47.別れ道
ギルドに戻りマリア、リク、ニアの3人に経緯を話した。
リクとニアは落ち着いた様子で、「協力出来る事があればいつでも頼ってくれ」と背中を押してくれた。
ただ懸念通りマリアは、ご立腹の様子だった。
「もお・・・何で皆んな勝手に決めるの?ミラを実家につれていけると思って、少し楽しみにしてたのに」
「ミラも申し訳なさそうだったよ。けど、ミラはやりたい事をやれる自由を手に入れた。許してあげてよ」
「それも、そうだね。2人は直ぐに魔法国家マジリアンに向かうの?」
「そのつもりで居るけど、マリアも来る?」
マリアは唇を指で触って、何かを考えてから答えた。
「いや、私はもう少し王都に残る。もっと高品質なポーションを作れる様に鍛える」
マリアも俺達と同じで、もっと強くなる事を望んでいるみたいだ。
形は違えど、それぞれがそれぞれの役割を持っていて、それぞれの強さがある。
戦力とはならないけれど、マリアは俺達の生命線だ。
「分かった。一旦、マリアともお別れになるのか」
「まあ少しだけ寂しい気もするけど、その分次会う時が楽しみってものでしょ?」
「そうだね!」
マリアと折り合いがついた後に、俺とアリスはルキウスさんに魔法国家マジリアンの事を尋ねた。
ルキウスさんの説明によると、魔法国家マジリアンはその名前の通り魔法大国で、武力は勿論だが、キレ者が多いらしい。
そもそも独立国家でもあるマジリアンが、今まで大きな戦争も無しに他の国々と対等の立場に君臨しているのは、そういう抜け目が無い周到さこそが所以らしい。
しかし、独立している国とは言え国を閉鎖している訳では無く、旅人や冒険者に対して寛容という話だ。
魔法国家マジリアンの独立というのは、単に他国からの圧力を無効化する為の盾の様なものなんだろう。
それならマジリアンの領内にあるカリフの森に近づくのは簡単じゃないかと、しらを切っていたらルキウスさんに小突かれた。
魔法国家マジリアンにとって、精霊が棲む森や神を敬う神殿は聖域と呼ばれ、余所者は愚か国の人達でさえ容易に立ち寄る事は出来ないらしく、目的地に辿り着くのは至難の技だと口を酸っぱくして言われた。
短絡的な俺の性格を理解してくれているルキウスさんのせめてもの忠告だ。念頭に入れておこう。
そして間も無くして、俺とアリスは王都を出た。王都を出る際、リクとニアは輝剣を抱きしめて「ガレリア、エレンを導いてあげて」と祈ってくれていた。
有難いけれど、少し重いなと不覚にも思った。けれど、本当に有難い。
マリアとは、もう少し感動的なお別れになるのかなと思ったが、ヤケにすんなりと別れた。
まあ確かにこれが最後になる訳じゃないんだから、そんなものなんだろう。
俺達は遥遠くの国、魔法国家マジリアンを目指した。
王都からマジリアンまでは、山脈を二つ位超えなければならない。その山脈には厄介な魔物が多く生息しているらしい。
それが面倒だからと、迂回すると4ヶ月くらい掛かってしまうらしいから山脈越えは避けられない。
山脈を越えられれば、迂回ルートの半分くらいでマジリアンに着ける。
因みに山脈の麓にある町までは、王都のギルドから借りた馬車で向かう。
運転してくれているのは、ルキウスさんの息子のカイル君だ。
ルキウスさんとは、正反対の性格と見た目で息子というのは無理がある。
「カイル君、疲れたら言ってね!」
「あ、はい!全然平気ですよ。細身ですけど、体力だけは父さん譲りなんで」
カイル君の言う通り、細身で身長はそこそこ。強面の父を持つ割には、朗らかなゆるい顔立ち。
冒険者よりも、遥かに馬の世話をしている方が似合っている。
けど、疑問に思う事がある。偉大な冒険者である父を持っているのに自分にも才能があると思わないのかと。
思った事は、聞いてしまえ。それでデリカシーが無いと言われれば謝ろう。
「カイル君、一つ聞いても良い?」
「は、はい?なんです?」
「君は、冒険者になろうとは思わないの?もしかしたら才能があるかも知れないって?」
カイル君は、微かに視線を後ろにいる俺達に向けたけど、すぐに正面を向いた。
そして、言葉に詰まりながら俺の質問に答えた。
「思わない事も無いですけど、僕は剣を向けられるのが怖くて怖くて・・・。父さんは勇敢な人ですけれど、勿論恐怖心はあります。僕はその恐怖心の部分だけを受け継いでしまったらしい。あっ、でも馬の世話とかは好きなんで、嫌々この仕事をしている訳じゃ無いですよ」
「生き方は人それぞれって事か」
俺の疑問には単純な答えが返ってきた。カイル君は、もしかしたらの才能を夢見るのでは無く、出会った才能を手に取って信じたんだ。
親にすがるでもなく、自分の手でやりたい事を見つけた。立派な人じゃないか。
