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52.ペットを買います

 俺達が魔物屋に向かう理由は、山脈越えをする乗り物を手に入れる為だ。

 馬じゃ勾配の厳しい山脈を登るのは不可能では無いけど、時間が掛かる。

 そこでルキウスさんが出した案を採用したのだ。


 このグレイシアという町は、王国で唯一魔物の売買が禁止されていない町なのだ。

 この町に寄ったのは山脈の付近ということもあるけど、なにより魔物を買えるという利点を重要視したからだ。


 驚く事に魔物屋は何食わぬ顔で花屋の隣にあった。

 合法的だからと言っても、魔物は多少なりとも脅威だ。

 それかまるでペットショップかの様に平然と営業しているとなると拍子抜けだ。

 まあ俺がとやかく言ってもしょうがないけどね。


 中に進むと、三つ目の子犬や尻尾が4本にも分かれた猫。終いには3つ首の蛇まで居た。

 そりゃ魔物屋なのだから、こういうのが居ても可笑しくは無いのだろうけど、ここまで魔物らしい魔物を揃えて需要はあるのか?


 そんな疑問を密かに浮かべていた時、俺よりも先に入店していた金持ちっぽい背広を着こなしたおじさんが、「あのヒドラの子を貰えるかな?大きくなれば、色々な事に使えそうだ」と怪しい顔で店主に囁いていた。


