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1.第2の人生

 

 死んだはずの俺には確かに意識がある。実は、死んでなかったとかそういうオチか?

 まさかそれはないだろう。あの出血で死なない奴なんて化け物だ。


  しかし、意識ははっきりしている。恋しかった指の感覚はあるし、さっきまでの寒気は収まっている。痛みは微塵も無い。


 妥当な考えとしては、天国か地獄に居るって事になるのか。

  それにしても閻魔大王の仏頂面も、天使の甘いフェイスも見当たらない。お出迎えが無いとか寂しいな。

 

「あーあー!おっ声出るじゃん。えーと、俺の名前は・・・なんだっけ」


  声が出たのは良いが記憶が破損しているらしいく自分の名前を思い出せなかった。

 頭を地面に強打したんだ。そりゃ記憶が壊れてても不思議は無い。


 声が出た事と記憶の破損以外に収穫無し。

 この際、記憶とかどうでもいい。取り敢えず誰かの声を聞いて安心したかった。


 暗闇にいるのは落ち着かない為、露骨に誰かを探そうと右往左往したりしていた。

 特に考えも無く真っ暗闇の先に手を伸ばすと、プニッという柔らかな感触が手に馴染んだ。

 何だろうと何回も感触を確かめる。


 形状はドラクエのスライムの様で、初めて触る手触りだ。

 例えるならスクイーズの様な柔らかさ。いや、それよりも遥かに柔らかい。先端にコリコリした突起物が付いているのが特徴的だった。


「やっ!あッ!辞めて」


 可愛らしい女の子の喘ぎ声が聞こえて、俺は唾をゴクリと飲み込み状況を整理した。


 まず何故女の子の喘ぎ声が聞こえたのか。この暗闇に潜んで居るその子に触れてしまったから。

 本題はここから、俺は一体何処に触れたのか。


 触りなれていないその感触に心当たりがある。というか、触り慣れていないからこそ良く分かった。最早、確信を持って叫べる。


 俺が触ったのはOPI。つまり乳房。いわゆるおっぱいだ。


 深呼吸をして、俺が出した結論が完璧であるのを確かめる為に再び手を動かした。揉みしだいた。

 結論、オッパイ。


「あっあっ!もう・・・辞めてってば!」


  少女の拒絶の言葉が聞こえた次の瞬間、揉みしだいていた右手の感覚が消滅した。


 違う、感覚が消えたのでは無く、腕を丸ごと吹き飛ばされたのだ。

 残された肩から何かが垂れる感覚だけがある。それを自覚すると燃え滾る様に痛くて苦しくなった。


「ああぁぁ!!何をしたんだ?」

「君が僕の胸を余りに揉むから、悪戯な腕を吹き飛ばしちゃったよ。逆恨みはやめてよね、悪いのは君だよ。謝るなら治してあげるけど?」

「ううぅ。揉みしだいて感触を噛み締めて御免なさい。生憎、俺は童貞だからおっぱいに目が無くて御免なさい」

「清々しいな君は!あはは。うん面白いから許す。そして治す。はい治った!」


 何言ってんだこのガキ?そんな簡単に治ったらお医者さんは要らねえっての・・・。


「治ってるぅーー!マジかよ、何者なんだあんた」

「まあ君達人間を統べる者とだけ言っておこうかな!キラン!で、何故に君はいつまでも目を瞑っているのかな?」

「目?目。目!この空間が暗闇なんじゃ無くて、俺が目を瞑ってたから暗闇だったのか」

「ブッハー!君は馬鹿か何かか?あはははは」


 目を開いた先には、エメラルドグリーン色の長い髪の毛に透き通った青眼の超絶美少女の姿あって、俺の発言がツボにハマったのか盛大に噴き出していた。


 腹を抱え床を叩いて笑いころげていた。そんな可愛げのない行動でも、何故か美しいと感じてしまう。


 美少女とか反則だよな。金に困れば、顔写真を売れば良い。まさに人生の勝ち組だ。俺的にはもう少し胸があった方が好みだけど。


