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14.決闘!!

 

 ギルドの中はいつもより騒ついていた。

 それに加えて俺がギルドに入った途端にヒソヒソと話す冒険者が多くなった気がする。

 何かやらかしたのだろうかと考えてみたが、特に思い当たる節はない。


 受付の方に向かおうとしたその時「なあ!」と肩を突かれた。

 振り向くと俺より少し年上くらいの男の冒険者が、顎を手で触りながら、俺を物色する様な目で見つめて来た。


 俺が「何?」と訊ねると、手に持っている槍の矛先を俺に向けて答えた。


「俺はカルメ!あんたが魔人を倒したっていう女冒険者かい?」


 細い目を微かに開いてカルメは、威圧的に言った。


「ふーん。俺の想像ではバケモンみてえにデケェ女を想像してたんだが、随分と可愛いらしい嬢ちゃんじゃねえか」


 褒め言葉というよりは、皮肉を含んだ言い方だったが、あまり構うのも面倒なので適当に返す。


「お褒めに預かり光栄だよ」


 カルメは舌打ちをした。皮肉を皮肉で返されたのが癇に障ったのだ。


「お前が魔人を倒した女だって言うなら、俺と戦え!お前の強さを俺に示してみな!」


 槍を俺の顔に突き付けて言ったが、俺にはコイツと戦うメリットが全くないので、戦うつもりはない。

 明らかにデメリットの方が多い。主に面倒くさいというデメリットなのだけど。

 それにアリスも怯えて隠れてしまっている。

 そもそも何故俺が魔人を倒した事を知っているのかと疑問に思ったが、答えは直ぐに出た。


 受付の背後にある掲示板に誇張して描かれた俺の似顔絵と魔人を倒した経緯について書かれた紙が貼られていた。

 魔人を倒したという事実は冒険者達にとって、一大ニャースなのだろう。それでも俺の許可も無しにそういう事をやられるのは困る。

 何に困るかと言うと、目の前の居る馬鹿が湧くから困る。

 馬鹿の申し出を一々受けていたらキリが無い。


「嫌だよ!私はこれからクエストに行くから、そんな暇はないの」

「お前!逃げるのか?」

「逃げるも何も、そもそも私が戦うメリットが無いじゃん。君が私に勝った場合、君は魔人を倒した女より強いという自信を手に入れられるだろうけど、私が君に勝っても何もないでしょ?」


 カルメは少し考えてから、ニヤリと笑った。


「それなら、お前が万が一にも俺に勝つ事が出来たら、この魔導書をやるよ!この前遺跡で拾ったもんだ。冒険者なら喉から手が出る程欲しいだろう。どうだ?」


 魔導書というワードに悔しくも反応してしまった。

 まさかそんな代物に出くわすとは思っていなかった。

 俺がここまで反応するのには訳があって、魔導書とは魔法が記された本の事で、その本を読む事により本に記された魔法を会得する事が出来る。

 アリスの様に元々属性を持っていて、独自の魔法を開拓できる者を魔法使いと呼び、魔導書を用いて魔法を行使する者を魔導師と呼ぶ。

 そして魔導書があれば、属性を持っていない俺でも魔法を使えるのだ!

 メリットが無いと思っていたが、十分過ぎるメリットが転がり込んで来た。

 これはチャンスだ。夢を叶えるチャンスなのだ。何としてでも、手に入れてみせる。

 俄然やる気が出た。


「そんな物をよく賭けれるね。自分で使おうとは思わないの?」

「俺にはこの槍さえあれば良い!貴重だろうが何だろうが、要らねえもんはこういう時に使う方が良いだろ?」

「そう。それなら受けても良いよ!」

「よしきた!じゃあ移動するぞ!」

「うん」


 魔法を使えるというのなら、このくらいの面倒は全然構わない。

 見返りが大きいし、負けたとしても失う物が少ない。俺には誇りとか無いからね。

 ギルドから出ようとした時、受付嬢さんが声を掛けてきた。


「あの!戦うのならギルドの試験場を使っても構いませんよ!外でやられるよりマシですので!」


 と、いう事でギルドの奥にある試験場を使わせてもらう事になった。

 学校の体育館一つ分くらいの規模で、2人が戦う分には十分過ぎる広さだ。


「立会人は私が務めます!ルールはどちらかが降参するか、意識を失ったら決着とします!武器、魔法は自由に使用して下さい!」


 受付嬢さん。俺より張り切ってるんだけど、もしかしてこういうの好きな感じですか?

