


「ここら辺が俺のオススメの防具だ!軽くて頑丈。嬢ちゃんたちにも似合う!」


 確かにガッチガチの鎧を付けるのもカッコいいけど、身動きしにくいからな。こういう要所を守る装備の方が楽でいいな。

 色々試して見たが、俺はブレストプレートとガントレットとその他小物を購入した。


 アリスには鎖帷子と気になっていたグリーンローブを購入する。

 グリーンローブは質が言い分値段も高くて、銀貨250枚もするのだ。


 あとはおっさんオススメの杖と剣。合計で銀貨720枚だ。駆け出しの冒険者としては、一級品の防具を揃える事が出来た。


 購入した防具を装備してみると、冒険者感が増した気がする。

 さっきまでの貧相と言うとあれだが、初期装備過ぎる防具とは違って格好が付いた感じだ。

 アリスの見た目は魔法使いそのものだってた。少し大きめのローブでブカブカだが、それが返って可愛い。


 俺とアリスは大満足である。

 おっさんによると素材を持ち込みでオーダーメイドも可能との事だ。

 いづれお世話になるだろう。


「今日はありがとうございました!」


 俺が挨拶するとアリスも小さい声で「ありがとう」と言った。


 少しだけおっさんに慣れたみたいだ。


 おっさんはガハハと笑いながら「おう!またこいよ!」と送り出してくれた。


 このままの勢いでクエストに行きたい気持ちもあるが、まだ宿が見つかってないからな。

 まずは生活の拠点となる宿を探さないと始まらない。

 何処か良い所は無いだろうか。


 町を歩きながらキョロキョロしていると、少女に声をかけられた。


「そこのお姉さん!私の見立てだとお姉さんは宿を探していますね?」


 猫の様な耳がある元気な少女だ。モフモフで実に可愛らしい。後で触らせて貰う事は決まりだな。

 この少女は俺が宿を探しているのを言い当てた。

 なんかのスキルか?

