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39.出陣

 下の部屋にマリアとアリスを呼んで、成り行きを全て話した。勿論、マリアには激怒された。


「真祖と戦うなんて辞めた方がいい!クエストは安否の確認だけでしょ!確認が取れたら帰ってきて良いって言われたじゃん!それなのに何で戦うの?真祖はエレンの考えている以上に凶悪な奴なんだよ!それなのになんで・・・」


 マリアは、憤りを抑えきれずに感情に任せて俺を怒鳴り付けた。けど、もうやると決めてしまったから。


「ごめんねマリア。私は馬鹿なんだよ。人に助けを求められたら助けたくなっちゃう性分らしくてさ。それにこの人達の事情を知ってしまったら、もう引き下がれないんだ!」


 マリアは唖然として、右手を大きく振り上げて俺の顔を目掛けて掌をフルスイングした。

 痛い。だけど、「気が引き締まったよ!有り難う。マリアはここで待ってて!アリスとミラも待っててよ!これは私が選んだ事だから3人に迷惑を掛けたくない。」

「吾輩は個人的に興味があるから、ついていくのじゃ!」

「エレンお姉ちゃんと戦うって決めてるから私も行くよ!」


 マリアが俺の手を強く握って言った。


「帰ってきたら、またビンタをしてあげるから、 死なないでよ!アリスとミラを守ってよ!私は弱いから行った所で、邪魔になると思う。だからここで待つ。ここで無事を祈ってるから絶対に無事に帰ってきてよ!」


 そんな報酬初めて聞いた。死線を潜り抜けた報酬がビンタとは。

 その報酬を喜んで受け入れている俺は、Mなのかもしれない。

 絶対に帰ってくると誓う。


「馬鹿な私でごめん。全員無事に戻ってくるから待ってて!」


 と、言う訳でマリアの理解も得ることが出来た。


 さて、早速真祖討伐の作戦会議を始める。

 まず真祖の能力を攻略しない事には話にならないのだが、その点は3人がクリアしていた。

 まず<転生>はリクの結界魔法によって防げる。

 真祖が<転生>を試みた所で、結界外に出る事は叶わない。

 更に<精神汚染>も、ニアの魔法によりクリア。

 既に厄介な二つの能力を完封出来ているのだ。


 それでも残り3つも能力がある。その中でも<魔力障壁>が難題だ。

 話によると、ガレリアでもそれを壊せなかったという。

 今回に限っては、出し惜しみしている余裕は無いみたいだ。

 恐らく俺のスキルを使えば壊せるだろうけど、前回の発動からインターバルが、短過ぎるのが不安な点だ。

 あの能力についての詳細が、判明していない以上乱用するのは避けたいのだが、そんな事も言ってられない状況でもある。

 1回目の使用では全身の痛み。2回目の使用では、1回目ほどではないが、全身の痛みと意識を保てない程の疲労感。

 3回目は何が起こるか分からない。

 何が起こるか分からないスキルを使うのは、博打過ぎるが、俺達の勝ち筋はその博打に賭けるしかないのだ。


 そして、もう一つの不安要素であるアリスとミラの防御力だ。

 真祖が相手となると一撃でも技を喰らってしまえば、それだけで致命傷だ。

 俺に2人を庇いながら戦う余裕はないと思う。その為、フーゴに念を押して再びお願いする。


「フーゴ」

「何用だ?主の命令で、あれば何なりと」

「アリスとミラを命に代えても守り通して」

「我に命などありはしないが承った」


 フーゴに命は、ないのか。じゃあ何で動いてるんだ?

