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27.オークとの夜戦

「エンさんが女性だったなんて全く気付かなかった!」

「そうか?俺は別に隠す気などなかったけどな」

「隠す気が無くとも、鎧と甲冑のせいで隠れるよ」

「それもそうだな!」


 あははは!と笑って、前を向いた。


 エンさんが女性だった事に驚いたがそれ以上に王都の騎士団に女性がいる事になりより驚いた。

 ヴォルカニア団長が俺に対して放った言葉から、女性は男性より身分が低いかと思っていたがそうでは無いらしい。

 現に女性騎士が副団長という重要な役を担っている。俺の予想は間違っていたみたいだ。


 強い女冒険者も多いと聞くし、女性を軽蔑視する考えはこの世界には、あまり蔓延していないのかもしれない。


 それでも何故か俺に対しては厳しい気がする。やはり見た目なのだろうか。

 可愛くて健気な美少女である俺は弱く見えて頼りないから、いつも虐げる様な目で見られるのだろうか。


 見た目に関してはどうにもならない問題だ。筋肉を付けてボディビルダーみたいな体格になったらその目は変わるかもしれないけど、せっかくの美少女が台無しになってしまう。


 腕や足は細くて直ぐに折れてしまいそうだから屈強な戦士と比べられたら見劣りするのも理解できる。


 対してエン副団長は美しい顔を隠して、甲冑と鎧という重装備で強く見せている。

 それも舐められない為の手ではあるのだろうけど、甲冑や鎧という重装備は好きじゃない。

 動きにくいし 暑苦しそうで俺の好みでは無いのだ。


 それに見栄を張る為にそれらを身に付けるのは、なんか負けた気がして嫌だ。

 これに関してはただの我儘なのだが、結局の所周りからどう見られているかを気にするよりかは、自分に合った防具を装備した方が良いのだと言う結論に行き着いたのだ。


「王都ってどんな場所?」

「うーん。真っ白な場所だな!」

「真っ白?」

「そうだ!建物が純白で、清潔を絵に描いたような場所だ!」

「私の学校も真っ白だったな!」

「学校ってなに?」

「勉強をする場所だよ!」

「楽しそう!!」


 王都に思いを馳せて、はしゃぐアリスは楽しそうだ。

 いてもたっても居られないのか立ち上がって先の風景を眺め出した。

 エン副団長に「落ちるなよ」と言われて少し後ろに下がる。


 確かに純白に染まる町並みというのは気になる。どんな所なのだろう。


 王都までの道は長く、馬で約6日程掛かるらしい。


 最初の数時間は楽しかったのだが、やる事が無いので詰まらない。昼寝をしようにも、今はそんな気分でもない。


 馬車に乗る時の一番の敵は"暇”だ。それをどう凌ぐかが重要なのである。

 前はスキルの確認に時間を割いたが、今回はどうしようか。

 ちょうどマリアもいる事だし、ポーションや良い薬草の組み合わせとかを聞くか。


「ねえポーションと薬草の知識をちょうだい!」


 マリアは少し考えた。


 ミラを連れ出すというクエストの報酬としてそれらを提供する約束だったが、 決心したエレンがここで裏切る筈もない。前払いでも構わないだろうとマリアは結論を出した。


「いいよ!でもしっかりミラを連れ出してね!」

「任せて!」


 まずマリアのオススメする薬草の名前と効果を教えてもらった。


 それをアリスが紙に書いていく。

 薬草の知識を得る事ができるし、アリスの字の練習にもなる。何よりアリスは楽しそうに字を書いているので、一石三鳥だ。


「ええと、、後はヒトボシ草。あれはかなり珍しくてここら辺じゃあまり見ないかな!

