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23.平穏な一日 2

 どうやらこの店の店主であるマリアの祖母は、ポーション作りに必要な薬草の採取をギルドに依頼しに行っているらしい。


 それで徹夜して新しい秘薬を作っていたマリアに店番をお願いしたのだが、余りの睡魔に負けてしまい、それを起こした俺を部屋に無断で忍び込んだ変態と勘違いをして憤慨したという運びになっている。


 薄暗い部屋を照らす為に一つ灯りをつけた。さっきよりかは明るくなったが、やはり薄暗いままである。


 明るくなった事でマリアの顔も鮮明に見える様になった。

 吊り上がった目と言ったがあれは眼鏡を掛けていなかった為に目を凝らしていたのが、吊り上がった様に見えたみたいだ。

 それでも少し吊り上っているのが特徴的と言える。赤茶色の髪の毛を長く垂らした女性らしい髪型。

 スラッとしている様だが胸は意外と大きい。身長は俺と同じか少し高いくらいだろう。

 ご自身曰く頭を良いらしい。一見非の打ち所がない様だが、目に滲ませたクマが物語る様にマリアは一度集中したら、それが終わるまで熱中してしまうタイプなのである。

 それに加えて少し天然も持ち合わせている。


「あ!可愛い!君名前は?」


 後ろに居たアリスに気づいて飛びついた。


 アリスは少し怯えながらも何とか名前を答えた。


「ア、アリス。」

「うんうん!アリスちゃんね!可愛い名前だね!で、君は何て言うの?」


 俺は二の次で投げやりに聞いてきた。


「私はエレン」

「エレンね!多分同い年くらいでしょ?敬語とかはいらないから気楽に話してくれていいよ。」


 薄暗い部屋に赤いコートを着ているからおとなしい人だと予想していたのだが全くの逆で、軽いノリで話しやすい。


「うん。そうする!」


 マリアも頷いて微笑む。


「それで何を買いに来たの?見た感じ冒険者だよね?じゃあポーションとか薬草とかでしょ!

 持病がある様にも見えないしね。」


 よく観察しているな。


 そういう所を評価されて魔法薬学検定第1級を取れたのだろう。

 まあ評価基準なんて知らないから何とも言えないけど。


「質の良いポーションと毒とかを回復出来る薬草かなんかが欲しいんだ」

「ちょうど昨日作ったハイポーションがいくつかあるよ!

 それと薬草を煎じて飲みやすい様に加工した丸薬も」


 引き出しから小瓶に入ったハイポーションと、丸薬が入った箱を取り出して言った。


 その二つを見ただけなのに<神眼>が発動した。


 ハイポーション:☆☆☆☆

 丸薬:☆☆☆☆


 薬の品質まで分かるのか。


 本当に便利な能力だ。まあ神の眼だからこのくらい見えてもおかしくないか。


「本当に良い品質みたいだ!」

「ほほう!エレンは鑑定の技能を持ってるんだね!」


 鑑定という技能が対象の性質とかを見抜くものなら、大して間違いではない。


「まあそれに近いスキルだね。そのポーションと丸薬を10個ずつお願い!」

「良いけど、そんなに持てるの?腰のポーチにはそんな量入らないでしょ?」

「大丈夫!実はこれ特別製なんだ!」


 腰のポーチを指して言った。


 マリアはじっとポーチを見つめてから納得した様に手を打った。


「すごい!空間を歪める事で見た目以上の物を収容できる様になってるんだね!