 需要はあるようだけど、この話は聞かなかった事にしよう。深い闇を見た気がする。詮索はしない事にした。


「小さい子しか居ないね」

「うん山脈越えをするんだから、結構な大きさの魔物が良いんだけど・・・」


 入り口付近には、小型犬から中型犬くらいのサイズの魔物しか居なくて、俺達を引っ張って山脈を登る事は愚か、荷台のみを運ぶ事すら難しい様な魔物しか居なかった。


 ちょうど接客を終えて手の空いた店主を呼ぶと、せかせかと小走りでこっちに来た。


「はいはい何でしょう?」

「私達を乗せて山脈越え出来る様な魔物が欲しいんだけどここで売ってないかな?」

「はいはい山脈越えですか、それだとかなり大きな魔物になりますね。その分値段も跳ね上がりますけど大丈夫ですか?」


 そこら辺に並べられている魔物達の売値は大体100〜400銀貨くらいだ。

 それを踏まえて考えると、高く見積もっても金貨2枚にも満たない値段だろうと思う。

 金に余裕は十分あるし、そこそこ高くても問題無いだろう。


「はい、お金に関しては大丈夫です。私こう見えて金持ちなんですよ」

「はいはい!それはそれは、良いお客様が来てくださりました。それなら奥の部屋にいらして下さい」


 そう言われて奥の部屋へと進むと、手前の部屋の2倍くらい大きい部屋が広がっていた。

 そこには檻が幾つか置いてあり中には大型の魔物が1匹ずつに分けらて入っている。


 その中でも目を引く魔物が3匹程居た。


 奥の部屋で最も大きい猪の魔物、グランドボア。大きささえグランドボアに劣るものの、移動の他に戦闘でも役立ってくれそうなファイアーリザード。

 そして大きな翼を檻の中で窮屈そうに広げる魔鳥グリフォン。


 この3匹は魅力的だ。ただグランドボアに関しては、余り好ましくないな。

 力と直線の速さなら右に出る魔物は居ないだろうけど、進む方向を変えるのが難点だと言える・・・致命傷かも知れない。


 同じ様にファイアーリザードにも欠点がある。天候や環境によって、機能しなくなってしまうのだ。

 檻に付けられた説明文を読むと分かる様に水が苦手で、体表に水を浴びると弱ってしまうらしい。

 だから湿地帯や雨の日には活動が困難。


 そう考えると、グリフォンには欠点が無い。ただ値が張る事と人に懐かない習性があるという事を除けば完璧だ。


「アリス、グリフォンを買おうと思うんだけど良いかな?」

「うん!私もその子が良いと思う」


 アリスの賛成も得た事だしグリフォンで決定だ。


「あのグリフォンを売って欲しい」


 店主に尋ねると「はいはい、私からしたら嬉しいのですが、本当によろしいのですか?」と難しい顔で質問を返された。

 訳を聞くと、グリフォンは非常に知能が高く飼い主が自分より下だと判断すれば、指示を無視し時には飼い主に牙を向ける事があるらしいのだ。


 その説明を聞いて尚更気に入った。要するに下に見られなければ良いという話だ。

 そうすれば従順で強いペットを手に入れられる。躾をしっかりするのが飼い主の義務でもある。


「もうこの子で決めたよ!売ってくれる?」

「はいはい!それではあちらの机まで来てください」


 部屋の隅にある丸い机に案内され、そこで1枚の紙を渡された。


「こちらは契約書です。内容は当店で販売した魔物が他者に迷惑を掛けたとしても、当店は一切の責任を負わないというものです」


 これは当然の契約だ。


「エレンっと。これで良いですか?」

「あと血印をお願いします!こちらのナイフをお使い下さい」

「え?あ、あぁ」


 正直、少しビビってる。自分で自分の体を傷つける事なんてしたくないし、ちょっとの切り傷が結構痛い事を知っている。


 震える手をどうにか動かして、右手の親指にナイフを突き立てた時、左手を不覚にも滑らせてしまい深く刺してしまった。


「あっ・・・」


 契約書が血塗れになってしまったけど、店主は「はいはい・・・まあ良いですよ!サインは辛うじて見えますしね」と承諾してくれた。

 店主は包帯を用意してくれていた様だが、よくよく考えれば俺はポーションを持っているし、ヒールも使える。

 ビビる必要はそもそも無かった。


 契約を終えると、支払いに進んだ。


「はいはい。グリフォンというのは元々貴重な魔物で本来なら金貨5枚程で取引されるのですが、この子は幾分小さく、今の体長が最大の様です。ですので金貨2枚という値段になります」


 これで小さいなんて信じられないな。裕に3メートルは超えていると思うんだけど。

 通常サイズのグリフォンはどの位大きいんだ?


「そうなんですか。まあこの位大きければ、問題ありません」

「はいはい!して、どうお支払いなされますか?この店はお客様にあったお支払い方法を選べます。一括でも月幾ら払いというのでも構いません」


 月払いというのもあるのか。まあ金貨2枚くらいなら直ぐに出せるし、一括で良いだろう。


「一括払いで」

「はいはい?今何とおっしゃいました?」


 急に怪訝な表情になり店主は聞き返してきた。


「一括です」

「はいはい。勘違いをなされている様ですが、銀貨2枚では無く金貨2枚でございますよ」


 聞こえなかったから聞き返したのでは無く、俺が金貨2枚を銀貨2枚だと勘違いしていると思われてるのか。

 それは失礼だ。俺の見た目で金貨2枚を持っている訳がないと店主は勝手に判断したのだから。


 ポーチから金貨2枚を机の上に無造作に置いて、店主の顔を見ると店主は口を大きく開けて「はい・・・はい?お客様は何者なのですか」と驚いていた。


 会計を終えると、店主は檻からグリフォンを出して外に連れて行った。

 グリフォンが大人しいのは、首に付けられた隷属の首輪のお陰らしい。


「この首輪があれば魔物達は主人である私の指示に従います。今からお客様に私が持つ主人の権利を譲渡しますが、首輪があるからと言って絶対に従うとは限りませんのでお気をつけください」


 首輪と主人の権利があれど、主従関係は自分で1から作らなければならないのか。


「はいはい始めますよ!我が持つ一切の権利を汝に授ける<権利譲渡(リ・サイン)