 見た目とは違った趣味に驚いたけど、魔導書の為にも全力で頑張ろ。


 鞘に収まっている剣を抜いて、感触を確認する。

 問題なし、体も動く。痛みもない。先日の反動は恐らく完治している。

 アリスが少し心配そうな眼差しを送ってくるので、笑って大丈夫と、ピースサインを送り準備万端!


 カルメも槍を振り回して調子を確認していた。あっちも調子が良さそうだ。


「それでは、このコインが地面に落ちた瞬間に開始とします!」


 一定の距離を置いてお互い構える。

 コインを投がなげられた瞬間、時間が止まった様に静かになる。


 "チャキンッ"コインが落下した。


「行くぞお!」

「はあ!」



 ほぼ同時に突っ込んだが、先に攻撃が到達したのは槍だった。

 その長いレンジを活かして距離をとって攻撃を仕掛けてくる。


「どうだ?」

「くッ」


 少し苦戦している雰囲気を出してみたが、実の所、カルメの攻撃を避けるのは難しい事ではなかった。

 スキルの<見切り>のおかげで、何処に攻撃が来るかが、大まかに予測出来るので、当たる事は無い。


 余裕がある戦いなので<神眼>の能力を確認する事にした。

 真面目に戦っているカルメには悪いが、利用させてもらう。

 目に魔力を込めると目が熱くなるのを感じた。痛みは無い。

 自分では目に変化を実感出来ないけど、相手から見たら何か変わっているのかも知れない。


 襲いかかってくるカルメに目をやるとカルメのレベルや驚異度などが浮かび上がった。


  個体名:カルメ

 LV:17

 脅威度:☆


 どうやら眼に魔力を込めた時に敵のレベルと脅威度などが、表示されるらしい。


<神眼>で、脅威度とレベルを見極めてから戦うかどうかを決めるという安全な行動か出来るのは、冒険者としてかなり大きい。


「おいおい!避けてるだけじゃ勝てないぜえ?」


 威勢の良い声を上げて、突っ込んでくる。

 突進しか能が無いのか!とツッコミたい所ではあるけど我慢しよう。

 カルメは自分の方が優勢であると錯覚している。そらも無理は無いけど一撃も当たっていない事を考慮して欲しい。

 俺が防戦一方の様に振る舞っている為、カルメは頭を使った攻撃は必要無いと判断したみたいだ。だから単純な刺突攻撃を繰り返している。


「仕留める!はぁああーッ!!」


 スキルを発動する為に魔力を槍に込め始めた。

 この目には、その魔力の流れが良く見える。

 それに加えて<ディスターバンス・スピアー>というスキル名まで表示された。

 脅威度が一つ上がって、星二つになった。


 ここまで分かっていれば、避けない手はない。と言うか<神眼>によるスキルの解析と<見切り>による動きの先読みで相手の行動パターンが手に取るように分かる。

 そもそも俺とカルメでは、実力に差があり過ぎる。カルメには最初から勝ち目は無かったって訳だ。


「喰らえ!ディスターバンス・スピアー!!」


 相手が今から使う筈のスキルを既に知っているというのは、未来を見たような感覚に陥る。


 カルメの攻撃を華麗に避けて、背後に回り込む。

 カルメは避けられる可能性を考えていなかったのか、次の攻撃を仕掛けてくる挙動が無い。かなり自分のスキルに自信があったらしい。


<神眼>の能力も分かった事だし、とりあえず勝つか。


 棒立ちしているカルメの首に剣を突き付けて、先端をほんのりと当てる。


「降参して」


 カルメは自分の唇を噛んで、不服そうな顔をしたが、素直に降参した。


 受付嬢さんの合図で試合終了。勝者である俺には、約束通り魔導書が渡された。

 気付かないうちにかなりの観客が集まっていたらしく、歓声が煩いほど上がっていた。


 カルメが顔面蒼白で俺に言った。


「はあ、あんたの強さは異常だ!あんた俺と戦ってる時も他の事考えてたろ?」

「あはは!まあね」

「やっぱり・・・まだ名前聞いてなかったな」

「私はエレン。」

「エレンか。覚えておく!じゃあな!」


 さすらう様に現れて。さすらう様に消えて行った。

 なんかカツアゲしたみたいで、少し気がひけるが、まあ突っかかってきたのは向こうだし、良いよね。

 心置きなく使わせてもらおう。