 そんな疑問が浮かんだが、今は一旦置いといて、作戦会議を続行だ。


「言いずらいんですが、これは言わないといけない事だと思うので言います。ガレリアさんの血を真祖が吸っている可能性があります。ガレリアさんのスキルとかを教えて貰えますか?」


 渋そうな顔を一瞬したが、深呼吸して気持ちを落ち着かせてリクが答えた。


「あ、あぁ。そうだな。ガレリアはユニークスキルを持っている」

「そうですか」

「驚かないのか?」


 そうか。ユニークスキルは珍しいスキルなのか。周りが、みんな持っているから誰もが持っていると錯覚していた。


「いや!ガレリアさん位になると持っていても不思議じゃないなと思ったので」

「それもそうか。ガレリアのユニークスキルは<閃走>。光と同等の速さで移動する事の出来るスキル」

「それを真祖が手にしていたら更に厄介な事になる」

「大丈夫、私が対処できる筈。私のユニークスキルは<森羅の施し>真祖の動きを封じられると思う。」


<森羅の施し>とは、どんな状況下でも自然の力を呼び起こし操る事が出来るスキルらしい。

 エリザ曰く、そのスキルを使えば真祖を捕縛する事が可能だと言う。

 それならガレリアのユニークスキルの対処は、エリザに任せるとしよう。残りの能力は<血従者>だけだ。<血縁者>もあるがそれは戦闘には関係の無い能力だから対処の必要は無いのだ。

