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38.残された「もの」残した「もの」

 

 今回のクエストは戦う必要がないという訳で気楽だった。

 ミラは初めての馬車に大はしゃぎだ。マリアと同い年とは思えないくらい騒いでいた。


「気持ちいいのじゃ!!本の中で見かけた事はあったのじゃが、まさかここまでの代物とは思わなかった」

「落ち着いて、落ちるよ!」

「吾輩は落ちないのじゃ!」


 馬車の車輪が岩に当たったのか酷く揺れる。その拍子にミラがよろけて落ちそうになった。


「あっ!!」

「ちょっ!何してんの!」


 マリアが瞬時に手を掴んでミラを助けた。


「だから言ったでしょ!大人しく座ってて」

「・・・しょうがないのじゃ」


 まるで姉妹みたいだ。

 マリアは良いお姉ちゃんって感じで、ミラはワンパクな妹って感じか。

 俺とアリスは馬車の荷台で、ミラとマリアの会話を和やかに聞いていた。


 もう既に4時間は走っただろうか。途中に何回か休憩を挟んだから、その時間を抜いたら3時間と少しくらい。

 ここで一旦地図を確認しようと思い荷台に地図を広げた。

 アリスも一緒に眺めていた。


 王都がここだから、そこから3時間程度だと現在地はここら辺か。あと1時間程度走った所に村があるな。

 邸から1番近いのが、この村の様だ。

 それなら真祖の討伐を断念した冒険者が行くとしたらまずはここだろう。


「マリア、川沿いの方を真っ直ぐに行くと村があるから、そこに寄って」

「うん、わかった!」


 特に目立った事も無く、村まで辿り着いた。


 村の第一印象は穏やかの一言で纏められる程、何事もない普通の村だった。

 邸から一番近い村だから何らかの影響を受けていても可笑しくないと思ったのだが、そんな事も無く平穏だ。


 村の近くに馬車を止めて中に足を進めた。


 農作業をするお婆さんに声を掛ける。


「お婆さん少し良いですか?」

「どうしたんだい?」

「最近何か異変が起きませんでしたか?」

「異変かい?」


 お婆さんは少し考えてから首を横に振った。


「大した事はないのう」

「そうですか」


 やっぱり冒険者は、真祖に殺されたのだろうか。


「でも最近変な人達がこの村に来たぞ!そうだそうだ。ちょうどお前さんらと同じ様な格好をしてたわい」


 当たりを引いたらしい。

 その人達は恐らく冒険者だろう。それも俺たちの目当ての冒険者だ。

 根拠は無いけど、偶然ここを通りかかったというのは不自然に思えた。

 無い話ではないけど、タイミングがバッチリ過ぎる。


「お婆さん、その人達はもう村を出ましたか?」

「いいんや!村長の家に泊まってると思うぞ」

「わかりました!ありがとうございます!」


 お婆さんから得た情報の通り村長の家を目指した。

 有益な情報を得たのだが、大事な事を聞き忘れていた。村長の家が分からない。

 こんな時にアホをかましていても仕方ないだろうと自分を罵りつつ、村の人達に聞いてどうにか辿り着いた。


 ドアをノックして返事を待つ。


「どなたかな?」

「少し尋ねたい事がありますので、中に入れて貰えますか?」


 いきなりやって来て、家に入れてくれなんて失礼だったかもしれない。

 村長は俺たちに対して不信感を抱いていた。

 どうにかしてそれを払拭しない事には話にならない。


 とりあえず家の中には入れてもらえた。


「そこに腰掛けてくれ。お茶くらいしか出せないが構わないかな?」

「はい!お構いなく」


 この部屋に冒険者の姿は無かった。


 密かにミラには<魔力探知>で冒険者を探してもらった。

 その探知では強い魔力を有した者が3人家の中に存在している事が判明した。

 その魔力の大きさから、そこら辺の冒険者とは一味違う事が一目瞭然であった。

 確信した。間違いなくこの魔力の持ち主達が真祖の討伐を受けた冒険者パーティーだ。


 冒険者を発見出来たのは良いのだが、やはり村長は俺たちに不信感を抱いている。


 村長は疑う様な眼差しを向けたまま質問をした。


「それで何の用かな?こんな辺境の村に用があるとは思えないが」

「そうですね。この村に用はありません。私はこの家に居る冒険者達に用があります。」


 村長の不信感を更に煽ってしまったのか、顔を顰めた。

 そこまで慎重に振る舞う理由が分からないが、俺たちは冒険者の状態を確認出来ればそれで良いのだ。

 村長には何か慎重になる理由があるのだろうけど、その理由には余り興味が無い。

 そもそもこの村の人達は真祖の事は知っているのだろうか。恐らくは知らないのだろう。ルキウスさんは他言はしない様にと念を押していた事だし、それを知らされているのならこんな呑気に暮らしていない。

