25.マリアのクエスト
王都編です!
マリアが語ったクエストとは、とある女の子を誘拐?して来て欲しいという内容だった。
誘拐と言うと少し語弊が生まれるだろうけど、一番伝わりやすいのがこの言い方なのだ。
マリアにクエスト内容を確認する。
「昨日エレンに言ったよね。私はこの間まで王都の学校に通っていたって。」
「魔法薬学を学んでたんだよね」
「そう。その学校のシステムとして優秀な学生には王宮にある大図書館を使う許可が出されているの。
私は勿論優秀だから図書館を使用する事が出来たんだけど、ある日そこで見知らない顔の女の子と出会った。
歳は私やエレンと同じくらいで、肌がありえないくらい白くて、緑色の瞳に赤い髪の毛の可愛い女の子。」
ここまでの話だと何故誘拐をしなくちゃいけないのか分からないな。
とりあえず引き続き話を聞く。
「その女の子の名前はミラ。いつも図書館にいる女の子で、最初はただ本が好きなのかなと思って遠くから見ていたんだ。
でも、ある日ミラは私に声を掛けて来た。最初の会話は本の話だった。
それから何回も話して行く内に仲良くなって、お互いがお互いを親友だと思うほどの仲になっていた。」
友達の自慢話を聞かされているだけにしか思えないけど、まだ何かあるのだろう。
重要なのはここからだ。
「図書館という空間で本を通して繋がった私達は、その場所でしか会うことがなかった。だけど、ミラはいつも外の景色に憧れている様に見えた。
ミラの好きな本は英雄や勇者の冒険譚。小さな少年が好きそうな物語ばかりで、何でだろうと思っていたけど、ミラは英雄や勇者の果敢な姿に興味を持っていたんじゃなくて、彼らが旅をした場所に興味を持っていたんだと思う。
だから私はミラを外に誘った。だけど、ミラは悲しい顔をして断って「ありがとう」と一言言って微笑んだの。
何回も理由を聞いたけど教えてくれなくて、故郷に帰るからしばらく会えないって言った時にやっと理由を語ってくれた。
本来なら絶対に秘密のその理由を。
ミラはエルドラルド王国現国王の隠し子らしくて、その事実が世間に知れたら、大問題だから王による命令を受けた王国魔術師の魔法によって大図書館に閉じ込められた入るらしいの。」
マリアが話を一通り終えて、溜息を吐いた。
何というか話が壮大過ぎて脳が混乱している。
マリアが知り合って仲良くなった女の子は王の隠し子でそれが知れ渡る事を恐れて、図書館に縛り付けている。
大体纏めるとこんな感じだが、マリアのクエストって王女誘拐じゃん。
そもそもとある少女を誘拐してと言われた時から、嫌な予感しかしなかったけど、王の隠し子(実質王女)を誘拐しろって、国家転覆とかの罪に問われても仕方がない。
「う〜ん。助けたい気持ちは分かるけど、それはれっきとした犯罪だよ?」
「分かってる。でも、国王はミラの事を追い払いたい筈。だから、、だから連れ去っても問題ないでしょ?」
いいや。国王がミラの事を追い払いたいと思っているなら既にしている筈だ。
それが今まで図書室という限定した場所に閉じ込めているだけという事は、存在自体は内緒にしたいが、実の娘であるミラを始末する気は無い。と考えるのが一番妥当ではないだろうか。
マリアも理解できてる筈だが、どうしても自由にしてあげたいのだろう。気持ちが先行して考えが追いついていない状態なのだ。
いくら俺でも王女の誘拐に加担する気はそうそう無い。
「ごめん。マリアの気持ちは本当に分かるけど、そんな事をやったら私達みんなの居場所も、自由も奪われる。
国王がミラを始末したいなら、ずっと前にそうしている筈でしょ?でも、していないのが現実。」
マリアは唇を強く噛んで、下を向いたまま言った。
「、、、分かってる。分かってるけど私は助けたいの!」
非力な自分に愛想を尽かしたマリアは、唯一頼りになる相手に助けを求めても、救えない現実は変わらない。
それでも助けたい。自分がそんな事をされたらと考えると居ても立っても居られないから。
マリアの気持ちを汲んだとしても、その先に広がるのは暗闇だ。
ミラの誘拐に成功したとして、それに気がついた国王が放置する筈がない。
隠し子であっても、実の娘であり隠する事はしたが、手放しはしなかったその存在を奪われたら国王は、死に物狂いで奪い返そうとするだろう。
俺達はその追っ手から逃げる日々となり、マリアにミラを会わせる事も出来ないくらい緊迫した毎日を送る事になるのは容易に想像できた。
だから、マリアにはもっと考えて欲しい。周りと自分の事を良く考えて、それから判断を出して欲しい。
俺は冷静に考えたマリアの判断によってそのクエストを受けるかどうかを決める。
俺の手を握るアリスの手は熱くて強張っていた。
アリスは助けたいと思っている。自分とミラを照らし合わせて見ると、アリスが奴隷だったあの日々が蘇る。
窮屈で未来を想像するのも恐ろしい日々を。それから解放された喜びの大きさをアリスは知っている。だから、助けたいという思いが誰よりも強いのだ。
そういう訳で俺は断らない。冷静な考えができる状態のマリアと話してその内容によって受けるかどうかを決めるとしよう。
それでも割に合わない代金だ。高すぎる。
「一度頭を冷やして考えてみて!それでも助けたいと言うなら力を貸すからさ!」
「うん、、」
「また明日来るよ」
それから1日が経って、今防具屋にいる。
防具の補修強化を頼んでちょうど3日が経ったので、防具が出来上がっている筈だ。
「おう!嬢ちゃん!やっと来たか!」
そう言って裏から防具一式を持ってきて、机に並べた。
「この胸当てだが、あの鱗をふんだんに使って超硬度になってる。壊れる事はまずないだろうな!
