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28.王都エルドラルド

王都に辿り着きました!

 オークの群れとの戦闘以外に戦闘という戦闘は無かった。

 魔物との遭遇はあったもののこの騎士団にとっては、その魔物達は相手では無かった。

 統率の取れた動きによって魔物を薙ぎ倒す。それは冒険者には出来ない芸当で、流石は王の騎士だと常々思わされた。


 そして出発から約6日が経った。


 ヴォルカニア団長の力強い声で目が覚めた。


 また魔物が現れたのだろうかと辺りを見渡すと、正面に真っ白で大きな壁が見えた。

 エリクの壁より一層大きくて白い。神聖さまで感じる無垢な壁である。


 俺が起きている事に気がついたエンさんが声を掛けてきた。


「エレン起きたか。見えるだろ!あれが王都エルドラルドだ!」


 話に聞いていた通り真っ白で、少しの汚れも受け付けないという意思を感じる。

 どうやらあの壁は結界の役割も担っているらしく、<神眼>により<魔法結界>、<物理結界>、<魔族感知結界>が見て取れた。

 流石王都だ。そこら辺の町とは比べ物にならないくらい厳重に守られている。


 門の前まで行くと10人程度の門番が近寄って来て、持ち物のチェックと身分の確認を要求して来た。

 例え王都の騎士団であっても身分確認はしっかりと行うみたいである。


 まだ寝ているアリスとマリアを軽く揺すって起こす。


「起きて。もう王都に着いたよ」

「う、うう。王都?」

「もう王都なの?」

「そうだよ!身分確認とか必要らしいから準備して」

「うん」


 マリアは伸びをしてから荷物を漁って身分証明書を取り出す。アリスはまだ眠気が取れないらしくボーッとしていた。


「身分の確認が出来る物はありますか?」

「冒険者証で良いですよね。」

「はい。」


 門番はカードを受け取って内容を確認する。


「はい。大丈夫です。」

「ありがとうございます。」


 アリスとマリアも問題はなかった。


 門番が門の前に立ち詠唱を始めた。どうやら魔法でしか開けられない仕組みになっているらしい。


 門が開いて一直線に長い橋がかかっている。横には水路がある。そして奥にまた門がある。

 厳重に厳重を重ねた作りは、王都の重要さと表している。


「そこの門は魔族か人間かを判別する審判の門だ」


 エンさんは最初の門をくぐった先にある一回り小さな門を指差して言った。


「へえ。でも身分確認の時点で分かるんじゃない?人間がそうじゃないかってのは。」

「いや。魔族は狡猾なんだ。何年か前に魔人が人間に化けて侵入し、王族を殺したという事件が起こってな。その事件のお陰で魔族がいかに狡猾で残虐な存在なのか痛い程理解した。それから国王陛下は直ぐにあの門を作ったんだ」

「そんな事があったのか」

 

 人は過去の過ちや事件を基に教訓を得る事で、次に備える事が出来る生き物だ。だが、その言葉の裏返しには過ちや事件が起こらなければ、過失に気づく事は無いという言葉が隠れている。

