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21.帰り道。

 馬車に流れ込んでくる風が心地いい。

 大変な夜を乗り越えた俺たちを癒してくれる様な優しい風と心地のいい太陽の光。


 良い朝ではあるが体は異常に疲れている。

 体は疲れていても脳が活発に働いている所為で眠れない。

 ガリウスというドラゴン男にメルエルという重力を操る男が所属している喰侵炎魔教の事で頭がいっぱいな所為でもある。


 あんな物騒な奴らに関わりたくは無いのだが

 そうも言ってられないのが現実だ。

 更に言えば喰侵炎魔教には更に強い奴がいる可能性が高い。ますます面倒である。


 あぁ何だか頭が痛い。


 なんでこんなに厄介事に巻き込まれてるのか。


 別に俺は厄介ごとが好きな訳じゃないのだが、どうやら厄介ごとの方が俺に好意を寄せているらしい。本当に溜息が出る毎日だ。


 もう考えるのはやめよう。頭がパンクしてしまう。


 アリスの方に目をやると、アリスも眠れないのか目を開けて天井をジッと見つめていた。


 何があるのか気になりそこに目をやると特に気になる点は無い。強いて言うなら、少し染みがあるくらいだ。

 白い壁とかにやけに染みがあると何故か見つめてしまうあの現象だろう。


 暇だからステータスを確認する。


 名前 :エレン

 種族 :人

 レベル :27

 攻撃 :283

 防御 :222

 素早さ :309

 魔力 :167

 賢さ :99

 ユニークスキル :<絵本の世界(ザ・ワールド)> <神眼>

 スキル :<形態操作(メタモルフォーゼ)>

 技能:<見切り> <剣術 中> <体術 中>

 魔法 :<エンチャント系> <ヒール系>

 耐性 :<物理耐性 中> <魔法耐性 小>

 加護 :<女神の慈悲> <大地の恩恵>


 レベルは7上がっていて、それに準じてステータスも上がっている。


 それはいい。俺が気になったのはスキル<形態操作(メタモルフォーゼ)>だ。

 前にステータスを見た時には無かった筈のスキルである。

 加護<大地の恩恵>の副産物として会得したスキルなのだろう。


 今回で分かった事が一つある。加護は高貴な存在から授かる事ができるという事だ。


<女神の慈悲>は女神エイルによって最初に授かった加護だ。そして<大地の恩恵>これは間違いなくガイアから授かったものだろう。


 重要なのはここからで加護を授かる事で、加護と一緒に特別な能力も付与されるという事である。

 例えば俺の<絵本の世界(ザ・ワールド)>に<神眼>、それにステータスの高さはエイルから授かった<女神の慈悲>によって付与された能力なのだ。

 そしてガイアから授かった<大地の恩恵>は<形態操作(メタモルフォーゼ)>を付属の能力として付与された。

 そう考えると加護の重要性が跳ね上がる。


 加護一つで戦力が一転するなんて事も、全然あり得る話だ。

 加護について一般的にどの程度理解されているかは分からないが、俺の見解としてはこんな感じだ。


 次にアリスのステータスを確認する。


 名前 :アリス

 種族 :人

 レベル :21

 攻撃 :73

 防御 :82

 素早さ :110

 魔力 :209

 賢さ :90

 ユニークスキル :<魔法固定(ロック)>

 スキル :<暗黒>

 技能:<魔素吸収>

 魔法 :<ダークボール> <影打ち(シャドウ・ストライク)> <黒の破裂弾(ダーク・バースト)> <暗黒地雷>

 耐性 :<物理耐性 小> <毒耐性 小> <暗黒耐性 中>

 加護 :なし


 圧倒的魔法使いと言った感じだな。


 恐らく魔力以外は一般的かそれ以下?なのだろうけど、魔力の伸びが異常である。

 それに加えて技能の<魔素吸収>で持続的に魔力を回復する。


 あれ?最強じゃね?技能とステータスが理にかなっている。もしかしたら俺より強くなるかも知れない。


<魔法固定(ロック)>は、魔法を固定する能力で間違いなかった。

<暗黒地雷>は、 <黒の破裂弾(ダーク・バースト)>と<魔法固定(ロック)>の合わせ技だろう。

 触れた瞬間に爆発するという性質を地面に固定して、地雷として機能させた応用技である。

 元々の地雷は加重によって爆発するらしいが、アリスの<暗黒地雷>は触れた瞬間爆発する性質を持っている。

 要は少しでもその範囲に触れたら爆発するという事だ。恐ろしい限りの魔法である。


 アリスは村で貰った紙とペンで字の読み書きの練習を始めた。

 その姿を見ていると一見普通の幼女なのだが実は凶悪な魔法を操る魔法少女なのだ。


 ギャップ萌えってやつか?