 <血従者>に於いては実戦で対処していくしかないだろう。


 作戦と言える程大層なものではないが、大体の算段は出来た。

 それぞれが全力で真祖の能力を潰して行く。

 俺は出来上がったステージ上で、ただ暴れるだけの簡単な役目を任された。


「勝てるかどうかは分かりませんが、全力で頑張りましょう」


 勢いに乗ったまま今すぐに討伐に向かおうとリクは言ったが、それだけはやってはいけない事だと感じた。

 確かに今が一番勢いがあって一切の恐怖心も抱いていない。

 それは強みと言えば、そうかも知れないが、ある意味では無防備だとも言えるのだ。

 興奮の余り理性的な行動を取れない。作戦を実行する事よりも、仇を討つ事を優先し行動してしまうだろう。

 まさに暴走状態に陥ってしまって、敗北するのが目に見えている。

 そんな結末を迎えるくらいなら少しくらい失速してからの方が良いに決まっている。

 1日、頭を冷やす時間を設けて冷静な状態で、挑む方が勝率は上がると思う。

 しかし、今夜は心地良く眠れる気がしないのだが。


 夜は明けた。

 天気は快晴、雲一つ無い。気分は悪くないけど良いとも言えない。

 エリザ達はともかく、俺達は比較的良く眠れた。

 悪く言えば、緊張感が無いとも言えるが、よく言えば万全な状態を作る事に抜け目が無いと言えるんじゃないだろうか。

 それはさておき体の調子は良い。


 ヴァンパイアは朝に弱いイメージがある。だから、日が天にある内に勝負を付けたい。

 夜になれば力が増すなんていう能力は確認されていないが、考えられる可能性を考慮しておいて損は無いはずだ。


 村長のご厚意で朝食が用意されていた。

 美味しそうなパンに白い湯気を立てているスープ。

 果物で作られた赤いジャムを塗ってパンを食べた。

 美味しい!腹が減っては戦は出来ぬ。この考えは好きだ。お腹を鳴らしたまま戦場を駆けるというのは、格好悪いし、本領も発揮出来ないから。

 朝の食事から既に戦は始まっているって事だ。


 エリザ達は朝食に手を出していなかった。

 決戦前に萎縮してしまっているのだろうか?さっきも言った通り腹が減っては戦さは出来ぬ。

 食べたく無くても、エネルギーの補給ぐらいはしておいた方が良い。


 食べる様に促してみる。


「美味しいですよ!食べてみて下さい」


 俺の言葉でようやくパンに手を伸ばして、口に含んだ。


「美味しい・・・」

「うまいな!」

「うん」


 3人から不思議な感覚がした。生きる事に引け目を感じている様な異様な感覚だ。

 何も失った事の無い俺には、理解できない感情が見えた気がする。

 美味しい食事に感謝して、いよいよかと気合を入れた。

 一度、心を挫いた3人と未だ何も知らない3人の共闘で、真祖を倒す事は出来るのだろうか。

 その疑問の答えは神あるいは、未来の俺達しか知らない。

 未来はいつも不確定でグラグラと揺らいでいるものだ。

 だからこそ到達するのが怖いし、今のままでいいやと諦めてしまいたくなる。

 だけど進まないと何処にも行けないのも確かで、いつまでも未来を恐れて立ち止まっている奴には希望の光は見えない。俺たちは進まないと行けないんだ。


 分かりきっていた疑問に改めて答えを出し、歩みを進め始めた。


「行きましょう!」


 そう先陣を切って村長とマリアに挨拶をしてから村を出た。


 馬車は二台。俺、アリス、ミラの3人の馬車と冒険者パーティーの馬車で別れた。

 別れた事に大した理由は無い。ただ6人が同じ馬車に乗るのは窮屈だし馬一匹に6人分の体重を任せるのは大変だと思ったからである。

 馬の負担を考えたって事だ。


 邸までは約2時間。中々に近い距離だ。

 それでも準備するには十分な時間で、各々が武器や防具の手入れを行なっている。

 流石は名の知れた冒険者だ。事前にやって置くべき事を熟知している。


 何故俺がエリザが名の知れた冒険者か知ってるかだって?

 それは昨晩マリアから聞かされたからだ。

 リーダーのガレリアは"烈火の閃光"と呼ばれる一流冒険者で更にエリザも"緑の女王"もとい"緑の悪魔"と恐れられている存在だという事を。

 確かに風格はあったがそこまでの有名人とは思ってもいなかった。

 そろそろこの世界の常識とかに目を向けてもいい頃合いなのだろうが、常識とは当たり前に覚えておく物であって今更知る様な事ではないのだ。

 まあそんな事は今はどうでも良い。俺が言いたいのはそんな一流でさえ諦めざる終えない程、真祖が脅威的であるという事だ。

 マリアに言われたとおり俺の想像以上のバケモノなのは間違いない。

 急に胃が痛くなってきた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 数日前。


 ガレリアの足は、震えていた。

 仲間が近くにいた事による安心感が消えて、気丈に振る舞うこともままならなくなってきた。

 圧倒的な力の差に絶望した。

 いや。希望は自分で捨てたんだ。逃げようと思えば三人と一緒に逃げられた。

 俺は敢えてここに残ったのだ。俺は真祖に絶望したのではない。今に満足している自分に絶望したのだ。


 "成長を辞めた俺に俺は愛想を尽かしてしまったのだ"


 死ぬという結末は、どう転んでも変えられない。その運命(さだめ)に逆らう気は毛頭ないが、ただで死ぬ気もない。

 命を燃やしてでも<魔力障壁>をぶっ壊してやる。

 その後の事は他の誰かに任せよう。俺じゃない、誰かにな。


 ガレリアは思考するのをやめた。本能のままに命を燃やして、真祖に向かって突撃した。

 烈火の閃光。その名に恥じない戦いを繰り広げ今まで、以上の火力で挑む。

 消えない炎は無い。いくら強い炎でも時期に勢いを失い力尽きた様に消えていく。

 いくら輝かしい光でもいつかは光る理由を失って静かに輝きを消していく。


 ガレリアの最後の攻撃は真祖の<魔力障壁>に微かにビビを入れた。

 そんな事に気が付いたのは真祖のみ。ガレリア自身は、その事に気付くことは無く散る。


 烈火の閃光は、儚く消えていった。


 最後まで闘った戦士を侮辱する程、真祖は愚かではなかった。

 久方ぶりの戦いを楽しめた事に感謝をして、ガレリアの血を一滴も残さずに吸い取った。

 真祖はガレリアに多少の敬意を払った。

 その証に<魔力障壁>のビビを残しておく事にしたのだ。この戦いを忘れない為に。


 それが真祖にとって過ちとなる事は今は誰も気がついていない。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 邸が見えてきた。バルザード伯爵の邸と大きさは殆ど同じだろう。

