17.ガイアの侵攻
日はすっかり落ちて辺りは既に暗くなっていた。
俺たちは食事を終えて、焚き火を4人で囲む様にしてガイアが来るの待っていた。
もしかしたら俺の思い過ごしという事もあるだろうけど、油断は出来ない。
「ユダラさんはそのデカイ剣を使うんですか?」
俺の剣の2倍以上もある大剣を指して言った。
「あぁ。ここら辺でたまに出る魔物をこれで退治してんだ。」
ユダラさんの屈強な筋肉がどこから来るものかと思っていたけど、魔物を倒す為に剣を振っていた事で鍛えられた体なのか。逞しいな。
「凄いですね。私より強いんじゃないですか?」
見た目だけだったら、明らかにユダラさんの方が強く見えるのは間違いない。
「お前の強さを知らないからな。何とも言えんな!」
「エレンお姉ちゃんの方が強いよ!」
俺を贔屓にしてくれるのはありがたいけど、そんなハッキリ言われると逆に自信がなくなる。
もし俺の方が弱かった場合、すこぶる恥ずかしい。
「そうか。アリスだったか?よっぽど好かれてるみたいだな!」
「そうですね。親みたいなものなんでね」
些細な談笑をしていた時、微かに地面が揺れているのを感じだ。
まだ遠いのか震度で表すと2弱程度だ。
一見、ただの地震に思えるが、時間が経過するのにつれて、どんどん揺れが大きくなっている。
「地震ではないよな!」
焚き木を踏み消して、村の前に出る。
まだ目視で確認する事は出来ないけど、震度は4程度まで上がっている。
木々が倒れる音。低く鈍い何かの音。鳥たちが逃げていく囀り。
音で敵の方向がわかったので、<神眼>でそっちを確認する。
巨大な岩と表現すれば伝わりやすいだろうか。全身に石を纏っているのか体の表面はゴツゴツしている。
ドラゴンというよりかは巨大な亀の様な存在を俺の瞳は捉えた。
「見えたよ!でも、あれはヤバイ!」
LV:???
脅威度:???
神眼で相手の情報を読み取れない。
イレギュラー過ぎる数値に神眼は戸惑っているのだろう。
あのハテナはレベルが低すぎて測れないって事だと助かるのだが、それはないよね。
恐らくこの場合の正解は逃げるという判断なのだろう。
どう見ても勝てる気がしない。魔人の時より強く感じるプレッシャーに足が動かない。
アリスも震えながら、俺の足にしがみつく。
「村には1ミリも入れさせねえぞ!」
ユダラさんが、デカイ剣を大きく振り上げて叫んだ。
俺たちの目と鼻の先まで辿り着いたガイアは足を止めた。
そのガイアの足にユダラは渾身の一撃を与えるが、ガイアは微動打にしなかった。
「固すぎる。これじゃ動く要塞だぜ。」
村の人達に期待させてしまった以上逃げる事は許されないので、俺も後に続いて突っ込む。
「フーゴ!アリスを守って!」
「了解した。」
これでアリスは一安心である。
「炎の精霊よ!我が剣にその紅き意志を授けよ!<ファイアーエンチャント>」
最大火力でガイアに一撃を与える。
近寄ると更に実感するガイアの大きさ。ユダラの言っていた通りまさに要塞の様なドラゴンである。
俺の一撃を物ともせず、ガイアに反応は無かった。
属性の相性的には、火が勝っているはずなのだがそれでも効いていない様子だ。
この要塞を落す事は可能なのか?
アリスも俺の後に続いて魔法を放った。
「影打ち」
アリスの魔法も通用しなかった。
早くもお手上げという感じであった。
ガイアは何もなかったかの様に一歩前進して攻撃を開始した。
スキル名:大地の叛乱
脅威度:???
ガイアは重い足を大きく上げて地面に向けて一気に落とす。
その衝撃による酷い揺れと共に地面から鋭い柱が飛び出してきた。
俺は<見切り>により無事に回避出来たが、一撃でこの威力というのは凄まじ過ぎる。
町程度の規模であれば一撃で崩壊してしまうだろう。
「みんな大丈夫?」
「私は平気だよ!」
「あぁ、俺もかろうじてな。」
馬車の男には事前に逃げてもらっておいて正解だった。
守りながら戦う余裕なんてない。
予想通りガイアが何かに操られているとしたら、フレートの笛で目を覚ませられる可能性は十分にある。
それが無理だった場合は神器を使うしかないのだが、あれは負荷が大き過ぎる為、最終手段だ。
まずはフレートからだ!