気持ちの良い春の様な陽気が広がっていた草原を抜けると、雰囲気は一転して、辺りは湿っぽくなった。
その兆しが見えてから数十分程進むと、本格的な湿地帯に入った。
足下が水分を多少含んだ泥の様な地盤の所為で、荷台がある馬車の進み具合と乗り心地は最悪だった。
そういえば、こんなに大きな湿地帯に訪れるのは初めてだ。
日本にはこういう所が無いから、少しだけテンションが上がる。
湿地帯に出現する魔物と言えば、リザードマンが定番だ。
辺りを見渡す限り、それは見当たらないがゲームとは違って、湿地帯にリザードマンが居るとは限らないから仕方無いか。
「ねえ、エレンお姉ちゃん?」
「どうしたの?気分でも悪くなった?」
「そうじゃなくて、あそこに誰か倒れるよ」
アリスが指差した先には、青みがかった緑色の肌を持つ何かが、うつ伏せに倒れていた。
それが何者なのかは大体分かっていたけど、一応<神眼>で確認した。
種族名:リザードマン
個体名:ドラコ
脅威度:⭐︎
大した相手じゃないのは一目瞭然だけど、種族名とは別に個体名が見て取れた。
あのリザードマンは、ただの魔物じゃ無いという事か。
理性がある可能性が高い。脅威度を見る限り、危険では無い。気をつけていれば、不意打ちとかは受けないだろう。
「カイル君、あの魔物の近くで馬車を止めて」
「えっ!?魔物の近くでですか?危険じゃないですか?」
「大丈夫!私とアリスは強いから」
「そ、そうなんですか。わかりました」
近くにとお願いしたのに50mくらい離れた木陰にカイル君は馬車を止めた。
別に良いけど臆病過ぎるよ、カイル君。
「近付きたくないでしょ?そこで待ってて」
「は、はい!」
「行くよ、アリス」
まだ息があるみたいだけど、青緑色の鱗に覆われた体の所々に傷が伺えた。
鋭い爪の様な物で、傷付けられた様な痕だ。
浅いものから深いものまであり、傷口から青い鮮血が水溜りに流れて、その水は青黒くなっていた。
「この量の血で良く生きてるな」
俺が感心していると、アリスが袖を引っ張った。
「早く治してなげて」
「いけないいけない。関心してる場合じゃないね」
マリアと別れる際に持たせてくれた高品質のポーションが魔物に効くのかは分からないけれど、使ってみた。
傷は見る見る内に塞がっていき、心なしかリザードマンの強張った表情が和らいだ気がする。
指で顔をつつくと、体が微かに動いた。
「おーい!生きてる?生きてるのなら返事してー」
耳の近くで呟くと、「煩い煩い!耳の近くで話すな!」と言いながら覚醒した。
そしてリザードマンと目が合い「おはよう」と挨拶すると、リザードマンは目を点にして言葉を失った。
目をしばしばと、閉じたり開いたりを繰り返して、自分の顔を殴打する。
「い、痛い・・・夢じゃない様だな。しかし、人族が何故俺様に声を掛けてきている?それより傷が塞がっている?」
どうやら人族である俺に声を掛けられたのが不思議で堪らないらしい。
確かに魔物に声を掛ける人はいない。それどころか見つけた瞬間、逃げるか狩るかだ。
俺も<神眼>が無ければ、あのまま放置していたと思う。
「まずはお礼を言うのが礼儀じゃない?私が助けてあげたんだから」
「お、お前が俺様を?信じられねえ。何故人族が魔物を助ける?」
「何故と言われても、リザードマンは他の魔物とは違って理性があるんでしょ?なら、人間と差して変わらない」
「・・・?お前は本当に強欲で愚かな人族なのか?」
「強欲で愚かは言い過ぎでしょ。まあ、私はその人間だよ」
「そうか。俺様の傷が塞がっているのは確かなだし、この人族からは悪意は感じられ無い。礼を言うぞ!お前のお陰で助かった!」
魔物にしてはというのは変な話だけど、中々冷静で素直だ。
「うん!良ければ、怪我をした話を聞かせてよ」
そう尋ねると、何かを思い出したかの様に咄嗟に立ち上がり後方にも広がる湿地帯の彼方を見つめた。
しかし、傷口が塞がっていても大量の血を流している事実は変わらない為、直ぐに崩れ落ちた。
「くっ・・・同胞達が俺様の帰りを待ってるってのに。無念ってのは、こう言う時に使うのか」
「何か事情があって急ぎたい気持ちは分かるけど、今の貴方の状態じゃ歩く事もままならないでしょ」
「その通りだ」
「なら、馬車で送ってあげるから話を聞かせて。こう見えて、私は頼りになるから」
俺も先を急ぐ身だけど、興味本位でリザードマンに力を貸すことにした。
理性ある魔物に興味が湧いたというのもあるけど、何で怪我をしていたのかが気になった。
そして同胞という言葉を聞いてしまえば、手を貸したくなる。
仲間を失う悲しさは、ここまでの経験で良く理解しているから。




