9.アリスの魔法
「アリス、そのスライムに魔法を打って!」
「う、うん!光を穿つは、黒の真髄。えいっ!ダークボール!」
詠唱を唱えると、構えた杖より魔法陣が形成され、そこから黒い球体が、スライム目掛けて放たれた。緑色のスライムはアリスの攻撃により絶命した。
魔法攻撃によってスライムを倒すと、核に傷がなく綺麗な状態で核を手に入れる事が出来る。
本来その核は、魔物を倒した証としてギルドに持ち帰るのだが、傷がなく綺麗な状態だとギルドで買い取ってもらえるらしいのだ。
剣や槍などで倒す場合には、急所である核を直接狙うのが手っ取り早いので、殆どが核を壊してしまう。
その為核を売るというのは魔法使いの特権の様なものなのだ。
それにしてもアリスの魔法は中々の威力だ。
下級の魔物相手なら、俺よりアリスの方が素早く倒せるだろう。核も綺麗に獲れる。有能過ぎるよ。
今回受けたクエストが、グリーンスライム10匹の討伐だ。
グリーンスライムとは、森に生息している緑色のスライム。
最初は楽なのからやろうとの事で、これを選んだのだが、楽過ぎて退屈に殺されてしまいそうだ。
唯一の救いが、アリスの奮闘する姿を見れるという点のみ。
一応俺がアリスの前に盾役として立っているが、向こうが攻撃を仕掛けてくる前に勝負は付いている。
俺の存在価値とはいったい・・・。
まあ油断大敵なんて言葉もあることだし、怠る事は無いけど本当に退屈なのだ。
俺が、倒したスライムの核を集めていると、後ろの木陰からスライムが突進してきた。
間一髪の所で剣で弾いたが、こういう事があるから油断出来ない。
今のスライムで、7匹目か。一撃で倒れてしまうから大分ペースが早いな。
アリスに魔法を慣れさせる為に簡単なクエストを選んだのだが、ほんの数分後には呼吸をするかの様に魔法を使いこなしている。
天才なのか、これが普通なのかは分からないけど、魔法を扱えない俺からしたら凄い事だ。
魔法を使ってみたいという気持ちは誰よりも強いのだが、自分のスキル一覧に魔法の類は一つも見当たらなかった。
これから先に使える様になる事を祈るばかりだよ。
そんな事を考えていると、アリスが言った。
「エレンお姉ちゃん!新しい魔法を使える気がする!」
一つも使えない俺への当て付けか?と思ったが、こんなに早く二個目の魔法を使えるようになるとは、やはり天才なのではないかとも思う。
お手並み拝見だ。
「そこのスライムに撃って」
頭を縦に振って、杖を目の前に掲げて唱える。
「微かに潜む闇の使徒。我が汝の力を使役する!いけえっ!影打ち」
スライムのいる位置まで伸びたアリスの影は、木の根っこの様な形になり地面から這い上がって、すかさずスライムを滅多打ちにする。
もはや物理攻撃だろ!と思ったが、スライムの核は綺麗なままドロップした。
れっきとした魔法攻撃みたいだ。それにしてもえげつない魔法で驚いた。
可愛い顔をしているアリスがこんな魔法を使うと知ったら大抵の人は驚くだろう。驚くどころか引くかもしれないな。
詠唱している時のアリスからは、勇ましさすら感じる。ギャップ萌え的なあれだな。
ともあれスライム10匹の討伐は難なくクリアした。
しかし、物足りない。初の冒険者らしいクエストが、俺の活躍無しで終わるのは寂しいのである。
このまま帰るのもあれなので、森の奥に入ってみる事にした。
勿論アリスが厳しそうなら、無理して奥に入る様なことはしないが、アリスはまだ平気な顔をしている。
アリスの魔力なら、この程度じゃ全然という事だろう。
このクエストを受ける時に聞いた受付嬢さんの話によると、森の奥にはスライム意外の魔物も多く生息しているらしく、危険度も高く、駆け出し冒険者にはオススメしていない区域なのだと聞いた。
森の奥には昆虫類の魔物が多く生息しているとの事だが、俺はあまり昆虫が好きじゃない。
カブト虫なんてゴキブリにしか見えないし、バッタやカマキリは、顔が気持ち悪いから嫌いだ。
奥に行く事を一瞬躊躇したが、好奇心の方が勝って、森の奥へと足を進めた。
「ねえねえ!見て」
「うん・・・やめてっ!!」
アリスが見せてきたのはイモムシだった。
小さくて緑色の普通のイモムシなのだが、俺は勿論イモムシも嫌いだ。
思わず手を払ってしまった。
虫は何処かへ飛んで行ってしまって、アリスは切ない眼差しで、芋虫の行く末を眺めていた。
「ごめんね。私虫が嫌いなの」
「ごめんなさい。嫌いな物を見せて」
しょんぼりして俯く。
いやアリスが悪いわけではない。強いて言うなら俺が悪いのだ。
「謝らないで、私が嫌いなのが悪いんだから!アリスは気にしないで」
「うん!わかった」
やっぱり笑顔が一番可愛い。
だけど、何か嫌な予感がする。今更、森の奥に進んだ事を後悔した。
ゴゴゴという何かが動く音が聞こえた。なんだこの音は?それに地面が揺れている。
地震?いや、違う!あの緑色の巨大な奴!あれは、芋虫だ!
