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46話.使命

 カップの中の紅茶が完全に冷めるくらいの時間を過ごしたが、本題にはまだ入っていなかった。

 マナは、談笑をする為に俺達を招いた訳じゃ無い。


 俺は、話をすり替える為に会話に割り込む。


「談笑はこの辺にしよう。私達をここに招いたのには、理由があるんですよね?」


 俺が言うと、ルキウスさんが「そういえばそうだったな。無駄話しをしすぎた」と苦笑いをした。


 マナは何も言わずに俺の後方にある本棚から、魔法で本を机の上に運び、最初のページを開いた。


 本の題名は"勇者冒険譚"。その本が作られたのは、とっくの昔の様で、所々削れていた。中身も読めない部分がある。


「ほう、懐かしいのう。吾輩もよくこれを読んでいた」

「知ってるの?」

「知ってるも何も、誰もが子供の頃に憧れたとある勇者の話じゃ。ただこんなにボロボロの物は見た事ない」

「それは当然だ。これは作られた物語じゃなくて、勇者と旅をしていた幼き魔法使いが記した物だ。嘘偽りは一切無い。美しい冒険は数少ない。その代りに残酷な現実が敷き詰められた駄作だ」

「何じゃと?そんな物がこの時代に残っていたのか?」

「あぁ。100年前、魔王との戦いの果てに死した英雄。神の剣を扱える唯一の勇者。彼の戦いは、何一つとして後世に伝わっていない。それは彼自身の願い。魔王との約束」


 マナは、まるで自分の事かの様に切なそうに語っていた。

 目を深く瞑って、遠い昔に見た夢を思い出そうとしているように見えた。


「お前達には失われた戦いを知って貰う必要がある。拒否権が無いとは言わない。間違いなくこれを知って仕舞えば、数々の悲劇に身を投じる事になる。どうする?判断するのはお前達だ」


 聞くか、聞かないかの判断をするのは簡単だけど、マナはまだ何も重要な事を言っていない。

 もし聞くと答えた時、マナが俺達に何を強いるのか。それすら教えてくれていないのに判断を俺達に任せるなんて、強引だと思う。


 けど、マナは俺達を悪用する様な人じゃ無い。俺達を頼りにしてくれたのだから、無碍に扱うのは違うとも思う。


「私は決めたよ。皆んなはどうする?」


 アリスは俺を見て頷いた。ミラも俺と同じ事を言おうとしている様子だった。

 ルキウスさんは、俺達の表情を見て、俺達の考えてる事を察したのか溜息気味に「やれやれ。少女達が、覚悟を決めてるんだ。おっさんだけ逃げるなんて許されないだろ!」と、投げやりに言った。


「お前達ならそう言うと思っていた。それなら聞いてもらうぞ!失われた戦いの話と、これからお前達にやってもらう事を」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 どれだけの時間、マナの話を聞いていたのか分からない。

 随分と長かった気もするけど、それ程長く無かった気もする。

 そう感じる程に俺達は、聞き入ってしまっていた。勇者と呼ばれた少年の報われない一生の話をただただ漠然と頭に入れていた。


「おいおい・・・。それじゃ全ての前提が可笑しいじゃねえか!」

「そうじゃな。敵は、奴らだけじゃないのか」

「全員が勘違いをして、間違った争いを繰り返して、本当に悪い奴を見失ってる。そんなの誰も報われない」

「そうだ。だから、勇者はその繰り返しを断ち切る為に己が身を犠牲にしたのだ」


 俺達が聞かされた真実の物語は、信じ難いものだった。けど、信じるしか無いものでもあった。

 この世界の構造と、マナの話は合致していて、俺がこの世界に呼ばれた意味と使命が分かった。


「じゃあ私は、勇者が夢見た未完成のパズルを完成に導けば良いってこと?」

「そういう事になる。だが、それは困難を極める。彼の勇者でも成し得なかった偉業だ。それにこの間、人間の領域に上級魔人達が侵入した。奴らを倒すのは、一筋縄ではいかないぞ」

