34.全ての真相
ここはどこだ?
一人用の白いベッドに薬品などが並べられた棚が何個か置いてある。
大図書館ではないのは間違いない。それなら王宮内の医療室だろうか。
そうだとしても誰がここまで運んだのか分からない。
グリンを倒してミラの鎖を切った所までは覚えているが、それ以降の記憶が無い。
そこで力尽きて気絶してしまったからだろう。
頭が痛い。ガンガンと響く様な痛みのせいで思考が纏まらない。
"コンコン"
ドアが二回ノックされた。
「はーい」
返事をするとドアを開けて入ってきた。
申し訳なさそうな顔をして入室したのはヴァイセ王女だ。
ヴァイセ王女はベッドの横に置いてある木製の椅子に腰掛けて、単刀直入に頭を下げた。
「すまない。私のせいでお前達に迷惑を掛けた・・・。」
ヴァイセ王女が謝ってるのはミラの件だ。
そう言えば言ってなかったな。俺たちの元々の目的はミラの救出だった事を。
そもそもヴァイセ王女が気負う事は何もないのだ。
頼まれなくても決行する予定だったのだから。
さらに言えばヴァイセ王女に促されなかったらミラを助けられずに全て終わっていたかも知れなかったのだ。
「王女様が謝る必要は無いですよ!私達は元々そのつもりで王都まで足を運んだのですから」
「何を言ってるんだ?」と聞かれたので、ここまでの経緯を全て話した。
マリアに頼まれてミラを誘拐する為に王都に来た事。
それからヴァイセ王女のユニークスキルによってミラを間一髪の所で助けられた事を。
ヴァイセ王女は多少困惑した様子だったが、直ぐに笑った。
「そうだったのか。うーんまあお互い様だったって事か。
私が頼んだ事によって危機は回避出来たが、エレンその所為で怪我をし、連れの二人と図書館の少女は拘束された。」
え?今何て言った?
連れの二人と図書館の少女は拘束されたと聞こえたんだけど?
考えればすぐに分かった筈である。
俺たちが喧嘩を売ったのは国王の息子。一国の王子に剣を向けたのだ。国に仇なす者として拘束されるのは当然の事。
救い出すとか言って、結局全員囚われの身になるなんて本末転倒も甚だしい。
不幸中の幸い。俺は拘束されていない為、三人を救い出すという手を考えた。しかし魔力が空っきしで何も出来ない。
頭痛もそれから来ているのだろう。
何が不幸中の幸いだ!不幸中の不幸だ。
そんな事を言っていても何も始まらない。いや全てが既に終わっている。ゲームオーバーだ・・・。
諦めた俺にヴァイセ王女は自信たっぷりに言った。
「後の事は私に任せておけばいい!今回の件は全て私が企てた事にし、エレン達の処分は全て私が引き受ける」
何て逞しい人なんだ。お言葉に甘えたい所だけど、俺の分はしっかり俺が受ける。
全ての責任をヴァイセ王女になすりつけるなんて無責任で卑怯な事はしたくない。
「そう言ってもらえるとありがたいんですが、全部私の責任なので私が罰を受けます」
ヴァイセ王女は溜息を吐いて、優しい微笑みをした。
「じゃあ二人で受けよう」
良い人過ぎて感動してきた。この人が味方に居てくれて本当に良かった。
「この後、父上の部屋で裁判が開かれる。エレンは大図書館での出来事を聞かれるだろうから、しっかり答えられる様にしとけよ!その話によって全部の処罰が決まるからな!」
勿論、嘘偽りなしで全てを話すつもりだ。
それで処罰が下るのならしょうがない。確かにミラを助けたい気持ちが強い余りグリンを瀕死にさせ、エドワード王子を手にかけようとした。
やり過ぎたと自分でも思う。それでも俺に出来る最善があれだったのだ。後悔は微塵もない。
時間が経って裁判の時間がやって来た。
ジョセフさんの案内に従ってフラフラな足を無理矢理動かして、国王の部屋までやっと辿り着いた。
中には国王、アリス、マリア、ミラ、エドワード王子、グリンに気絶していた騎士。それにヴァイセ王女に知らないおっさんが居た。
裁判と言うには人が少な過ぎるが、それは恐らくミラの事を未だ隠そうとしているからだろう。
「エレンお姉ちゃん!」
「大丈夫なのエレン?」