他にもガントレットや脛当ても、 強化しておいた!そこらの魔物は傷すらつけられないはずだぜ!」
確かに前よりか断然に強くなっている。それに物理ダメージに強いだけでなく魔法ダメージにも強くなっている様だ。
申し分ない強化だ。
「そして小さい嬢ちゃんのローブはこの通りだ!ローブは前と大差無いが、これを付けることによって自分の魔法の効果を向上させ、敵から受ける魔法の効果を軽減する腕輪だ!これも鱗を使って作ったんだぜ!」
他にも鎖帷子の耐久性をあげてくれたみたいで、アリスの装備も充実した。
3日で仕上げた物とは到底思えない程出来が良くて驚いた。おっさんの腕は確かなようだ。
この装備ならかなり強い敵とも渡り合える気がする。
「想像以上だよ!」
「そうだろうそうだろう!俺も満足してるからな!」
「ローブ新品より綺麗!!ありがとうおじさん!」
「おうよ!俺は適当な仕事はしねえからな!」
俺たち以上におっさんの方が満足している様子だ。
この出来なら金貨1枚払っても安いくらいだ。
「いくらですか?」
「俺が今までやった仕事の中で、一番手間をかけたからな、、、」
金貨1枚以上は間違いなく取られるだろう。まあそれでも妥当と言える。
「まあ。半分俺の趣味も入ってるから銀貨500枚って所か!」
「え!?安過ぎないですか?」
「いいや!妥当だろう。そもそもいい素材を提供したのは嬢ちゃんだろ。その素材を上手く活かしたのが俺だ!
要は俺は当たり前の作業しただけなんだ!」
そう言われてもおっさんがした仕事は、銀貨500枚では安過ぎる気がする。
それでもこの人は頑固だから自分が提示した金額以外は、受け取らないだろうな。
「うーん。わかりました!」
銀貨を机の上に並べて、それをおっさんが数える。
「おいおい!100枚多いぞ!」
「いえそれはチップですよ!」
首を傾げて、意味が分からないと言った。
この世界にはチップというのが存在しないのだろう。
「感謝料って事です!」
「感謝は言葉だけで良いんだよ!」
「いいや!受け取ってください!これは私の見栄であって意地でもあります。」
「嬢ちゃんは頑固だな!分かったよ。」
頑固なおっさんには頑固な態度で立ち向かわないと押され負けてしまう。このくらいの態度がちょうど良いんだ。
その場で試着させて貰ったけどやっぱり良い。体によく馴染むし、軽くて動きやすい。
アリスのローブも、前と大差ないとおっさんは言っていたがデザインまで変わっていてそれが尚可愛くなっている。おっさん。あんたはよく分かってる。
俺とアリスは満足した気分で防具屋を出ようとした時、おっさんに呼び止められた。
「あぁそうだ!ギルドの受付嬢が「エレンさんを見かけたらギルドに寄る様にと伝えておいて下さい!」と言っていたぞ!」
「分かりました!ありがとうございます!」
防具屋を出てギルドに向かう。
それにしても何だろう。悪い事をした覚えはないし、クエストの報酬をまだ受け取っていないなんて事もない。
思い当たる事は何一つ無いのだが。
「こんにちは。直ぐ来るようにと聞いて来たんですけど」
「エレンさん!こんにちは。バルザード伯爵からの伝言何ですけど、王都から騎士が来るそうなんですよ!」
「うん?私何かやらかしましたか?」
王都の騎士が来る事を俺に伝えたという事は俺に用事があるという事なのだろうが、俺は王都の騎士なんて知らない。
「いえ!この前の魔人の件で、魔人を倒した本人に会いたいと国王が仰っているらしく、それでエレンさんを招集する様にバルザード伯爵に言われたんですよ!」
待て待て。言っている事は分かるが脳が混乱して、頭が可笑しくなりそうだ。
確かに魔人を倒したのは俺だが、それだけで国王が会いたいなどと言うか?王都の騎士だったら誰でも魔人を倒せるんじゃないのか?
