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36.真祖

 ルキウスさんはパニックになっていた人達に心配は無いから落ち着けと一言告げる。すると、それだけで周囲は安心したかの様に静かになった。

 それだけこの人には人望があるのだ。

 暴れ出した男に怯えていた人達は、そんな事も忘れたかの様にルキウスさんの周りに群がった。


 ルキウスさんは困った顔をして「場所を移そうか」と言い、ギルドの三階にある部屋に俺達を案内した。


 部屋には会議用の大きなテーブルが、一つ置いてあって、六個の椅子が設けられている。

 ルキウスさんが奥の椅子に座るのと、俺達も席に着く様に言ったので、適当な椅子に座った。


 一呼吸置いてルキウスさんが話しだす。


「さて、何から話そうかな。そうだな。まずは何処の出身か聞こうか?」


 何故だか分からないけど、ルキウスさんは俺に興味津々だ。

 俺からもカリスマ的なオーラが漏れ出ているのだろうか?


「私はエリクの村出身です」

「ほーう、バルザード君の町か!あそこのギルドは良い冒険者が多くていつも助かってる。バルザード君も頭が硬いが良い人だろう?」


 バルザード伯爵とも面識があるのか。それも君付けで呼ぶという事は、地位もそれなりに高いのだろう。

 今更ながら緊張してきた。


「少し硬い所はありますが・・・少し所では無いですけど、良い人です!」

「そうだろう。俺も良く世話になった。まあそんな話しはどうでも良いか。俺はここまでの生涯で、色んな奴を見てきたが、お前の魔力だけは他に類を見た事が無い。どうなっているんだ?」


 ルキウスさんの質問の意図を汲み取らなかった。別に魔力で何かをしているつもりは無いし自分の魔力に異変がある自覚は無い。

 これが至って普通なのだ。それなのにルキウスさんは俺の魔力に違和感を抱いている。

 俺が疑問符を頭の中に浮かべている所にミラが追い討ちを掛けてきた。


「そうじゃな。ちょうど吾輩も気になってた所じゃ。エレンの魔力は、人の魔力にしては純度が高すぎるのじゃ。例えるなら、精霊の様な魔力と言った所かのう」


 魔法に精通したミラも、俺の魔力に対して違和感を抱いているのなら、それは確かなのだろう。

 しかし、俺自身は全然自分の魔力に違和感が無い。

 アリスとマリアも感じているのだろうか。聞いてみる。


「2人は私の魔力から何か感じる?」


 2人ともジーッと俺を見つめてから答える。


「ううん。何も感じないよ!」


 アリスが首を横に振って否定した。


「アリスちゃんの言う通り私にも分からないな」


 マリアも同じ様に答えた。


 それを眺めていたルキウスさんが、半笑いで説明する。


「そりゃそうだ!魔力を感じるだけなら誰にでも出来るが、魔力の性質を感じ取る事は並大抵の奴には出来ないさ!まあ、そこのお嬢ちゃんには、それが出来るらしいがな」


 ほうほう。魔力の性質まで感じ取れるミラは、やはり魔法に関して天才的なのか。

 俺がルキウスさんから感じたカリスマ的なオーラは、青くて研ぎ澄まされた矛の様な感じだった。

 それがルキウスさんの魔力の性質という事だろう。

 そこに座っているだけで、見惚れてしまいそうになる洗礼された魔力をルキウスさんは放っている。

 流石は全てのギルドの頂点と言った所か。


 そんなルキウスさんが、俺の魔力に興味を示しているという事は、本当に特殊な性質なのだろうな。


 凄い人にそう思われるのは嬉しいけど、何が何だか分からない気持ち悪さもある。


「話を戻すが、そこの嬢ちゃんが言った通りエレンの魔力は、人のそれに似ているが全く違う。まさに精霊だな。昔、炎の上位精霊イフリートと喧嘩をした事があるが、その時に感じた穏やかさの裏に鋭い刃を隠し持っている様な感覚に似ている。いやエレンの場合は裏ではなく奥深くと言った方が良いだろう。何処までも深く、底の見えない深淵の奥に何かが眠っている感じだな!」

「そうじゃな。吾輩の<魔力解析>を持ってしても、エレンの魔力の全容を解析する事は敵わない。まさに底なしじゃ」

「ははは。二人とも盛りすぎでしょ!私は普通に人間だよ!ほら、どっからどう見ても健気な少女だよ!」


 両手を広げて体に異常な部位がない事を見せつけた。

 俺が言った通り俺は、ただの人間の筈だ。

 断言出来る!と言う程、自分の体に自信がある訳では無いが、自分自身では普通の人間という認識で生きている。

 しかし、異常な点があるとしたら転生した体であるという点だろう。

 そこに於いては誰がどう見てもイレギュラー。その為、体や魔力がこの世界の人間と構造が違うと言われれば、否定出来ない。

 そもそも女神エイルに用意して貰った体なのだから、神聖な体と言っても過言ではないし、その時に授かった加護によって精霊に近い存在になったと、エイルに言われれば「そうだったのか」と頷ける。