「絵本の世界。ハーメルンの笛吹き男。」
「よお!久しいな!」
「そうだね!早速で悪いけど、あのドラゴンの洗脳を解いてもらえるかな?」
「うわ!デカ!何だアレ。洗脳されてるのか?」
「確信は持てないけど多分洗脳されてる筈」
「オッケー!任せなよ!」
愉快に笛を吹きながら、楽しそうに踊るフレート。
ガイアの攻撃は停止した。
もしかしていけたのか?そう思った瞬間ガイアは咆哮した。
フレートの笛の音も聞こえない程に大きな声で、咆哮し続ける。
鼓膜が破れてしまうのでは、ないかと思う程に激しい咆哮だった。
フレートは耳を抑えながら、面食らった表情で戻ってきた。
「あぁ、あれは無理だ!洗脳はされてるっぽいけど最早あれは呪いの様なものだ!俺には無理!」
「そうか。分かった!有難う戻っていいよ!」
「そうするよ!それとアイツから人の気配がしたから、気を付けろよ!じゃな」
フレートはそう言い残して、笛の音と共に消えたいった。
フレートの言っていた人の気配とは、ソラタ村の村長が言っていたローブの男だろうか。
そうだとしたら、その男を倒す方が手っ取り早い方法なんじゃないか?
何にせよガイアの侵攻を止めなければ話にならない。
アリスのユニークスキルが何かに役立つかも知れない。
実戦で能力の確認を行うのは危険な気がするけど、ガイアを止めるには小さな勝ち筋でも通して行かないと勝機は見えないのだ。
多少の賭けくらいなら安いものである。
「アリス!魔法固定を使おう!」
「うん!でも、何が起こるかわからないよ!」
「とりあえず使ってみて!私が攻撃をするからそれに合わせて」
「わかった!」
まずは足から崩す。
<ファイアーエンチャント>で、足に向かって炎を飛ばす。そこにアリスのユニークスキルを使う。
俺の予想があっていれば魔法固定とは、消えるはずの魔法をその場に留めて置ける能力の筈なのだ。
「お願い!<魔力固定>」
消えるはずの俺の炎が、 ガイアの足に纏わり付いたまま離れない。
流石のガイアも持続的に燃えているのには耐え難いらしく足を大きく上げて後退した。
予想通りアリスのユニークスキルはその名前の通り消えるはずの魔法を能力そのままで、留めておく能力の様だ。
それなら足止めも可能だ。ガイアを倒すのでは無くガイアを洗脳してるであろう人物を倒す事が1番勝率が高い筈だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ガイアには微かに意識があった。
何故己が人を襲っているのか微かに残る意識の中で自問自答を繰り返す。
己はただ寝ていたはずだったが、いつの間にか体を起こして町を襲っていた。
微かにある意識は、己の行動を客観的に見る事は出来たが、体を制御する事は出来なかった。
その時察したのだ。己は、何者かに操られているのだと。
己の心が軋む音が聞こえる。
何故、己は愛する人族を襲わないといけないのだ?
何故、人族を喰らわなければいけないのだ?
己に疑問を問いかけたが答えを返す事は出来なかった。
この体の硬さはエーダー森林を守る為にあるのだ。
大地を操る力は、己を信仰する人々を守る為にあるのだ。
その己の力が、人族や森林を傷つける事に使われているのがどうしても苦しく、悲しかった。
無駄に強大な己の力をこれ程までに憎く思うのは初めてだった。
己の力は、守護する為の武器であり、エーダー森林に害をなす者を裁く為には必要不可欠な力であった。
それ故に強さを望み過ぎたのだ。
それ故に今という状況を生み出してしまったのである。
普通の冒険者じゃ、己には勝てない。
目の前で必死に戦っているお前では、己に傷を付けることすら叶わないだろう。申し訳ない。己は己の強さを知っている。だから分かるのだ。お前にはどうしようもないという事が。
せめて逃げてくれ。己はもう誰も殺したくないのだ。
熱い。熱い。熱い。
さっきも喰らったあの技が、次は凄まじく熱いぞ。
何故消えない?己の鱗にその程度の炎が通用する筈無いのだが。
そうか。持続的に熱を与えているのか。考えたものだ。
鉄に熱を加え続ける様に己の鱗に熱を加え続ける事で、熱を中に浸透させているのか。
だが、その程度じゃ無意味だ。足止めが出来たとしても、己を倒す事は出来ない。
久しぶりの痛みを懐かしく思った。
まだ人族が魔族と戦争をしていた時代。己も良く魔族と戦ったのものだ。
魔族は強かった。人族が勝つ事などあり得ない程に。
しかし、人族たちは勝利した。一人の青年の活躍によって勝利を収めたのだ。
懐かしい。
勇者よ。お前は己にこの土地を任せると言って去って行ったな。
己はお前との約束を守れそうに無い。己がこの土地を破壊し尽くしてしまうやもしれん。すまない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ユダラさん!ユダラさんの武器にエンチャントするから足を攻撃し続けてください!