 過去に例が無い事柄にはどうしても備える事が出来ない。それが人間なのである。その為に人間は二の舞を演じない様に必死に対処する。

 この審判の門もそうだ。魔族を絶対的に阻害する意思と自分達の甘さを断じるための門なのだ。


 審判の門も問題なく通過して、王都の中心部にある王宮へと向かう。


 街中は賑わっていて、騎士団に手を振る者も多くいた。家は純白、歩く人々の服でさえ白一色だった。唯一騎士団と俺たちだけが、白以外の色を身に付けていた。

 ここまで白いと黒く汚したくなるものだが堪えよう。こんな初っ端から問題を起こしても仕方がない。


 パレードの様に賑わう道を真っ直ぐに抜けて、王宮まで辿り着いた。

 王宮を一言で表すなら神聖で神々しいだろう。大きく華やかで、周りの白より更に白い。その外観からは無を感じた。


 今から足を踏み入れるのかと思うと緊張して来た。


「久しぶりに来たけど、やっぱり落ち着かないな」


 マリアが苦笑いで言った。


「貴族でも無い私達が入るのは身の程知らずって感じだ」

「私も最初思ったよ!平民の私がこんな大層な所に入ったら天罰が下るんじゃないかって!」


 流石に天罰は下らないだろうけど、場違いであるのは確かだ。


 馬は全て王宮に使える使用人に預けて、騎士団と俺たちは王宮内へと足を進めた。


 王宮内の天井には大きなドラゴンが描かれている。英雄の像や女神や神の像がいくつも置かれている廊下を団長の案内もと突き進む。


 想像していた通り豪華過ぎる。やっぱり場違いだろ。俺みたいな一般人が入って良い場所じゃない。


 マリアが俺の耳の近くに顔を寄せてコソコソと言った。


「そこを曲がると大図書館がある。」

「後で行ってみよう」


 マリアは頷いてから一歩下がった。


 落ち着かないので早く帰りたい気持ちで一杯だけど、目的を果たすまでは帰れない。しかも、その目的は困難を極める。

 国王に会うまでは簡単だ。その後で国王を欺き騎士たちも欺かなければならないというのだ。

 決心した筈だけど、いざ作戦を考えるとなると無謀な現実に挫かれそうだ。


「もう直ぐ王の間に着く。無礼をすれば直ちに首が落ちると思え!」


 無感情にそう言ったが、その言葉のせいで更に緊張してきた。出来ればもっと冗談っぽく言って欲しい。


「怖い事言うな、、」

「いや。冗談じゃない。国王様はそのくらい気難しいお方なのだ。」


 何故ここまで来て脅してくるのか分からないが、会うのが物凄く嫌になって来た。

 招待されて来たというのに一つの無礼を働いただけで、打ち首になるなんて無慈悲すぎる。


 あぁ。胃が痛い。


 王の間の前で騎士団が足を止める。団長が扉をノックしようと拳を扉に近づけたのだが、そこで手を止めた。中から話し声が聞こえたからだ。


「父上。大図書館にいるあの女は何なのですか?」


 王の間で父上と声を上げている人間は恐らく国王の息子だろう。息子と言うことはこの国の王子である。

 その王子が大図書館にいる女について国王に尋ねている。図書館の女?間違いなくミラの事だ。


「あれ程大図書館を嫌っていたお前が良く入ったな。」


 低く嗄れた声の主が国王だ。


「あんな平民を招き入れる様な所に誰が入りたがりますか。

 使用人達が噂をしていたのです。とある本を開くと悪魔が現れると。そこで私の騎士を数名、確認に向かわせたのです。

 騎士の一人が魔法薬学の本を開いた途端、奇妙な少女が背後に現れたと言っていました。

 父上。その少女とは何なのですか?何故この王宮にそんな悪魔が住み着いているのですか?」

「戯言を。少女がいると言うのなら何故騎士は捕縛しなかったのだ?」

「それは騎士が未熟者だった故逃げ出してしまったのです。しかし、その騎士は確かに見たと言っていた!父上、説明をして下さい!」

「ふっ。我からお前に説明する事など何一つ無い。お前の騎士が言う少女の悪魔などこの王宮に存在している筈なかろう。寝言は大概にしておけ、王族としての尊厳を無くす事になるぞ。さあ出て行くが良い。これから大事な客人が来る。」