巨大な芋虫が俺たちを目掛けて真っ直ぐに突き進んで来た。
イモムシは、立ちはだかる木々を薙ぎ倒して、御構い無しに前進する。
これはいわゆるピンチというヤツだ。とりあえずアリスを担いで全力で逃げるが、逃げ切れる気がしない。
木をいちいち避ける俺に比べて、向こうは全て倒して真っ直ぐに進んでいるのだ。
明らかにイモムシの方が早いのは、察しがつくだろう。
どうするよ!アリスの魔法じゃ無理そうだしな。
虫の弱点か・・・!
火だ!火があれば虫を燃やせる筈。火ならちょうどアンの得意分野だ。
アンは戦闘向きでは無いが、虫を追い払う程度の炎は扱える筈だ。
「絵本の世界。マッチ売りの少女」
炎を巻き起こしてアンが登場した。
その熱を察知してイモムシが、咄嗟に動きを止めた。
予想通り火に過剰反応している。本能的に火を避けているのだ。
「何日ぶりかしら。最近呼んでくれないから、寂しかったのよ!」
「申し訳ないけど、今は世間話してる暇は無いの!何か火をちょうだい!」
周りが見えていないアンが、初めて周りを見渡した。そして自分が呼ばれた理由に気が付いたのか、鬼形相で俺を睨んだ。
「私!虫嫌いなの!!」
「そうだと思ったけど、この場合はしょうがないでしょ!私も嫌いなの!」
火と言えばマッチ。マッチと言えばマッチ売りの少女。
必然的に繋がってしまうからしょうがない。
イモムシが、動き出さない内に畳み掛けたいのだが、アンは頰を膨らませて知らんぷりしている。
こういう場合の対処法は心得ている。
そう。食べ物で釣るのだ。しかも、アンが甘党である事は知っている。
「アン!ここを何とかしてくれたら美味しいお菓子を後で食べさせてあげるから」
「ほんと?」
よしっ食いついた!
「ほんとだよ!町に戻ったら私が作ってあげる!」
「エレンお姉さんお菓子も作れるんだ!それなら話は別ね。お菓子の為なら嫌いな事でも出来ちゃう!」
そう言うと、いつも通りマッチを取り出して擦る。
そのままの火では、到底イモムシを倒せるとは思えないが、アンは自信たっぷりな表情である。
「普通のマッチの火は小さいけど、私のマッチは無限の可能性を秘めてるの!さあ、あのイモムシを焼いて!」
小さな炎はアンの手元から離れて、ふわふわと宙を漂い停滞しているイモムシに燃え移った。
風も吹いていないのに炎は次第に大きくなり、遂には巨大なイモムシを丸呑みにする程の大きさへとなった。
ジリジリと燃える炎は、イモムシの動きを完封して、勢いそのまま炭に変えてしまった。
凄まじい炎だった。俺の勝手な決めつけで、アンは戦闘向きでは無いと思っていたが、そうでも無いみたいだ。
イモムシは、少し可愛そうではあるけど、魔物を倒すのが冒険者の務め。
しっかり核は拾ってから森を出る。これ以上進むのは危険だと思ったからだ。・・・別に虫が怖い訳じゃないからね!