 いや、そんなギャップ萌えはねえよ!ってツッコまれそうである。


 無垢ゆえに危険なのかも知れない。

 正しい教育をしないとアリスは悪の魔法使いになって、世界を脅かす存在になり兼ねない。などと勝手な想像を膨らませて暇を潰す。


 とりあえずはステータスの確認はこんな所だろう。

 町までもう少しかかりそうだから、アリスの読み書きの練習に付き合うとしよう。


「あ、い、う、え、お、、難しい!」


 アリスが嘆く。


「頑張って!文字を覚えれば、色々と便利だから!」

「うん!頑張る!」


 覚える方法とかアドバイスをしたいけど、俺は生憎教えるのが下手らしい。

 頑張って教えようとしても、返って分からなくなったと高校の時の友達に教えるたびに言われた。


 別に頭が悪い訳じゃない。俺は論理的に考えるよりも、感覚的に考える方が性に合ってるんだ。

 フィーリングで生きてきた男に教えるという概念はないのかもしれない。

 その為アリスを応援する事しか出来ないのである。


 サッサッ。とペンを走らせる音が聞こえる。


 アリスは夢中になって一言も発さずひたすら紙に字を書いて行く。

 読み書きの練習に付き合うとは言ったが、そもそも何も出来ないし、アリスにはその必要もなさそうだ。


 また暇になってしまった。こういう時こそ新スキル<形態操作(メタモルフォーゼ)>の考察をするのが一番良いだろう。暇を有効活用しないとね。


 このスキルはガイアが何回か使っていたあの技だろう。

 地面を槍の様な形にしたり、壁にしたりと地面を粘土の様に自由自在に操っていた事を思い出した。


 恐らくあれを引き起こせるのが、このスキルなのだ。物の形を自由自在に変化させるスキル。


 これを上手く使えれば鉄を剣にしたり防具にしたりと色々と作れそうである。


 それだけで商売できる時が来るかも知れないな。冒険者に飽きたらそういう生き方も悪くない。


 さて。何で試そうか。まずは馬車を変形させてみてもいいかもしれない。


 いいや。やった瞬間投げ飛ばされそうだ。やめておこう。死にたくは無い。


 防具で試すか?それもダメか。もしかしたら激ムズで変な形になって直せないなんて事になったらショックがデカい。

 せっかく買った防具だ大事にしたいのだ。


 バッグに何かないか探すと銅貨が一つあった。

 お金で遊ぶのはダメだけどこれは元々銅だ。武器とか防具に使われる鉱物だから問題ない。筈である。


 まずは適当な形に変えてみよう。


 頭で変化させる形を想像する。

 正四角形を思い浮かべて掌に乗せたコインに魔力を伝播させる。

 すると銅貨が円を崩して、段々と角のある形に変わっていった。


 正四角形とは到底言えないが、歪な四角形にはなった。俺の想像した正四角形が歪んでたのが原因だろうか。


 お手軽なスキルかと思ったが、これはかなりの難易度である。

 的確な想像力が必要という事だ。でも逆に言えば想像力があれば何でも作れるという事だろう。


 次はもっとしっかりと想像してみた。


 どこにも歪みのない正四角形。誰が見ても間違いなく正四角形だと言う程の正四角形を想像してみた。


 上手く出来た。間違いなく完璧な正四角形だ。微塵のズレもない。


 正四角形を作れただけで少し誇らしかった。


 四角形を作るだけでこんなに時間がかかるのは、実践的ではないか。

 そらでもガイアの様に単純な壁やら先端を尖らせて槍に見立てる位は簡単に出来そうだ。そう考えると戦闘向きの能力だと言える。

