プロローグ 五月三日・夜 悩む時は…
「良し!出来た!!」
自分の部屋で満足そうに言った綴也の手には手紙があった。
それは文通相手でもある初恋の女性への手紙だった。
「このご時世に手紙でやりとりとは…」
「イギリスは八時間位時差があるから電話や通信は仕事中なら駄目かなって
…」
「成程…気遣いは出来るんですよね…貴方って…」
食後の運動に日課のトレーニングをこなして風呂に入り風呂から上がりPD
の手入れをして突然現れた女性の姿形をした電子製命体と何気ない会話をし
ながらも書き終えた手紙を封筒に入れ封をした。
「ふう…」
「どうしたんですか?もしかしてあの二人いや三人の事を考えてたんですか
?」
「うん…」
「綴也さんって色々問題ありますよね…」
「そう?かも…」
朝倉 綴也は色々と悩みを抱えていた。
第一に周囲の自分の印象が悪い。
それは大好きなスポーツを入学直後に辞めなければいけない程だった。
いずれは将来の夢の為辞める決断は必要だったとはいえまさか入学して直ぐ
に辞めるとは思いもしなかった。
更に少年の印象は高校に入学してから悪くなる一方だった。
自分の自業自得とはいえどうすれば良いのか考えても考えても答えは出ては
くれないしその一環で生徒会に入っても一向に良くはならないし味方になっ
てくれそうだったように見えた生徒会のメンバーにも実は綴也は敵とみなさ
れていた。
この他にも人生で初めてプレイしたゲームがあまりにも凄すぎてついていけ
ないや好きな人に告白しても振られるという問題もあるがそれは誰もが抱き
そうな問題もある。
だが現在少年が抱えるどの問題よりも現在身近で急速的に深刻化しつつある
問題があった。
「もしやとは思っていたのですがまさか…」
それは自分の実の父に思いを寄せる少女達がいる事だった。
綴也が把握しているだけで三人で内二人は高校の同級生と先輩で同級生の双
子の姉にして高校初めての友達もそうだったという。
だが彼女達の思いを邪魔する気も応援する気も無かった。
それは綴也の初恋の人の教えてくれた事が間違いではないと彼も思っている
からだ。
ならば彼女達の思いも間違ってはいないと思う。
だから綴也は彼女達の恋に応援もしないし邪魔もしないと彼女達に言った。
ただ彼女達の思いがどうなるかは正直気になるこの身近な問題が今日予想外
の展開をした。
「僕も驚いたよ…」
その同級生の双子の姉にして高校に入って初めての友達が思いを寄せていた
のは父ではなく男装した自分の母だった事が発覚した。
少女は自分の思い人が男装した女性だったとその時まで知らなかった。
「もしかしたら同性婚もしていると勘違いしたのかもしれませんね…」
「その可能性は…あるかも…」
「どれだけ男装してるんですか…お母様は…そしてお父様は家庭的過ぎませ
ん?」
「そうかな?」
思い人が実は男装した女性と知った時の少女は呆然自失というのを絵に描い
た様子だったと綴也は鮮明に思い返した。
「すみません。今日は…帰ります」
「は、はい…」
そう言って笑って帰る少女の顔はどうしたら良いのか分からないと言った様
子だった。
「もしかして…私…やっちゃった?」
綴也の母はこの手の事は父よりは察しが良く気づいた瞬間気まずそうにして
いた。
綴也は母を今すぐにでも取り調べしたかったがそれでは昨日の二の前になる
ので自重した。
「もしかしたら妹の撫子さんも…」
「さて…どうでしょうね?」
「もしかして他にも…」
「さて…どうでしょうね~♪」
そう考えるとキリがないので綴也は今は分かっている三人に焦点を当てた。
自分の思い人が女性と知ってしまった桜は大丈夫か気になるし天宮桜には双
子の妹がいるがその思い人も実は男装した母親の可能性も出てきた。
もし万が一彼女達の中で新たに義理の母が出来てしまったらどうしたら良い
のか分からない。
「うーん…ミフさん…僕どうしたら良いんだろう?」
「さて…どうしたら良いんでしょうね?」
「だよね…」
内二人には自分が失恋したというのもあるが同年代の異性を親として接する
のはやはり勘弁してほしいというのが素直な気持ちだ。
邪魔はしない心算だがそれとこれとは別問題だった。
だが今はどうなるかを見るしか無いと解っているのでどうする事も出来ない
だからもどかしくため息が出てそれを電子製命体が苦笑していた。
「はあ…」
(全くあんな方法を使ってくるとは思いもしなかったわ…)
「どうしたんです?会長?」
(流石は姫神殺し…って事だよね)
「また恋の悩みですか?」
(信じられません…そんな方法で…)
「違うわよ!!」
(全くだわ…私もそう思うもの…)
風呂から上がりサクラ・レノンフォードは自分の部屋で生徒会のメンバーと
何気ない会話をしている。
それはどこにでもある少女たちのパジャマパーティに見える。
しかし少女達は会話を楽しみながらも紙に文字を書いてそれを見せ合ってる
という奇妙な光景を繰り広げていた。
仲良くおしゃべりしている様に見えるが実は筆談の内容こそが本当の会話だ
った。
これは仲良くおしゃべりしている様にカモフラージュした秘密会議だった。
「でも…今のは恋する乙女の顔だよね…」
(これからどうする?全然証拠も集まってないんでしょう?)