もしかしたらバルザード伯爵が仕掛けた罠?いいや伯爵がそんな事をする筈が無いし、俺を罠に嵌る理由も無い。
じゃあこれは本当の話でだろうが、話が拡大し過ぎている。
「王都からの騎士は、今日の午後には到着する予定ですので、まだ何処かに行く予定があるなら午後までに済ませておいて下さい!」
「は、はい、、」
勢いで頷いてしまったけど、俺みたいな人間が国王に会って良いのだろうか。
別に大した実力もない人間がたまたま魔人を倒しただけで、国王との面会なんて荷が重い。
断ろうにも既に王都から騎士がこの町に向かっているらしいし。断ったら即座に殺されそうだ。
それに国王と言えばミラの件もある。厄介なことになる気がしてならない。
先ずはマリアの所に向かった。
マリアに国王に会う事になったと伝えたら大変な事になりそうだから伏せておく。
「いらっしゃい。あぁマリアのお友達ね。奥にいるから上がっていいよ」
「はい!お邪魔します。」
昨日と同じ部屋にマリアが座っていた。
「マリア、考えは纏まった?」
眠そうに振り向いたマリアの目の下には、大きなクマがある。考えすぎで、眠れていないんだろう。
「まとまった?」
マリアは俯いて言った。
「他人に頼むのは間違いだったのかもしれない。王女を攫うという事は国に仇なすという事でエレンにも迷惑を掛けちゃう。
それにエレンの言った通り、もし誘拐出来たとしても、追っ手は必ず来る。それから逃げる日々は確かに自由なんて言えないよね。」
冷静に考えると自分の考えていた事の全てが間違っていた事にマリアは気が付いた。
助けたい思いじゃ何も変わらない。行動したとしても、逃げ切る算段が無い。
現実は簡単だ。諦めて見て見ぬ振りをして、今まで通り図書館という限られた空間だけで友達ごっこをする。
これが一番安全で、正しい道である事は分かっている。だけど、私は馬鹿なのだ。一度助けたいと思ったらどうしても助けたい。他人の迷惑なんて関係無く助けたいと思ってしまう。
「それでも、、、私は、、やっぱり助けたいよ!」
「エレンお姉ちゃん私も助けたい!」
俺は自分の事を現実主義者だと思っていた。だけど、意外とそうでもないらしい。
安全に終わらせられる現実は見えないけど、ミラを助けたいと俺も思ってしまった。
他人の言葉に影響されて、ただのエゴだけでそう思ってしまった。
しょうがないよな。元々、マリアが1日考えて出した答えに従うつもりだったんだ。それなら、全力で救ってやろう。
「分かったよ!王女の誘拐私に任せて!」
「ありがとう!!」
「ありがとうエレンお姉ちゃん!」
「うん。でもありがとうはまだ早いよ!全部を無事に終えてからその言葉をまた聞かせて!」
「そうだね!それで王都にどうやって入ろうか。私は学生だったから入れるけど、エレンとアリスちゃんは、王都に入るのに手間がかかっちゃうから」
「言い忘れてたけど、王都に行く用事が出来たんだ。それで私を迎えに王都の騎士がそろそろ到着するみたい」
マリアは唖然として何も言わなかった。
少しの間を置いて、やっとマリアは口を開いた。
「えっ?絶好のチャンスじゃん」
まさにその通りだ。仕組まれたかの様なタイミングで、国王に召集されたのだ。
多分この機会を逃したらミラの誘拐は更に困難になる筈だ。
このチャンスを逃す訳にはいかない。
俺とアリスとマリアは、騎士の到着を待つ為ギルドに向かった。
出来ればマリアを連れて行きたくは無いのだが、どうしてもついて行くと聞かないので仕方なく連れて行く事になった。




