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45.継承者

 思わず瞑った目を開いた先には、大自然が広がっていた。

 明るい緑色に輝く草木に囲まれた謎の空間。今までに行った事のある何処よりも、魔素が濃かった。


 俺が辺りを見渡していると、直ぐにアリス、ミラ、ルキウスさんの順に時空の歪みから現れた。

 歪みは俺を含めて4人を転送すると、消え去った。


「警戒を怠るな!ここは相手のテリトリーだ。敵だと断定は出来ないが、仲間だとも言えないからな!」

「道は、一本しかないですね!進みましょう」


 俺達が居るこの空間の周りは、高い木と草で壁が作られていて、通る事を拒んでいる感じだった。

 その草木の壁の一部分に人が、一人通り抜けられる程度の細道があった。

 罠にしては露骨過ぎるし、アリスのネックレスから聞こえた声の主に敵意は無かった様に感じたので、素直にその道を進む事にした。


「アリス、体に異常は無い?息が苦しいとか、疲れたとか」


 アリスは深呼吸をして、体の異変を確かめた。直ぐに首を振り「何とも無いよ。少しビックリしたけど、大丈夫」と言った。

 無理をしている様子は無いので、本当に大丈夫なんだろう。

 あのネックレスは、マリアから貰った物だ。マリアもこのネックレスを誰かから貰ったと、前に言っていた。

 これは妄想だけど、あの声の主はこうなる事を見越していたんじゃないか?

 変な話だけど、偶然という一言で片付けられる訳が無い。

 幾ら考えてても答えは分からないから、一本道を警戒しながら無言で進んだ。

 数分歩いた所に大樹と家屋が結合した歪な家を見つけた。

 ミラが念のためだと<魔力探知>を行なっていたが、何故だかミラの顔が酷く引きつっていた。

 まるで、怯えている様にも見えた。

 俺が肩を叩くと、我に返ったのか溜息気味に息を漏らした。


「どうしたの?あの中に何が居た?」

「・・・行けば分かるのじゃ」

「言いたく無いって事ね。体調が悪いのならそこで待ってて良いよ!無理をする事は無い」

「うむ。じゃが、あの中に居る者は、吾輩にも用がある様じゃ」

「そうなの?じゃあ、行こうか」


 ミラは多くを語らないが、何かを悟っていた。ミラがこの状況下で、言葉を濁すという事は、伝えなくても今後に支障が無いという事だ。

 ミラがそう判断したのなら、深く追求はしないし、ミラ自身、中に入れば分かると言っていた。

 それなら躊躇う必要は無い。


 俺達が、大樹に近付くと上の方の枝から降りてきて、足場となった。それに乗ると、まるでエレベーターの様にゆっくりと上昇して、扉の前に俺たちを運んだ。

 ミラが真っ先に扉に触れた。肌触りを確かめる様に優しく触れて、感嘆する。


「五重結界を脆い木に施すとは、流石の技量じゃな」


 ミラがボソッと呟いたが、俺には良く分からなかったからその驚きが伝わらなかった。

 そんな俺とは違って、流石はルキウスさん。五重結界の凄さに頭を抱えていた。


「そんなに凄い事なの?」

「凄い所じゃないぞ!そもそも結界魔法というのは、ある空間の周りを魔力の壁で覆う魔法じゃが、結界には種類があって、物理的なものと魔力的なものとで基本区別されるのじゃ」

「うん?2種類に区別されるのに何で五重なの?」

「基本的に2種類じゃが、物理的な攻撃にも色々あるじゃろ?例えば生物の身体を使った攻撃。それに対して自然物を用いて作られた武器による攻撃」

「つまり色々なシチュエーションに合わせた結界を重ねがけしてるって事?」

「理解が早いのう!つまりそういう事じゃ。1枚の結界を特化型にして、それを5枚重ねる事で、全部に特化した完全防御の結界となってる訳じゃ!因みに真祖の<魔力障壁>は、大雑把な二重結界。元は弱い筈なのじゃが、あの膨大な魔力を使って強度を上げていた訳じゃな」


 ふむふむ。真祖のであの強度。という事は、この扉は<魔力障壁>の倍以上の強度という事になるのか。

 それって、つまり扉の奥に居る人は相当強いって事じゃね?

