24.薬草採取
ギルドにやって来た。
昨日は久々に何もない1日でゆっくり出来た。そのお陰で、疲れは全くなくて絶好調た。
今日は調子を確かめる為に簡単なクエストを受けるつもりだ。
掲示板の前に立って難易度の低いクエストを探す。
「どれにしようか。」
アリスが俺の問いに答えて、1枚のクエストを指差した。
「これ!」
「薬草採取のクエストか。」
内容はポーション作りに必要な3種類の薬草を採って来て欲しい。
カカゲ草、イミジ草、フルル草、それぞれ5つずつと書かれていた。
そしてアリスが何故これを指したのかは、依頼主を見て理解した。<シーラ>という見覚えのある名前。確かマリアの祖母がギルドに薬草採取のクエストを依頼しに行ったと言っていた。
恐らくこのクエストがそれなのだ。あの薬屋の店名が<シーラ>だった筈である。
これも何かの縁だ。薬草採取のクエストを受ける事にしよう。
受付でクエストを受ける時に受付嬢さんから薬草について書かれた本を貰った。
薬草の見分け方が載っている親切な本である。知識が無い駆け出しの冒険者でも、薬草を間違えずに採取出来るようにとギルドが配慮してくれてるみたいだ。
本に目を通してみたけど、どれも同じに見える。同じに見えるのに効果が全く違うから尚更厄介だ。
このヒヒタギ草は毒素を抜く効果をもっているのに対して、見た目が良く似ているシシクル草は猛毒を持っていると書かれている。
薬草については専門家の目が必要そうだ。無闇に採集してしまいそれを良く調べずに薬にしてしまったりしたら、最悪死んでしまう恐れがある。薬草に関しては慎重にならないとな。と心に決めた。
薬草採取の為に町から1時間程歩いた所にある小規模な森林地帯にやってきた。
町から近い森林なのだから冒険者に依頼せずに自分で、採取すれば良いじゃないかと、思うだろうがそれは普通の人には無理だ。
町の近くとは言えこの森林には小型の魔物が多くいる。
確かに個々では弱い魔物ばかりでも、群れを成して襲って来たら冒険者であっても対処は難しいだろう。
だからこそ一般の人達は報酬を払ってまで冒険者に依頼するのだ。
森林地帯に入ってからもアリスはずっと薬草の本を読んでいた。
覚えたての字を読むのが楽しくてしょうがないのだろう。
「覚えた。」
小さな声でボソッと言った。
「何を覚えたの?」
「薬草の事、全部覚えたよ!」
まさかそんな事は無い。俺でさえ理解出来なかった薬草の見分け方をほんの小一時間で、暗記するなどあり得ない。だけど、優しく褒めてあげる。アリスは俺に褒めて貰いたくてそう言ったのだと俺は考えたからだ。
「すごいね!じゃあアリスに薬草を見分けてもらおうかな!」
「うん!任せて」
アリスが小走りになって、木下に生えてる薬草を採った。
「これはシルミド草。由来はシルミドっていう木の周辺に生えるからその名前になったみたい。」
「へ、へえ、、」
おいおい待てよ!本当に暗記してるんじゃないか?適当を言ってる様には思えないし、嘘を言う必要も無い。
もしかして天才か?そういえばステータスの賢さの数値は、殆ど俺と変わらなかった気がする。もしかしたら、既に追い抜かされてるかもしれないな。
アリスはまた小走りで薬草の方に向かっていく。
前方にある背の高い草がザワザワッと揺れた。その揺れた場所から2メートル近くある細長い生物が飛び出してきて、アリスに襲いかかった。
アリスは完全に油断している。
「フーゴ!」
俺の呼び声に応じてフーゴが参上する。フーゴは出現と同時にアリスに襲い掛かった生物を弾き飛ばして、アリスを守った。
鋭い牙でこっちを威嚇するのは、黒い蛇だ。
フーゴに投げ飛ばされて更にこっちを警戒している。
「ありがとう。フーゴさん」
種族名:ダークスネース
LV:11
脅威度:☆
脅威度は低いが魔物というだけあって、人を殺す程の毒を有している上に動きは俊敏だ。
