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51.あっけなく

 扉に手を掛けた時、嫌な予感がした。扉の向こうで魔力が渦巻いている様な不気味な感覚だ。


「皆んな少し下がって!」


 3人は何も言わずに俺から4歩くらい離れた。


 それを確認して扉を静かに開けると、4人の内の一人の男が詠唱していた。


「我が身に宿し獄炎よ!万物を焼き払え<フルファイアー>」

絵本の世界(ザ・ワールド)勝利の剣(フレイ)


 詠唱の割には大した事のない魔法だった為、フレイで簡単に相殺する事が出来た。

 その光景を目の当たりにした敵は、冷や汗を掻いて尻餅をついた。


「ドラゴ、入って来て良いよ!」


 俺が許可すると、指をバキバキと鳴らして部屋の中に入って来た。


「数が少なきゃお前達なんざに負ける訳がねえ!」

「リ、リザードマン?おい小娘!お前は魔物の味方をするのか?」

「私はあくまで人間の味方だよ!だけどね、お前達なクズの味方をする気は無いし、人間とも思わない」

「・・・くっ!お前達、死んでも俺を守れ!最悪ここに監禁している奴らを殺しても構わない!全力でやれ!」


 今声を荒げていた奴が一番偉いらしいな。服装と胸に付けている紋章を見るにギルドマスターでもある様だ。

 コイツの始末はドラゴに任せるか。俺はそれ以外の3人を抑えよう。


「ドラゴあの男は任せたよ!他は私とアリスでどうにかするから」

「おう、有難いぜ!」


 そう言ってドラゴは一直線に突進して行った。ドラゴに対して攻撃を仕掛けようとした奴らをフレイで倒そうとした時、俺よりも先にアリスが魔法を行使していた。


「大地を這いずる漆黒の影。私の命に従い対象を永遠の闇に捕縛せよ!影踏み(ナイトメア・スタン)

「な、なんだこれは?あ、あぁ光が!光が消えて行くう・・・」

「何処だ・・・何処なんだ?誰か!誰か助けてくれ」

「嫌だ!嫌だ!死にたくない!辞めろ!それ以上・・・」


 何て恐ろしい魔法だ。暗黒のスキルで影を自由自在に動かして対象を捕縛し、最近会得したスキル<精霊の悪夢(ナイトメア)>により精神的に追い詰めた。

 俺の出る幕は無かったみたいだ。


 ドラゴを止めようとした障害物は無くなり、ドラゴはそのまま敵のボスに殴り掛かった。


 名前:ボルサリーノ

 脅威度:⭐︎


<神眼>で見た所、雑魚だ。


 ボルサリーノという男は案の定、ドラゴに手も足も出す事が出来ずにサンドバックの様に殴る蹴るを繰り返され酷い有様だった。

 途中でそうなる事を察した俺は、アリスには見せられないと思って、監禁されていたリザードマンと女性達を解放した。


 リザードマンは生命力の強さ故にピンピンしていたから問題は無い。

 問題は女性達だ。心身共にボロボロな様子で言葉すらまともに発する事が出来なかった。それどころかこの場所から動こうともしない。


 俺が半ば運び出す様に上に連れて行くと、皆んな同じ様に涙を流した。


 檻が出て実際に外の景色を見れた事で自覚出来たのだろう。

 "自分は自由だ"という事を。


 タイミングが良い事にさっき俺がギルドから追い出した5人組が顔の至る所に青いアザを作ってギルド内に戻って来た。


「お、おう!決着は着かなかったが、考えてみれば5人でやれば良いと思い付いたんだ!じゃあまずは何をしようか?」


 この人達を使わない手は無いだろう。利用してばかりで、申し訳ない気持ちはあるけどお願いするしか無い。


「ねえねえお兄さん達、お願いしたい事があるんだけど聞いてくれるかな?」

「ああ!勿論、なんでも聞くぜ!」

「やったー、嬉しいな!じゃあこの町の領主様をギルドに呼んで来て貰いたいの!」

「行く分には構わねえが、俺達何かの話を聞く様な奴じゃねえぞ」

「大丈夫!これを見せれば来てくれると思う!任せても良いかな?」


 流石に気持ち悪いと思う位の上目遣いをして懇願すると、男達はウホウホ言って「任せろ!何かは知らんがこの銀プレートを見せれば良いんだな!」と、駆けて行った。

 正直、チョロ過ぎるぜ!


