50.平穏な町に寄生する闇
俺達はそのまま馬車を走らせて門から中に入ろうとすると、これまでの町と同じ様に門番に止められた。
「お前達は何処から来たんだ?見た限りだと、商人って訳じゃないさそうだ」
「冒険者です!王都から来ました」
「王都から?その証拠はあるのか?最近、不審な奴らが多いからな。簡単に通すわけにはいかないぞ」
そう言われて、俺は国王から貰った銀プレートを門番に出した。
門番は乱暴にそれを奪って、どれどれと言いながら物色したと思ったら突然青ざめた顔になり鼻水を垂らしながら、俺の顔を直視した。
「な、ななななんでこんな物を持ってるんだ・・・?もしかして、王族?」
この豹変ぶりを見るのは面白い。冒険者だからと舐めてかかって来る奴程、銀プレートを見せた後の反応が目に見えて変わる。
「どうでしょう?まあ、これを持ってるって事は・・・わかりますよね?」
「は、はい!どうぞお進み下さい!そ、それと申し訳ありませんでした!失礼な態度を取ってしまった事深くお詫び申し上げます」
「あぁ気にしないで良いですよ!」
「は、はい・・・」
態度を改められるのなら、元々そういう態度で対応してほしいものだ。
こうして俺達は、山脈脈の麓の町"グレイシア"に無事に入る事が出来た。
当初の目的としては、この町は中間点だった。しかし、どうやらこの町はサターン教団の息が掛かっているらしい。
リザードマンの事もあるけど、何よりアイツらを許してはいけない。
本来ならここでカイル君は帰路に着く筈だったのだが、カイル君は、事の顚末を見たいと言って、王都に戻る事を辞めた。
臆病者だが、ただの臆病者では無いらしい。カイル君にはメンタル面で強くなって欲しいと思っていたから、そう言ってもらえて少し嬉しかった。
そして町を数分歩いていると、怪しい場所が幾つかあった。
これはドラゴの鼻によって判明したのだが、サターン教団はリザードマンを一つの場所に保管している訳では無くグレイシアの至る所に保管しているみたいだ。
だから、一つを叩いても意味が無い。一つの基地を襲撃して、他の基地にそれがバレればまた逃げられてしまう。
奴らを一網打尽に出来る方法があると良いんだけど。
いいや、全てを一度に叩く必要は無いのか。ドラゴは町の至る所にリザードマンの匂いを感じ取ったらしいが、特に匂いが濃い場所があると言っていた。
「ドラゴ、匂いが一番濃い場所に案内して!まずはそこを叩こう」
「おう!そこからは血の匂いが殆どしない!生きてる奴が多いって訳だ。早く助けてやらないと」
ドラゴの案内によって辿り着いたのは、グレイシアのギルドの真前だった。
信じたくは無いが、この事実を目の当たりにして信じざる終えない。
この町は根本から腐ってしまっている。
「この建物の地下に居る!許さねえぞ、人族!俺様が殺し尽くしてやる!」
「その怒りは分かるけど少し抑えて!中には関係ない人も居る筈だから。アリス、精霊探知で中の様子を確認出来る?」
「う、うん!出来ると思う!<精霊探知>・・・」
アリスの顔が険しくなり眼が微かに煌めいた。どういう原理で探知しているのか分からないが、恐らくは名前にある様に精霊と視覚を共有する事によって、中の様子を覗けるのだろう。
「えっと、中には冒険者さんが4人と受付嬢さんが1人。下には・・・見えない部屋があって・・・その奥の部屋にリザードマンが15人くらい居る!その部屋より奥の部屋に変な男の人が5人いるよ」
「了解!もう良いよ!お疲れ様、目痛くない?」
「このくらい、大丈夫!」
ご褒美に頭を撫でると嬉しそうに笑ったが、直ぐに凛としてギルドの方を眺めた。
アリスも助けたいと強く思っているのだろう。
幸いな事にギルド内には余り人が居ない。俺の予想だと、中に居る冒険者5人は無関係だ。
ただその5人の存在は邪魔だ。無関係だとしても、今からギルドを襲う俺達は側からみれば悪者。
俺達を退けようとする冒険者5人と戦う羽目になるかも知れない。
その5人を軽くあしらう必要があるな。まあそこは腕の見せ所だ。
「行くよ!ドラゴは冷静にね!いきなり暴れたりしないでよ」
「俺様はそこまで馬鹿じゃない!」
「うん!扉を開けたら、3人は受付の方に行って!私は冒険者5人を追い出すからさ」
「どうするつもりだ?」
「ふっふっふっ!私には策があるんだよ」
扉を開けると、冒険者5人の視線が俺の方を向いた。俺はその5人の方にキョロキョロしながら近寄って、男の前に立ち上目遣いを使って声を掛ける。
「あ、あのー、私冒険者になったばかりで右も左も分からないんですけど、ちょっとお兄さん達に色々と教えて貰いたいなーって・・・良いですか?」
「お、おう!良いぜ!どんな事でも教えてやるよ!」
「おいおい!お前に言ったんじゃねえだろ!俺に言ったんだ!」
「違えわボケ!」
「ああっ!?面出ろや!この子も強い奴が好みだろうからな!」
「やってやろうじゃねえか!待っててな!直ぐに片付けて来るから!」
「うん!強いお兄さんの事、私好き!」
「ウホッ!」
つくづく思うけと、男って単純だ。美少女に上目遣いされただけで、もしかしたらとあり得ない期待を抱いてしまう・・・俺も昔そんな事あったっけ。前世の切ない思い出は忘れてしまおう。
取り敢えずこのギルドに関係者以外の人間は居ない。