 私でさえ王都で一度目にしたきり。効果は肉体の超回復でフルポーションを作る時には必須と言っても過言じゃ無い薬草。」


 アリスが黙々と書き連ねる。


「フルポーションって?」

「フルポーションは、どんな傷でも一瞬で治すポーションなんだよ」

「どんな傷でもか。凄いな!」


 それから組み合わせもいくつか教えてもらった。


 マリアの話を聞いていると魔法薬学の難しさが良く分かる。

 薬草の組み合わせだけで万とあるのに他にも覚える事が大量にあってマリアの頭の良さが伺えた。

 アリスが書き写してくれたこのメモがあればマリア特製のハイポーションが作りたい放題である。


「見て見て!全部書けたよ!」


 アリスが紙を見せてきた。

 最初の頃より字は断然上手くなっていて、俺とは比較にならないくらい読みやすい。

 それに字の間違いやオカシイ文章もない。アリスの成長が伺えて嬉しく思った。


 アリスの頭を撫でる。


「綺麗に書けたね!」

「えへへ」


 満面の笑みを浮かべたアリスは、天使以外の何者でもなく、限りなく天使だった。


 ポーチに入っていた薬草をいくつか取り出して、アリスの紙を見ながらポーション作りを試みた。


 普通なら設備が整った所で作るのが良いのだが、俺においては設備は関係ない。

 スキルで全て出来るのて、何処であれどんな状況であれポーションを作る事が出来るのだ。

 その為暇な時とかにやると良い暇潰しになる。


 直接小瓶の中に薬草を詰め込んで、<形態操作(メタモルフォーゼ)>で一気に完成させる。


 透明度が高い水色の液体がポーションだ。

 マリアによると液体の色が水色以外になったり、濁っていたりすると毒素が生まれている可能性があるらしい。

 色で分かるというのは素人でも見分けがつくから有難い。


「どう?上手くいったと思うんだけど」

「うんうん。完璧なハイポーションだね!本当にそのスキル便利だよね。私にもちょうだいよ!」


 マリアは手を差し出して言ったが、生憎スキルを分け与えるスキルは持ち合わせていない。


「そんな事出来ないよ!

「むぅ。まあしょうがないか!」


 マリアは一度膨れた頰を直ぐに戻して、納得してくれた。


 時間がかなり経って、何事も無く日が落ちる時間まで来た。


 涼しかった風は少し肌寒いと感じるくらいに気温が落ちて、星々が薄っすらと見える夜空が広がっている。


 馬の走る音以外何も聞こえない沈黙の間を貫いて、先頭にいるヴォルカニア団長が叫んだ。


「北西方向、オークの群れを発見した!交戦体制に入れ!」


 真っ暗な闇の中に無数に光る赤い目がオークだ。


 夜目が利くオーク達の目は鮮明に騎士団の行動を捉えていた。

 周りのオークより一回り大きいオークが、雄叫びを上げる。



「ウオオオオオ!」


 その雄叫びに続けて周りのオーク達も雄叫びを上げていた。


「王よ!我らの飢えを解消するには確実に奴らを捕らえる必要があらます。故にまずは足止めからやりましょう!」

「あぁ。指揮はオークタクティシャンであるお前に任せる!確実に捕らえよ!」


 オーク達はオークタクティシャンの命令で、横に大きく広がって、網の如く騎士団の前方を包囲した。

 馬による強行突破を防ぐ為の行動だ。


 その行動を目にしたエンさんは素早く前に馬を進めて、ヴォルカニア団長に声を掛けた。


「奴らただのオークの群れじゃない!」

「あぁ。あれはキングかタクティシャンがいるに違いない。厄介だな。」


 オークの群れに当たるまで、あと数分だ。


 俺は<神眼>でオークを確認する。


 普通のオークが約45体。その後ろに他より一回り大きいオークキングとオークタクティシャンが居座っている。


 オーク


 Lv:15〜20


 オークタクティシャン


 Lv:35


 オークキング


 Lv:51


 俺が確認した情報をヴォルカニア団長に伝える。


「キングとタクティシャン両方いるみたい!数は普通のオークだけで45体いるよ!」


 団長は頷いて騎士団全体に指示を出した。


「停止しろ!遠距離魔法で出来るだけ数を減らす!」

「「「「了解!!」」」」


 騎士団全体は動きを止めて、魔法を扱える騎士が詠唱を始めた。


「「「王の騎士たる我が裁きを与える!<王の剣(フォトン・レイ)>」」」


 暗い空を光の剣が黄色く照らす。その光景は神秘的で神々しい。


 オークは空に釘付けになっていたが、知力の低いオークには状況を理解する事は出来な買った。

 ただ空に強く光る何かがあるのだと認識するのが精々で、それが攻撃だとは誰も想像出来ていなかった。


 状況を辛うじて理解出来たのがオークタクティシャンだ。タクティシャンは直ぐにオーク達に指示を出した。


「直ちに退け!退けえ!!」


 しかし、その命令に疑うオークはいなかった。眼前に広がる獲物達を前にして、退くという考えは知能の低いオークには存在しない。


 例え上位種の命令であっても、己の飢えに逆らう道理にはならなかった。


「オークタクティシャンよ。我らは負けるのか?お前の指揮をもってしても勝てないのか?」


 キングは唯一信頼する部下に尋ねた。


「、、、王よ。申し訳ありません。」


 涙を浮かべるオークタクティシャンにオークキングは「お前は良くやってくれた。お前がいなかったら我らはとうの昔に餓死していた。」と激励し、オークキングは、咆哮と共に騎士団へと突っ込む。