 地下に戻りドラゴの様子を確認すると、清々しい顔に返り血を大量に浴びていた。

 これは良い子のみんなには見せられないな。勿論、アリスの目に俺の手を覆い被せて見せない様にした。


 水のエンチャントでドラゴを洗ってから、ボルサリーノの生死を確認した所生きていた。

 ドラゴは怒り狂っていたが、それでも命までは取らなかった様だ。

 コイツらよりよっぽど人間らしい。


 ボルサリーノは生きていたが虫の息で、話せる様な状態では無かった為、他の奴に聞くことにした。


 アリスが拘束していた3人の内で最も華美な服装をしていたちょび髭の男に掛けた魔法をアリスに解除してもらって、尋問する事にした。


「これから質問するけど、嘘を付いたり無視したりすれば痛い目を見る事になるから気をつけて答えてね」

「黙れ小娘が!お前の質問になど答えるものか」


 ブチッと何かが切れた音が聞こえた。小娘と言われるのは凄いムカつく。


「いい度胸してるじゃん。<絵本の世界(ザ・ワールド)>。雪の女王」

「こんな汚い所に妾を呼ぶとはお主は身の程知らずの様だ」

「ごめんレイシア。今は許して!」

「まあ良い。それで妾に何をさせるつもりだ?」

「コイツの指を1番ずつ凍らせて欲しい」

「・・・お主顔に見合わず悪魔だな」

「この位しないと、話してくれないと思うから」


 レイシアは俺の指示通り小指を凍らした。ちょび髭の男は根性が無いのか指を一本凍らせたただけで体を震わせた。

 しかし、質問には答えない。その為、また一本凍らせると低い声で悲鳴を上げた。


「ああああーッ!もう辞めてくれ!分かった話すから解凍してくれ!」

「もう終わりか?根性が無いな!まだまだ始まったばかりだぞ」


 俺に悪魔と言っておきながら、レイシアが一番楽しそうだ。


「レイシアもう終わり!話すらしいから指を解凍してあげて」

「つまらぬな。興が覚めたわ!妾は帰るぞ」

「うん!ありがと」


「ふんっ」とそっぽを向いて帰って行ったが、ちゃんと指は解凍してくれた。

 冷たい様で暖かいのがレイシアっぽい。


 ちょび髭は恐怖で体を震わせながら、幾つかの質問に答えた。


「お前達はサターン教団で間違い無いよね?」

「何故その事を・・・ああそうだ」

「いつからこの町に寄生しているの?」

「3年前、前ギルドマスターを殺してボルサリーノ殿をギルドマスターにしてからだ」


 ギルドマスターを殺して、新しいギルドマスターを用意するなんて大それた事をしても尚、明るみに出てこないのは何故だ?



「リザードマンを狩って何処に運ぶつもりだったんだ?」

「・・・魔法国家マジリアン」


 これから行く国の名前をこんな形で聞く事になるとは。雲行きが怪しいなんて話じゃないぞ。


「お前達はどうやって姿を眩ませている?バックには何者が付いているんだ?」

「魔・・・ギャアアアア・・・辞めろ!痛い痛い痛いッ!頭が割れる・・・」

「おいッ!どうした?・・・息をしていない。心臓まで止まってるのか」


 ちょび髭の男は目や鼻から血を垂れ流して死んでいた。

 恐らくサターン教団の根底についての質問をされるとこうなる様に施されていたのだろう。

 奴ららしいと言えば奴ららしい。だが、やはりコイツらのバックには大きな何者かが居るに違いない。

 そしてマジリアンに何かがある事も分かった。元々の目的と並行して奴らについて調べる必要があるな。


 それから死んだちょび髭と縛り上げた他の3人を上の階に運んだ。


「あれ?受付嬢に扮してた女は何処に行ったの?」

「そこに倒れていた筈だけど、居なくなっちゃった」


 先を急いだ余りに逃してしまった様だ。詰めが甘すぎたか。

 けど、増援が来る様子が無い所を見るとここは捨てるつもりなんだろうな。

 奴らは隠密を重視しているから深追いを避ける傾向にある。


 ギルドの外であの5人組の冒険者を待っていると、遠くの方に馬車が見えた。

 ゴツい手を俺の方に振っているのを見るに上手く領主を連れてきた様だ。


「待たせたな!連れてきたぜ」

「うん、有り難う!色々と利用しちゃったけど、本当に助かった」

「お、おう。それとこれは返すぜ!にしても、何なんだこのプレート?俺達を邪険に扱っていた領主でも、これを見せた途端に人が変わった様に頷き始めたんだぜ?」

「教えない!女の子には秘密が必要でしょ?」

「・・・あぁ!そうだな」


 男って単純過ぎやしないか?俺も男だが、この世界の男は美少女の言葉に逆らおうとしない。

 まあ今回は、それに凄い助けられたから有り難いけどね。


 冒険者が乗っていた馬車よりも豪華な馬車が目前に停車した。

 執事らしきおじさんがドアを開けると、ブロンド色の髪の毛をオールバックに整えた30代くらいの男が出てきた。

 白い軍服の様な服を纏い、威厳を見せつけるかの様に仁王立ちした。


「して王都より来られた使者の方は、どなたであろうか?」


 冒険者に向かって領主が尋ねると、冒険者達は一切の俺の方を見た。

 領主は左手で顔を覆い右手で俺を指して、馬鹿にする様に高笑った。


「ハハハハハッ!このお嬢さんが王都からの使者だと?そんな冗談、少しも面白く無いぞ!」


 悪気が無いのは分かる。貴族社会に女の立ち入る場所は無い。

 しかし、相手のことを良く知らずにイチャモンを付けるのは愚かな行為じゃないか?

