49.追跡
死人の様な霞んだ眼差しをしたリザードマン達は、仕切りに溜息を吐いては、懺悔する様にドラゴに頭を下げた。
「我らが居ながら、子供達を守る事が出来ず、ドラーク様まで失ってしまった。本当に申し訳ない」
「それは俺様のセリフだ。俺様がここを離れたばかりにお前達に苦しい思いをさせてしまった。それにお前達は俺様の家族を守ってくれたじゃねえか!」
「ドラゴ様・・・」
他のリザードマン達は、ドラゴの事を慕っている様子だ。実際、様付けでドラゴを呼んでいるし俺が思っている以上にドラゴは、凄いリザードマンなのか?
まあそれはひとまず置いといて、この縄張りを襲ったサターン教らしき黒いローブの集団がどこに行ったのかが問題だ。
「感傷に浸ってる時に悪いけど、襲撃犯達か何処に向かったか分かる?」
「このままじゃ気が治まらねえ!絶対仕返ししてやる!そうだろ、お前達?」
ドラゴが拳を握りしめながら熱く問うと、リザードマン達の反応はドラゴとは真反対で、冷め切っていた。
「・・・仕返ししてやりたい気持ちは誰よりも強いです。だけど、この有様ですよ?俺達はただ蹂躙されたんじゃない!抵抗したんです・・・その結果、被害が拡大して同胞の殆どが狩られた」
「おい!何弱音を吐いてんだよ!悔しくねえのか?」
リザードマン達は虚に地面を見つめた。
さっき治療したミロというリザードマンが辛そうに体を起こして、ドラゴの肩を叩いた。
「敗北の味をとことん知ってしまったんだ、俺達は。必死に抵抗してもダメ。死に物狂いで逃げ回ってもダメ。そんな弱者達に過去を忘れさせて、未来を想像させるのは酷だと思わないか?」
ドラゴは黙り込んだ。ミロの言葉の重みを噛み締めて、命辛々生き残った同胞に死を強要していた事に気が付いたのだ。
しかし、ドラゴの目は他のリザードマン達とは違って輝いていた。
ドラゴはミロが腰に携えている剣を奪って、自分の腰に装着した。
「お前達の代わりに俺様が奴らを殺してくる!それが出来なければ、お前達はもう笑えないだろうからな!」
「おい、ドラゴ!無茶だ・・・俺達でも敵わなかったんだぞ?一人で行って勝てる訳がない!」
「それでも俺様は行く!」
「辞めてくれ!友まで失うのは、辛過ぎる!」
ドラゴはミロの言葉も聞かずに静かにこの場を去った。
そんなドラゴをミロは追い掛けようとしたが、蓄積したダメージがそれを邪魔する。
アリスの綺麗な目が俺に訴えかけてくる。何が言いたいのかはよく分かった。
俺ももともとその気なので、文句は無い。
アリスの頭を撫でて、地面を這うミロを落ち着かせる。
「貴方はここで休んでて!私達がドラゴを守るから」
「アンタは何なんだ?何故、魔物を助ける?」
「魔物と言っても貴方達は人間みたいに考える事が出来るでしょ?私からしたら、人間と同じ」
「・・・人族でも色々といるんだな。任せてもいいか?友を助けてやってくれ!」
「うん!私、こう見えて強んだ!」
そう啖呵を切ってトラゴを追いかけたけど、俺とドラゴは敵が何処に行ったのか分からないんだった。
既に雲行きが危うい気がするんだけど大丈夫だろうか。
階段を上がって家屋から外に出ると、少し先を歩くドラゴの背中が見えた。
俺が大声で呼び掛けると、後ろを振り向いて立ち止まる。
「止めるな!俺様は必ず奴らを殺す!」
「止める気は無いけど、そいつらが何処に行ったのか知らないでしょ?だから、一旦戻って話を聞こうよ」
「いや大丈夫だ!俺様達リザードマンは、同胞の匂いを辿れる」
熱くなりすぎて何も考えずに飛び出した訳じゃ無いのか。
あの状況でも理性を保って、冷静に行動出来るなんて人間よりも優秀だな。
「なら、馬車に乗って行こうか!体力は温存しておいた方が良いからね」
「おお!お前達も手伝ってくれるのか!」
それから俺達は馬車に乗って、匂いを辿りながら進んだ。
ドラゴにはカイル君の横に座って貰った。荷台だと匂いが遮られてしまうかなと思ったからだ。
だけど、カイル君はいつまでもビクビクしていた。ただでさえ魔物を見ると震える程の憶病者なのに、隣に魔物が座っているというカイル君にとって生き地獄みたいな状況が続いている。
そろそろ失神しても可笑しくないかも知れないけど、カイル君には強くなって欲しいから敢えて何も言わない。
移動中はどうしても暇が続く。最初の内は話していれば暇も潰れるんだけど、長時間の旅となると話題が次第に無くなって無言が続く。それが辛い。
そういう時は、ステータス確認だ。こういう時の為にステータスを余り見ないようにしてると言っても過言じゃない。
「アリス、ステータスを見るよ!」
「うん!私、成長したかな?」
「それは間違いないよ!さっきだって地下にリザードマンが居る事と、その数まで言い当ててたじゃん」
今は俺のステータスよりもアリスのステータスの方が気になるから、アリスのを先に見る事にした。
名前:アリス
種族:人
レベル:30
攻撃:91
防御:175
素早さ:122
魔力:269
賢さ:109
ユニークスキル:<魔力固定>
スキル:<暗黒> <精霊の悪夢>
技能:<魔素吸収> <精霊探知>