「父上よ!私は認めません。あの女は必ず、この手で、、いえ何でもありません。手間を取らせました。失礼します。」


 ドアがいきなり開いてぶつかりそうになった。


「誰だお前は?」

「あ、いや」


 綺麗な金髪に目付きの悪いつり上がった目、現代風の不良の様な印象を受けたがこの人は正真正銘の王子だ。

 その証拠に騎士団全員が膝を付いている。


 王子は俺を一通り見てから言った。


「ふん。お前が父上の客人か。随分と見窄らしい女だ。この女の為に私を追い出した父上はどうやらお疲れの様だ。」


 軽蔑の目で見下して通り過ぎていった。


 無防備な後頭部に殴りかかってやりたいと本気で思ったが、マリアとアリスがガッチリと俺の腕を掴んで離さない。


 一旦深呼吸して落ち着く。王の間の前で王子を殴り倒したなんて洒落にならない。即打ち首になってしまう。


「申し訳ない。エドワード王子はああいう人なんだ。」

「問題ないよ!ギリギリの所で堪えたからさ!」

「それは良かった。もし堪えきれずに殴り掛かっていたら、エレンをこの場で罰せなければならなかった。 !」


 エンさんは笑いながら冗談っぽく言っているが冗談じゃない。

 権威ある者に逆らえば死が待っているなど理不尽過ぎる。だから俺は権威ある人達と関わりたくないのだ。

 そうと言ってもこの世界においては権威こそが全て、階級によって定められた対応をされる。

 もはやそれは現国王にも変えることの出来ない不変の事実なのだろう。


 ヴォルカニア団長がドアを3回ノックして礼儀正しく声を掛ける。


「冒険者エレンを連れて参りました。」


 間を置いて国王が声を出す。


「入れ」

「はっ!」


 ドアを静かに開けて中へ入る。空気が変わったのが感じられた。


 重い空気。恐怖とか畏怖とかそう言う重圧感ではない。

 どちらかと言えば尊敬に近い様な感覚だ。尊敬と言っても職場の上司や先輩への尊敬ではなく、もっと高次元の存在に対して抱く信仰心に近いものである。


 自然と膝が床に付いて、敬意を表する態度になってしまった。これが国を背負う男の力なのか。


「面を上げよ。ご苦労であったな。炎の騎士団、それに冒険者エレンとその一行よ。」


 単純な言葉にも重さを感じる。もはやスキルによる効果ではないかと疑う位程だ。


 恐る恐る。言葉を選びながら返事をする。


「苦労などありません。国王様にお会い出来て誠に嬉しい限りです。」


 マリアが俺の顔を凝視して「えっ!?エレンてそんな丁寧な言葉遣い出来るの?」みたいな目をしている。

 俺を何だと思っているんだろう。これでも高校での成績はなかなか良かったんだぞ!


「我が聞いた噂ではオーガの様に凶悪な女傑と聞いていたが、随分と女々しいではないか。誠に主が魔族を倒したのか?」


 案の定。そう言われる事は予想していたが、オーガの様な凶悪な女って。この噂での俺の特徴は酷すぎじゃないだろうか。当てはまってる部分が女という所だけであとは全く違う。


「はい。私で間違いありません!噂では色々と大袈裟になっている様ですが、私は普通の健気な少女です。」

「そうか。所詮噂だ。主がどんな姿であろうと魔人を倒したのが主であるのなら問題は無い。」


 今までとは違って俺の姿を見ても落胆しなかった。

 俺の姿を見て、噂とのギャップにもっと反応するものと思っていたが、国王は平然と受け入れた。もはや興味が無い様にも思えた。

 しかし、俺は国王の招集で王都に招かれたのだから興味が無いという事は無い。筈だ。


「そうですか。国王陛下が私を招いた理由を伺ってもよろしいですか?」


 跪いたまま国王の顔色を伺いながら質問をしてみた。

 ここまで気を使う事なんて前世では一度も無かったので、凄く気持ちが悪い。


 国王は玉座に深く座り、頬杖をついて答える。


「我が騎士団に入らぬか?」


 まさかのスカウトの為に俺を呼んだのか!?


