新天神
「さあ、綴也君…此処が新天神よ…」
初めて見る街はニュースに出てくる東京とは違い都会ではなくどこか物語に
出てくる世界を彷彿とさせる雰囲気を感じた。
それは街を歩く人の格好がそうだった。
物語で騎士と呼ばれる様な格好の人もいれば魔法使いと呼ばれそうな格好の
人もいた。
更に明らかに人間ではなく動物の着ぐるみらしきものを着ている人もいた。
綴也にはその人が着ぐるみではなく本当に熊の皮をかぶっているのではない
かと思うくらいに精巧な着ぐるみだった。
つまり此処には目に見える人の九割が所謂コスチュームプレイヤーと呼ばれ
る人達らしき人達で溢れかえっていた。
そんな人達が街で食べ物を食べていたり買い物を楽しんでいたりしている風
景が現実にある事に綴也に驚きただただ街と人々の雰囲気に口をあけて呆然
と見ているだけだった。
「綴也君。一応言っておくけど彼等の服は楽しむ為のものだから君の学校の
制服と一緒にしちゃ駄目よ」
「は、はい…」
「まあ、イベント開始にも時間はあるし時間も十二時ちょうどだから自由時
間という事で一時間後にいつもの所で集合しましょ?」
サクラの自由時間宣言に全員が頷いていた。
「ただ綴也君はこの街は初めてだし私と一緒に行動してもらうけど…いいか
しら?」
自由時間だが綴也は新天神の地理は詳しくないのでそうして綴也とサクラを
除いた生徒会のメンバーは散り散りなって行った。
「すみません自由時間なのに…」
「いいわよ別に…それにしても色々予想外な事が多すぎたわね」
「色々?」
「君は休日なのに制服で現れるし、日本の満員電車は初体験、新天神は始め
てって言うし…」
「はい…」
「まあ、そういう事で私の自由時間に付き合ってもらうわよ」
「は、はい…」
「…なんか綴也君はなんだか苛めてみたくなる気がするわよねぇ…」
「知り合いにからかう事が人生の楽しみだという人がいるんでそれは勘弁し
て下さい…」
「あら、もしかするとその人と気が会いそうな気がするわ…私」
「会長!?」
「冗談よ、じゃあ行きましょうか?」
サクラに道案内してもらいながら歩いていると彼女が昼食をとろうとあるお
店に入って昼食を取っていた。
「そういえば綴也君はPDは持って来てる?今日のイベントには必要なのだ
けど…生徒会に来た時はみんなの手前あれって言ったから…」
「PD…ですか?」
PDとはパーソナル・デバイスと呼ばれる物の略語である。
最低限の機能としてこれをもっている限りどんな場所でもパソコン無しも通
信、メール、検索等ありそこから自身の好みに合わせて機能を追加、削除等
のカスタマイズが可能で故に「自分だけのデバイス」を作れるというキャッ
チコピーが人々の心を掴み今ではこの都市日本が誇る世界的アイテムとなっ
た。
「大丈夫です。持って来てます」
綴也は自身のPDを腰の後ろから取り出した。
それは一目で見ると金属の筒のように見えるものだった。
「綴也君、これは…?」
「玩具の光剣です。これが僕のPDです」
「これって…MRタイプじゃなくって実在物質タイプよね?」
「はい、元々は只の玩具の光剣なんです」
PDのデザインも様々な形があるがPDの愛好者の中には自分が思いいれの
あるものにPDの部品を組み込んで更なるオリジナルのPDを作り出そうと
する者もいる。
今ではそんな人達用のコーナーも作られている。
綴也のもいわばそんなタイプを持っていた。
「元々MRタイプは買うお金が無かったんでだから自分のものをPDにしよ
うってをって思ったらこの光剣にしようって思ったんです。初恋の人に買っ
てもらった宝物なんで…」
「へぇー初恋の人にね…って、初恋!?初恋の人に買ってもらったの!?」
「そうですけど…どうしたんですか?」
「うん、ちょっとね…色々驚いちゃっただけだから…そうね初恋の人かぁ…そ
れでそれって自分カスタムしたの?」
「はい。PDに改造するのは最初は家族に手伝ってもらってたけど最近になっ
てやっと何とか一人で出来る様になりました」
「そう、まあ何にせよ持って来ているのなら問題は無いわ…」