「だよね」
(うん、この一か月全くね…)
「ですよね」
(問題は起きてるけど寧ろ不気味な位に証拠は出てこないし)
「貴女たちね…」
(そうね…)
少女は問題を抱えていた。
彼女はとある事情からアイディアルと言う人生の半分を捧げたスポーツを引
退した。
しかし現在その彼女を復帰させようとしている者達がいる。
実際この秘密会議の参加者でもあるオルテンシアはその一人である。
サクラ自身アイディアルに未練が無いと言えば嘘になる。
復帰できるのならばどんなに良いだろうと思う事もある。
(でも…)
しかしそれは彼女にとっては自分は復帰をして良いのかという苦悩が付き纏
う問題だった。
しかし今現在この少女を最も悩ませているのはこの秘密会議の議題になると
ある少年の存在だった。
少年の名前は朝倉綴也。
生徒会のメンバーに所属させている少年だ。
少年には傍目からすれば無害に見えるがどうやら真っ当なものではない目的
を持っていて彼女達はそれを探り退学させなければならない。
彼の入学以降彼女達は目的や本性を暴こうと様々な事を仕掛けたが悉く失敗
していた。
時には寧ろ何かを悟らせない為にあえて停学で済むレベルの問題を起こして
自分達の行動を封じてくると思えるほど見事に封じられるのだった。
事実今日はイリュシオンや再びアイディアル勝負を挑んだが彼は本当に気絶
してそのままサクラに顔をぶつけサクラは気絶させた。
その上気絶している間にPDを持った彼に圧倒的に負かされる夢を見たので
とにかく屈辱的だった。
(全く…)
本当に油断したとしか言いようが無かった。
本当に気絶してその場をやり過ごすというまるで無謀なギャンブラーの様な
手段で自分の秘密が露呈するのを避けて来るとは思いもしなかった。
あの電子製命体がいなければどうなっていたか考えるだけで怖気がした。
サクラは未だに少年の目的も真意もつかめていなかった。
「でも会長の恋の相手って…」
(私達の事がバレてるのかな?)