 真祖については隠して、俺たちの事情を説明しないといけないな。それで警戒が解ければ良いが。


「すいません。少し慌てすぎました。私たちは王都から来た冒険者です!とある冒険者の足取りを追っていてですね。村長の所で冒険者らしき人を匿っているという話を聞いたので来たのですが」


 村長はジロジロと俺を見た。

 その行動は俺を疑っている事の表れだろう。村長が言いたい事は判る。そう言うなら証拠を見せろという事だ。

 証拠、証拠か。そうだ王都から来た事を証明するなら国王から貰った銀プレートがある。

 ポーチから銀プレートを取り出して、村長に渡した。


 村長は驚きを隠せない様子だった。


「こ、これは国王陛下の側近に渡されるという王家の紋じゃないか!冒険者がこんな物を持っている訳がない。貴方らは何者なのだ?」


 そんなの知らないんだけど王家の紋なんて何処にあるんだ?

 あっ!これか。二体のドラゴンが描かれた紋章。これが王家の紋なのか


「たまたま国王陛下から頂いたんですよ。これで信用を得る事は出来ましたか?」


 証明は出来たと思うけど、他の方向で不信感を抱かれてしまったかもしれない。

 村長の言い方からして王家の紋とは、王族に所縁のある者に渡される貴重な品なのだろう。

 何の説明もなく貰ってしまったが、価値は相当な筈だ。大切に扱わないと。


「あ、あぁ。疑う余地も無い。だが、彼女らが許可したらで、構わないか?彼女らの心は、酷く傷ついているんだ」

「分かりました」


 村長は部屋を出て冒険者達の方へと向かった。


 ルキウスさんから冒険者の人数を聞かされてなかったが、冒険者パーティーという事で複数人いる事は確かだった。

 そしてミラの<魔力探知>によって3人の冒険者を確認した。

 更に村長の言葉から予測すると、ここに居る3人以外にも冒険者は居たが真祖によって殺されてしまったと予測できる。その為に冒険者達の心は傷付いているのだろう。


 村長が部屋に戻って来た。どうやら許可を得る事が出来たらしい。

 地下の部屋に案内された。

 中に入るとミラの<魔力探知>で確認した通り3人の冒険者が、俯いて座っていた。

 空気が淀んでいる。生きているのか判断が付かない程、3人は静かに息をして体を動かす事は無かった。


 マリアとアリスは上で待ってて貰うことにした。

 これから話す内容は、あの2人には辛い内容になるだろうから。


 話が出来るか判らないが声を掛ける。


「私は、ギルドマスターのルキウスさんからクエストを受けてきました。真祖の討伐を受けたのは貴女達で間違いないですよね?」


 体をガタガタと震わして、酷く怯えた。

 言葉にならない声をあげて、俺を睨んだ。


「そ・・・」

「そ?」

「その名前を出すな!!!!」


 いきなり両肩を掴んで覆いかぶさって来た。


「殺す!殺してやる!絶対に殺してやる!」


 判った。この人達が体を震わしたのは、怯えや恐怖からじゃないんだ。

 怒りと憎悪による体の震えだったのだ。


「落ち着くのじゃ。吾輩達は仲間じゃ、冷静になれ」


 掴まれた肩が熱かった。どれ程の怒りがあるのか想像出来る程に力がこもっていた。


「ごめんなさい。リク落ち着いて」


 美しい女性だ。目が充血していて、今にも崩れてしまいそうな雰囲気だが、それをどうにか堪えている。


「辛いかもしれませんが話を聞かせて下さい。何があったんですか?」


 俺の肩を掴んだリクという男性が壊れた様に笑った。


「ははははは!?!何があったかだって?簡単だよ!真祖にガレリアが殺されたんだあ!はははは・・・」


 パチンッと高い音が響いた。

 リクの頬をもう一人の黒髪の女性が勢いよくビンタしたのだ。

 涙目で、唇を噛みちぎりそうになるくらい噛み締めて。


「痛・・・いてえな」