食事を終えて二人は新天神の街の北側に向かって二人は北側にある大きな広
場についていた。
「とりあえず此処で皆を待ちましょう?」
と彼女は言うので綴也はそれに従う。
どうやら此処が彼女の言ういつもの所なのかと思い周りを見てみると他のメ
ンバー到着していないようだった。
時間を見時間までに後十五分位残っておりその内に皆も来るだろうと思って
いた。
「ねぇ?綴也君?」
「?何です?」
「君、女性の胸を触ったりしたら吐いちゃう体質なんだよね?」
「長時間見ても駄目ですけどね…。吐いてまずい時は緊急手段があるんです
けど…」
「緊急手段?」
「一応、エチケット袋を持ってきてるんです」
「そうなの?」
綴也はショルダーバックの中にある大量の携帯用エチケット袋をサクラに見
せていた。
さすがに自分の体質は解っているつもりだからエチケット袋は常に持ってい
る。
「あれ?でもそれならあの時生徒会室でもエチケット袋持ってたわよね…」
「すみません。あの時、袋は鞄の中に入れてて教室に置いたままでまさかル
ージュ先輩があんな事をするとは思いもしなかったので…」
「解ったわ。信号機トリオは半年間の校舎中のトイレ掃除を命ずるわ…」
「あの、前々から思ってたんですけど他の二人は無関係なんじゃあ?」
「冗談よ…」
「本当に?」
「ルージュには放課後半年間校舎中のトイレ掃除を命ずるわ」
「一人でやらさせる分罰が重たくなってません!?」
「いいの?許しても?」
「許すも何も僕が言って信じてもらえれば良かったんですから…」
「まあ、そう言われたら何も言えないわね…。私もあの時はショックで何も
言えなかったから…ごめんね、どうしても気になっちゃってね…」
(まあ、最低一回は吐く所を見ないと誰も信じてもらえないんですけどね…)
「ねえ…初めて会った時に当時好きになった女の子に告白して怒らせてしま
って引き止めようとして胸を触っちゃって殴られたから吐くようになったっ
て言ってたわね…?」
「う…はい…」
「一体…何して怒らせたの?」
「そ、それは…その…告白で…彼女の母国語で…僕の家族(お嫁さん)にな
って下さい言おうと思ったら…」
「思ったら…」
「……………」
「綴也君」
「はい…ジョークの心算で僕の奴隷下さいって言ってしまったんです」
「何をどうやったらそんな事になるのよ!!そんなのジョーク無いわよ!!
それはその女の子も怒るし殴られるわよ!!」
「…ですよね」
「うん。それは明らかに君が悪いわ。女の子も可哀想に…きっとその件がトラ
ウマになって男嫌いになってるわよきっと」
「…はい」
「しかも翌日にお引越しされたから謝罪も出来ていないと…」
「…はい」
「悪いと反省しているのならば二度とそんな事は絶対しては駄目よ!!分かった!?」
「はい…」
綴也自身も今思えば何で自分はあんな告白をしてしまったのだろうと思って
しまう失敗だった。
サクラ以外にはこの事件の事を話したのは家族と旧友達とミフルと恵理香そ
して初恋の人だけである。
殆どが揃って何とも言えない顔になった。
あんな告白は二度とやってはならないし教えられてもやってはいけないと綴
也は改めて心に誓う。
「良し!後、一つ聞いても良い?」
「?、どうぞ…」
「アイディアルやってて楽しい?」
「え?、楽しいですけど…」
「本当に?嘘ついてない?」
「えっ?…あの…会長…」
「え!?ああ、ごめんね前にも聞いたけどやっぱりアイディアルが好きなの
?君?」
「好きですね」
「即答なんだ…」
その楽しさは決して綴也がアイディアルで望む楽しさではない。
ライバルと競い合い、仲間と切磋琢磨する楽しさや喜びは皆無である。
練習相手も基本立体映像に限られている。
でもあの電子製命体がいるので綴也も楽しくない等考える事が考えられない
のだ。
自分をからかう事が生き甲斐だと言っているが実はそういう事をして自分が
そんな事を考えないようにしているのではと思ったりする事があるがそれは
無いかなと苦笑する。
何せ今日一日スポーツセンターに来ないと言っただけで明日は必ず爆発して