魔法:<ダークボール> <影打ち> <黒の破裂弾 <暗黒地雷> <黒闇狙撃>
耐性:<物理耐性 小> <毒耐性 中> <暗黒耐性 上> <魔法耐性 小>
加護:<精霊王の庇護>
前に確認した時から色々とあったからレベルが9上がってるのは頷ける。けど、物騒なのがまた増えてるんだけどどうしよ。
ただでさえ<暗黒>とかいう悪役的な属性なのに、そこに<精霊の悪夢>が加わった。
能力の詳細は分からないけど、名前からして物騒だ。
そして前回までは空欄だった加護の所が埋まっていた。
加護が齎す恩恵は様々で、ステータスアップやスキルが発現する。
アリスの<精霊王の庇護>が齎したのは、<精霊の悪夢>と<精霊探知>、そして防御ステータスの補正だろう。
前回と比べて、著しく防御力が上がっている。
願ってもない幸運だ。精霊王とやらは知らないけど、加護を授けてくれて、有難うとお礼を言いたい。
「エレンお姉ちゃん、私強くなった?」
「うん!強くなってる。防御に関しては、フーゴが居なくても大丈夫そうなくらい」
「・・・やだ!フーゴさんが居ないのは嫌だ」
何でこんな事を言ってしまったのか。冗談でもこんな事を言ってはいけない。
「ごめん、私なんでこんな事言ったんだろ。今は私の力不足でフーゴを召喚出来ないけど、必ずまた召喚してみせるから」
「うん!」
次は俺のステータスの確認だ。
名前:エレン
種族:人
レベル:39
攻撃:404
防御:347
素早さ:436
魔力:200
賢さ129
ユニークスキル:<絵本の世界> <神眼>
スキル:<形態変化><外形偽装>
技能:<見切り> <剣術 上> <体術 中>
魔法:<エンチャント系> <ヒール系>
耐性:<物理耐性 極> <魔法耐性 中> <毒耐性 小>
加護:<女神の慈悲> <大地の恩恵>
アリスと比べると、大きな変化は少ない。ステータスがレベルの上昇に伴って上がっていて、耐性が増えた。
何より最も興味深いのが、<外形偽装>というスキルを得ている所だ。
これは俺に元々備わってるスキルなのか。それとも加護によるものなのかは、分からないけれど面白そうなスキルだ。
これも後で試してみよう。
俺達がステータスを眺めて軽く会話をしていると、カイル君が後ろを振り向いて聞いて来た。
「エレンさんこのまま行けば、あと10分ほどで着きそうなんですけど、どうしたら良いですか?」
もうそんなに走ったのか。山脈の麓にある町まで王都から約6時間程だ。
色々とあったから長い筈の6時間が早く感じる。
それは問題ではない。ドラゴの鼻が確かなら、この先にサターン教団が居る。
つまり町を拠点としている可能性があるという事だ。単にそこに居座っているのなら良いけど、町全体が奴を看過しているとしたら、見過ごす訳にもいかない。
「ドラゴ、奴らは町に居るんだね?」
「あぁ、俺様が仲間の臭いを嗅ぎ違える訳ねえ!間違いなく居る!」
「違いますよ!それは良いんですけど、ドラゴさんが中に入るのは不味いですよね?」
「テメェ!俺様を侮辱してんのか?」
「ちちちちがいますよ!だってリザードマンが町に入れば大騒ぎになりますし、敵にも警戒されると思いませんか?」
カイル君の言う通りだ。理性があると言えど、リザードマンは魔物に変わりない。
魔物が町に侵入すれば大騒ぎになる。何よりも、リザードマンを好んで狩っているサターン教団にドラゴが見つかれば、問答無用で襲撃され兼ねない。
「確かにそうだが、俺様が外で留守番をするなんて意見は聞かねえからな!」
そうなればドラゴが中に入っても違和感の無い様にしなければならないな。
腕や足はガントレットとかで隠せばどうにかなるけど、この顔の形はどうしようも無いな。
人間用の甲冑は入らないし、包帯でぐるぐる巻きにしても輪郭で分かってしまう。
そもそもの形を変えるか、相手に人間として認識させるか・・・俺の新スキル<外形偽装>ならどうにか出来るかも知れない。
このスキルは恐らく、元々の形を変えるスキルでは無く、見え方を変えるスキルだ。
これならリザードマンを人間の様な外形に偽る事が出来る・・・と思う。
まあやってダメなら、また他の方法を考えれば良い。
「ドラゴ、私に良い案があるの!痛いかも知れないけど、我慢してね!」
この世界に来てから大分経つからスキルや技能の扱いには慣れた。
スキルは想像力が大事で、自分がどれだけ事細かく想像出来るかによって、事象の変化具合が変わる。
「<外形偽装>!人間の様になれ・・・」
俺の知っている男の人が数少ない所為かドラゴの見た目は、何処かルキウスさんに似てしまった。
強いて言うなら、ルキウスさんとカイル君を足して2で割った感じで、気が強そうなドラゴが兄で、カイル君は気の弱い弟みたいになってしまった。
「変な感じがしたけど、何か変わったのか?」
そう言いながら、顔をカイル君に向ける。すると、余りの変わりように・・・いいや、それ以上に見覚えのある顔付きにカイル君は動揺を隠さず声を上げた。
「ぼ、僕に似てる・・・!」
本人がそう思ったのだから、間違いないだろう。これなら、リザードマンだとバレる事は無い。