 それでも、女神エイルにはそこの所の説明が一切なかったので、俺は何も知らないのだ。


 ルキウスさんが俺の体を見回す。

 なんかセクハラされてるみたいだ。ルキウスさんにその気は無いのだろうけど、側から見たらただのセクハラである。

 ジロジロ見られるのは少し恥ずかしい。


「確かに人間だな。まあ世界には色んな奴がいると言うからな。エレンの様に精霊に近い魔力を持っている人間が居ても可笑しくはないか!」


 考えが浅はかだ。それで納得して良いのだろうか。

 ルキウスさんは俺に興味があるというよりかは、珍しいから声を掛けてみたという感じだろう。


「適当ですね!」

「問題がある訳でも無いからな。エレン達はどのくらい王都に滞在するんだ?」

「明日には帰るつもりです。もっと観光するつもりでしたが、観光する場所が分からなくて」

「王都は華やか過ぎて俺たちの様な荒くれ者は、空気感に馴染めないだろ!ははは。これも何かの縁だ。明日、帰るなら俺からのクエストを受けてくれないか?」


 何故だか分からないけど、最近頼まれる事が多いな。そんなに俺は頼り甲斐があるか?

 健気で可愛い少女な俺を頼りにしてくれるのは嬉しいけど、頼られ過ぎるのは少し困るな。

 それでも頼まれたら断れないのが俺だ。今回も例外なく受けてしまうのだ。


「私に出来る事なら」


 ルキウスさんはカバンから地図を取り出して机の上に置いた。


「クエストの内容は調査だ。とあるクエストを受けた冒険者達の安否を確認してきてもらいたい!」

「安否の確認ですか?その冒険者達のクエスト内容は?」


 ルキウスさんは胸のポケットからタバコを一つ取り出して吸った。

 それから一息ついて答える。


「真祖の討伐だ!」


 真祖という言葉に思い当たる節がない。ルキウスさんは、その言葉を放っただけで誰もが理解出来るかの様にその言葉以外何も喋らなかった。

 俺の反応とは相反してその言葉を聞いたミラやマリアの表情が険しくなっていた。

 アリスはキョトンとしていて、今の俺の状態と同じ様な感じだ。

 無知だからこそ驚く事も怖がる事も出来ない。唯一周りの反応を見てどんな奴かを予想する事しか出来なかった。


 俺が口を開く前にミラが口を開いた。


「何故真祖の討伐なのじゃ?奴はとうの昔に封印された筈じゃろ!」

「俺もそう思っていた。しかし、俺たちは真祖を見くびっていたらしい。真祖が魔女から託された権能は5つ。サレントス遺跡を調査していた冒険者達が、創生の魔女が、書き記したとされる古い書を発見し持ち帰って来たのを解読していく内に、創世の魔女が真祖に授けた能力が次々に判明した。その中の一つに"死を予感した真祖は己を焼き尽くし、新たな肉体へと蘇る"と書かれていた部分があった。この一文は<転生>の能力を表している。」


 話を聞く限りただの魔物とかではないのだろう。それにピンチの時に<転生>する魔物なんて倒す術が無いんじゃないか?

 死ぬ寸前にその能力を発動すれば、また生き返るの無限ループだ。

 そしてこの件にもまた魔女の名前が出て来た。

 創生の魔女。確かミラの母親は、叡智の魔女だったか。

 魔女はこの世界に複数人存在するのか。まだまだ分からない事が多いな。


 さっきも言った通り無知故に何の恐怖も何の驚異も感じない。

 それは言わば舞台にすら立てていないという事だ。

 知識がないから対策が出来ずに、何も知らないまま終わりを迎える。

 戦う前から負けていると言っても過言じゃない。

 それだけは避けなければならない。その為にまずは知識を得ないと話にならない。

 もし真祖と戦う事になっても、みんなが逃げ切れるだけの時間を稼げる様に真祖について色々と教えてもらわないと。

 とりあえずは真祖についての話を聞こう。


「ちょっと待って、真祖ってそもそも何なの?」

「エレン知らないの?」

「全く分からない!」


 マリアが深く溜息を吐いた。


 知らないものは知らないのだからしょうがないだろ!