 決闘が終わると騒ぎ立てていた観客達は何処かへ散らばって行った。

 俺はいつも通り受付へと向かった。


 受付嬢さんが、苦笑いで労ってくれた。


「お疲れ様です。大変でしまね」

「あはは。まさかギルドで絡まれるとは思ってなかったです。それにしても、受付嬢さんはノリノリでしたね」

「そうでしたか?」

「はい!」


 受付嬢さんは、照れて顔を赤らめた。


「そうですか・・・はは。実は、ああいう熱いの好きなんです・・・ あっ、これ先日の報酬です!」


 話を無理矢理切り替えた。

 あまりさっきの事を弄られたくないのだろう。それなら弄る気は無い。


 今回の報酬は銀貨460枚。多くの命がかかっていただけあって、普通のクエストの何倍もの報酬が出た。


「確かに受け取りました」

「はい。エレンさんとアリスちゃんが無事に帰って来てくれて嬉しいです!」

「今回は危なかったんですよ。運が無かったら、今頃死んでいたと思います」

「運も実力の内ですよ!それに魔人を倒すなんて、凄すぎです」

「ギリギリでしたけどね」

「そうですか。今日もクエストを受けるんですか?」

「その気です。少し難易度を上げようと考えてます!」


 クエストが張り出されている掲示板の方に向かってクエストを吟味する?

 アリスは受け付けに残って受付嬢さんと話をしているみたいだ。

 何回か顔を合わせているから慣れたのだろう。

 よかったよかった。アリスも段々人に慣れている。

 このまま順調に行けば、アリスの抱く人への恐怖を払拭できる日も近いだろう。


 さてと、クエストはどうするか。スライム退治、ゴブリン退治、ドラゴン退治か・・・うん?ドラゴン?


 内容は、村を襲う凶悪なドラゴンから村を守って欲しいとの事だ。しかし。残ってるクエストの中で格段に難易度が違う。

 一見、ゴブリンやらと並べられているから簡単そうに思えるけど、この世界に於いてドラゴンは魔物の中でも最上位種の一つだ。


 それが平然と貼りだされているのは異常事態。

 そんな事も言ってる程の余裕は無いみたいで、クエスト内容の概要欄に至急助けを求むと明記されている。

 ドラゴンが村を襲っている事態で、問題なのだが、このギルドは何を考えているのやら。

 俺はこのクエストを受ける事に決めた。魔人の時の様に手遅れかもしれないが、それでもまだ助けられる命があるのなら助けてやりたいと思った。


「これを受けます!」

「ドラゴンから村を守るですね・・・えっ!?ドラゴン?」


 受付嬢さんも、俺と同じ様に驚いていた。

 この人はクエストを把握してないのか?それとも、天然すぎて素通りしてしまったのか。


「こんなクエストあったんですか!?あっ!すいません。報酬が余りに安すぎて、弱い魔物のクエストと勘違いしてました!」


 おいおい!それはアカンやろ!と言っても、このクエストは難易度に反して報酬が非常に安い。

 受付嬢さんの勘違いが、無くても誰も受けなかった筈だ。

 その為、俺が受ける結果になるのは必然的だった。最早運命だ。


「しっかりしてくださいよ!至急って書いてありますし手遅れになる前に向かいます!」

「は、はい!お願いします!」

「じゃあね!受付のお姉さん」


 アリスが手を振る。受付嬢さんも、返す様に手を振った。

 エリクから離れた村なので、馬車を手配して向かう事になる。


 とりあえずの食料と水とか、最低限の必需品を乗せて村を目指して出発だ。


「で、どこの村だ?」


 馬車をひく男が訊いてきた。


「ソラタ村ってところです」

「あぁ。エーダー森林を抜けた先にある村だな!」

「多分そうです!急いでどのくらいかかりそうですか?」


 男は少し考えてから答えた。


「問題なく行けたとして、5時間だな。」

「わかりました。それじゃお願いします!」

「はいよ!」


 間に合えばいいのだが、正直言って無事である可能性は低いと思う。

 現時点で村が襲われてから、かなり時間が経っている筈だ。

 それに加えて俺が向こうに到着するのに5時間か。


 俺が着く頃にはもしかしたら・・・いいや無駄な想像はしないでおこう。



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