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7.冒険者登録

 昨日は酔った挙句に眠ってしまった。

 大した量を呑んでいなかったので、二日酔いとかは無く、記憶もはっきりしている。

 アリスと伯爵には、ちゃんと謝っておこう。かなりダル絡みをした気がする。

 起き上がろうと思って腕を動かそうとしたら、左腕に体重がかかっているのを感じた。

 俺の手をガッチリとホールドして、アリスが眠っているのだ。


 この姿を見たら無理に起き上がるのは、悪い気がするので、このままの態勢でアリスを寝かして置く事にした。とは言ってもこのまま、何もせずにアリスが起きるのを待つと言うのは退屈だ。


 暇つぶしも兼ねて俺のユニークスキル:絵本の世界(ザ・ワールド)について色々と考察してようか。

 そもそも俺のスキルは、自分が知っている物語の主人公の特徴を能力として使える状態で召喚する。

 そういう認識で今まで使ってきたが、もしかしたら人間以外の物も召喚出来るかも知れない。

 例えばマッチ売りの少女アンを丸ごと召喚するのではなく、そのマッチだけを召喚する事が可能かどうかという事だ。


 とりあえずやってみよう。まずはあの時のマッチを想像する。

 理科の実験で、よく使う様な普通のマッチだ。想像出来たら、詠唱を始める。


絵本の世界(ザ・ワールド)。マッチ」


 いつもだったら何かしらのエフェクトが起こる筈だが、何も起こらなかった。

 つまり失敗だ。マッチだけを召喚する事は出来ないみたいである。

 それならやっぱり物語の主人公だけを召喚する能力なのか。

 それじゃアラジンと魔法のランプはどうなるんだろう。

 あの物語の主人公はアラジンだけど、見方によってはランプの魔神も主人公と言えると思う。


 疑問に思ったらやってみる!


絵本の世界(ザ・ワールド)。アラジンと魔法のランプ」


 ランプの方を強くイメージしたが、ふと思ってしまった。

 確か、指輪もあったよな?

