35.王都のギルド
今回の一連の件はこれにて終結した。
罰は誰も受ける事は無く、真相も全て暴かれた。
全てが腑に落ちる結果となったがヴァイセ王女はまだ疑問があるらしく俺たちを部屋に呼びつけた。
「エレン!お前は知ってたのか?」
「知ってましたよ!」
「何故言わなかったんだ?」
「いや、色々と面倒な事になると思ったんで」
「バカ!物凄く驚いたんだぞ!」
ヴァイセ王女はチラチラとミラに目線を向けてソワソワしながら俺を叱った。
それを察して俺は話を切り替えてあげる。別に叱られるのが嫌だった訳じゃないから!
「私を叱るより先にミラと話したいんじゃないですか?」
「なっ!?いやまあそうでもあるがそうでもないぞ、、。」
腹違いとは言え姉妹なのだ。気になる気持ちも頷ける。
そう言えばミラとヴァイセ王女はどっちが姉になるんだろうか。
年齢的にはヴァイセ王女の方が上だが、生まれたのはミラの方が先だ。
ややこしいな。
「母は違う様だが主が吾輩の妹じゃな!名前は何て言うのじゃ?」
ヴァイセ王女は妹になるのか。まあそれが妥当か。
ヴァイセ王女の顔はキパーッと晴れて、嬉しそうに笑った。
「姉上、私はヴァイセ。まさか私に姉が居るとは思わなかった。」
「良い名前じゃな!吾輩はミラじゃ。」
「姉上!他の妹たちと会ってくれないですか?2人とも可愛いんですよ!」
俺の中のヴァイセ王女のイメージが変わった。
見た目からして荒い性格で戦いが好きそうなイメージだったが、実際は妹好きで姉には甘えたい可愛い少女みたいだ。
微笑ましいな。
「そうじゃな。会いたいが会わない方がいいじゃろ。吾輩はこれから国を出るからのう。それに今更吾輩が姉だ!何て言っても混乱させてしまうだけじゃろ。吾輩の事はヴァイセが知ってくれているだけいいのじゃ。」
「しかし・・・いいやそうですね!姉上がそう言うのならそれがいいんでしょう。・・・。・・・一つだけお願いしても良いですか?」
顔を赤らめてヴァイセ王女は上目遣い気味でミラに尋ねた。
「なんじゃ?」
「あ、頭を撫でて貰えないですか?」
かわいいかよ!思わず漏れそうになる声を抑えて、心の中で叫んだ。
ヴァイセ王女のイメージが一気に崩れた落ちた。ただの可愛い子だ。
ミラは微笑み「しょうがない妹じゃな。ほれこっちに来い」と言ってヴァイセ王女に膝枕をした。
髪を梳く様に優しく丁寧にじっくりとミラが頭を撫でると、満足気にヴァイセ王女は目を瞑る。
本当に微笑ましくてこっちまでニヤけてしまう。
「エレンお姉ちゃん」
アリスが腕を引っ張って何かを求めてきた。
恐らくは自分も撫でて欲しいって事だろう。しょうがないな。
アリスの頭を優しく撫でた。
これだとマリアが仲間はずれな感じがして、可愛そうだから、一応マリアの頭にも手を伸ばした。
「私はいいよ!恥ずかしいから」
とは言ったものの嬉しそうにしてるじゃないか。
その光景を側から見たら異様なのだろうけど、本人たちにとっては癒しの時間なのだ。
一通り撫で終わった所で、これからどうしたものか。
このまま王宮に居座るのも良いがエドワード王子の行動が心配だ。
あの王子は何をしでかすか分からない怖さがあるからこれ以上の滞在は避けたい。
それでも王都にはまだ滞在するつもりだ。せっかく王都に来たのだから、色々と見て回りたい。
とりあえずは王宮を出る事にして、それからの事は後で考えれば良いか。
「エレン達はこの後どうするんだ?」
「私たちはこの後直ぐに王宮を出る予定です」
「もう少しゆっくりしていっても良いんじゃないか?」
「そうしたいですけどこれ以上の滞在は危険だと思うんです」
「あぁ兄上か。あの調子だと憂さ晴らしに手を出してくるかもしれないからな。確かに早く出た方が良いか」
「はい。また近いうちに会いに来ますよ!」
「あぁ元気でな。姉上もお元気で」
「うむ」
ヴァイセ王女の部屋を出て国王の部屋に向かった。
国王に王宮を出る事を告げると銀プレートを手渡された。
話によると国王の領地ならこれを見せるだけで通行税を払わなくて済んだり、色々な店で割引やサービスを受けられるらしい。
商人なら喉から手が出る程欲しい代物だ。
何もいらないと断ったのだが、国王からの細やかなお礼だ。貰っておこう。
俺たちは足早に王宮を出た。
ヴォルカニア団長とエン副団長には、お世話になったから挨拶をしたかったのだが、二人は休暇で王宮にはいないらしい。まあまたいつか会えるだろう。
さて、まずは何処に行こうか。今まで切羽詰まる状況だったので王都の観光スポットなんて調べている暇は無かった。
詳しそうなマリアの案内に任せてみるのも良いな。一応王都に住んでいたらしいしな。
「王都のお勧めの場所とかある?」
「うーん・・・」
マリアの反応があまり良くなかった。
学生だったのだから王都の流行りとか人気スポットとかを知っていると思ったのだがそうでもないのか。
「私さ。勉強とミラに会いに行く以外何もしてなかったから、王都の事は何も知らないんだ!」
クラスに一人はいるガリ勉ちゃんって事ね!