アリスはユダラさんに合わせてロックして!」
二人とも頷いて、言われた通りに行動する。
ガイアが熱に動揺している内に背中へと登った。
意識が足へと向いている今、人間一人の行動を気にかける冷静さを操られたガイアは持ち合わせていない。
ゴツゴツした体は、本当に石の様に硬く戦う事の無謀さを強く実感させた。
全力で攻撃したところで、この体を砕く事は出来ないのは明白である。
敵対した時点で既に愚かな考えだと言える。
敵にしてはいけない存在とは、まさにガイアの様なものを言うのだろう。
背中に上がれたのは良いが、何処に操っている奴が居るのかわからない。それに時間も無いのだ。
俺が長引けば長引くほど、アリスとユダラさんに負担を掛ける事になる。
アリスにはフーゴが付いているから多少は安心だが、問題はユダラさんだ。
あの人は村を守る為なら死んでも良いと覚悟している。
身を犠牲にしてでも、ガイアを止めるという強い意志があるのだ。
それは生への執着心を薄めてしまっている気がする。ユダラさんが危険を冒す前に俺が決着を付けないと。
とは言え。敵の潜んでいる場所が分からない現状は変わらない。
呼べば出てくるか?いやそんな訳ないよな。
馬鹿でも反応しない筈だ。
でも、一応やっておこう。馬鹿よりバカで、ミスって返事をしてしまうかもしれないからな。
「おーい!誰かいるか?」
、、、、、、、、、、
反応がない様だ。当たり前のことだが、少し虚しくなった。
(この人間は馬鹿なのか。敵の呼びかけに応答する奴がいるわけなかろう。)
誰かの声が聞こえた。違う、聞こえたと言うより伝わったと言った方が正しいかもしれない。
耳で聞いたのでは無く、頭の中に音が直接伝わる感じだ。
(この人間に奴は倒せない。己でさえ操られているのだ。
かなりの強制力。魔力も凄まじいはずである。)
勘違いでは無い。鮮明にさっきの声が聞こえた。
頭の中で響き渡る声。トンネルで話している様な感じだ。常に音が反響している。
さっき俺の声に反応したという事は、俺からの声も聞こえるという事だろうか。
「おーい!君は誰だ?もしかしてガイアか?それとも敵さんですか?」
(ほう。己を呼び捨てで呼ぶか。生意気な人間であるな。)
嘲る様にガイアは言った。
ガイアは俺に声が伝わっている事にまだ気づいていないらしい。
「あんたの声聞こえてるよ!」
(何を言っているのだ?独り言にしては誰かと会話をしている様だ。)
「聞こえてるって言ってるの!」
(!?己の声がか?)
「そう。丸聞こえ!」
(何故聞こえる?己は実際に声を出していないぞ!)
「そんな事は知らないよ!何か聞こえたんだ!」
(ほほう。面白い人間であるな?)
「ねえ、自分で意識を取り戻せないの?そこまで、はっきりしているなら出来るんじゃない?」
(いいや。無理だ。己の意識の8割を既に奪われているからな。)
やはり操っている奴を倒さないといけないみたいだ。
「そうか。じゃあガイアを操っている奴が何処にいるか分からないかな?」
(うむ。集中すれば分かるはずだろうが、お前じゃソイツを倒せないだろうな!)
「大丈夫!倒すって決めてるから!」
(グワハハハ!愚かだな!)
ガイアは盛大に笑ってから黙り込んだ。
体の何処に潜んでいるのかを2割の意識を全力で集中して探し出しているのだ。
(あまり言いたくは無いのだがやむ終えない。己の顎の下にある逆鱗に潜んでいるみたいだ。
竜種の唯一の弱点である逆鱗だ。触れた者は即時に殺してやるのだが、己の体が奪われている以上仕方あるまい。)
「わかった。直ぐに助けるからもし触っても怒らないでよ!」
(己の気分次第であるな。)
「それじゃ助けない」
(くっ、、今回は許してやろう、、)
敵の位置が分かったので直ぐに向かう。
しかし、顎の下とは、即ち逆さまにならないと行けないという事だ。
敵も上手い所に隠れたものである。敵の位置を把握したとしても、そこからが至難の技という事だ。