物足りなさで知らない土地に無闇に足を踏み入れるのは、辞めた方が良いという教訓を得たのが、今回の一番の収穫だった。
ともあれ無事に済んだのは良かった。
アリスの魔法の事も大体わかった事だし、今日はこんな所で、帰るとしよう。
名前 : アリス
種族 : 人
レベル : 6
攻撃 : 32
防御 : 25
素早さ : 62
魔力 : 132
賢さ : 61
ユニークスキル : <兆し>
スキル : <暗黒>
技能:<魔素吸収>
魔法 : <ダークボール> <影打ち
耐性 : <物理耐性 小> <毒耐性 小> <暗黒耐性 小>
加護 : なし
アリスのレベルは3上がっていて、それに伴いステータスも上がっている。
ユニークスキルは、まだ発現していないみたいだが、魔法に於いては十分に強い。
可愛さと強さを持ち合わせた最強幼女に育つのもそう遠い話じゃないな。
育ってしまったら幼女ではない?そんな事はどうでもいい。気にしたら負けなんだよ!
アリスのステータスで、気がかりなのが、やはり防御力だ。薄すぎる。
俺のステを見た後だから弱く見えるのかもしれないが、それにしても25という数値は低すぎやしないか?
俺の防御力を分けてやりたいけど、ステを授けるスキルなんて生憎持ち合わせていない。
やっぱり俺が常に前に立って盾となるしかないのか。それでも良いのだが、不安が残る。
俺の代わりにアリスを守ってくれる奴がいれば安定した守りが出来るんだけどな・・・。
良い案を思い付いた!この指輪をアリスに渡せばいいんじゃないか?
指輪の魔神には、前もってアリスが危ない時に出てくるようにお願いすれば、可能な筈。
この案は、中々に妙案じゃないか。自動防御といっても過言では無い。
次のクエストの時は、これを実践してみよう。
部屋でフライパンを使ったパンケーキを作っている最中にそんな事を考えていると、アンの催促の声が聞こえた。
「まだなの!そのパンケーキ?っていうお菓子は」
「もう少しだから待ってて」
約束通りお菓子作りをしているのだが、俺が作れるお菓子はパンケーキとクッキーくらいだ。
それしか作れないの?と思うかもしれないが、男である俺が2つもお菓子を作れるという事をまずは褒めて欲しい。
女子力?なにそれ美味しいの?と、転生前は思っていた元男の俺が、フライパンを持ってパンケーキをひっくり返す。
最早完全に女子だ。少し悲しくなったが、そんな事も言ってられない。
この世界では美少女なのだから、この際女子力を上げても良いかもしれない・・・。辞めておこう。心は男でいよう。
「出来上がったよ!これがパンケーキだ!」
出来は上々。ふわふわモチモチのパンケーキ。
アリスもアンも目を輝かせて、ナイフとフォークを構えた。
「ふわふわだよ!ふわふわ!!」
「あーん・・・!?なにこれ美味しい!」
簡単料理でここまで喜ばれるとは、作った甲斐があり過ぎるってもんだ。
パンケーキの材料は、町にある店で手に入れる事が出来た。流石は商業が活発な町である。
流石にホットケーキミックスまでは、売ってなかったけど、他の物で代用出来るから問題なかった。
「へえ、エレンお姉さん料理上手いんだね」
「そんな事ないよ。簡単だから誰でも美味しく作れる!」
「簡単で美味しいって完璧ね!私も頑張った甲斐があったわ!」
「私も作った甲斐があった」
「ねえねえアンさんは、エレンお姉ちゃんの妹なの?」
「私は違うわ。妹と言うよりは、娘かな?」
おいおい!それは色々と誤解を生むから辞めてくれ。
俺の年齢とアンの年齢は、殆ど変わらない筈だ。見た目的にも娘というのは無理がある。
「うん?アンさんはエレンお姉ちゃんの子供なのにお姉さんって呼ぶの?」
何か色々とややこしいな。アリスも理解が追い付かなくて、困惑している。
「アリス、アンは私たちとは違う世界に住んでいてそこから来てもらってるの。こっちの世界では私の妹みたいな感じだから、娘ではないよ!」
更に複雑になってしまったが、アリスも頷いてくれている事だし良いか。
多分アリスは理解していないだろうけど。
「そうなんだ!じゃあアンさんも私のお姉ちゃんだね」
「・・・エレンお姉さん!?この子可愛いわ!」
「知ってるよ」
アリスのユニークスキルの一覧に<魅惑の笑顔>と付け加えて欲しい。
会う人全てを魅了するこの笑顔は、もはやユニークスキルと言っても過言じゃない。
もしかしたら、魔物にも効くかもしれない。