「そんな言い方しないでよ!もしかしたら・・・ガレリアは」

「死んだ!死んだよ。俺には分かる。ガレリアとは一番長い付き合いだから俺が一番分かる。ガレリアは死んだ」

「くっ・・・。辞めて!辞めたよ!そんな事聞きたくない」


 そのガレリアという人がこのパーティーのリーダーだったのだろう。

 柱が抜かれた建物は崩壊する。それと同じ様にリーダーという柱を失ったこの人達は崩壊寸前だった。


 リクは必死に言葉を振り絞った。


「だが、分かるんだ!ガレリアはただじゃ死なない。必ず何かやった筈だ。真祖に何かをした筈なんだよ!」

「リク・・・?ガレリアは私達を生かしてくれたの。

 その気持ちを踏みにじる事は許されるのかしら?」

「許すも何も無いだろ!仇を討たなきゃ、俺達は死んだも同然だ!俺達は抜け殻なんだよ!ガレリアという存在が消えた今、俺達に生きる意味が無い。死体だ」

「私も・・・リクと考えは同じ。仇を討たなくちゃガレリアは報われないと思う」


 第三者の俺がどうこう言う内容では無いが、ガレリアはこの人達に生きろと言いたかったんじゃ無いか。

 俺がもし同じ状況に立たされたら、アリスもミラもマリアも全員纏めて死なせたくない。

 自分が犠牲となる事で他の三人が生き残れるのなら、俺はその選択を選ぶだろう。

 それに仇を討つという判断はして欲しくない。せっかく生きているのだから、死に急ぐ様な真似はして欲しくないからだ。ガレリアも多分同じ考えだろう。 しかし、それは犠牲になる立場の考えだ。

 その時アリス達はどう思うのだろうか。冒険者達と同じ様に仇を討ちたいと思うのだろうか。


 そんな事を考えているとリクが俺に声を掛けてきた。


「おい!アンタも真祖の討伐を受けたんだろ?それなら力を貸してくれ!絶対ガレリアは真祖を弱体化させた筈なんだ!今なら勝てる。勝てるんだよ!」


 そんな目でお願いしないでくれ。助けたくなってしまうだろ。

 俺が受けたのは冒険者達の安否確認だけだ。

 本来ならこれで俺の仕事は終わりなのだが、この様子を見たら帰れない。

 この事をマリアに言ったらお人好しだとか、馬鹿だとか怒られてしまうだろうな。


「なあ!黙ってないで答えてくれよ!戦ってくれるんだろ?」


 涙を溜めながら、縋ってきた。他の2人は何も言わずに俺を見つめている。


「ルキウスさんに頼まれたのは、貴女達の安否確認だけです・・・。だけど、力を貸してあげたい。私は貴女達の言うガレリアさんより遥かに弱いです。経験は浅いし、装備も能力も平凡です。あまり期待されても私に出来ることは大した事じゃないです。それでも良いなら力を貸します」


 3人の目に光が戻った。

 失った柱の代わりに脆くか細い柱が嵌ったからだ。

 頼りにするのは少し怖いが、何も無いよりはマシでグラグラ揺らぐ事なく辛うじて安定している柱。

 それが今の彼女らにとっての俺だ。


「ありがとう。貴女のお陰で私はまだ戦えそう。私はリクとニアを連れて逃げようと考えてた。だけど貴女のお陰で後悔しなくて済む。ここで逃げたら私は二度と立ち上がれなかった。私達に立ち上がる力を与えてくれてありがとう」


 美しい顔が涙でぐちゃぐちゃになっている。

 笑った顔はさぞ可愛くて美しいんだろうな。この戦いを無事終わらせる事が出来たら、その笑顔が見られるだろうか。

 そうだ。この人達を助けたいから戦うのではなく、笑顔を見たいから戦うという事にしよう。

 あくまで自分の為に戦う。それが俺の流儀だ。

 先刻、俺は国王にアリスの笑顔が欲しいと言った。それと同じ様に今回はこの冒険者達の笑顔が欲しい。

 立派な理由だと思わないか?

 まあマリアは怒るだろうけど、それは甘んじて受ける事にする。




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