そうなると困ったな。誰も王都を知らないじゃないか!
一応ミラにも聞いてみる。
「ミラは何処か行きたい所ある?」
「外の空気がこんなに美味いなんて知らなかったのじゃ!」
ミラは空気を一気に吸い込んで、久しぶりの味を楽しんだ。
「吾輩はギルドに行きたいのじゃ!」
確か王都のギルドはこの国の全てのギルドを統括しているんだったか。
その為に難易度の高いクエストが集まりそれを求めて、各地の猛者が集まるって前に受付嬢さんに聞いた事がある。
それに建物自体が観光スポットとしても有名で、ギルド内にはレストランや歴史博物館の様なものまであるらしい。
確かに何処に行くかも決まっていない俺たちには打って付けの場所だ。
「じゃあギルドに行くか!」
俺たちはギルドを目指して歩いた。
ギルドまでの道はミラが把握しているらしく、先頭に立って堂々と俺たちを導いてくれた。
ミラは大図書館にある本は全て網羅したと歩きながら淡々と語っていた。
あの途方もない数の本を全て読んだ事が凄いが、それ以上に10年であの数を読むというのが凄い事だと思った。
読むペースが尋常じゃなく早い。しかもその知識はしっかりと蓄えられている。
流石は叡智の魔女の娘だ。その知識に対する貪欲さは母親譲りなのだろう。
王都の雰囲気はいつでも活気があって清潔感を常に保っている感じだ。
もっと貧富の差が激しいものだと想像していたが、目に入ってくる人達全てが、裕福そうな装いをしていた。
恐らくは王都の中心部に住めるのはある程度裕福で、貴族と何らかの繋がりを持っている人達なのだろう。
貧富の差が無いのではなく、国自体が貧しい者を入れていないだけなのだ。
表向きは綺麗でも、中身は真っ黒じゃないか。
真っ黒とは言ったが王族にはその自覚は無いのだろう。
裕福である事が当然で、貧民など眼中にない。
視野に入れているのは王族にとって有益な存在だけ。
だからこそ王都は常に平和なのだ。それを悪い風習だと叱責する権利は俺には無い。
もっと外にも目をやって欲しいのだが、それを俺が言った所で意味もない。
この世界の原則は弱肉強食。裕福な暮らしがしたいのなら努力して成り上がるしか無いのだ。
そんな事を考えている間にギルドが見えてきた。
エリクのギルドより遥かに大きくて、冒険者や観光客がわんさか集まっていた。
有名な観光スポットだけあって大盛況だ。
ミラは目を輝かして早く行こうと急かしてくるので到着後、直ぐに中に入った。
まずミラが向かったのは歴史博物館だった。
王都の成り立ちや歴代の国王一覧など、王都の歴史にまつわる代物が多くあり、ミラは興奮気味にあちこち見て回っていた。
その中でも特に興味を持ったのが古代魔術に関する歴史書だった。
俺もざっと読んでみたが、何を伝えたいのかが全く分からなかった。
ミラはその歴史書を熱心に読んで頭を縦に振っていたが、何を理解したのか理解出来ない。俺とは違って、膨大な知識量を誇るミラには分かるのだろう。
一通り歴史博物館を見た後はレストランに向かった。
エリクのギルドにもレストラン?というか食堂があるが、それとは天と地の差があると言ってもいいだろう。
王都のレストランは高級レストランって感じで冒険者には肩身がせまい雰囲気がある。
後ずさりしたがせっかく来たのだから雰囲気に負けずに席に着いた。
シャングリラまである豪華なレストランに居ると、ここがギルドである事を忘れてしまいそうになる。