束の間の休息の後、ギルドに報酬を受け取りに行った。
グリーンスライム10匹の討伐により銀貨32枚。その核は銀貨10枚で買い取ってもらえた。
巨大イモムシの核一つで、銀貨62枚と銅貨20枚。
どうやら巨大イモムシの核は貴重で、値が張るみたいだ。
見た目からも嫌う人が多くて、討伐に赴く冒険者がいないとの事も、加味してその値段らしい。
とりあえずこれで当分の宿代が手に入った。
別にお金には困ってはいないが、その日の宿代くらいは、その日に稼いでおきたい。
やっぱり堅実にコツコツとお金を貯めてる人の方が将来上手くいくはずだからね。
次の日もまたクエストに出かけた。
今回も簡単なクエストだ。とは言っても、この前よりかは難易度の高いクエストを選んでみたが、難なくクリア出来るはずである。
内容はニードルラビット五匹の討伐。名前の通り頭に一本のツノを生やしたウサギだ。動きが素早く頭のツノの殺傷能力が高いらしい。
簡単とは言え危ない奴には変わり無い。まあ昨日考えてた案も、上手くいきそうだから大して心配はしていない。
昨晩、指輪の魔神に頼んでみたら問題ないと答えてくれた。因みに魔神の名前はフーゴに決まった。
由来は特にない。感覚で決めてしまった。
とにかく防御力は格段に高くなっているので、少し敵のレベルを上げたとしてもやっていけるだろう。
まずは一匹目。
「アリス、そこにいるから気につけて」
「うん!光を穿つは、闇の真髄。いけっ、ダークボール!」
感づかれたというよりは、アリスが躊躇った。
ニードルラビットは、アリスの魔法を避けて、こっちを警戒すると同時に鳴き始めた。
ピューピューと高く特徴的に鳴いている。
俺はこの行動が何なのかを察していたが、口に出したくなかった。
なぜかって?この後に来るのは災難。口に出したらフラグが立って、確実に災難に襲われる事になると思ったからだよ!
まあ口に出さなくても、恐らくその災難は訪れるけどね。
「アリス!周りを警戒して」
アリスにそう言って俺はニードルラビットに飛び掛かる。
避けるのは分かっていたから、避けた先目掛けて瞬時に剣で突く。
一匹目は仕留められたが、コイツは確実に仲間を呼んでいた。さっきの鳴き声の正体はそれだ。
群れを呼び寄せやがったのだ。
昨日のイモムシに引き続き災難続きで嫌になるな。
そんな事も言ってられないから、気合いを入れるしかない。
「アリス、ためらう必要は無いよ!相手も私達を殺すつもりなんだから、こっちも手を抜く訳にはいかない」
「う、うん。分かったお姉ちゃん!微かに潜む闇の使徒。我が汝の力を使役する!影打ち!数が多いよ・・・きゃあっ!」
一匹のニードルラビットが、アリスの攻撃を回避してアリスの懐に突っ込んだ。
普通だったら、その鋭いツノでアリスは負傷していただろうが、生憎防御に抜け目はない。
計画通りフーゴが現れて、ニードルラビットの攻撃を防いでくれた。
これなら安心して、攻撃に専念出来る。
一匹、また一匹とラビットを倒していく。たまにアリスのアシストもありながら、難なく群れを壊滅出来た。
一時はどうなるかと思ったが、何とかなるもんだな。
「エレンお姉ちゃん!さっきの人、何?指輪からでてきたよ!」
そういえば、まだフーゴの事を話していなかった。
「その人もアンと同じなんだ!名前はフーゴ。その指輪を擦ってみて」
疑問を浮かべていたが、言われた通りアリスは指輪を優しく撫でる。
「願いを何なりと」
煙と共に突然現れたフーゴにアリスは尻餅をついた。フーゴをマジマジと見つめて「大きい・・・」と小さく呟く。
こんな大きな人が指輪からいきなり出てきたら誰でも驚く。
アリスは、直ぐに立ち上がって言った。
「フーゴさんさっきはありがと!」
「礼などいらぬ。主の願いを果たしたまでだ」
とか言ってる割に嬉しそうだぞ。
願いを言って欲しそうにしてたから、散らばっているニードルラビットの核を一緒に拾うようにお願いした。
今回は剣で多くを倒してしまったから核はズタズタだった。
それでもニードルラビットは、核以外の部位、ツノとかもドロップするから意外と収穫は多かった。
スライムの場合は、核だけを残して消えてしまっていたが、魔物によって残る部分が違うみたいだ。
アイテムを全て拾った俺たちは町へと戻った。
今回は拾ったアイテムが多い分持ち帰るのが大変だ。
魔法のバッグとかが欲しい所なのだが、そんな便利アイテムが簡単に手に入る訳が無いよな。