 少し期待外れだが国王が直々に個人をスカウトするのは、特別な事なのだろう。

 その証拠にヴォルカニア団長とエンさんの目が飛び出るほど驚いている。この様子だと光栄な事なのだろうが俺にとっては何も光栄じゃない。


「騎士団にですか?」

「あぁ。我が戦乙女の騎士団(ワルキューレ)に入らぬかと聞いたのだ」


 答えは決まっている。ノーだ!だけど、即答で断るのは失礼極まりないので間をあける。


 断る理由を聞かれたら何て答えようか。考えてみても、理由が思いつかない。アリスの為か?いやアリスの為なら、騎士団に入った方が良い筈だ。命懸けではあるけど冒険者よりかはマシだ。


 考えた所で理由が思いつかない。多分俺は国王の為に命を尽くす事が嫌なんだと思う。

 国王は多くの人に慕われる良い王である事は炎の騎士団の態度からも分かるし、王都が繁栄している事からも伺える。

 しかし、俺は国王という絶対的な存在を守ろうとは思えないのだ。

 元々多くの力を有している存在を唯一として守護する事が俺には出来ないのである。

 俺が守るのは、アリスやマリアやこれから助けるミラの様な普通の存在だけで十分だ。何よりそういう存在の方が守りたいと思える。

 だから俺は国王に敬意を払おうとも忠誠を誓う事はない。理由になってない事は重々承知だがそれでもこれが俺の気持ちなのだ。


「本当に有難いお言葉ですが申し訳ございません。国王陛下をお守りするのは私の身に余ります。こんなか弱き身では国王陛下を守り抜く事など出来る筈もありません。」

「当たり前です!貴女如きがアルブレヒト様を守るなど、おこがましいにも程があります。」


 聞き覚えのない女性の声が、突如として耳に入った。


 ヴォルカニア団長が怒号にも似た声で言い放つ。


「何故貴様が此処に居るのだ!?国王様の許しも無しに部屋に無断で入るとは愚かな!万死に値するぞ!」


 状況の理解に戸惑っている合間に勝手に話が進んでいた。


「ふふ。ヴォルカニア殿に言われる筋合いはありません。私はアルブレヒト様の許可を得ています。

 それはそうと貴女。私の騎士団に入るなど許しませんよ!」


 断ったつもりだったけど、話を聞いていなかったのか。もう一度言ってみる。


「いえ、私は入りません。」


 金色の甲冑と鎧に身を包んだ騎士がドアの前から近寄って来て胸ぐらを掴んだ。


「貴女はアルブレヒト様の頼みを断るのですか?」


 いや待て!さっきと言ってる事が違うぞ!さっきまで入る事は許さないと言っていたのにいざ断ったらそれに対しても文句を言いやがる。

 俺をストレス発散の道具にしていないか?タチが悪すぎるだろこの女!

 だが、俺は我慢する事を覚えたからこの程度じゃ爆発しないぞ!


 至って冷静に答える。


「そうです。私は私を過信していません。国王陛下を守るにたる力が、自分にあるとは思えないのです。」


 完璧な返しではないか?相手を挑発する事もなく、尚且つ自分の誠実さを前面に出した完璧な拒否。俺はやれば出来る子なのだよ!

 相手も難しい顔をしている。


「そうでしょうね。しかし、王の言葉に背く以上それなりの罰を受けてもらいます!」


 言っている事が訳分からない。理不尽にも程がある。国王に言われるのなら仕方がないかもしれないが、この女にそれを言う権利は無いと思う。


 ヴォルカニア団長が俺の代わりに声を上げてくれた。


「何が罰だ!貴様にそんな権限はないだろう!」


 女騎士は鋭く目を尖らして、団長を睨み付けた。


「ヴォルカニア殿。口出ししないでいただきたい!貴方には関係ないでしょう。私の騎士団に入るか入らないかの話なのですから」


 ヴォルカニア団長は関係無いのだろうけど、 言っていることは正しい。

 それに対して関係無いと押し切ったが、一番関係ある俺の言葉さえ聞く耳を持たないのはどういう事なのだろうか。

 今まで戦ったどの敵よりこの女が一番厄介だと心の底から思うのと同時に奥底から多少の怒りがこみ上げてきた。











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