 一瞬指輪のイメージを強くしてしまったが、どっちが出て来ても意図は変わらないので、問題ない。


 モクモクとした煙が俺の右手を包み込んだ。その煙は直ぐに消え去り、右手人差し指に指輪が嵌められていた。

 石は付いていない金色のリングだ。


 多分成功!これを擦れば魔神が出てくるはず。

 俺は指輪を物語の通り優しくこする。するとまた煙が出て来た。煙は人の様な形になって、実態を持ち宙に浮いた。


 これが指輪の魔神か!思っていた程デカくはないけど、それでも2メートルくらいある。

 これにより判明した事が、主人公で無くても召喚可能であるという事だ。

 その物語において、特徴が明確な登場人物なら召喚が可能なのだろう。本当に面白い能力だ。


 魔神は俺を見て口を開く。


「我が指輪の魔神。主のご用命とあれば何なりと叶えよう」


 そう言って腕を組み命令を待っている。

 アンのマッチと似ているが、本質的には違う。

 マッチの場合想像した物を具現化する能力だが、この魔神は命令によって自らが行動する能力だ。


 例えば魔神に「魔物を倒せ」と命令を出せば魔神自ら魔物と対峙する形になるだろう。

 それがマッチとの大きな違いだ。マッチの場合は魔物を倒す事は出来ない。

 魔物を倒すのはあくまで俺で、マッチはただ魔物を倒す為の手段を提供するだけなのだ。


 その分、魔神の方が優秀そうに思えるが、この世界は物語ほど甘くは無い。

 俺の予想では何かデメリットがあるはずなのだ。

 まずはデメリットを聞く事にする。

 願いを叶えてもらってから、デメリットがあると言われても、それはもう遅い。

 最初から能力の全容を把握した上で、デメリットがあるならそれも視野に入れて考えた方が安心して使えるのだ。


「君の能力を教えて欲しい。細かい所をよく教えてくれ」

「お安い御用。我の能力は主の願いを叶える事。主が求める武器をここに召喚し、主が求める富をここに召喚し、主が求める名声は我が集めよう」

「召喚するってどういう事?」

「この世界にある代物をここに運び出すと言うことだ」

「じゃあもし私があの店の商品が欲しいと言ったら?」

「我が持ってこよう」

「オーケー、わかった」


 結論を言えば便利ではあるけど、犯罪紛いな能力だ。という事だ。

 会話でも言った通り、「とある店の商品が欲しい」と言えば、その商品を奪って俺の元へ持ってくるという能力。

 アンのマッチは一時的な具現化で、指輪の魔神の能力は物理的な獲得。

 どちらが良いかと聞かれれば、どちらも選び難いと言うのは本心だ。

 確かに魔神に頼めば楽に全てを手にできるだろうけど、その行為は犯罪だ。

 しかし、使い方によってはデメリット無しの便利な魔法にもなる。


 例えば、大きな荷物を特定の場所に運ぶクエストがあるとしよう。

 その荷物を指定された位置に運ぶようにと、魔神にお願いをすれば、効率的にクエストを進める事が出来るのだ。

 それを戦闘に置き換えて考えると、必要な時に必要な武器を自分の武器庫から、召喚する事も可能なのだ。

 自分の所有している物や自由に扱える物は、罪悪感も無く好きなタイミングで召喚できるという便利さ。

 やはり使い方によるのだ。

 考えは大体纏まった。俺は魔神に次の願いをしてみた。


「願いなんだけど、この指輪を常時召喚しておく事は出来ないかな?」

「お安い御用だ。主の右人差し指で良いのだな?」

「あぁ!」

「終わったぞ」

「はやっ!じゃあスキルを解除しても、この指輪はこのままなのか?」

「そういう事だ」

「ありがと!次までに君の名前を考えとくよ」

「主がお呼びとあらば直ぐに参上する」


 そう言って煙と共に消え去る。


 願い通り指輪はそのまま具現化しているが、魔力は消費していない様だ。

 ちょうど魔神が消えた瞬間に魔力が消費しなくなった事から、魔神が現れている時だけ魔力が使われる仕組みなのだろう。

 そんな事をやっている内にアリスが目を覚ました。

 まだ眠そうな目をこすって起き上がる。

 左手が解放されたが、まだアリスの温もりが残っていた。


「エレンお姉ちゃんおはよう」

「うん!おはようアリス」


 挨拶を返すとニコッとアリスが笑った。


 犯罪級の可愛さに落とされそうになったが、ギリギリで堪えた。

 毎回こんな感じだと体がもたない気がするな。 アリスには、もう少し可愛さを抑えてもらいたい所だが、それは無理なお願いか。


 それから朝食をとって、伯爵の部屋に向かった。


 廊下を歩いていて思ったのだが、やっぱりこういう広い家は俺には向いていない。道は覚えられないし、部屋が多過ぎて、どれが何の部屋かも分からない。

 俺には普通の家がお似合いだ。


 この邸を出たらまずギルドに行って、報酬を受け取ってから、宿を探すとしよう。

 本当は宿では無く一軒家に住みたいのだが、今は金が無いのだ。もっと金を集めてから生活する場所の事を考えよう。


 とりあえずそれも伯爵に挨拶をしてからだ。


「エレンです。入ってもいいですか?」

「いいぞ。はいれ」

「失礼します。おはようございます伯爵。」

「あぁ。もう行くのか?もう少しゆっくりして行ってもいいんだぞ」


 伯爵のご厚意は嬉しいけど、邸にこれ以上いると離れられなくなってしまう。

 こんな完璧な暮らしは、一般人には二が重いというものだ。

 俺には程よく苦労をする暮らしがちょうどいいのである。


「いえ。私はもう十分ゆっくりしました。それにこれからやらなくてはいけない事が色々あるので、私は行きます!」


 伯爵はそれを聞くと微かに笑って、ため息を吐いて言った。


「本当に冒険者というのは自由な者が多い。昔にも、お主と同じ様な事を言った冒険者が居たぞ。俺に貴族の暮らしは似合わないから、直ぐに出る。とか言っていたな。貴族の誘いを断るのはお主ら冒険者だけだ。」