 手の甲に微かな温もりを感じて、見てみると手の甲にグリフォンの紋章が刺青の様に描かれていた。


「これが証って訳か」


 ちょっと中二病くさい気もするが、そんな事を今更言ってもしょうがない。


 グリフォン自身も主人が変更された事に気が付いた様で、俺に顔を寄せて品調べする様に伺っていた。

 抗おうとするなら力ずくで躾をする事になるけど、それは避けたい。

 ペットに手を上げる飼い主とかクズだしね。それが魔物であっても同じだ。


 1分程度、グリフォンは俺を眺めていた。そして驚く事に反発する事なく頭を俺に擦り付けて甘えて来たのだ。

 これには店主も驚いていた。


「はい?はい?この子が人にここまで懐くなんてあり得ませんよ・・・お客様は本当に何者なんですか?」

「私はただの冒険者ですよ!ただ少しだけ強いだけのね」


 魔物屋で用事が済む頃には日が落ちていた。先を急ぐ為にも直ぐに町を出ようかと思ったが、山脈越えするにはそれなりの備えが必要だ。

 防寒具や食料が全然足りない。だから買い出しとかをしなきゃならない。

 今日だけはこの町で過ごす事にしよう。


 そう決めた俺達は、店が閉まる前に防寒具と食料を買い集め宿屋をさがしていた。

 宿屋はそこら辺に幾つもあるけど、魔物連れお断りの所ばかりで、中々決まらない。

 時々、馬小屋付きの宿屋があるのだけど、どうやらグリフォンと馬は、馬が合わないらしく・・・ややこしいな。

 犬猿の中で同じ場所に置く訳にはいかないのだ。


<外形偽装(フェイク)>で人間の姿に見せるという手も考えたけど、体長が大きすぎて偽りきれない。

<形態変化(メタモルフォーゼ)>で形を変えるのはどうだ。

 ・・・無しではないけど、メタモルフォーゼで形を変えるのは難しくて、恐らく無理だ。


 人の姿になったり魔物の姿になったり出来たら便利なんだけど・・・そうだ!2つのスキルを合わせればどうにか出来んじゃないか?

 フェイクはメタモルフォーゼと比べて、容易に姿を変える事が出来る。

 だからメタモルフォーゼで、グリフォンの体長を人並みの大きさにして、フェイクで人間の姿に変える。


 名付けてエクストラスキル<擬人化>だ。これなら間違いなく上手くいく。


「グリフォン・・・まずは名前をあげないとか」

「グルルル」

「お姉ちゃん、リンって言うのはどうかな?」

「リン?」

「そう!グとフォを取って、リン!」


 グとフォを取ってリンか。それなら何でも良い気がするけど、折角アリスが提案してくれたんだ。

 それで構わない。


「よし、じゃあそれ採用ね!君は今日からリンって名前だ!」

「グルルゥ!!」


 よく分からないけど、多分喜んでる。


「リンにスキルを使うけど良い?」

「グル!」

「・・・」


 確認してみたけど、魔物の言葉は幾ら聞いても分からないな。だけど頷いてくれた気がするから実行だ。


「姿は・・・まあアリスみたいな感じで良いか。一番見てきた姿だから想像し易い。それじゃ行くよ!<擬人化>」


 リンにスキルを使うと、リンの全身を覆う様に眩い光が放たれた。

 成功したのか失敗したのか。


 数秒後に光は段々と弱まり姿が現れた。


「どうやら上手くいったみたい」

「えっ?何をしたのお姉ちゃん?・・・えっ!?リン?」


 リンは俺の想像した通りの姿・・・とは少し違うがアリスくらいの少女の姿になっていた。

 アリスの白い髪の毛と対を成す様な真っ黒で艶のある髪の毛。

 俺の想像ではロングだったのだが、それを裏切ってかなりのショートだ。

 そしてアリスと同じ様な装いで、これに関しても黒を基調とした作りになっていた。


 なにより驚いたのが、リンは人間の様に見えるのでは無く人間そのものになっていた事だ。

 その証拠として、なれない言葉を発していた。


「あ、え、えと・・・な、なれないな、この・・・ことば?」

「エレンお姉ちゃん!リンが話してるよ」

「私も驚いた・・・」


 手を握ると人の温もりを感じた。やはり人間になっている。

 何故こうなったのか、考えられるのは冗談でエクストラスキルと言ったが、それが本当に成り立ったのだ。


 冒険者ライセンスを見ると、スキルの欄の下にエクストラスキルと表記されいて<擬人化>と明記されていた。


 無謀な事をしたつもりが、新たなスキルを生み出してしまった。

 俺って天才かも知れない。









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