 少し教えてやらないと。


「アリス、あの領主を牽制して」

「えっ良いの?」

「うん!舐められたままだと話の進捗がわるくなる」


 アリスは渋々ではあったが、躊躇う事なく詠唱を始めた。


「光を穿つは、闇の真髄!当たらない様にっ!<ダークボール」


 高速で放たれたアリスの黒い弾丸は領主の純白の肌を掠めた。

 目で追えていなかった様だが、頬に出来た薄い傷から垂れる血を見てやっと理解し、その場で崩れる様に尻餅を付いた。


「私は王都からの使者という訳では無いけど、舐められるのは余り好きじゃ無いんだ。あとこの銀プレートは本物だよ!」

「も、申し訳無い。余りに華奢な少女であったから、信じられなかったのだ・・・して、私に何の用かな?」


 名前:サラス・フォン・シナート

 脅威度:⭐︎


 サラスは直ぐに立ち上がり何よりも先に弁明した。そしてビクビク怯えながら、それでも尚威厳を保とうと態とらしいポーズを取った。


 俺はこれまでの一連の経緯を全て話すと、サラスは頭を抱えて溜息を吐いた。

 自分の領地で好き勝手にやられていた事に対して憤りを感じると共に気が付かなかった自分を不甲斐なく思ったのだろう。

 反省しているサラスに俺は一つ提案する。


「監禁されていた女性達をどうにか普通の暮らしが出来る様にして貰えないかな?」


 サラスは二つ返事で答えた。


「あぁ勿論だ。私の至らなさが招いた悲劇だ。私が彼女達をどうにかしよう。セバス、その女性達を馬車に乗せ邸の浴場に入れて、服も用意してくれ」

「承知しました」


 一つと言ったけど、もう一つお願いがあった。ギルドの中に居るリザードマン達の移動手段を確保しなければならない。

 だから冒険者5人が乗って来た馬車を貰えたら有難い。


「あの馬車を貰えない?購入でも良いんだけど」

「あの小汚い馬車か?貴女の頼みならもっと良い馬車を手配するぞ」

「いいや、あの馬車で良いの!」

「物好きだな。持って行くと良い」

「ありがと!」


 サラスにサターン教団の男共の身柄を託している間にリザードマン達をサラスから貰った馬車に乗せた。

 最終確認として、ドラゴに町にリザードマンの匂いがするか聞くと「残り香はあるが、町にはもう居ねえな!奴ら逃げたらしい」と言った。


 やはり予想通り逃亡した様だ。幸いなのか不幸なのかサターン教団の残党と俺達が目指す所は恐らく同じだ。

 気を引き締めないと・・・そうは言ってもまだまだマジリアンまでは長い。


 更にここでカイル君とはお別れになる。馬車では山脈越えをするのは無理らしいのだ。

 カイル君はあくまで、グレイシアまでの付き合い。事の一部始終を目の当たりにしたカイル君は、何故か少し逞しくなった気がする。

 色々と気持ちに変化があったのだろう。


「エレンさん、今回は有り難う御座います。お父さんがどれだけの思いで冒険者をやっているのか何となく分かりました。僕も少しだけ強くなろうと思います」

「うん!そう言って貰えて良かった。だけど、私の様になりたいなんて思わないでよ!」

「ははは。憧れても僕には成れないですよ。それじゃまたいつか」

「じゃあね!」


 カイル君は帰路についた。グレイシアでの出来事を伝える様にお願いしたから、後始末はグレイシアと王都がしてくれるだろう。


 サラスや冒険者5人組がギルドの後始末に勤しんでいる間に俺とアリスはしれっと逃げ出して、ドラゴ達リザードマンを送り出した。


「ドラゴ、次はしっかり守りなよ!仲間は大切」

「ああ!俺様は2度同じ事は繰り返さない!必ず守る。ただ奴らを逃したのは痛いが、縄張りに残した奴らが心配だ。後は任せたぜ!」

「任された!」


 ドラゴ達は正面から堂々と門を通過して縄張りの方に向かって馬車を走らせた。

 見えなくなるまで、リザードマンの感謝の声が届いた。少しだけ口元がニヤけた。


 そして俺達はグレイシアの魔物屋に向かった。








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