手に枷を付けられて不安そうな顔をしている2人に心配された。
「大丈夫だよ!安心して直ぐにその枷を外せる様にするから」
俺が証言台に着いた所で、知らない顔のおっさんが話し出した。
「これより裁判を行う。ワシはこの裁判を取り締まる賢者ミルゲイル・アルフォンスじゃ。ワシの前では一片の嘘も通用しないからのう。発言には注意する様に!」
この白髭のジジイが、ミラに鎖を掛けた張本人か。ミラはこの国には既に居ないと話していたが、このジジイは自分の魔力の性質を変えているのだ。鎖から自分の魔力が特定されない様にそういう小細工をしたのだろう。
見た目は賢者感満載でまさに賢者って感じだ。
ミラにあんな仕打ちをしたこの男にムカついていないと言えば嘘になるが、この男も国王の命令で行なったのだろうから別に責めるつもりはない。
俺が責めるべきは国王だ。国王の真意を聞くまでは何も言えない。
「まずはエドワード王子の証言から聞かせてもらおうかのう。」
何故そっちから聞くんだ!俺から聞くべきだろう。
この男もエドワード王子の味方かも知れない。口裏合わせて俺を陥れようとしているんじゃないだろうか。
エドワード王子が冷静に話を始めた。昨日の荒ぶっていた男と同一人物とは到底思えない。
「昨晩、私は護衛の騎士達を連れて大図書館に見回りに行きました。
わざわざ私が見回りをしていた理由ですが、とある噂の真相を暴こうと見回りをしていたのです。
その最中に突如として背後に現れたあの女達に私と私の騎士は襲われたのです。
抵抗をしましたが、その女が繰り出す妙な技には歯が立たず惜しくも負けてしまいました。
一人の騎士は瀕死状態にまで陥り生死を彷徨う程まで追い詰められたのです。どうかあの者に罰をお与えください!」
あたかも俺たちが悪者みたいにエドワード王子は語ったが、その話は強ち間違いではないのだ。
大袈裟に俺たちが悪い様なニュアンスで語っているが、解釈によってはそういう見方も出来る。
しかし、細かい所を暴いていけば悪者は明らかにエドワード王子だ。
そもそも隠れていた俺たちが飛び出したのはエドワード王子の騎士を守る為だ。
そこを敢えて避けて語ったエドワード王子は、確実に俺たちを陥れようとしている。
「ほほう。嘘は語ってない様だな。エドワード王子と共に居たお主も、相違はないのじゃな?」
俺が助けた騎士に賢者ミルゲイルは尋ねた。
しかし、その騎士はエドワード王子に酷く怯えている為、口裏を合わせる筈だ。それにあの騎士は気絶していてその後の展開を把握していない。
もしかしたら俺が助けた事にすら気がついていないかもしれない。
「は、はい・・・、。全てエドワード王子の言った通りです。」
賢者ミルゲイルは頷いてから言った。
「ふむふむ。少々嘘を吐いてる様だがまあ良い。
次は冒険者エレンの話しを聞こうか。」
嘘を吐いてるのが分かったらそれを問い正すべきだろ!
分かった。この男はエドワード王子を贔屓にしている。
俺が何を言おうと関係なく俺に罰を下すだろう。
それなら場を荒らすだけ荒らしてやろうじゃないか。
「まず国王陛下と賢者ミルゲイル殿に確認したい事があるのですがよろしいでしょうか?」
「我は構わぬ。」
「陛下が良いのであればワシも構わないのう。」
俺の確認したい事とはミラが国王の娘であるという事実の確認だ。
それを知っている俺たちからすると今更な話しだが、エドワード王子やヴァイセ王女は初耳の話だ。
衝撃が走るのは間違いない。
それに国王と賢者ミルゲイルもその事実が知れている事など、想像もしていない筈だ。
国王達の面喰らった顔を想像するだけで気が晴れる。
「今そこに立ってるミラという少女の事を国王陛下はご存知ですか?」
国王は平然としている。これくらいじゃ動じないか。
「知らぬな。」
よくもまあ白々しく言えたな。
「知らない筈無いですよね?何せミラは国王陛下の実の娘なのですから。」
国王陛下より先にエドワード王子が声を上げた。
「はははははは!何を言ってるんだ貴様!遂に頭がおかしくなったのか!