「朝倉君のお父さんなんだよね…」
(そんな風には見えないけどね…)
そして彼女にとっては信じがたい問題が浮上した。
その少年は自分の思い人の息子だというのだ。
彼女は妻子を持つとある定食屋の主人に思いを寄せていた。
何であんなに優しそうな父親からあの様な悪徳の化身が生まれるのか疑問に
思えてならなかった。
「全く…私はどうしたら良いのかしらね…」
(全く…私はどうしたら良いのかしらね…)
言葉と紙に書かれた言葉が重なった。
それは表に出てる話題でも紙に書いている話題でも思った事だった。
その言葉に生徒会メンバーも同意するように彼女と同じ言葉を書いて出す。
問題解決の糸口は見つからない重い秘密会議の中その瞬間笑いがこぼれた。
「いっそ奥さんに直談判…」
「却下!!」
突如赤い髪の少女が挙手して大声で提案したがその案は即却下された。
「…はあ…」
風呂から上がり桜色の髪と目をした寝間着ぎの少女天宮桜は幾度かの溜息を
ついた。
「それは…何だか…」
「うん…」
少女は問題を色々抱えていた。
それは自身の身体の事だったり双子の妹の事だったり自分の好きなゲームの
事だったり言葉だけを並べればそれは何処にも在りそうなものである。
その中でも今彼女を悩ませているのは恋というこの年頃の少女によくある悩
みだ。
しかしそれは今日友達になったばかりの少年の親だった。
だがそれでも日に日に誰かへの募る思いに悩みその少年の知り合いでもあり
自分の知人(?)でもあるある男に相談した。
「だったら綴也さん本人に言ううと良いですよ」
と知人からとても信じられない回答が帰ってきた。
彼女はさらに悩む事になったがしかし他に思いつけず彼女知り合いの言葉に
従って思い人の息子である少年に全てを打ち明けた。
全てを打ち明けられた少年は応援はしないが邪魔もしないと言ってくれた。
それは彼女にとって予想できないいや信じられない答えだった。
彼女は思い人の事を調べる内にその息子の事を知っていた。
少年の事を調べると悪い噂に枚挙が無かった。
自分の知人が彼を知っていなければその噂を鵜呑みにして今も彼を敵視いて
いたかも知れない程だった。
だからイリュシオンで初めて彼と素顔で対面した時は実はとても緊張してい
た。
噂が本当だったらどうするかという思いと噂を鵜呑みにして彼を敵視してい
た事に対する申し訳なさが混在していたからだった。
しかし直に会って見れば噂は噂でしかないというのを知った。
更に自分に思いを寄せていたという更に予想外の事も知ってしまったが少年
は彼女の思いを知っているからと潔く身を引いてくれたのだ。
だからなのか思わず友人になろうとう言葉が出てしまい結果更に予想外に少
年に喜ばれて友人になった。
そしてその新たな友人の家に赴き久しぶりに思い人にあったそこでその日最
大の衝撃を味わった。
「何をやってるんですか?母さん」
友人の親である自分の思い人は実は女性だったと知ったのだ。
「女性って分からなかったの?」
「うん…凄く格好良かったんです…」
「でもその店にもう一人男性が居たんだよね?」
「うん…あの人…その…」
「もしかして桜ちゃん…」
「うっ!?」
彼女もここに出入りしている以上此処にいるはずだろう男性とすれ違う事が
無くは無かったが彼があまりにも家庭的すぎる為とこの都市日本では同性婚
は許されている為に思い人が同性婚もしていると誤解してしまった故に彼が
父親とは思わなかったのだ。
「あぁああああああああああああああああああああああ!!」
「桜ちゃん!?落ち着いて!!ベットが壊れるよ!!」
枕を抱いてベットを転がり往復していた。
色々な感情が頭の中をぐるぐるしてた。
その回転の速度も段々と途轍もない速さになっていった。
「とにかく元気出して…桜ちゃん」
「アンちゃ~ん…私…」
開いている通信から彼女を励ます声があった。
それは白い髪と白い色の眼をした気心の知れる桜の親友だった。
「アンちゃん…私どうしたら良いんでしょう?」
桜色の髪と目の少女は通信先の親友につぶやいた。
「うーん…どうしたらいいんだろう?」
しかし彼女の悩みの内容故にか白い髪と目の友人もそう言うしか出来なかっ
た。
そして再び桜はベットを転がり始めた。
それは画面越しの親友はそんな少女の様子を見続けて目を回すまで続いた。
「うーん…ん?」
考え事をしている綴也のPDに通信が入った。
「よお!!」
「カイル!?」
「悪い悪い…明日の事を伝え忘れてたな…」
「うん?」
「明日どう集まるかだよ…」
中学からの友人にそう言われてを思い出した。
そう言えば明日集まるとは言っていたがどう集まるか話してなかったと。
今日の忙しさと天宮桜の事で今の今まで忘れていた。
「ごめん!!僕も忘れてた!!」
「良いよ良いよ!!明日お前は家で待ってろ」
「え?」
「まあ朝の九時までには来ると思うぜ。それまでに朝ご飯食って身嗜み整え
とけよ!!そして寝坊すんなよ!!じゃあな!!」
「ちょっとカイル!?」
「ああ後…俺が帰ってくる事は言うまでも無いとは思うが…」
「ヴェコちゃんに内緒…でしょう。でもヴェコちゃんから連絡があったら…
知らせて…って」
「う!!いや…それは…勘弁してくれ。兎に角明日は家で待ってろよ!!じ
ゃあな!!」
そう言って旧友からの通信が切れた。
「切れちゃった…」
「全くあの男は…相変わらずですか?」
「みたいだね…」
「まあ…彼女に対する気遣いとも言えなくもないですが…ヘタレとも言えま
すね…」
「あ、あはは…」
久しぶりに旧友とのやり取りは短くとも楽しいものだった。
当人には失礼だが彼も相変わらずだと笑みがこぼれる。
「綴也さん…私が振った話ですが彼女達の事はなる様にしかなりません」
「うん、そうだね…」
「それに明日は久しぶりのお友達と遊ぶんですから早く寝て明日に備えない
と…ね?」
「うん、おやすみなさい…」
「ええ、おやすみなさい…綴也さん」
綴也は電気を消してベットに寝転がった。
ちなみに何でもかんでも自動に頼るのは良くないという親の考え方によりこ
の時代には珍しく朝倉家は手動の電化製品を使っているので自分で消してい
る。
「明日、皆で出掛けないか?」
「え!?」
「緋途美先輩!?」
「最近根を詰めすぎている…ならば気になる事は忘れて皆で出掛けて行くの
も必要かと思ってな…」
((((緋途美先輩がしゃべってる!?))))