「そろそろ笑い止んでくれないか。色々と確認したいんだけど」

「あぁ申し訳ない。まず君の置かれた状況を説明しようかな。えっと、まず君はちゃんと死んだよ」

「極論過ぎる!ちゃんとって何だよ!まるで俺が自らの意思で死んだみたいに言うな!」

「君は自らの意思で死んだでしょ?何が体は勝手に動いていただよ!笑かしてくれるね。ヒーローなら死なないよ?」

「うっ・・・」


 言い返す言葉が見つからなかった。その通りだ。ヒーローならば死なない。大事な局面でヘマをしない。

 俺は、ただ自分のエゴで死んでいった自殺した奴みたいなものだ。


「それなら答えてくれ。俺の判断は正しかったのか?神なら分かるだろ」

「あの行動が正しかったかどうか何て神である僕が決める事じゃない。なら誰が決めるのかって?そんなの君に決まってるだろ!君の行動だ。誰にも縋るなよ!君が正しいと思えるなら正しいんじゃない?知らないけど。現にあの子供は助かったんだしね」


 唯一の吉報を耳にして、安堵の溜息を吐く。無駄な死にはならなかった様でなりよりだ。

 神曰く、正しいか正しくないかは自分次第らしい。


「それなら俺は正しい。正しい行いをしたんだから、天国で良いよな!」


 神の少女は、薄く笑って長い髪の毛を人差し指に巻いた。


「君は図々しいな全く。天国に行きたいと言うなら送ってあげるのもヤブサカじゃ無いよ?けど、君はそれで良いのかい?天国はつまらないぞ。娯楽なんて存在しない。ただただゆっくりと進む時間の中で、のうのうと永遠の休日を過ごすだけの生活(地獄)。想像するだけで、亀になるよ」


 究極のスローライフか。考えただけで死んだ方がマシに思えるな。死んでるんだけどね。


「じゃあ地獄に落ちた方が良いってか?」

「地獄は辛いよ!降り注ぐ針に貫かれ。湧き上がる灼熱に体を燃やされるんだ。マゾヒストならばご褒美だろうけれど、君はそんな特殊性癖を持ってる猛者なのかい?」


 当然俺はマゾヒストでは無いので、地獄もお断りだ。

 けれど、それならば何処に行けば良いと言うのだ。あたかも少女は他に選択肢がある様に語りかけてくる。


「じゃあ俺は何処に行けば良いんだ。そもそも俺に選択肢なんて用意されているのか?」


 少女はニヤリと笑って「勿論」と怪しげに答えた。そして俺が更なる疑問を重ねる様とすると、それを遮って少女は話を続けた。


「君の選択肢は3つ。天国か地獄か、あるいは異世界か」


 思考が少女の言葉を飲み込むのに5秒も掛かった。


「あぁ。異世界ね・・・」


 否、理解していなかった。受け入れている様だが、全然受け入れていない。思考は既に停止していた。


「あれ?随分とあっさりしているんだね。もっと喚き散らすと思っていたんだけどな」

「喚き散らすも何も全然解っていないんだけど、異世界ってなに?何を異世界と定義しているんだ?」


「うむ」と、少女は顎に手を当てて考えている仕草を見せた。

 俺の質問に答えるために異世界の定義を考えているのだろう。

 直ぐに少女は、ひらめいたと言わんばかりに手の平を打って、咳払いをした。


「定義とやらは分からないけど、君の想像している褐色エルフやヌルヌルスライム、それにサキュバスとかが居る世界だよ」

「へ、へぇ・・・ふ〜ん」


 あまり深掘りされたくない内容を出された事に若干引いている。

 まるで、ベッドの下に隠しているR-18の同人誌を親に見つけられて、目の前でその題名を読まれた気分だ。軽く死にたい。死んでるけど。


「で、どうする?君が望む方を選んでくれれば良いよ!基本死者に選択権なんてないんだけれど、君は異例なんだ。ああ、ヒーローになりたいと言うなら、尚更異世界転生を勧めるよ!僕が君に力を施してあげるから、そこら辺の魔物なら余裕で倒せるよ」