正面からの勝負であれば俺達が負ける筈は無いのであるが、さっきの様な奇襲だといくら格下とは言え脅威だ。
こういう事もあるからこの世界は油断出来ない。
「ダークボール!」
アリスがダークスネークに一撃放つ。
ダークスネークは、避ける間も無く、首を吹き飛ばされその場で絶命した。
呆気ないと言えばそうだが、そもそもレベルの差がかなりあった。当たり前の結果なのだ。
核を拾って薬草採取を再開した。
使えそうな薬草は積極的に拾っていった。
薬草を使ったジュースとか出来たら町の特産物として売れるかもしれない。
そんな事を考えていたが、別に実行に移す気はない。
アリスが薬草を暗記した事によって、効率良く薬草が集まっていく。
魔物が出る為冒険者以外は、殆ど立ち入らないという事もあって、薬草の類は大量にあった。
それに冒険者であっても、比較的報酬が少ない採取系のクエストを受ける物好きは殆どいないのだ。その為に薬草は増えていく一方であった。
魔物との戦闘も最初のダークスネーク以外は全くなくて快適だった。
群れをなした魔物の姿を時々見るが、俺たちの事を避けている様で直ぐに逃げて行ってしまう。
無闇に近寄らなければ向こうも攻撃はしてこないという事だ。
それでも一般人が、この森林に足を踏み入れるのは危険だ。
実際何もしなくても、ダークスネークに襲われたのだし、危険は所々に散りばめられている。やはり冒険者に頼むのが安全なのかもしれない。
水が流れる音が聞こえた。
その方向に歩いてみると案の定川があった。綺麗に透き通った水が緩やかに流れる川で、気持ちが良い風が吹いていた。
「涼しいね!」
アリスが微笑んで、俺に言った。
「そうだね。ここでお昼を食べようか!」
「うん!お腹すいた!」
時間的にそろそろお昼という事もあってちょうど良かった。
昼食は朝、宿を出る前にミルから貰った弁当だ。
「こういう所で食べると格段に美味しいよね!」
「うん!」
アリスの肩に小鳥が乗った。青い羽毛に覆われた綺麗な小鳥だ。
アリスは小鳥にパンを少しだけ千切って食べさせてそれを美味しそうに食べる小鳥を見て笑う。
「美味しい?」
心なしか小鳥が頷いた様に見えた。
昼食を終えた俺たちは、心地いい風によって睡魔がもたらされた。
それに耐えつつ薬草採取を再開した。
途中グリーンスライムの群れに遭遇したが、難なく撃退した。
川からだいぶ離れた場所に遺跡?の様な廃れた場所を発見した。
下に長く続く階段を降りていくと広い空間に突き当たってた。
そこには大きなゴーレムが一体倒れていて、動く気配は無い。
「なにこれ?」
「見た感じだとゴーレムだね。」
ゴーレムと言われても分からないみたいで、頭の上にハテナを浮かべていた。
「土とか石で出来た動く人形の事だよ!」
「そうなんだ!でもこれは動かないね。」
「そうだね」
ゴーレムに手を置くと力が吸い取られた様な倦怠感を感じた。直ぐに手を離したが、手遅れみたいだ。
倒れていたゴーレムは徐々に体を起こして、立ち上がった。
間違いなく俺の魔力を吸収して、動ける様になったのだ。
迂闊に触るもんじゃないと後悔したが、今はそれどころじゃない。
恐らくこのゴーレムは遺跡を守護する様にと、誰かが置いたものだろう。
それがいつからか魔力不足で動かなくなって倒れていた所に俺が魔力を与えてしまって再起動したのだ。
このまま放置すると色々と問題になりそうだし、俺が巻いた種だ。始末は俺がしよう。
「炎の精霊サラマンダーよ!その紅き意志を我の剣に授けよ!<ファイアーエンチャント>」
ゴーレムには大体炎が効かない事は分かっている。それでも一応炎を試してみたが、やっぱり効果はなかった。
ゴーレムの属性的に土であるから、炎は効かない。それなら水か。
「<ウォーターエンチャント>」
剣に水を纏わせて、ゴーレムに斬撃を飛ばす。
「<水切弾>」
腕を吹っ飛ばす事に成功したけど、直ぐに直ってしまった。
ゴーレムの耐久性と回復力の高さは異常だ。