「分かってる。でも私達になら出来ると思ったから、マナは私達に話したんでしょ?それなら、その期待に応えないと」


 マナは面食らった様に驚いた顔をしてから、優しく笑って、俺の頭に手を伸ばした。

 何をするのかと思えば、頭を撫でてくれたのだ。


「辞めてよ!私は、子供じゃない」

「私からすれば、ここにいる全員が赤子同然だ!」


 だからと言って、子供扱いするのは辞めて欲しい。


「お前達にはやって貰う事が色々とあるが、まずは力を付けて貰いたい。これから先、お前達が対峙するであろう敵は強大な悪。其奴らに勝つ為には、遙かな鍛錬が必要だ」


 そうだ。マナの言う通り今の力じゃ、上級魔人とやらには敵わない。

 前に戦った魔人は、恐らく下級魔人だ。奴が口にしていた主人とやらが、上級魔人なのだろう。

 アイツにてこずっていた俺が、その主人に勝てるとは到底思えない。

 やっぱりレベルを上げる必要があるんだ。だけど、今までの様にチマチマとクエストを熟すだけじゃ遅い。

 もっと効率的なやり方は無いのかな。


「ねえねえマナ?」

「どうしたんだ?」

「精神と時の部屋みたいなのは無いの?こう、てっとり早く強くなれる場所みたいな」


 マナは首を傾げながら他の人に目を向け、それは何だと尋ねたが、誰一人として答えなかった。

 当然だ。知っていたら、俺が逆に困る。


「それが何をする部屋なのかは分からないが、ちょうど手っ取り早く強くなれる所があるぞ!」

「いいね!そう言うのが欲しかった!」

「そうだろう、そうだろう。その場所は、魔法国家マジリアンの領地にあるカリフの森の神殿だ。エレンとアリスは、そこを目指すと良い」

「わかった。けど、私とアリスだけ?ミラとルキウスさんは?」


 そう俺が尋ねるとマナはルキウスさんに視線を送った。


「分かってるよ!チクショー。今から鍛えた所で、限度がある。俺はお前達の為に伝説の武具を集める」

「よく理解しているな!」

「クソ!もっと若かったら、戦えたんだがな!」


 ルキウスさんはそんなに高齢という訳でも無いが、それでも40代後半くらいだ。

 確かに衰え始める時期だ。それにしても、驚異的な運動能力は健在の様だけど。


 そしてミラが、申し訳なさそうにしていた。


「どうしたの、ミラ?言いたい事があるなら言って」

「そうじゃな。吾輩は、ここに来た時には既に決めていたのじゃ」

「何を?」

「吾輩はここに残り魔女の素質を開花させたいのじゃ!勿論、エレンには感謝している。じゃが少しだけ自由を許して欲しい」


 ミラが頭を深々と下げて懇願した。馬鹿なお願いだ。


「ミラはもう自由なんだよ!縛れる必要は無い。心が赴くままに生きていいんだ!」

「そう言ってもらえて嬉しいのじゃ!」


 それぞれのやるべき事が決まった。少しの間だけど、ミラと離れ離れになってしまうのは寂しいけれど、これは強くなる為に必要な別れだ。

 マリアにはドヤされそうだけど、まあそれは俺が何とかすれば良いか。


「取り敢えずは、お前達の強化が先決だ。それが終わり次第、魔王の封印場所に向かって貰う。その場所は、それぞれがまた集う時に話そう」

「そうだね。それじゃそれぞれは、それぞれの遣り方で力を付けよう!じゃあね、ミラ!」

「うむ!また会う時は、吾輩の魔女力を見せつけてやるのじゃ!」


 俺達がマナと過ごした時間は、体感で3時間程だった様な気がした。

 しかし、王都のギルドに歪みを通って戻ると30分程しか経過していなかった。

 あの空間自体が、そもそも歪んでいて、言うなればあの空間こそが精神と時の部屋みたいなものだった様だ。


 あそこを去る際、マナは魔法国家マジリアンに空間を繋げようかと言ってくれたけど、それは断った。

 王都にマリアを置いてきてしまっているから、事情を話さないと、次会う時にボコボコに怒られてしまうだろうという危機感からそうした。



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