26.王都の騎士
ギルドで騎士の到着を待っていると、騎士より先にバルザード伯爵がギルドにやって来た。
「エレンではないか。」
「こんにちは。」
「お主は一体何者なのだ?先日の魔人の件にエーダーのドラゴンもお主が治めたそうではないか。」
「大したこと無いですよ。どちらも運が良かっただけです。」
「謙遜か。まあ良い。国王陛下がお主の力に興味を抱いているのは確かだ。節操がない様に頼むぞ!」
「はい。でも何で国王が私なんかに興味を抱くんですか?」
「お主の噂は王都まで広がっているという事だろう。魔人を倒した英雄だとか魔人を凌駕した屈強な女冒険者等様々な形で噂になっているそうだぞ!」
知らなかった。噂とはそんな身勝手に蔓延してしまうものなのか。
その噂を信じた大抵の人は、俺を見たら驚愕するだろうな。こんな可憐な乙女が魔人を倒したとは誰も想像していないだろう。
噂というのは人から人へと伝わる過程で幾らでも形を変える。だから噂はあまり好きじゃない。真実とは程遠いものになってしまって様々ないざこざの元凶にもなり得る。
「噂を鵜呑みにしているなら本物の私を見て落胆しそうです」
伯爵は大きく笑った。
「お主は一見貧弱そうな少女だからな。」
馬鹿にされてる気がするけど、お褒め言葉として受け取ろう。
静かにしていたアリスが俺の腕を引っ張って言った。
「なんか馬の足音がするよ!」
馬の足音?確かに外がやけに騒がしい。それが馬の足音かどうかと言われれば、俺には分からないが何かが走っている様な音が聞こえた。
その音がギルドの前で止まったと思ったら、ギルドの扉が勢い良く開いた。
「我らはエルドガルド王国現国王直属の騎士団、炎の騎士団である。
ここに魔人を討伐したエレンという冒険者はいるか?」
名前の通り赤やオレンジと言った炎を彷彿とさせる色の鎧を着ている。
統率が取れていてまさに国王直属の騎士って感じだ。恐らく一番前に出て話している騎士が一番偉いのだろう。
とりあえず名乗り出る。俺の予想ではまず馬鹿にされるはずだ。
「私がエレンです。」
怪訝な表情でじっくりと俺を品定めしてから口を開いた。
「魔人を倒した冒険者と言っただろう。お前の様な貧弱な女に用は無い。」
やっぱりそう来るよね。知ってた。予想してた。予想してたけど、予想が的中したのが返ってムカつく。
バルザード伯爵が前に出た。
「お言葉だが、この冒険者こそ魔人を倒したエレンで間違いない!この町の領主である私が保証しよう。」
ナイス!伯爵がそう言ってくれるなら、向こうも疑い用がない。
「ふっ。そこの女が魔人を倒しただと?どれだけ弱いのだ!魔人とやらは!」
俺は昔から頭に血が上りやすい性格なのだ。 ここまで貶されて、ただでさえ頭に血が上りやすい俺が堪えられる筈もない。
国王直属の騎士だから偉そうにして良いって訳じゃない。
「そこまで言うなら、私と試合をしましょうよ!」
騎士は高らかに笑った。全力の嘲笑を俺にプレゼントしてくれたのだ。
「いいだろう!言っておくが私は女だろうと手加減はしないぞ!」
「うん良いよ!ぶっ倒してあげる。」
「エレン落ち着け!」
伯爵が止めに入ったが、ここまで来たらもう止まらない。
「エレンってこんなに短気な子だったんだね。」
「エレンお姉ちゃんは、怒ると凄いんだよ」
「へ、へえ。まあそうだろうね。王都の騎士に喧嘩を売るくらいだもんね。」
勢いのままにギルドの演習室まで移動した。
何だろうこのデジャブは。前にもあった様な気がする。
また受付嬢さんが立会人となってくれた。
頼む時は何事かと戸惑っていたけど、今はウキウキしてる様に見える。
「立会人は私が務めさせていただきます!