 戦いの幅が広がるのは素直に嬉しい。


 アリスが思考を凝らしている俺の肩を叩いた。


「どうした?」

「紙、終わっちゃった」


 真っ白だった紙が黒い字で埋め尽くされていた。それも10枚全部をこの短時間で使い果たしたらしい。

 確認してみると丸みを帯びた可愛らしい字で、綺麗に書けていた。

 所々間違っているが、この短時間でここまで覚えられたのなら上出来だろう。


「うん!私より字が上手いし、良く書けてるよ!」

「わーい!褒められたー!」


 両手を大きく広げて喜んだ。


 ここまで大袈裟に喜ばれたら間違いを指摘出来ないな。間違いを指摘するのは今度にしよう。俺はいわゆる親バカらしい。


「次は文章の練習をしようか。」

「文章?」

「そう。今アリスが覚えたのが単語。文章って言うのは、単語を色々と繋ぎ合せて一つの言葉にするの。」

「難しそう、、」

「そうでもないよ!アリスだって話す時は上手く文章を使えてるんだから」

「そうなの?」

「うん!だから大丈夫!直ぐに習得できるよ!」

「わかった!」


 文章の練習はまた今度だ。紙はないし、もう直ぐそこに町が見えるのだ。

 眠れはしなかったけどかなり体を休められた。と言っても、今日ギルドに向かう程の体力はないのだが。


 ギルドに向かうのは明日にしとこうかな。今日は宿に帰ってゆっくりしたい。


「あっ!エッドさんお疲れ様です!今おかえりですか。」


 門番が親しげに馬車をひく男に声をかけた。


 そういえば馬車をひくこの男の人の名前を聞くのは初めてだ。

 別に聞く必要も無いし、教えようともしなかったから最後まで聞かなかったが、まさかの最後の最後に知る事になるとは。

 せっかく知ったのだから覚えておこう。またお世話になるかも知れないし。


「あぁ。これ」


 身分を証明するカードを見せて、馬車を町の中へと進めた。


 エッドさんは自分の所有する馬小屋で俺とアリスを降ろした。


「着いたぞ!」

「はい!」

「うわー!馬が一杯いるよ!」


 アリスの言う通り馬小屋の中には数十匹の馬が居た。いつか自分の馬を持つのも良いかも知れないなと、ふと思った。


「エッドさん助かりました!またお願いしますね!」

「あぁ。」

「それじゃ」

「さようなら!」


 宿に帰る前に小物を売っている店に寄って、分厚い本を購入した。アリスが文字の練習をする為のものだ。


 それから適当な店に入ってご飯を食べた。久々と言っても1日とちょっとぶりのまともなご飯は美味しかった。


 腹ごしらえを済ませた俺とアリスは直ぐに宿へと帰宅した。


「お帰りなさい!」


 ミルが元気良く言った。


「「ただいま!」」


 俺とアリスが同時に返事をするとミルは嬉しそうに笑った。


「二人とも汚れてるよ!着替えはあるの?」

「うん!前に着てた服があるよ」

「ケガとかはしてない?」

「私もアリスも殆どケガはない!」

「よかった!ご飯は食べたの?」

「さっき食べてきたよ!」

「そう。」


 やけに質問をしてくるな。

 そう思っていたらミルのお母さんが後ろから声をかけてきた。


「二人ともおかえりなさい。その子、二人がなかなか帰って来ないから心配してたんだよ。

 大丈夫かな?ケガをしていないかな?って。」


 笑いながら言うお母さんに対してミルは赤面して怒る。


「もう!言わないでよ!」


 そう言う事か。やけに質問が多いと思ったら俺たちの事が心配してくれていたのか。良い子だな。