 昔の事を思い出しながら伯爵は語る。少し嬉しそうだった。

 俺は苦笑いですいませんと謝った。


 伯爵の脳裏に強く焼き付いているその冒険者の話を聞いてみたいが、恐らく伯爵の話は長くなると思うので、また次の機会にする。

 それにアリスがもう飽き始めている。こういう堅苦しいのは子供には辛いのだ。


 それを伯爵も理解してくれたみたいで、話を進めてくれた。


「まあ文句はこのくらいにしておこう。今回の件は想定外の事がいくつもあったが、お主のお陰で無事に事が済んだ。感謝している。お主はいらないと言ったが、これだけは受け取って欲しい」


 そう言って皮の袋を手渡した。

 これが金貨である事は分かる。だいたい10枚くらい入っている様だ。

 伯爵は話を続ける。


「それはボルドを助けてくれた事の感謝と奴隷商人ドードリエンドに掛けられていた懸賞金だ。それは何も言わずに貰って欲しい」


 そう言われたら、もう断れない。断るのは野暮というものだ。

 伯爵の言葉に甘えて、これを貰うことにした。


「ありがとうございます」

「あぁ」

「それでは私とアリスはもう行きますね。色々とお世話になりました。ありがとうございました!」

「お礼を言うのは私の方だがな」

「じゃあね!おじさん」

「あ、あぁ」


 伯爵は困惑していたが、直ぐに執事を呼び俺たちを表まで見送る様に言った。

 執事とメイド達に見送られながら、俺とアリスは伯爵邸を後にする。


 メイドの中には奴隷商から助けた女性達の顔があった。その表情は柔らかい笑顔だった。

 あの人達はこれから奴隷として人に仕えるのではなく、一人の人間として正しく人に仕える事になる。

 大変だろうけど、理不尽に殴られたり蹴られたりする事はもう無いだろう。

 そう思うと少し誇らしくなった。


 最後にボルドが、俺たちに挨拶をしに来た。


「エレンさん。本当にありがとうございます!僕はこれから正しく生きます。もう自分の欲望に囚われる事がないように鍛錬します。いつか僕とまた戦ってください!」

「あぁ、次は正々堂々やろう!」

「はい!」


 2日前のボルドはどこに行ったのやら、完全に好青年になっている。

 真面目に鍛錬をしたボルドに勝てるだろうか。次、戦う時はもしかしたら負けるかもしれない。それはそれで楽しみでもある。

 色々あったが、結果的には良い終わり方なのだろう。


 伯爵邸を後にした俺は、まずギルドに向かった。

 クエストのクリア報告とアリスの冒険者登録の為である。

 勿論冒険者としてアリスを戦わせるのが、目的ではない。

 身分証として使うつもりだ。作り方も簡単だし、何より一度作った事があるから作りやすい。


 クエストをクリアした事を受付嬢さんに伝える。クリアの証拠として伯爵の印鑑付きの文書を渡して無事にクエストをクリアした。

 報酬は銀貨110枚。安く思えるが、元々のクエスト内容が、護衛だったのだから妥当な金額なのだ。

 それに加えて伯爵から謝礼金という願っても無い収入が入ったから、懐が暖かい。


「初のクエストはどうでしたか?」


 今回の件を全て話すと長くなるし、ぶっ飛びすぎる話で信じてもらえない気がするので、大体の感想を言うだけにした。


「初だったので、疲れましたよ」

「そうですよね。普通の人は、初クエストに伯爵からのクエストを選ばないですしね」


 いやいやいや!あんたがこれをやらせたんだろ!半強制的だったの覚えてるぞ!