 高価な物で滅多に見られるものじゃ無いって聞いた事があるよ!」


 空間を歪めて、とか初めて聞いた。どういう原理で収納しているのかを知らずにただ便利な物だな!としか思ってなかった。


「良く知ってるね。確かに高かったよ!」

「それがあるなら問題無いね!ハイポーションと丸薬、それぞれ10個ずつで銀貨50枚。」

「意外と高いんだな」

「ウチは安い方だよ!他の店だったらハイポーション1個で、銀貨5枚の店もあるくらいだよ!」

「そうなのか!それじゃこの店に来たのは当たりなのか。」


 そう言って銀貨50枚をカウンターに置いて、ハイポーションと丸薬をポーチに入れる。


 ふと思ったのだが、<形態操作(メタモルフォーゼ)>を使ってポーションを作れるんじゃないだろうか。


 もしも出来たらこれからの冒険がかなり楽になるし、意外と値が張る回復アイテムを自給出来るのは金銭的にも助かる。


 まずは知識を得ない事には始まらない。ちょうど魔法薬学の専門家がいるんだ。知識を分けてもらおう。


「ねえポーションってどうやって作るの?」

「ポーションの値段が高いって聞いて、冒険者を辞めて薬屋でもやるつもり?」


 目を細めて疑う様に言った。


「いやそんなつもりはないよ!」

「あはは!冗談冗談!でも、ポーションを作るにはそれなりの知識が必要だよ!」

「うん。分かってる!」

「まあ基礎くらいなら教えてあげようかな!」

「ありがとう!」


 ポーションという概念をしっかりと理解出来れば何とか<形態操作(メタモルフォーゼ)>で、ポーションを作れるはずだ。


 マリアが小瓶に入ったポーションを目の前に上げて言った。


「まずポーションは何種類も薬草を組み合わせてそこに魔力を混ぜて仕上げた物なの。で、その薬草の組み合わせは無限にあるって言われてて、組み合わせによっては毒にもなり得るんだよ!

 だから、知識がない人が作るのはあまりオススメしない!

 例えば薬草に知識があって完璧な薬草の組み合わせだったとしても、混ぜる時に属性魔力を入れちゃうと性質が変わって毒になる事も多いの!」

「難しいな」

「そうだよ!私だって最近やっと質の良いポーションを作れる様になったんだから!

 それをいとも簡単にやられたら、自信がなくなっちゃうよ!」


 あまり自分のスキルに期待はしていないけどポーションを作る事に興味が湧いて来た。

 色々な薬草な組み合わせを考えるもの楽しそうだし、その組み合わせが実用的であるなら尚更良い。


 初めてで成功したらマリアのこれまでの努力を馬鹿にする様で失礼ではあるけど、まあ俺程度の人間に難しいと言われるポーション作りが簡単に出来る訳もないので試しに作らせて貰う事にした。


「このハイポーションと同じ薬草ってある?」

「あるけど基礎を知っただけじゃ出来ないと思うよ!」

「試しでやってみたいんだよ!」

「成功から学ぶ事より失敗から学ぶ事の方が多いって言うしね。

 まずはやってみるのが肝心だよね!分かった少し待ってて。」


 マリアは店の奥から薬草を取ってきた。


「この4種類だよ!」


 深い器に4種類の薬草が2枚ずつ置かれている。


 まずは<形態操作(メタモルフォーゼ)>で、薬草を液体に変化させる。

 物体の形を丸から四角とかに変えるのは難しいけど、固体から液体に変えるのは至って簡単だった。

 器の中でその薬草の液体に魔力を流し込みながら、混合させる。

<形態操作(メタモルフォーゼ)>のお陰で、ムラが無く完璧に混合する事が出来た。

 幸い俺には属性が無いので属性魔力が入ってしまう心配も無い。


 僅か1分くらいで作業を完了したが失敗する要素も無く質の良いポーションが出来た気がする。

 もしかしたら俺は天才なのかもしれないと自惚れてみたが、これもスキルによる恩恵だ。俺の才能では無い。


 器の中には緑の薬草からは想像が出来ない程、透明度が高い液体が出来上がっていた。


 それを見てマリアは「嘘でしょ!?」と目を見開いて驚いている。

 どうやら専門家の目から見ても良い物らしい。


「どうかな?」

「待って試すから」


 マリアはそう言って指の先を微かにナイフで切って、俺が作ったポーションを一滴垂らす。

 見る見るうちに傷口は塞がって、数秒で傷跡も残さずに消えた。


「これ私のより質が良いんだけど、、、」


 やってしまった。


 たった一度目の試みで、専門の学校にまで通ってやっと作れたポーションを簡単に超えられてしまった事にマリアはショックを受けた。


 俺がやった事はマリアの努力を馬鹿にするのと同等の行為なのだ。


 俺は直ぐにマリアに謝る。俺は別に悪い事をした訳では無いが、チートスキルによって人を傷つけるのは御免なのだ。


「ごめん」

「いや。謝る事は無いよ!私の作りが甘かったんだ!エレンのお陰で、もっと良い物を作ろうと思えたよ!

 ありがとう!それに私が考えた組み合わせで、ここまで良い物が作れるってわかったんだ!嬉しいよ!」

「うん。マリアの選んだ薬草は完璧だよ!組み合わせが良かったから、質の良いポーションが作れたんだ」


 これはお世辞とかじゃなくて本当にマリアの考案した組み合わせは完璧だった。

 俺はそれをただ完璧に調合しただけなのである。


「ありがとう!で、これどうやって作ったの?目を離さず見てたけど全く理解出来なかった。」

「スキルを使ったんだよ!物質の形態を好きに操作できるスキルのお陰で、難しいはずの工程を簡単にこなす事が出来たんだ」

「ふむふむ。そのスキル、、、羨ましいなあー!そんなスキルがあったら何でも作りたい放題じゃん!」

「まあ便利な能力ではあるけど、案外難しいんだ」

「へえ。そっか!エレンはスキルを使ってこの完璧なハイポーションを作ったんだね!