 随分、異世界転生の選択肢を推してくるな。なんか胡散臭い気もするけど、天国で地獄の様なスローライフを送るよりかはマシか。


「なら異世界転生、神の加護増し増しでお願いします」

「承ったよ!」


 神の少女は、俺の額に紅く照るふっくらとした唇でキスをした。

 その感触は初めてのもので、思わず顔を赤く染めてしまう。しかし、悪い感触ではない。

 息子もスクスクと大きくなっていたからそれは確かだ。


「うん、これでオッケー!君にはちょっと特殊なスキルと、ステータス向上の加護を付けておいたから!スキルを使う時は<絵本の世界(ザ・ワールド)>って呟いてね!それが君の物語を具現化する力だから・・・君次第で何処までも強くなる力だ」

「うーん、強くなった感触は無いけど、まああんたがそう言うなら強くなったんだろう」

「勿論!」


 そうだ。ここまでしてくれたんだ。名前くらいは知っておきたい。


「名前を聞いてもいいか?」

「そう言えば名乗ってなかったね!僕は慈悲深き女神エイルだよ」

「エイルか。覚えた!次会う時は、また死んだ時だな!」

「そうだね。あんま死に急がないでよ!」

「あぁ!死なない様に頑張るよ」


 エイルは俺の周りに七色に光る幾何学模様を展開し始めた。


「その魔法陣から出ないで。そろそろ転生の魔法が発動するからさ。腕だけが転生とか嫌だろ?」

「嫌にも程がある。あっそうだ!俺、自分の名前とか覚えて無いんだけど、どうすれば良い?」


 エイルは軽く悩んでから答えた。


「うーん、エレンとでも名乗りなよ!」

「異世界っぽいな!それ頂くよ」

「最後に何か望みはある?ある程度なら叶えられるけど?」


 そうだな。俺の望みと言えばヤりたかったって事くらいだ。

 それなら美少女に囲まれる人生を送りたい。異世界ハーレムとか王道じゃん。


「美少女・・・」

「あっ!もう転生が始まっちゃったよ!美少女?美少女に転生させればいいんだね?そのくらいなら一瞬で出来るよ!・・・はい!おけ!成功!」

「いや違う!そうじゃない!」

「えっ!?ははっ!まあ元気で。君の脳にその世界の情報を色々と入れておいたから、それを頼りに最初の町を目指して」


 否定をしようと声を張ったが、その声は届かなかった。

 魔法陣に吸い込まれる様に足から消えて行き意識が揺らいだ一瞬の内に景色が分かった。


 遥か遠くまで広がる緑の絨毯。北欧のとある景色を彷彿とする。

 太陽は空高くにある事から正午である事が分かる。

 心地の良い風が肩くらいまで伸びるサラサラでピンク色の髪の毛を靡かせた。


 こんな髪の毛知らない。それにヤケに女性らしい体付きだ。足がスウスウとして、男には不自然な爽快感を感じた。

 認めたくは無かったが、認めざる終えないのが現実。

 俺は顔を確認する為に近くにあった湖の水面に顔を映した。


 そこに映し出された端正な顔立ちの美少女に目を奪われたが、すぐにそれが自分である事を悟る。

 少しボーイッシュな雰囲気があり女子ウケも狙えそうだ。

 まあそれならハーレムを諦める必要は無さそう・・・か?