 それと同時に空から光の刃が降り注いだ。


 綺麗だが残酷にオーク達を貫く。


 猪突猛進するオークキングの正面にヴォルカニア団長が待ち構える。


「ウオオオオオオ!!」

「我が(からだ)は王の為に。」


 剣を抜いて一太刀でオークキングの頭を吹き飛ばした。

 空に舞う血飛沫はオークとの戦闘の終わりを意味した。


 45体のオークは降り注ぐ光に殲滅された。オーク達は為す術なくただ無惨に殺されただけだ。


 オークタクティシャンは上位種という事もあって辛うじて生きていたが、目の前の光景は地獄も同然だ。仲間の死体がすぐ近くに転がっている。忠誠を誓った主君の死も確認した。

 後は己の死を待つだけだった。


 霞がかる視覚とは裏腹に聴覚はハッキリしていた。


 誰かが歩み寄る音が聞こえる。恐らくはトドメを刺しに来たのだろう。

 抵抗する力も気力も無い。受け入れる覚悟だ。最後に何か出来たなら良かったがもうそんな力は残っていない。申し訳ございません。キング。我も直ぐそちらに向かいます。


「オークタクティシャン。お前も私と同じく王に忠誠を誓ったのだな。だが、忠誠を誓うのならば最後まで王の盾となるべきだった。」


 そう言ってオークタクティシャンの首を斬り落とした。


 オークタクティシャンは死ぬ寸前に思った。この男の言っている事は最もだ。

 王より先に死ぬべきであったと、そしてまさか人間に言われるとは思わなかったと。


 オークの群れとの夜戦は数分で終わりを迎えた。


 統率の取れた騎士団の動きは、オークの群れを物ともせずただの障害物かの様に退かしたのだ。

 それでもヴォルカニア団長は同じ様に王に忠誠を誓ったオークタクティシャンに多少の誠意を示していた。


「オークの群れは殲滅した。これより王都へと再出発する!」

「「「了解!」」」


 何事も無かったかの様に馬を進めた。


「随分と早かったね」


 マリアが無関心に言った。


「俺たちがオークに遅れを取るはずがない」


 前を向いたままエン副団長が答える。


 酷い事をした様に見えるがこれが戦いというものだと俺もアリスも理解している。


 それでも圧倒的な戦いはただの暴力にしか感じない。

 知恵のある魔物を殺すというのは、人を殺すのと同じ様な感覚に陥って嫌な感じが否めない。

 少しは慣れた俺がそう思うのなら、戦いを知らないマリアからしたら衝撃的で、騎士団を悪い風に思ってしまったかも知れない。


「マリア。戦いは辛いんだよ、」


 詰まりながらもマリアは答えた。


「大丈夫。あそこで殺さなければ私達が危なかったんだよね。」


 アリスがマリアの手を握って、肩を寄せた。


「もう今日は眠ろう。」

「そうだね。」


 マリアは目を瞑って考えた。

 目に焼き付いた光の剣。それに突き刺されて死んで行ったオーク達。

 別に可愛そうとは思わない。だけど、生物を殺すというのは、辛いことなのだと感覚的に伝わった。


 殺さなければ殺される。その局面にいざ自分が立った時、私は相手を殺せるだろうか。

 アリスとエレンは殺せる筈だ。辛くてもそうやって生きていく事を選んだ二人だから。


 しかし、私には無理だ。逃げてしまう筈だ。

 敵を殺すには自分を殺すのと同じ覚悟が必要で、アリスやエレン、それに騎士団の全員にもその覚悟はあるのだろうけど、私は覚悟もせずきただ安全な場所で生きているんだ。

 それが何だか恥ずかしい。悪い事じゃないのは分かっている。それでも覚悟のある人の隣にいると、自分がちっぽけで惨めに見える。


 もしミラを連れ出す時に誰かを殺さないといけないとしたら私は何も出来ないと思う。

 その時も逃げ出してしまう筈だ。殺すのが正解じゃなければ、逃げるのも正解じゃない。それなら何が正解なのか。覚悟の無い私には当然分からない。

 それでも覚悟を決める事が正解に繋がるというのは、何となく分かる。

 私は二人の様に覚悟を決めなければならない。 そうじゃなきゃミラを助けたいなんて言えないんだ。殺す覚悟が出来なくても、私は私なりの覚悟を決めてみせる。


 難しい事を考えている間に意識が暗闇に落ちていった。

 時期に眠ってしまうだろうけど、この考えはしっかりと覚えておこう、、、。





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