 そうだとして、中の人物に心当たりがあるらしいミラは、毅然としている。

 戦闘になる可能性は、限りなく低いという事か?

 けど、やっぱり腑に落ちないな。何で俺達を招いたのかが、全然分からない。

 まあ考えてても埒が開かないから、扉をノックした。

 扉の奥から静かに近寄る足音が聞こえた。少し警戒して、剣に手を置く。

 扉が開くと、感情が希薄そうな綺麗な顔立ちのメイドが、「どうぞ、お入り下さい」と無関心に言った。

 それを見たら、警戒していた自分が馬鹿らしく思えて笑えてきた。


「失礼します」とは言いつつも、別に来たくて来たわけじゃ無いんだよね。日本人が出ちゃったな。

 そんな冗談を考えられる程には、緊張は解けていた。


 外観は想像も付かない程の広さだ。幾つもの部屋があって、奥行きが凄い。

 大樹とは言え、横幅が途方も無いくらい大きいという訳じゃ無い。精々スカイツリーくらいの大きさだった。けど、中は王都の城くらいの広さを誇っていた。


「空間が歪められているな」

「そうじゃな。この中に居ると、時間の感覚も狂う」

「確かに」

「・・・?」


 時間の感覚が狂うって何?そんなの知らないのは俺だけ?


 いつの間にか奥の部屋まで辿り着いていた。奥が遙か遠くに見えたのに、対して歩かずして奥に着いた。

 目で見たよりも近くにあったのか、ミラ達が言うように時間の感覚が狂っていて、短時間で着いたと錯覚しているのかは分からないが、最深部にある扉の前でメイドは立ち止まった。


「マスター、客人をお連れしました」


 扉の向こうにメイドが、呼びかけるとガタガタと騒がしい音を立ててから返事が来た。


「は、早かったな!少し待っててくれ」


 そう言って、また物音を立て始めた。1分くらいが経過した時、物音が止みマスターと呼ばれる女性の声が聞こえた。


「これでよし!入れてくれ」

「はい」


 メイドが扉を開くと、本棚に四方を囲まれた部屋の景色が目に入ってきた。

 まるで王都の大図書館のみたいだけど、流石にそこまでの規模は無い。


「・・・ハァハァ・・・よく来てくれた・・・ゼェゼェ」


 メイドにマスターと呼ばれるこの女性こそが、俺達をここに招いた人物で間違い無い筈だけど、ここまでのシリアスな雰囲気をぶち壊すほどに、酷く疲れていて呼吸が荒い。

 アリスがその女性の事が心配になって、体調を気遣う。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ!大丈夫だ。そろそろ落ち着いた」

「マスター、部屋の片付けをしたのですね」

「お前、それを言うな!部屋が汚いなんてバレたら威厳も何も無いだろ!第一印象は大事なんだ!私のずぼらさを故奴らには、隠す必要があるんだ!今は、何も言うな!」

「そうですか。マスターがそう言うのなら、部屋が汚かった事もマスターがすぼらである事も黙っておきます」

「よし!それで良い」


 素人の質の悪いコントを見せられた気分だ。苦笑いしか浮かばないよ。

 まあ、この遣り取りのお陰で緊張感と警戒心がほぐれた。安心し切るのはダメだけど、この二人に敵意は全く無い。


「ゴホンッ!ええと、まあゆっくりしてくれ。半ば強制的に招いた事は謝ろう。しかし、お前達にとっても有意義な時間となる事は約束する。まずはそこにでも腰を下ろして、ティータイムでもしようか」


 女性が指差した何もない場所に何処からとも無く突然テーブルとイスが現れた。

 不思議だったが言われるがままに席に着く。すると、メイドが目の前に純白のカップを置いて、そこにティーを丁寧に注いだ。


「飲んでも良い?」とアリスが俺の目を見て尋ねると、女性がアリスの頭を撫でて「その為に用意したんだ。遠慮しなくて良い。うん?お菓子が欲しいって、それならクッキーを用意しよう」と言って、手を叩くと、バスケットに入れたれた沢山のクッキーが現れた。