メニューを見てみる。
うん何も分からない!メニューを見ただけで、その料理を想像出来ない。
そもそも自分の食べる物にあまりこだわりの無い俺が、レストランに足を運ぶ事なんて人生で一度あるかどうかだ。
前世でも親が作る手料理とコンビニ弁当で体を形成していたくらいだぞ。
そんな俺が異世界の料理を熟知している筈も無く、メニューがもはや暗号にすら見える。ゲシュタルト崩壊が起きるのも時間の問題だろう。
俺と同じ様に高級なレストランに縁の無かった他3人も、頭の上にハテナを浮かべていた。
「どうしようか。どれも美味しそうだよね。」
何も知らないけど。
「う、うん。そうだね!」
マリアが乗っかったが勿論ピンと来ていない。
「私これにする!」
アリスがよく分からない名前の料理を指差して言った。
「吾輩もそれで良いのじゃ」
ミラが賛成した所で、俺とマリアも同じ物を頼む事にした。
ファミレスを彷彿とさせる様なチャイム型の魔道具を押して店員を呼んだ。
店員は白い長袖のシャツの上に黒いベストを着た清潔感溢れる雰囲気で、対応も丁寧で気持ちが良い。
軽く会釈をして注文を尋ねてきた。
「これを四人分下さい!」
「かしこまりました。」
対応が丁寧だと返って緊張するな。
注文から軽い談笑をしている内に料理が運ばれて来た。
適当に頼んだのだが運ばれてきた料理は美味そうだ。
アリスがこの料理を知っていて頼んだのかは定かじゃないが適当だとしても良いセンスをしている。
ミラとマリアも同じ事を思ったのか料理に見惚れている。
アリスにまずは感謝をした所で、料理を召し上がるとしよう。
やっぱり美味しい!食レポは出来ない俺だが今なら出来そうな気がするくらい美味しい!まあ出来ないけど・・・。
俺たちが料理を堪能していると、店の雰囲気に似つかわしくない汚い声の男が店員さんにイチャモンを付けて絡んでいた。
「オイオイ!何だこの料理はよぉ!生じゃねえか!テメエは客に生の肉を食わせる気なのか?ああ!?」
「お客様失礼ですがそういう料理なのです。」
店員が丁寧に返事をしたにもかかわらず、男はヒートアップして、背中に携えた斧を手に取った。
店の中は騒然としてパニックに陥る。
店員は余りの恐怖に腰を抜かして転がった。
「口答えしたお前が悪いんだ!殺してやる!」
ニヤリと笑って、斧を振りかぶる。
咄嗟に突っ込んだが、俺よりも先に斧男に突っ込んだ人が居た。
その人は店員の前に立ち男の斧を拳で砕いた後に顔面に蹴りを入れた。
斧男は気を失ってその場に倒れ込む。
斧男が倒れたのを確認してから、斧男を倒した男は店員に優しく声を掛けた。
「大丈夫かな?」
「は、はいい!」
腰が抜けているだけで、他に怪我は無いみたいだ。
それにしてもこの人は何者だろうか。オーラだけで只者じゃないって事が分かる。
銀髪の毛を短く切り揃えて、緑色の瞳からは謎の威圧感を覚える。
白い長袖の服の上に薄いアーマーを身に付けた身軽な格好。
まず冒険者であるのは間違いないだろう。
「お前も良く突っ込んだな!冒険者か?」
「はい!エレンって言います。」
「ほーう。初めて聞く名前だ。覚えておくよ!俺はルキウスだ。一応ここのマスターをしている!」
「マスター・・・マスター!?」
その言葉で納得した。
この国の全てのギルドを統括している王都エルドラルドのギルドマスターが只者である訳が無いのだ。
そう言われてみれば風格がある様な気がしなくもない。