 これだからドジっ娘は厄介なんだ。本当にこっちの身にもなって欲しい。

 まあでも、いい経験ではあったのは確かなので、責めはしない。

 俺からしたら獲得した物の方が多かったのだ。骨折り損のくたびれもうけは、御免だが少しでも利益になるならこういうのも歓迎だ。


 受付嬢さんは話を変えて、視点をアリスに移した。

 やっと言いだせたと言わんばかりの顔で尋ねてきた。


「あのー。その子は誰ですか?前に来た時にはいなかったですよね?」


 アリスの事も説明し難い。

 奴隷だった子を引き取った。と言うのは誤解を生みそうで嫌だな。

 娘です。って言っても、年齢的におかしいか。じゃあ妹?それが一番妥当だろう。

 妹なら一緒にいても不思議では無いし、何せアリスにはお姉ちゃんと呼ばれているから、最早正真正銘の妹である。


「この子は私の妹です。アリス、挨拶して」

「・・・こんにちは」


 初対面の人と話すのは、まだ厳しいみたいで俺の後ろから出てこない。


「こんにちはアリスちゃん。人見知りなんですね」

「そうなんですよ」

「アリスちゃん、お姉さんは怖くないよ?」


 アリスは更に深く俺の後ろに隠れた。

 それをショックに思ったのか、受付嬢さんが悲しそうな顔で俺の顔を見て言った。


「嫌われてしまいました・・・」

「そんな事はないと思いますよ。慣れれば顔を見せてくれますよ」

「そうですか・・・」


 明らかにテンションがガタ落ちしているが、これに関しては、本当にアリス次第なのだ。

 アリスが慣れるまで根気強く話掛けてくれれば、有り難いよ。

 慣れるまでは俺の後ろに隠れてしまうだろうけど。

 受付嬢さんには、頑張って欲しいと思う限りだ。


 アリスにとっても人とコミュニケーションを取る事は大事なんだ。まあ急いでも仕方がないし、ゆっくりでいいんだけど。


 それはひとまず置いといて本題に入る。


「アリスの冒険者登録をしたいんですけど良いですか?」

「あ、はい。良いですよ。水晶に手を置いてください」

「アリス、そこに手を置いて」


 聞こえないくらい小さな声で「うん」と言って、水晶に手を置いた。

 アリスは、水晶に興味津々だ。水晶をずっと見つめて何が起きるのか楽しみにしている。

 しかし、その水晶はアリスのステータスとかをインプットしているだけなので、何も起こらない。それを先に言っておけば良かった。


「はい。いいですよ」

「えっ!何も起こらないの?」


 期待していたアリスの期待を裏切る様に受付嬢さんが、終わりの合図を送った。

 アリスはしょんぼりして、 俺の後ろに帰ってきた。


「何か起こった方が良かったですか?」

「いや大丈夫!続けてください!」


「そうですか」と言って水晶にカードをかざす。

 カードにどんどんアリスのステータスやらが浮かび上がる。

 2回目ではあるけど、面白い。

 アリスも面白がって前のめりになって見ている。


「はい!出来ました。」


 カードを少し見てからアリスに渡す。


「アリスちゃんは魔力が高いですね!」

「そうなんですか?」

「はい!エレンさんの魔力もかなり高いんですけど、それを上回っているんですよ!」


 へえ〜、それは凄いな。

 じゃあ役職としては魔法使いが良いって事か。

 そう言ってもアリスが戦いたくないと言えば、それで構わない。アリスは自由なのだ。


「しかも、その<兆し>って書いてあるのは一定のレベルになるとユニークスキルが発現するって事なんですよ!」


 弱いクエストに行ってユニークスキルを発現させる所までレベルを上げるのも良いが、どうするかはアリスの意志次第だ。

 戦いたいと言えばそれでもいいし、嫌だと言えば戦わせない。


「アリスは戦いたい?」


 アリスは少し考えてから、答える。


「私ね。エレンお姉ちゃんみたいに強くなりたい!」


 まさかの返答だ。人見知りで怖がりだと思っていたが、そんな事はなく強い女の子みたいだ。

 危険は多いだろうけど、アリスもそれは承知の上だ。

 極力俺が前で敵を引きつけて、後ろからアリスに攻撃をしてもう形にすればアリスの危険は少なくなる筈だ。


「それじゃアリスにも戦ってもらおうかな!」

「うん」


 アリスは戦う事を選んだ。それなら防具を買わないといけないな。

 今のままだと動きづらいし、防御力は皆無と言っても過言じゃない。


 次の行き先は防具屋だ。ちょうど受付嬢さんにオススメの防具屋を教えて貰った事だし向かう事にした。


 受付嬢さんに教えて貰った防具屋まで、やって来たのだが、かなり年季の入った建物だ。

 地震が起きたら直ぐに壊れてしまいそうだが、こういう店の方が、品揃えは良いって聞いた事があるような、ないような。


 まあ隠れた名店ってやつだ。期待はしてないけど。


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