どちらかが気絶または降参した場合試合終了とさせてもらいます。
武器、魔法の使用は自由です!」
その声を聞いたのと同時にお互い剣を抜いて構える。
騎士の方は手加減はしないと言っていたが、舐めきっているのが伺える。
負ける気は元々無いけどそっちがその気ならボコボコにしてやる。
「それではコインが地面に付いた瞬間試合開始です!」
受付嬢さんがコインを空中に弾いた。その瞬間沈黙が生まれる。
少しの沈黙が長く感じた。
"チャリン"
コインが地面に着いた瞬間、高速で間合いを詰める。
「喰らえ!」
「ぬっ!」
勝負あったとマリアもアリスも、俺自身も思ったが流石は国王直属の騎士だ。俺の剣を上手く流して見せた。
「ほう。正直ここまで出来るとは思っていなかったぞ。だが、弱い。隙だらけだ!」
騎士が剣を大きく振り上げた。一見胴がガラ空きに見えるが、そうじゃない。これは罠だ。
胴が空いてる所を見た俺が、必ずその隙間に飛び込むと騎士は考えたのだろう。飛び込んできた俺に何かを喰らわせる気だったのだ。
一歩下がって冷静に相手を分析する事にした。
騎士は舐めきっていると言ったが、俺自身も舐めていた。
口ぶりが雑魚っぽいから、大した事がないだろうと思ったのだが案外そうでも無いみたいなのだ。
「考え無しに突っ込む阿呆では無い様だな!」
「あんたが思い付く程度の事なら私にも分かるよ!」
「ふっ!舐めるなよ!」
振り上げた剣を勢い良く真っ直ぐ振り下ろす。
スキル名:炎天切
脅威度:☆☆☆☆
時間遅れで騎士が切った空間から、炎の斬撃が飛んで来た。
時間差の攻撃で反応が一瞬遅れてしまった。
「うっ、、」
「終わりだ!」
騎士は技が直撃した事を確信して、剣を鞘に収める。
「絵本の世界。氷の女王」
倒したはずの相手の声が聞こえて、騎士は困惑した。
何故倒れていない?確実に当てた筈だ。あの威力の攻撃を受けて無事で済む筈がない。と騎士は思ったが、そこでやっと気がついた。この女はだからこそ魔人に勝つ事が出来たのだと。
確かに手を抜いていた。しかし、スキルは全力で打って確実に当たるタイミングを狙った。それでも倒せなかった。それこそが魔人に勝ったというこの女の強さなのだ。
不意打ちみたいな感じで卑怯な気がするけど、これも作戦だ。油断している敵を更に油断させてから確実に仕留めるという完璧な作戦なのだ。
騎士の技を受けた様に見せかけて、実はフーゴに防いで貰っていた。フーゴに当たった炎の斬撃は爆発し、煙を起して騎士の視界を奪い隙を見せた所で、反撃を開始する。
「あの愚かな男を恒久なる凍土の一部にしてやろう。<氷の親愛>」
騎士は全身を氷漬けにされて喋る事も出来ない。
騎士の情けない顔を拝みたい所だが、甲冑のせいで顔が中身が伺えないのが惜しい。
「ありがと!君の名前はレイシアね!」
「ふん。好きに呼べ。」
氷の嬢王は素っ気ない態度を取ったがレイシアという名前を受け入れた。
「受付嬢さん気絶って事で良いですよね?」
受付嬢さんは困惑しながらも頷いた。
「は、はい!勝者はエレンさんです!」
受付嬢さんの言葉を聞いて野次馬達が、興奮して声を上げた。
「「「おおー!!」」
いつの間にかこんなに集まっていたのか。
「おいお前!俺たちの団長をどうしてくれるんだ!?」
騎士の一人が焦りと怒りが混合した様な震えた声で訴えてきたが、そんな態度じゃどうする気も起きない。
「知らないよ!」
「はあ?お前俺たち騎士に手を出したんだぞ?ただで済むと思うなよ」
「辞めておけ。団長は負けたんだ。お前らじゃこの人に勝てない。
エレンと言ったか?すまなかった。団長はプライドが高くて直ぐ人を見下してしまう癖があるんだ。だけど、君は強さを示した。
団長は強者には敬意を払う人だからこれ以上は無礼な物言いはしないと思う。」
冷静な考えが出来る人がこの騎士団にいるとは驚きだ。
まあ謝ってくれるなら氷を溶かしてやってもいいな。
「じゃあレイシア氷を溶かしてあげて」
「いやその必要は無い!」
「妾の氷を溶かしただと?」
驚いた事にレイシアの氷を騎士は、いとも簡単に溶かしてみせたのだ。
その事実にレイシア自身も驚いている。
「危なかったぞ。あと少し体温を上げるのが遅れていれば、完全に凍らされてた!」
そういうことか。凍る寸前に体をスキルで異常な温度まで上昇させる事で、レイシアの氷が完全に凍るのを防いだのだ。
頭が良いのかしぶといのかわからないが、戦いの勘が冴えてるという事だろう。
「もう試合は終わりだよ!私の勝ち!」
「あぁそれで構わない。お前の強さは良く分かった。実の所、こんな辺境の町にいる冒険者などを国王様に会わせたくは無かったのだ。
しかし、お前は強さを示した。お前を国王様に会わせても問題ないだろう。」
人が変わった様に礼儀を持った振る舞いをする騎士。それでも尚しっかり町の事を馬鹿にしたのだけど。
バルザード伯爵が不服そうにしている。辺境と言われたのが刺さったのだろう。
「私の名前はヴォルカニア・ドフリート。炎の騎士団の団長だ。」
「ついでに俺は副団長のエン・フォード。団長の尻拭いが基本的な仕事。」