 無理矢理自分を納得させて、記憶に植え付けられた情報を頼りに町を目指す事にした。


 ここからそう遠くは無いらしい。それもエイルの配慮のお陰だろう。

 本当に感謝しかないな。ただ致命的な勘違いをされたが。

 それはまあ美少女という事で、水に流そう。


 町を目指して景色を楽しみながら歩いていると、目前に青いゼリー状の物体が現れた。


 見た目からしてスライム。ゲームとかで良く見るスライムとはビジュアルが違って、中身が丸見えで気持ち悪い。

 スライムは、序盤に出てくるお決まりのモンスターだ。難なく倒せるだろうけど、弱い相手でスキルを確認していた方が良いだろう。


「確か絵本の世界(ザ・ワールド)だったか」


 エイルに仕込まれた記憶によると、このユニークスキルは知識として持っている物語りを具現化する能力らしい。

 つまり童話とかの登場人物を出現させられるのだ。


 面白い能力だけど、癖が強いな。まあお試しという事で、取り敢えず使ってみるか。


絵本の世界(ザ・ワールド)マッチ売りの少女」


 眼前に炎が巻き起こった。それは次第に火力を増して、大きな炎となり人の形を作って、突然炎が消滅した。

 炎が消えた辺りに人の影がある。


「マッチはいりませんか?あらここは何処かしら?」


 炎の中から姿を現したのは、赤い頭巾を被った俺より少し年下の少女だった。

 辺りを見渡して不安そうに首を傾げていた。


「マッチ売りの少女、そのスライムを倒して」

「スライム?あぁこのヌルヌルのをスライムと言うのね。けれど私は倒せないわ。武器なんて持ってないもの。あるのは、このマッチだけ」

「燃やすとか出来ないのか?」


 マッチ売りの少女は首を横に振った。


「無理よ。けれどこれを使って武器を作る事は出来るわ!どんな武器がいいかしら?」


 言ってる意味が分からないが、やってみるしか無い。半透明なスライムの中心部には、核と思われる石のような物が見える。

 それを砕けば、多分倒せるだろう。

 それなら剣か槍。安全を考えるのなら、レンジの長い槍が良いだろう。


「じゃあ槍をお願い!」

「槍ね!それくらいお安い御用よ!ほら、マッチを一本擦れば、思い浮かべた物が現れる」


 そう言ってマッチ売りの少女がマッチを擦ると、そのマッチは立ち待ち炎に燃やされて、どういう原理か想像通りの長槍が少女の手に現れた。


「はい、これを使って」

「う、うん。分かった」


 槍には重みがあった。その槍をスライム目掛けて突き刺すとスライムは回避した。

 しかし動きは鈍く、回避時に生じる隙が大きい為、横に適当に槍を振ると的中して、呆気なくスライムは消滅した。


 残された核は割れている。これが綺麗な状態なら売ったり出来るらしいけど、砕けた物は無価値らしい。

 それにしても、マッチ売りの少女の能力は凄いな。作り出せる物に制限はあるんだろうけど、武器をその場で作れるのは、使い勝手が良い。

 これで商売も出来るんじゃないか?とも思ったが持続時間があるのか戦闘が終わると消えた。


「いやー本当に凄いよ!その能力」

「そう?うんうん。私もそう思うわ」

「君に名前はあるの?」

「無いわ。あるのかも知れないけれど、思い当たらない」


 物語のマッチ売りの少女には、少女の名前が書かれていなかった。最も知られた童話にも関わらず彼女の名前を誰も知らないのだ。

 悲しいな。せめて俺だけでも知っておいてあげたい。名前が無いというのなら、俺がつけてやろう。


「じゃあアンって言う名前はどう?」

「アン?アン・・・。アン!気に入ったわ!有り難う。名前があるって良いわね!それで貴方は何て名前なのかしら?」

「エレン」

「じゃあエレンお姉さんと呼ばせてもらうわ!」

「お姉さん?」

「え?お姉さんでしょ」

「あっ!そ、そうそう!お姉さんだよ!」


 女だって事をてっきり忘れていた。けどお姉さん呼ばわりは違和感を否めないな。

 一体慣れる時は来るのだろうか。


「エレンお姉さん、また困った時にでも呼んでくれるかしら?」

「うん!直ぐにでも呼ぶよ」

「うふふ、いつでも呼んで」


 マッチ売りの少女アンは、無邪気な笑顔を浮かべたまま何処かへと消えていった。


 俺の能力は、思っていた以上に壮大な能力なのかも知れない。

 捉え方によっては、一人の人間を作り出す事の出来る禁断のスキル。

 その事は心に留めておかないとな。



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[気になる点] これは途中で話が途切れているんですか?
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