何をやってくるかわからないからである。
「会長はもしかして…アイディアルが嫌いなんですか?」
「いいえ、でもあの姫神殺しがアイディアルが好きだなんて即答するんて理
想求者の殆どが信じないと思うわ…」
「うっ…」
「だから聞いてみたけど…今聞くような質問じゃなかったわね…」
「いいえ…。こんな仇名は持ってますけど別にペナルティ以外は困った事は
特にはないんで…」
「そう…それにしても皆遅いわね…」
「まだ、二十分近くありますね」
こうして二人は話が無くなってしまった。
さてどうしようかこのまま皆が来るのを待つかと綴也は顔を上げて空を見上
げていた。
「綴也君?今、私達二人きりよね?」
「そうですね…」
「恋人同士に見られる事は…」
「ないと思いますけど…」
「即答ね。そこは二,三回戸惑いながらも言う所でしょうお約束として…」
「何のお約束なんですか?」
「よくあるお約束よ」
「はぁ…?」
「それに今、私達ベンチで隣同志なんだけれど…これは恋人同士と疑われる
わよ」
「え!?すみません!!」
と、綴也はベンチを立ち上がりベンチから離れた。
すると、サクラはその様子が可笑しかったらしく全身を震わせていた。
「フフ…ごめんからかい過ぎたわ…冗談だから戻っておいで」
「いえ、僕はともかく会長はそんなことされては困ると思うので少し離れて
おきます…」
綴也は自分が迂闊だと思っていた。
男女がベンチで隣同士で座っていればそう思われる可能性は高いのにどうし
てその事に気が付いてやれなかったのか。
過去に失敗を重ねているというのに何で自分はこんな事が解らないのか自分
はともかく彼女はいい気分ではないだろうだから彼はベンチを離れた。
家族以外の女性と二人きりと言うのは小学校以来なの気をつけなければなら
ないと心を引き締めた。
「おーい?なんだか顔が死地に赴く兵士みたいな顔になってるわよ?」
「いや、会長の恋人に間違われないように気を引き締めていただけです」
「その心遣いはなんだか女性として悲しくなって来そうだからもう座って頂
戴…私が悪かったから…」
「?…はい」
そうして再びサクラの隣に座り残りのメンバーを待ち続けていたそんな時だ
った。
綴也の目が誰かの視線を感じた気がした。
「あれ…?」
「どうしたの?綴也君?」
周りを見渡していると大きな木がありその陰に五人の少女の顔が覗いている
のが見えた。
綴也の視線に釣られてサクラも木の陰に視線を向けた先にいたのは待ち人達
である生徒会のメンバー達だった。
「何時からいたのよ?あなた達?」
「貴方達が来ていた頃には皆来ていたのだけれど丁度二人きりだったから二
人きりにして様子を見てみようと思ってね」
「何でそんな事を?」
「テツヤ君…。サクラはね君に迷惑を掛けちゃった事を気にしているからそ
れで二人で話す機会を設けてみようって思って…」
「単に二人だけにしたら面白そうと思ったから隠れてたんじゃないでしょう
ね?」
「え!?な、何の事かなあ…」
「ルー…」
「ルーちゃん」
「ごめんなさいね…。私も悪乗りしちゃいました…」
「すまん。朝倉 綴也が女子と二人きりなら邪な本性をさらけ出すかもしれ
ないから遠くから監視しようとこいつ等言われ何かあれば直ぐに動く心算だ
ったのだが…」
「人を勝手に囮にしないでよ!!」
「蒼斐先輩!!当人の同意承諾の無い囮捜査は法律違反です!!」
「あら?…朝倉君そんな事を知ってるんですね…」
「以前ニュースのコーナーで見たことがあって」
「…まあ良いわ皆揃ったんだしそろそろ行きましょう」
こうして綴也はサクラ達へ連れられて目的知らされること無く目的地に再び
向うのだった。
「ん?」
「どうしました、サクラ?」
「いや…あれ」
それは何の前触れなど無く。
突如としてという言葉が適切な形容でそれは現れ出て来た。
E香…おい、何だこの話の終わり方は…?
Mル…この後の事は解っているくせに質問なんてなんて悪趣味な
女なんでしょう…。
E香…誰でも聞くだろうがこんな質問は!!
Mル…まあ、次をお楽しみにという事です。(意味深な笑み)