「心配かけてごめんね!急ぎのクエストだったから何も言わずに出ちゃったんだ!」

「いや!いいの!冒険者ってそう言うものでしょ?」

「次からはなるべく言うから」

「うん。ありがとう!」


 心配してくれる人が居るって言うのは、なんか嬉しい。


 階段を上がって部屋に入る。


 1日ぶりのベッドが何故か輝いて見えた。このままベッドに飛び込みたい所だが、ミルに言われた通り服も体も砂とかで汚れているので流石にそれは出来ない。


 まずはお風呂だ。

 実の所、風呂に入るのにはまだ抵抗がある。かなりこの体には慣れたのだが、やはり風呂とかは罪悪感が拭えないのだ。

 自分の体って事は分かってるんだがやはり慣れないのである。


 まあそれでも入らないと行けないから躊躇いながらも入るんだけどね。


 レベルが上がっても、胸は大きくならないらしい。未だにアリスより小さい。


 いや待てよ!アリスは大きくなってないか?

 くっ、、、何だろう。この敗北感。胸の大きさで負けるのが、こんなにも悔しいのか、、。


 アリスは成長期だ。そんなアリスとは違って俺の胸は成長を辞めてしまったのだろう。悲しい現実に泣きたくなるがグッと涙を堪えて平然を装う。

 すると変に思ったらしいアリスが俺に尋ねた。


「エレンお姉ちゃんは、お風呂嫌いなの?」

「え?なんで?」

「なんかお風呂に入る時いつも暗い顔してるから」

「い、いや。」


 違う。違うんだ。風呂が嫌いなんじゃ無い。自分の胸が嫌いなんだ!

 いつもは気にしないけど、お風呂に入る時は嫌でも気になってしまう。

 そしてアリスの胸が否応なしに俺の心を傷つけんだ!アリスには分からないだろう。この悲しみが、、、。


「お風呂は好きなんだけど、ね、、。」


 どう説明すれば良いんだ?小さい胸を見せるのが恥ずかしいからとか言うのか?


 いや乙女か!しかも、それは自分の首を絞めてないか?


 適当に説明するしかないな。


「お風呂は好きだけど、裸ってどうしても無防備になるでしょ?だからもし敵が攻めてきたらやられちゃうなーって思うの!」

「そうなんだ。でも、お風呂に入ってる時に攻撃してくる人なんていないよ!」

「う、うん。そうだね。そう言われてみればそうだね。うん!なんか安心できたよ!」


 苦し紛れの言い訳だ。


 それでもアリスの胸の大きさに嫉妬しているだけだなんて言えない。

 お姉ちゃんの威厳を保つ為にも、アリスの前では見栄を張らないと。


 お風呂から上がってアリスの髪に櫛を通す。


「本当に白くて綺麗だよな」

「私も私の髪の毛好き!雪みたいでしょ!」

「そうだね。雪みたいだ!」

「うん!私エレンお姉ちゃんの髪の毛も好きだよ!」

「そう?」

「そう!何て言う色なの?」


 そうか。この世界でこんなに綺麗なピンク色は無いのか。


「ピンク色って言うの。」

「ピンク色。可愛い名前だね、、。」

「そうだね。」

「、、、、、、」


 アリスの返事がないと思ったらウトウトしている。今回アリスはよく頑張ってくれた。

 ユニークスキルと魔法の行使で大分疲れたのだろう。

 アリスにはゆっくり休んで欲しい。


 そう思いながら、布団に寝かせて掛け布団を掛けて、俺も一緒に横になる。


 まだ外は明るかったが、ベッドに寝転がって目を瞑ると直ぐに深い眠りにつけた。



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