会議も終わり話題も無くなった中あまり口を開かない人物からの発起された
提案に提案者とシア以外が驚き心の声を上げるが彼女は気にする事も無い様
だ。
「そ、そうだよね明日もお休みなんだしどっか皆で出かけようよ会長?」
「そうですよ何処かに行ってパーッと遊びましょうよ。ね会長?」
「ねっ、会長?」
「…そうね。考え過ぎても仕方が無いものね」
賛成多数で明日はどこかに出かけようという事が決定し秘密会議を終えてサ
クラ・レノンフォードは布団に横になるのだった。
彼女が横になったその瞬間に部屋のありとあらゆる電気の光は無かったかの
様に消えた。
「元気出してね桜ちゃん…」
「ありがとうアンちゃんも大丈夫?」
「だ、大丈夫大丈夫…」
「ごめんなさい…目回しちゃって…」
自身が心配されていた筈が画面越しの友人んが自分がベットで回りすぎて目
を回して吐いてしまって大騒ぎになっていた。
その所為で心配する方とされる方が入れ替わってしまった。
そこからはもう桜が親友が落ち着くまで何気のない話を続けて時計の針もも
うじき十二で重なるまで経っていた。
「ねえ、明日どこか出かけようよ」
「え?でもアンちゃん…」
「こういう時は思いっきり遊ぼう…ね?」
「…解ったわ…でどこに行くんですか?」
「ええっとね…あと…あの子も誘おうよ」
「そうね…あの子も…」
友人と明日出掛ける計画を立てて天宮桜は通信を切って電気を消して寝床に
着いた。
こうしてそれぞれに悩みを持つ三人の少年少女は眠る。
問題も尽きず解決している訳でもない。
だけど明日はやってくるのだから。
明日はそれを忘れて楽しむ為にも元気に頑張る為にも眠るのだった。
「ミフさん…まだいます?」
「何ですか?」
「帰らないの?」
「その突っ込みがいつ来るのか待っていたんですよ…まだまだ修行が足りま
せんね…綴也さんも」
「ごめん…ボケてるとは思わなかったんだ…」
「お笑いならば当然の突っ込み所です♪では良い夢を…」
少年と電子製命体はそんなやり取りをして今度こそ綴也は眠り一日が終わっ
た。
E香…最後の貴様が優しく微笑むのが気持ち悪いな。
Mル…いきなりな挨拶ですね…このファザコン屑妻は…
E香…三章が始まるのに最後が何で貴様がトリを飾るのか異議を
申し立てようと思ったからだ。
Mル…うふふ…貴女があの場にいたら不法侵入ですけどね。
E香…不法侵入などせんわ!!
貴様じゃあるまいし!!
Mル…私が二十四時間合法侵入なんですけどね。
E香…大丈夫か?
この男に綴也君の監視を任せて…
Mル…それは私の命を懸けて誓いますよ。
貴女みたいな人であってもね。
E香…そうか。
Mル…それでは三章開始です!!
E…これ、プロローグなのだろう?
長くないか?
???…短くする心算がこうなっちゃいました…
Mル…過去最大の長さになっているかもしれない事にお詫び申し上
げます。