 まあ話しかけて来たって事は、宿を紹介してくれるんだろう。


「そうだけど、よく分かったね!人の考えが分かるスキルを持ってるの?」

「うーんそう言いたいですけど、違います。ただお姉さんの顔をこの辺で見ないなと思ったので、声を掛けました!それだけです」


 何だ、ただの当てずっぽうだったのか。


「そういう事ね。 で、君は何で話しかけて来たの?もしかして宿を紹介してくれるとか?」

「話が早いですね。その通りです!オススメの宿があるんですよ、どうですか?」


 ちょうど宿を探していた所だ。運が良い。


「案内してもらおうかな!」

「わかりました!付いてきてください!」


 それから少し歩いた所に猫耳の少女がオススメする宿があった。

 他の建物より新しくて綺麗だ。

 この宿屋は、猫耳の少女のご両親が最近始めた店らしく、少女もここで働いてるとの事だった。


「いらっしゃいませ!」


 猫耳の少女より背が高い綺麗な女性が出迎えてくれた。

 恐らくこの人が少女のお母さんなのだろう。耳がよく似ているので間違いない。


「あら、あなたがこのお客さんを連れてきてくれたの?」

「そうだよ!スゴイでしょ?」

「お客さん私の娘が、何かご迷惑をお掛けしなかったですか?」

「お母さん!私は何もしてないよお!」


 仲が良さそうで何よりだ。


 それにお母さんが言うような迷惑もかけられてない。あのまま宿を見つけられずに野宿って事もあり得たのだ。あそこで声を掛けてくれた猫耳の少女には感謝している。


「私が宿も見つからずに彷徨ってる所に声を掛けてくれたんですよ。助かりました!」

「あらあら、そうなの!てっきり無理矢理ここまで連れてきたのかと」


 猫耳の少女は母親からの信頼がないみたいだ。

 親というのは過剰に子供の事を心配してしまうものなのだろう。


「もお!お母さんったら!私が空いてる部屋まで案内するからね!」

「はいはい。お客さんお名前は?」

「私は、エレンです。」

「エレンさんね。お一人ですか?」


 アリスがずっと俺の後ろにくっ付いて隠れているので、気づいていないのだろう。


「いえ、もう一人ここに」


 アリスを前に出す。


「あらあら。可愛らしい子ですね!お二人様ですね」

「えっ!?その子いたの?気づかなかった」


 まさか君も気づいてなかったのか。そこまで同化してるとは思わなかったよ。

 もしかしたらこのローブには人の認識を誤魔化す能力があるのか?いや、そんな能力があったらおっさんが説明してくれる筈だな。


「それじゃ二人を連れて行ってあげて」

「はーい!じゃ、二人共付いてきて二階の部屋だよ」

「うん。君名前は?」

「私はミル!」

「ミルか。いい名前だね。当分この宿にはお世話になると思うからよろしく!」

「うん!何かあったら私を頼って下さい!」


 階段を上がって奥の部屋が俺たちの部屋だ。


 ミルの話によると一度チャックインしてしまえば何日でも泊まる事が可能らしい。


 その場合は一ヶ月に一度くらいのペースで、お金を払えばいいみたいだ。

 宿というかアパートとかに近いシステムで、俺たちには好都合である。


 掃除が行き届いた綺麗な部屋で、2人が止まるにもちょうどいい大きさだ。


 朝食付きで一泊銅貨70枚。他の宿がどれくらいかは分からないが多分安いんじゃないだろうか。

 因みに銅貨100枚で銀貨1枚の価値だそうだ。


 部屋にキッチンや風呂が付いている。ここまで来ると本当にアパートの様だ。

 元々が長期間泊まる人の為に作られた感じで、俺たちみたいな長期滞在する予定の人には有難い設備だ。


 一つ不満があるとしたら時計が無い事くらいかな。

 受付には時計が設置されていたが、個々の部屋には無いみたいだ。

 この世界で腕時計をしている人を見掛けていない事から、時計はかなり高価な物だと予想ができた。


 部屋に荷物を置いた俺たちは一階の食堂で、昼を食べる事にした。

 さっきも言った通り朝食は一泊分の料金に入っているが、それ以外の食事は部屋のキッチンで自炊するか、食堂で食べるか外食かだ。


 今回は食堂を利用する事にした。


 並べられた料理はどれも美味しそうだが、伯爵邸での食事を堪能した後だと少し質素に見えた。

 目が肥えてしまっている。良い物を見た後だと普通の物が劣って見えてしまう。

 全ての料理に感謝する事を忘れてはいけない。


 実際この料理は美味しかった。アリスも美味しそうに食べてるので味は確かだと思う。


 明日はクエストに行く予定だ。

 その為今日はこれ以上何もせずにゆっくり部屋で休む事に決めた。


 部屋で休んでいるとアリスが、俺に冒険者カードを見せて言った。


「このカード何て書いてあるの?」


 どうやらアリスは字が読めないみたいだ。そう言えば俺もカードをあまり見ていなかった。

 ステータスとかが書いてあるのは知っているが、それ以外何が書いてあるか気にしていなかったな。

 というか気にする暇がなかった。


 まず俺のステータスから見ていこう。


 名前 : エレン

 種族 : 人

 レベル : 11

 攻撃 : 201

 防御 : 143

 素早さ : 242

 魔力 : 103

 賢さ : 86

 ユニークスキル :< 絵本の世界(ザ・ワールド)>

 スキル :なし

  技能: <見切り> <剣術 小> <体術 小>

  属性:<無>

 魔法 : なし

 耐性 : <物理耐性 小>

 加護 : <女神の慈悲>


 レベルが11も上がっている。ボルドやキメラとの戦闘で得た経験値によるレベルアップだろう。

 何だかゲームの様で、楽しいな。

 ステータスの高さは良く分からないけど、アリスのステータスと見比べたら大体分かった。


 名前 : アリス

 種族 : 人

 レベル : 3

 攻撃 : 25

 防御 : 12

 素早さ : 56

 魔力 : 122

 賢さ : 52

 ユニークスキル : <兆し>

 スキル : なし

 技能:<魔素吸収>

 属性:<暗黒>

 魔法 :< ダークボール>

 耐性 : <物理耐性 小> <毒耐性 小> <暗黒耐性 小>

 加護 : なし


 はっきりと分かるステータスの差。<女神の慈悲>による強化が凄まじいという事が見て取れた。

 数字を明確にしてみるとよく分かる。俺って凄いんだな。

 しかし、加護を受けてステータスが向上している俺よりもアリスの魔力が高くて、魔法まで持っている。アリスの属性が<暗黒>とか、可愛い見た目に相反して物騒な属性だ。

 魔法の<ダークボール>は、<暗黒>属性特有の魔法なのだろう。

 魔法の所に<ダークボール>しか無いのは、今はそれしか使えないという事だろう。

 レベルを上げていけば他にも使える筈だ。


 そして技能の<魔素吸収>だが、魔素とは大気中に浮遊している自然の魔力の事らしくアリスはそれを自分の魔力として吸収する事が出来るのだ。

 魔力無限チートじゃん!と思ったが<魔素吸収>を行使すれば魔力は回復出来るが、単純な体力が減るみたいで、やはり限度はあるのだ。


 アリスのステータスは前線に出るタイプのステではなかった。

 まあ元々の作戦通り後ろからの支援攻撃をメインで戦うのが良さそうである。

 それを踏まえて明日は、2人でもクリアできるクエストを選ぶとしよう。





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