そんなくだらない嘘をついて何になると言うんだ?」
黙れ小僧!と聞き覚えのあるセリフが脳裏をよぎる。何も知らないお前は黙っていればいい。
それより賢者ミルゲイルは困惑して唖然としているが、国王は顔色を変えずに沈黙を続けた。
「賢者ミルゲイル殿の魔法によってミラを大図書館に縛っていた事も分かっています。
国王陛下の意図をお教えくださいませんか?」
国王は間違いなくミラを大事にしていた。その証拠にミラは衣食に困っていない。
それに大図書館に閉じ込めたのも、国王のせめてもの情けだと俺は考えている。
愛情を与えられない代わりに知恵を得る手段を与えてやろうという国王の慈悲だ。
それでもあんな閉ざされた空間に人との接触を絶って、孤独にさせた事は許されるべき行為じゃない。
「冒険者エレンの言う通りミラは我が娘だ。だがエドワードやヴァイセ。他の子供達とは母親が違うが。」
国王は呆気なく事実を認めた。
国王の発言を聞いたエドワードとヴァイセは何も言えない程に驚いていた。
「何故ミラを閉じ込めたのですか?」
ここからが一番大事だ。ミラに対して抱いている真意をこの場で偽りなく語ってくれるといいのだが、国王という立場である以上それも難しい筈だ。
「我が犯した過ち故にミラを隠すしかなかったのだ。我が犯した過ちは魔女を愛してしまった事。
叡智の魔女キルケーを我は愛してしまったのだ。」
叡智の魔女キルケー、聞いたことも無い名前だ。
魔女と言うからには魔法に関して相当な見識があるのだろう。
「陛下!それ以上はおやめください!」
賢者ミルゲイルの慌て様からして、魔女を愛するという事は問題なのだろう。
「ミルゲイルよ。我は全てを語る事を決めたのだ。
その為にエドワードとヴァイセをこの場に呼んだのだ。この場は最早裁判などでは無い。故にその者達の枷を外してやってくれ。」
国王の言葉によって3人の手に掛けられた枷は外された。
それから国王は自分の過ちについて大まかに語った。
まず今の妻と出会う前に叡智の魔女と呼ばれる少女と出会ったらしく、その間に生まれた子供がミラだと言う事を語った。
しかし、幸せを誓ったお互いの気持ちとは裏腹に国王になるべくして生まれたアルブレヒトの家は時期国王が魔女などと結ばれる事などあってはならないとして旧国王はキルケーに娘の命が惜しければ国を出る様にと脅したらしい。
その事をアルブレヒトはキルケーが失踪した後に知ることとなったそうだ。
アルブレヒトが国王の座に就いたのが20年前。
アルブレヒトが国王の座についてから直ぐの事だった。旧国王は魔女との子供を忌み嫌い。
キルケーとの約束を破りその手にかけようとした。その事に勘付いたミルゲイルは旧国王を取り押さえ、また同じ事が起きない様にと大図書館に長い間閉じ込める事にしたらしい。
「我が語るべき事はこのくらいでろう。」
話を聞いて思ったが、悪いのは全て旧国王じゃないか。国王と叡智の魔女キルケーはお互い愛し合って、その間に生まれたミラも十分に愛されていた。
それなのに旧国王のプライドの高さ故に全ては崩れ落ちて、今に至るわけだ。ミルゲイル自身も何も悪く無いのだ。
それは国王アルブレヒトの過ちなんかじゃない。
「陛下が語ったのならワシも少し語らせてもらうぞ。
ワシは陛下の命令により23枚もの術式を組み合わせた複数術式魔法を使用したのだが、その全てに陛下の愛情が詰まっているのじゃ。
術式の1枚に鎖で繋がれている間は、時間の進みを遅くするというものがある。
それはいつか自由になった時、歳を取ってしまっていたら自由な時間が減ってしまうだろうという陛下の考えだ。
陛下は最小限で最大限の愛を注いでいたのじゃ。
その事を分かって欲しい。」
と言うことはミラはマリアと同い年だが実際はそれ以上の年齢って事なのか。
俺たちが普通に生きた10年間は、ミラにとっては5年くらいで、それは国王のせめてもの愛情だったのだ。
そんな話を聞いてしまったら国王を責められない。国王が一番の被害者に思える位だ。
愛した人を奪われ、愛した娘を愛でる事が出来ず。手に入れる事が出来たのは地位だけ。何て悲しいんだ。
国王は威勢良く立ち上がって言った。
「勘違いするでないぞ!我は魔女キルケーを愛したが、それは既に過去の話だ。今は妻を愛しているし、妻との子供達の事も愛している。」
いや手に入れたものは他にもあったらしい。
「そうですか。国王陛下ミラは私に任せて下さい。ミラの自由は私が守ります。」
「・・・よろしく頼む。」
国王は一度ミラを見つめてから、堂々とそう告げた。
「今回の件はこれにて決着という事でよろしいかのう?」
賢者ミルゲイルの言葉に異論を唱える者はいなかった。
結局裁判ではない形になってしまったが、最高の結果だと思う。
エドワード王子はしかめっ面のまま部屋を出て行ってしまった。何かいちゃもんを付けてくるかと思ってたけど、そんな事も無く静かに部屋を出て行ったのだ。
ミラが国王に向かって言った。
「吾輩がこんな事を言うのも変な話じゃが、ありがとう。
吾輩はお父様の事を悪く思った事は一度もないのじゃ。」
国王の瞳から何かが流れ落ちた気がしたが見間違いだろう。
一国を担う王が涙を流す訳がないのだ。