「おい!何が尻拭いだ。私がお前に尻拭いをさせた事が今までにあったか?」
「、、、、数え切れない程に。」
ヴォルカニア団長は、非の打ち所がなく他人を軽蔑する性格から恨みを買い易い様だが、それを副団長のエンさんが上手く中和している。
その事をエンさんは、団長の尻拭いと表現したのだ。
本人である団長は否定したが、俺からしたらまさにその通りだと思う。
「本当にエレンは馬鹿なの?どうなるかとハラハラしたよ!」
「うん!まあ悪い人?では無いみたいだし、一件落着だ」
「エレンお姉ちゃん怪我はない?」
「大丈夫だよ!私は強いから」
えっへん!と強気に言ったけど、向こうが真面目に戦っていたら負けてたかもしれない。まあもしもを考えても仕方ないけど。
さっきの試合を思い返すと俺も良くあんな強気な事を言えたと思う。
あれで負けてたら物凄く恥ずかしい。恥ずかし過ぎて一生顔を上げられなくなる所だった。
短気は損気って言うし、頭に血が上ったら一度深呼吸をしてから行動する事にしよう。
ともあれこの件はこれで終わり。これから王都に向かう為の馬車に荷物を運び込むらしい。
荷物と言ってもその殆どが伯爵から国王への献上品だ。
俺たちの荷物は武器とカバンをそれぞれ一つずつ持っているだけ。
国王様に失礼のない様にと伯爵に念を押されたけど、俺は誰彼構わず噛み付く猛犬ではない。
今回の件だって、騎士が俺を煽る様な事を言わなければ起きなかったのだ。とは言ったものの俺たちは、そもそも問題を起こしに行く様なものだった。
国王の隠し子であるミラを誘拐するのが、本来の目的なので伯爵の言い付けを破る事になってしまう。
それに関してはごめんと言わざる終えないな。
ミラをどうやって誘拐するかは未だに分からないが、とりあえず今分かっている事は失敗=死という揺るが無い事実のみだ。
向こうに着いたら良く作戦を練って、皆んなが無事エリカに帰れる未来を想像できる様にしないとな。
「これより王都へ向けて出発する!」
先頭の馬に乗るヴォルカニア団長が大きな声で言い放った。
エン副団長は俺たちの馬車をひいてくれるらしい。
空は晴天、雲一つ見当たらない良い天気だ。
この世界には魔法によって天気予測が出来るらしく、その予報は朝刊に載っている。
最近のアリスの日課はその朝刊を読む事だ。少しジジくさい感じがするけど、字を覚えたばかりのアリスにとっては朝刊を読む事が何よりも楽しい時間の様だ。
馬車の中でも、その朝刊を楽しそうに読んでいる。
「今日の天気は一日中晴れだって!」
「へえ。良い旅日和って感じだね!」
「そうだね。風も心地いいし快適快適!」
緩やかな風は本当に心地よくて、朝だと言うのに眠気を誘う。
日本で言うと春の様な陽気だ。そういえばこの世界に四季はあるのだろうか。
ここに来てから意外と時間は経ったけど、いつもこんな感じの天気な気がする。
毎日同じ陽気でも良いんだが、日本人の俺からすると、季節が変わらないと言うのは味気ない感じがして少し寂しい。
「なあ!」
エンさんが甲冑を外して言った。
「どうやって魔人を倒したんだ?さっき団長の言った事は失礼極まりないが、実際俺も団長と同じ印象を持った。
別に女だから弱い様に見えるとかそう言う訳じゃない。強者なら強者なりの雰囲気かあるが、エレンにはそれがないんだ。どうしてだ?」
強者なりの雰囲気と言われてもピンと来ない。もしその雰囲気が経験から来るものだったら、俺にあるはずが無い。俺は圧倒的に経験不足なので、強者の風格なんて微塵も無い筈だろう。
何故魔人に勝てたのかと聞かれれば、運が良かったと言うしかない。
「運とスキルが強かったってだけかな」
「実力は無いって言うのか?」
「まあそうだね。実力なんてない!ただ生まれ持っての能力の強さでここまで来たって事。」
「、、、まあ強者の雰囲気なんて俺には全然分からないけどな!」
「え?」
エンさんは正面を向いたまま頭を震わせてイタズラに笑う。
短髪の髪の毛には艶があってキラキラと光っている。伸ばしたら女性らしい長髪になると思った。
「すまない。からかっただけだ!」
「どうゆう事?」
「いやこれは私の悪い癖だ。団長にああは言ったが俺も、人をからかう癖があってな。」
なんか失望した。もっと真面目な男の人だと思っていたけどそれは違ったらしい。この人もダメな人の様だ。
「そうですか、、」
「すまないって!」
笑いながら、後ろを向いた。
初めてエンさんの顔を見たが、顔まで女性らしい。まさに美男子だ。
甲冑でわからなかったけど、小顔でまつ毛が長くて目がデカイ。口紅まで塗っている。
口紅?えっ!?口紅??もしかして俺は勘違いをしているのではないか?
「あのー?」
「なんだ?」
「男ですよね?」
「何を言ってるんだ!俺は女だ!」
「はい。」
女でした。しっかりエン副団長も女だと言っているので間違いじゃない。
確かに男にしては声が高いとは思ったけど、口調とか振る舞いが男っぽくて全然気が付かなかったし疑いもしなかった。
うーん。何と言うかイケメンだな!エンさんは。