「お待たせ!」
「随分と早く追い出したな!どんな事しんだ?」
「い、いやー。大した事じゃないよ!」
見た目は女だけど、中身が男だから不思議な罪悪感があるな。
俺達が受付嬢さんに声を掛けると、受付嬢さんは異様な雰囲気を察して深妙に俺達を見つめた。
「ちょっと良い?」
「何か御用ですか?」
「これを見れば、分かってくれます?」
ドラゴに使用したスキル<外形偽装>を解除して、顕になったドラゴの顔を見て受付嬢さんは慌てて跳ね上がった。
「・・・リザードマン!?お前達は何を知っている?」
口調が明らかに変わった。さっきの穏やかな顔つきが嘘みたいに豹変して、今にも噛み付いて来そうな恐ろしい形相になった。
右手を腰の後ろに隠しているが、恐らく武器を持っているのだろう。
俺達を良く観察して、隙を見ている。戦い慣れているな。
「武器を捨てた方が身の為だよ!攻撃さえしなければ、私も手を出さないから」
「チッ!バレてたのか。ハイハイ!お手上げだ」
そう言って隠し持っていた武器を床に投げ捨てた。アリス油断して、俺の方を振り向いた瞬間、受付嬢は奇妙な笑い声を上げて、左脚のタイツの内側に隠し持っていたナイフを取り飛び込んで来た。
「ヒャハハハハッ!油断したな小娘!」
「ヤッベ!」とドラゴが体を翻したが、それじゃ間に合わない。
ただドラゴが反応する前に・・・いいや、俺が警戒する前からこの遣り取りは終わっていた。
「ごめんなさい、受付嬢さん。これは罠なの!」
ここに来てまだ見ぬアリスの狡猾さが覚醒したのだ。
受付嬢がアリスの寸前の床に踏み込んだ時、カチッという音がした後に小規模の爆発が起きた。
受付嬢は足に怪我を負った様だが、大事にはなっていない。
そうアリスは、受付嬢が武器を捨てた時に<暗黒地雷>を床に発動していたのだ。
そしてわざと油断を見せて誘き寄せるという狡猾さを見せた。
<神眼>で魔法の発動を確認していたから、理解出来たが相手からすれば何が何だか分からないだろう。
それ程、的確な判断と鮮やかな手際だった。
アリスを庇おうと身を翻したドラゴは、口をポカンと開けたまま床に転がっていた。
「俺様の努力は?」
「ごめんなさい、ドラゴさん!」
今になって思い出したけど、アリスの知能は俺と同等だった筈だ。
俺が冒険者達を騙したのを見て、学んだ結果が今の作戦なんだろう。恐ろしい子だ。
小規模な爆発だったが、ある程度の音と振動があった為、地下にも響いた筈だ。
奥に進むと地下へと繋がる階段があった。奥は暗くて見えないが、誰かが階段を駆け上がって来る足音が聞こえた。
「ドラゴ、倒して良いよ」
「良し来た!さっきは不甲斐ない姿を見せたからな!コイツを殴って憂さ晴らしだ」
階段を息を切らしながら登ってきた中年で小太りのオッサンをドラゴは躊躇い無く殴った。
オッサンは後方の壁まで飛ばされて、昏倒した様子だったが、ドラゴは仕切りに殴り続ける。
この残虐さが魔物という事を物語っている様に思えたが、最初に手を出したのが人間側だ。当然の報いだと言える。
「その辺で辞めなよ!ここで体力を使って仕方無い」
「ああ、そうだな!こんな太いのを殴った所で気分は晴れねえ」
「だ、大丈夫なんですか?あの人死んでるんじゃ無いですか?」
カイル君が怯えながら言ったが、その考えは甘過ぎる。
「カイル君、敵に情けは無用だ!やると決めたら徹底的にやらなきゃ自分や味方を危険に晒す事になる」
カイル君は言葉の重みに気圧されて後退りした。
「お父さん達はこんな世界に生きていたのか・・・」
独り言の様に呟いて、口を固く結んだ。
地下に降りると、幾つもの檻が横並びに置いてあって、その全ての檻の中には何も入っていなかった。
扉を開けて奥の部屋に進むと、腐乱臭と刺激臭が混ざった様な酷い匂いが篭っていて、思わず鼻を摘んでしまった。
奥に進んで檻の中を見て、俺は目を疑った。檻の中には人が入っていた。
裸同然の格好で放置されていて、薄汚れた肌が露見していた。
首には鉄製の枷が付けられている。肋骨が浮き上がる程細くて、見ていられなかった。
正直、奴隷商人ドードリエントの方がまともに思える。
「エレンお姉ちゃん・・・」
「大丈夫!後でこの人達も連れ出そう」
「うん」
<精霊探知>じゃ見えない部屋があるとアリスは言っていた。
それはこの部屋の事で間違いない。この部屋に精霊や魔素が全くと言って良いほど無い。
ここまで酷い空間は真祖の部屋以来だ。気分が悪くなる。
奥の部屋には、アリスが言っていた通りリザードマンが監禁されていた。
傷がある者も数人居たが、命に関わる程では無いのが不幸中の幸いだ。
「おお!お前達、よく生きててくれた!」
「ドラゴ様!助けに来てくれたのですか・・・危ないですッ!人族が居ます!」
「大丈夫だ!この人は俺様達を助けてくれた人だ!」
「そうなのですか・・・」
リザードマンは訝しげに俺を見つめたが、何も言わなかった。
ドラゴが言うのだから疑いはしない様だが、人族を積極的に信じる事は出来ないのだろう。
この扉の先にここを仕切る最低な奴らが居る。申し訳ないが、リザードマンだけが襲われたという事なら余り怒りは無かったが、そこに人間も居たとなると本気で怒りが込み上げてきた。
たたじゃ許さないぞ、クズ共!