 古びた邸の雰囲気は如何にも幽霊が出てきそうである。

 幽霊ならまだ良いか。今から戦うのは最強のヴァンパイアなのだから。


 近寄って行くにつれて、そのとてつもない存在感がありありと感じられた。

 心臓が潰れそうな感じがする。これが真祖の放つオーラなのか。息苦しい。ここら辺の空気は既に毒ガスの様なものになっている。

草は枯れて元気無く地面に倒れていた。


 馬車は少し離れた所に置いた。馬が<精神汚染>などの影響を受けない様にニアが魔法をかけてくれた。

 邸の外ではあるけど、かなり濃い魔力が周囲に蔓延している。

恐らくそこら辺の冒険者なら既に精神を侵されてしまっているだろう。

 どうあがいても数の暴力は通じないという事だ。生半可な奴じゃ戦う前にダウンして、足手纏いになるのが落ち。


 エリザ達3人の呼吸が荒くなっていた。心臓の脈動は激しくなる。

 ただでさえ毒ガスの様な空気を吸っているのに真祖に対する恐怖と憎悪によって呼吸もままならなくなっている。

 これはマズイな。呼吸を安定させて、落ち着かせないと真祖と戦う前に倒れてしまう。

 こんな時の為に昨晩、魔導書の新しい魔法を習得しておいた。

 系統はニアの信仰魔法と同じで、悪しきを祓う魔法なのだが、俺の魔法はニアのとは少し違う。

 ニアの信仰魔法は対象に掛けられた呪いやらを祓う魔法だ。

 それに対して俺の魔法は周囲に蔓延した魔力的な有害物質を祓う事が出来るもの。

 だから今回に最適な魔法と言える。この毒ガスの様な空気は真祖の魔力による汚染。

これがもし本当に毒ガスであるなら、俺の魔法も無力なのだが、生憎これは魔力による汚染なのだ。

 それなら魔法で対処は可能である。


 魔導書を開いて唱える。


「<除魔の波動(クリアウエーブ)>」


 全ての魔力を除去する事は出来なかったが、かなり楽になった。

 3人も次第に呼吸を整えて、落ち着きを取り戻している。


「エレンて魔導士なの?」


 と、ニアが尋ねてきた。


 魔導士の定義が魔導書を扱う者全てなら、間違いなく俺は魔導士なのだろうけど、俺が使える魔導書の魔法はエンチャント系とヒール系の魔法だけだ。

 攻撃魔法を使えない俺を魔導士と呼ぶのは大袈裟な気がする。仲間の補助だけを専門とする魔導士なんて、存在の意義が疑われるからね。


 その点俺は魔導書による補助に加えて剣術と体術、ユニークスキルによる変幻自在な動きが可能である。

 ニアの質問に答えるなら、魔導士ではないけど完全に否定は出来ないと言った感じの曖昧なものになってしまうだろう。


「魔導士じゃないかな。一応魔導書を使った魔法を扱うけど、それに特化している訳じゃないし」

「そうなんだ。でもありがとう。楽になったよ!私の信仰魔法じゃ漂う魔力を浄化する事が出来なかったから」


 一瞬柔らかな笑顔を見せたが、直ぐに引き締まった顔に戻った。

 悠長に話しているが、ここは既に真祖のテリトリーなのだ。いつ攻撃されても可笑しく無い状況なのである。


 緊張の糸を張り巡らせて、邸の中に歩みを進めた。

 前回は罠も何も仕掛けていなかったらしいので、恐らくは罠は無いだろう。

 真祖は罠を仕掛ける必要も、策を巡らせる必要も無いと考えているのだ。

 それは油断ではなく余裕。自分の実力に誇りを持っているからこそ正面からぶつかる事を好き好んでいる。

 恐ろしい事にその余裕を油断であると判断出来ない。

余裕故に何の気兼ねもなく相手を叩き潰せる。考える必要が無いから相手に感情移入する事も無い。真祖の余裕はそういう人間らしさを潰して、更なる冷徹さを醸し出しているのだ。





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