 じゃあ私は私のやり方で完璧なハイポーションを作ってみせるよ!」

「あぁ!マリアなら明日にでも出来るよ!」

「それは流石に言い過ぎだけど近いうちには出来るはずだよ!私はこう見えて凄いんだから!」


 魔法薬学検定第1級というのは伊達じゃないらしい。

 マリアの自信と根性はかなりのものだ。それだけ自分が学んできた事を信じているのだろう。

 俺とは違って堅実に知識と経験を積んで成長してきた事がよく分かる。

 それこそ俺に一番足りないものである。知識と経験がほとんど無い俺からしたら、どんな能力より羨ましいと思う。


「そうそう。アリスちゃんこれあげるよ!」


 マリアは小さな青い玉が付いたペンダントをアリスの首に掛けた。


「綺麗!何これ?」


 ペンダントの先に付いた青い玉を顔の近くまで近付けてアリスは言った。


「私にも分からないの!とある女の人に貰ったんだけど、今これをアリスちゃんに渡さなきゃってふと思ったんだ!

 私の見立てだと悪いものじゃないから、安心して首に掛けておいて!」

「うん!ありがとう!」


 マリアの見立て通り<神眼>で見ても悪い気配を感じない。

 多少魔力を感じるが暖かい雰囲気で、気持ちが良いくらいの魔力だから問題ないだろう。多分お守りの様なものだ。


 俺とアリスは薬屋を出て、次の店へと向かう。


 今の所、順調に欲しい物が集まっている。防具屋では防具の補修と強化が出来た。

 薬屋ではマリアと仲良くなれたし、質の良いポーションと丸薬を手に入れる事が出来、それに加えてポーションの作り方も教えて貰えた。

 満足以外のなにものでもないな!


 次に俺とアリスが向かう店は普通の服屋だ。

 俺とアリスが持っている服は2着しかない。今着ている服と、防具屋に預けた防具一式である。それ以外1着も持っていないのだ。

 その2着あれば問題無いのでは?と思うだろうが、やはり色々な服を着たい。着せたい。


 こんなに可愛いアリスが毎日変わらない服を着ているのは、華やかさに欠ける。いや、別に毎日同じ服でもアリスは可愛くて華やかだけど、やっぱり色々な服を着てもらいたい。

 お金に余裕がある事だし、私服を増やしても問題はないのだ。


 服屋を目指して歩いていたのだが、どうやら服屋というものはないらしい。


 新品の服を直接店で売るという文化はないみたいで、その代わりに仕立て屋がオーダーメイドで服を作ってくれるとの事である。

 まあアリスに似合う服であれば何でも構わない。


「いらっしゃい。」


 仕立て屋の店主のお婆さんが椅子に座りながら言った。


「この子に似合う服を仕立ててもらいたいんですけど良いですか?」

「可愛い子だねえ」


 お婆さんはアリスをじっくり見て、後ろの棚から布 生地を取り出した。


「この色とかどうだい?」


 黄緑色の鮮やかな生地だった。


「良いですね!」

「どんな服にしたいんだい?」

「あまり服に詳しくなくて」

「そうかい。じゃあわしの好きに作ってもいいんじゃな?」

「はい!可愛くお願いします。」


 お婆さんのセンスを信じて任せるしかない。アリスのついでに俺の服も仕立ててもう事にした。俺の服はついでだから大した物じゃなくて良い。


 それから採寸をして、お婆さんは直ぐに作業を始めた。

 服の仕立てが終わるのも、防具の完成日と同じ三日後だ。


 俺とアリスは三日後を楽しみにして店を出た。


 今日は予定通りクエストは受けない。明日からはまた簡単なクエストを受けようと思っている。


 防具が無くてもクリア出来る比較的安全なクエストを選んで、少しでもレベルの足しにするつもりだ。

 そして防具が完成したらクエストの難易度を上げようと思う。

 中級者向け位のクエストなら俺とアリスでもクリアできると思ったからだ。

 それにいつまでも掲示板の端にある余り物で満足していては成長しない。

 今の自分達にあった難易度のクエストを受ける事がレベル上げや経験を積むのに1番手取り早い。



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