動きが遅くて攻撃は当たらないが体を破壊しても直ぐに再生する回復力。まさに不毛を極めた戦いである。
「エレンお姉ちゃん、どうするの?」
「う〜んどうしようかな」
何か倒す術は無いかと検討していた所、良い案が思いついた。
それは<形態操作>を使って、ゴーレム自体の形を無力な物にしてしまうのが、手っ取り早い方法だと思い付いた。
でも罪悪感がある。恐らくゴーレムに意思はないだろうけど、人に似た体をした物の形を弄るのは非道徳な気がした。
しかし、このゴーレムを完全に壊すのは勿体無いという気もする。
ゴーレムには弱点である核が存在している。そこを見つけ出して破壊すればゴーレムを倒せるだろうけど、こんなレアな代物を簡単に壊すのは気がひけるのだ。
ゴーレムの腕に触れて<形態操作を発動した。
「ごめんな!また今度直してやるからな!」と心の中で呟いて、そのまま形を丸くボールの様にしてポーチに閉まった。
それから最初の目的だった薬草採取から、お宝探しに変わった。
遺跡と言えば宝箱が置いてあるのが常識である。しかし、この何も無い部屋以外に部屋は存在していないらしく、他の部屋へと繋がる扉が何処にも見当たらないのだ。
宝を期待したのだが、とんだ期待外れである。まあゴーレムという貴重な物を入手出来たのだ。それだけで十分だと自分に言い聞かせた。
それから遺跡を出て、残りの薬草を採取してから町へと戻る。
町までの道中に何匹かのスライムを倒して、その日の薬草採取クエストは無事に終わった。
受付嬢さんに森林にあった遺跡の事を話すと、初耳だと言っていた。
俺の感触では調査をする程の価値がある様には思えなかったので、受付嬢さんにもあそこは調べる必要は無いと伝えた。
本来であれば採取した薬草をギルドに渡せば良いんだが、ちょうどマリアにも聞きたいことがあったので俺が薬屋まで薬草を運ぶ事にした。
「いらっしゃい」
マリアの声では無く年老いた女性のダミ声が聞こえた。
「マリアのあ婆さんですね!」
「おお、マリアのお友達かい」
「はい。あとこれを」
お婆さんに薬草を渡した。
「ありがとう。良い薬草じゃ」
あ婆さんは薬草を引き出しにしまって、マリアを呼びに行った。
「また何か買いに来たの?」
「薬草を届けに来たんだよ」
「あぁお婆ちゃんのクエストを受けてくれたんだ!ありがと!立ち話もなんだし奥に来なよ!」
そう言われて薬屋の奥に進んだ。奥には本格的な仕事道具があって、一昔前の研究所を彷彿とさせた。
「大きな鍋で薬草を煮ている風景を想像していたけど、そんな事はないんだね」
マリアは苦笑いした。
「それじゃ魔女みたいじゃない。私達魔法薬学士は、近代的な魔法を用いて薬を作るの!」
何が違うのかは分からないけど、本人達にはハッキリとした区切りがあるのだろう。
「まっ。椅子に座って楽にしてよ!」
近くにあった椅子に腰掛けて、室内を入念に見渡す。
アルコールランプっぽい物にビーカーとか、理科室で良く見る代物が多く置かれている。
道具はどの世界でも変わらないんだなと思った。
「薬草の組み合わせを教えて欲しいんだ」
「それが目的か!」
「うんお願い!」
「エレン。知識って安くないんだよ?」
等価交換って訳か。知識を与えるからそれに見合った報酬を寄越せとマリアは言っているんだ。
当たり前の事だが、今の俺が払える物でマリアが欲しい物は何だろうか。金か?
「何が欲しい?」
「アリスちゃんが欲しい!」
「冗談だよね?」
「あはは、冗談に決まってるでしょ!そうだね、じゃあ私からのクエストを受けてよ!そのクエストを受けてくれたら薬草の知識だけじゃ無くて、私の全てをエレンにあげるよ!」
マリアは俺を誘っているのだろうか。私の全てをあげるなんて、普通に生きていたら聞くことは無い言葉だ。
まあ冗談だと思うけど、取り敢えずその内容を聞く。
マリアのクエストなんて大した事ないだろうと侮って話を聞いていたが壮大な内容だった。