「みんなが知ってる事を知らな過ぎだよね」

「あはは・・・。ごめんなさい」

「真祖って言うのは魔女が作り出したヴァンパイアの事だよ」


 人工ヴァンパイアか。ヴァンパイアという良く知られる言葉ではなく、真祖という特定の言葉で世に知られているのは、ヴァンパイアを脅威として扱っているのではなく、真祖という一個体を脅威としているのだろう。

 つまり真祖という特定の一個体が過去に多くの人を苦しめた事が想像出来る。

 誰もが恐る一般常識として、定着するくらいなのだから、よっぽどの事をやったんだろう。


「魔女が作り出したヴァンパイア。それって本家のヴァンパイアより強いの?」


 単純な疑問だ。

 本物のヴァンパイアをモデルとして作った存在だと言うなら、モデルとなったヴァンパイアの方が強い気がする。

 しかし、さっきも言った通り世間が恐れているのは真祖であってヴァンパイアではない。


「本家という言い方は相応しくないだろう。さっき真祖は魔女が作り出したヴァンパイアと説明していたが、詳しくは魔女が作り出したヴァンパイアの様な何かだ。そもそもヴァンパイアは、理性のない怪物。ひたすらに人の血を求めて彷徨うだけの怪物だ。それに対して真祖は、目的を持たない理性ある怪物。ヴァンパイアの様に血を吸うが、それを目的としていないんだ。人の様に感情を持ち、人の様に欲望を持っている。人の様に考え、人の様に無為に虐殺をする。エレンの問いに答えるとしたら、明らかに真祖の方が強い。それは確かだ!」

「なんか人間みたいですね。」

「そりゃ人間が作った怪物だからな!人間地味てて当たり前だろうよ!」


 言われてみればそうだ。人間が作ったのだから人間の思惑やらが色濃く受け継がれていても可笑しくない。

 ルキウスさんは吸い終わったタバコを灰皿に捨てて、話を続けた。


「真祖について理解した上でどうだ?受けてくれるか?勿論報酬は弾むし、真祖の討伐を依頼している訳ではない。あくまで冒険者の安否確認をして来て欲しいんだ!まあ危険なのは確かだが、お前を一目見た時にコイツは他の奴とは一味違うと感じた。この勘は間違いじゃ無い。お前なら何かをやってくれそうな気がするんだ!」


 話を理解した上で考えてみた。

 真祖の討伐を頼まれたのなら間違いなく断っていただろうが、ルキウスさんは「あくまで安否の確認だけ」だと言っていた。

 それなら危険もあまり多くはなさそうだし、それで報酬も弾んで貰えるなら良い仕事だと思う。

 と、言うのが俺の意見だが俺一人で決める訳にも行かないのだ。

 ミラとアリス、マリアの意見を聞いて許可が降りたら受ける事にしよう。


「みんなはどうしたい?」


 まず最初に答えたのはミラだった。


「我輩は受けても良いと思うのじゃ。創生の魔女が作り出した怪物。吾輩は興味があるのじゃ!」


 ミラの魔法に対する好奇心の異常さは知っていたが、恐れられているらしい真祖に対しても、変わらずその好奇心を抱ける図太さには感心した。


 次にアリスが答えた。


「エレンお姉ちゃんが行くなら行くよ!」


 そもそもアリスは俺と同じ様に真祖の事を全く知らなかったのだ。

 その為断る理由も、受ける理由も無い。それなら俺に合わせて置けば良いだろうと言う考えからの答えだ。

 マリアからの返事が来なかった。その訳を何となく察していた。

 俺たちは平然とクエストに行く事を受け入れていたが、常人からしたら真祖とは恐るべき怪物であって、討伐ではないと言えど、鉢合わせになる確率がある以上避けて通るべき道なのだ。


 マリアは反対したかった。行くべきではない事は明らかなのだから。

 マリアは固唾を飲んで答えた。


「正直に言って私は行かない方が良いと思う。私たちの目的は果たしたんだから、これ以上危険を冒す必要は無いと思わない?」


 目的とはミラの救出の事だ。マリアの言う通り危険を冒してまで、このクエストを受ける必要は無い。

 別にお金に困っている訳でもなければ、危険を冒す事が楽しいという特殊な感性の持ち主でも無いのだ。

 しかし、真祖の討伐を受けた冒険者が戻って来ていないなんて聞いたら話は別だ。

 見知らぬ誰かではあるが、助けを求めているとしたら助けたい。

 それにルキウスさんは安否を確認したら返って来ていいと言っている。


「マリアの言う通りだと思うけど、ミラは行く気まんまんだし、討伐に向かった冒険者の事も気になるし。

 行きたくないなら王都で待っていてくれても良いよ!とりあえず私達は行くつもりだ!」

「エレンは真祖の恐ろしさを知らないからそう言えるんだよ!真祖には関わらない方が良い!確かに冒険者の事は気になるけど、私は見知らぬ誰かの心配をするより先に自分達の心配をした方が良いと思う。ミラも知ってるでしょ?真祖の恐ろしさを!好奇心で関わって良い存在じゃないって事を!」


 必死に訴えて来た。それだけ真祖の事を嫌悪しているのだ。

 そんなマリアの思いも知らずに俺は行く事を決意していた。

 冒険者の事が気になるのは当然だが、俺にも好奇心があった。こんなに恐れられている真祖とはどんな奴なのかと。

 この感情は転生して冒険者になってから芽生えたものなのだ。

 色々と経験した事によって、もっと色々なものを知りたいという好奇心と探究心が俺を動かそうとしている。

 この感情が悪なのかどうかは分からないけど、抑えられなかった。




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