 アリスは興奮して「凄い!凄い!」と嬉しそうだった。

 まるで手品を見せられている様だ。けど、これは紛う事なく魔法。

 変幻自在に物を召喚する有り得ない魔法だ。アリス以外は、女性の異常さに感づいて固唾を飲んでいた。

 無詠唱にも関わらず呼吸をする様に難なく凄まじい魔法を使う女性を恐れた。


「ええと、全員が思ってる事を私が聞きますけど良いですか?」

「勿論構わない」

「貴方は何者なんですか?」

「私か?私は大した者じゃ無い。普通の人間だ。ただ少しだけ魔法に見識があるだけのな。因みに私の名前は、マナ・シルヴァスター」


 ルキウスさんが、イスを弾く程大袈裟な挙動で立ち上がった。


「嘘をつくな!それは忌まわしき創造の魔女の名だ!それだけは有り得ない!」

「落ち着くのじゃ。そう思うのも無理は無いが、吾輩見たところ奴の魔力は無尽蔵。それに見たじゃろ?何も無い空間から物質を作り出すなど、創造そのものじゃ」


 ルキウスさんは、信じたくなかったが為に難しい顔をして反論の余地を探した。しかしミラの言った通り、あんな芸が出来るのは、創造の魔女しかいない。

 それは理解しているのだが、どうしても看過出来ないみたいだ。


「状況を良く掴めていないんだけど、創造の魔女って真祖を創り出した悪い魔女でしょ?」

「一般的には、そう言われているな。じゃが、創造の魔女は多くの魔法を創造して、それを人々に教えた魔術の始祖でもあるのじゃ」

「だが、結局は人類を滅ぼそうとした最悪の魔女だ」


 創造の魔女について俺は知らないけど、ルキウスさんとミラでは、彼女に対する反応が対極過ぎる。

 ルキウスからは圧倒的な恐れを感じた。遺伝子に恐怖が刻まれているのは、内からの震えのようなもの。

 しかし、ミラは憧憬でもしているかの様な熱い眼差しを彼女に向けていた。


 ルキウスさんとミラの意見が対立して、雲行きの怪しい雰囲気になった所に割って入り彼女は言った。


「熱くなる必要は無い。私は、確かにマナ・シルヴァスターだ。しかし、お前達が夢想する創造の魔女では無い。言うなれば、私はその弟子。名前を受け継いだ後継者だ。だから彼女への怒りも憧れも、私には関係無い」

「創造の魔女の後継者・・・か。すまない、自分の勝手であんたを拒絶してしまった」

「構わない。私には関係無いから」

「まさか創造の魔女の後継者が、この時代に生きてるとは思わなかったのじゃ」

「勘違いをしてるみたいだが、私は生きていないぞ?」


 マナは、忽然と冗談じみた事を言った。目の前に実態があるのに生きていないって、なぞなぞが何かか?


「全然分からないんだけど、どういう事?」

「そのままの意味だ。私はとっくの昔に死んでいる様なものだ」

「幽霊?」

「近いが、遠い。私は、この空間内でしか存在出来ない亡霊だ。そもそもこの場所は生と死の狭間に作った亜空間。私だけのエデンの園という訳だ。生も死も無い永遠の場所。この小空間に魂を封印する事で、不死身を手に入れた」


 難しくて、パンクしそうだ。今の話を簡単に纏めると、マナは世界から隔離されたこの空間に寄生する事で、不死身を獲得した悲しい人という事だ。


「それは自分の意志で、決めたんですか?」

「うん?可笑しな事を聞くな、エレン。意志も何も無い。私は、先代と同じ道を進む訳にはいかなかった。自分や世界に絶望して、嘆きの果てに死を選んだ彼女の様になりたくはなかったのだ」

「そうですか。何があったのかは知りませんが、辛かったんですね」

「自分より遥かに年下のお前に心配されるとはな」


 マナは、朗らかな笑みを浮かべて慈悲深い眼差しで俺を見た。

 不死身がどれ程辛い事なのか知る由も無いけど、それは死という逃げ場の無い残酷な運命なんだと思う。

 結局、最後は皆んな死ぬからと言って、無邪気にガムシャラに何かを追い求める探究心も抱けずにスローモーションで進む無限の時間を退屈しながら、静観するだけの日々。

 想像するだけで、死にたくなる。マナは、ずっとそうして生きてきたのだろう。

 何も知らない俺が、こう思うのは烏滸がましいにも程があるんだろうけど、マナに感情移入してしまう。






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