再戦場という名の…
「貴方は…」
「貴様を探していた…」
「僕を…?」
「そうだ…貴様と再び戦う為にだ!!」
「え?」
綴也の目の前に現れた騎士の目的は簡単な事だった。
この騎士との戦いは歌姫が身を挺して止めてくれてアオバ・アオヤが死んで
決着が着かないままそれきりだった。
あの時の戦いを振り返る度にこの騎士との戦いは何か思った事があった気が
するのだがそれが何なのかを思い出す事は出来なかった。
再戦できたらそれも思い出せるかもと思ったがそんな事を考えてもどうすれ
ば良いのかこのゲームの右左がわからない綴也には難易度が高かった。
だがあの時の騎士が自分と再戦を望んでいてその為に自分を探していたとは
思いもしなかった。
「あの時と同じく貴様と一対一で戦いたい!!逃げる事は許さん!!」
「ちょっと待って下さい!!彼は」
「そんな事は知っている。今はその事で持ち切りだからな。だがこの男は俺
達と戦う前に歌姫を逃がす為にずっと走っていた。それがこの男の実力かそ
れとも不正な手段だろうとそれくらいで戦えないとは俺は思えない!!」
「彼は…」
「分かりました。受けましょう」
「って綴也君!?貴方は!?」
「大丈夫です…疲れはそんなにないので…」
綴也笑顔で答えたが狙撃の雨と過労死する程走った後だったので本音を言う
と少しゆっくりしたかった。
思命の提案を同意したのはのんびりしたかったという言わなかった本音もあ
った。
しかし相手はきっとそれを理由を言っても信じてはくれない確信があったし
もう一つは不思議と彼の申し出を断る気になれなかった。
「…」
「場所を移すぞ…着いて来い」
そして騎士は背を向け歩いていく。
綴也は騎士の男について行く。
その後ろを思命が続いていく。
そしてしばらく歩くと新天神の街の真ん中に人だかりがあり騎士を見るなり
まるで割れる海の様に分かれていった。
人だかりの中に出来た輪の中に綴也も騎士に対峙する様に立つ。
「先程まで貴様を狙い撃ちしていたあの狙撃手共は俺が全員黙らせて来てい
る…この決闘に関して狙撃の心配は不要だ」
「え!?」
「一対一の戦いに横槍を入れられるのは嫌だからな…」
先程その危険性はないのではと父が言っていたがこの騎士は気を遣ってくれ
た様だった。
綴也も万が一決闘中に狙撃されるのは気分が良くないので少し気が軽くなっ
た。
「一つ聞いても良いですか?」
「…何だ?」
「何でもう一度僕と戦おうと思ったんですか?」
「貴様の実力が不正なものか否か見極める為…そしてあの時着かなかった決
着を着けたかった…それだけだ」
騎士はそれ以上言葉を発さずにその手に剣を取る。
綴也も大剣を取り二人が構える。
「もしどちらかに異常が見られたらその時点で決闘は私が止めますので…
良いですね?」
審判役の思命の一言に両者が首肯しそれを見た思命が右手を上げ降す。
その瞬間綴也と騎士が互いに突撃し大剣と剣を振るい激しくぶつかる。
「はあ!!」
騎士の剣が瞬く間に綴也に振るわれ綴也をそれを受け止める。
しかしギリギリ受け止めるだけで精一杯で反撃すら出来なかった。
(前の時より速い!?)
以前は振るい方が判らないながらも相手の隙を見て大剣を振っていた。
しかし今そんな隙すらもなくなっていた。
走り続けた疲れが溜まっているからとも思ったがそんな考えは一瞬で吹き飛
んだ。
そん事は関係なく相手の剣を振るう速度が前の時より明らかに速くなってい
たと理解できた。
「ぐっ!!」
防げる攻撃は大剣で受け止めても綴也は大剣を盾の様にしてかろうじて防ぐ
しか出来ずに大剣を移動させる事が間に合わなかった斬撃は綴也の顔や腕や
腰に傷を刻んでいった。
綴也が感じた事は間違いではなかった。
(前の戦いからそんなに強くなれるなんて…凄い!!)
自分は全くと言って良いほどに大剣を鍛錬していないので全然成長していな
い。
だが目の前の彼は出会った時よりも前に見た時よりも明らかに強くなってい
た。
畳み掛けられる斬撃に切り刻まれながらも騎士の姿に凄いと尊敬した。
同時に大剣の使い方を少しでも磨けなかった自分を恥じ入った。
しかし当人にその様な時間があるかどうかは話が別で当人がその事を頭に入
れているかどうかも別の話なのだろう。
しかしこのままでいる場合ではない。
綴也は目の前の騎士に何も出来ないままでいるのは嫌だと心を熱くさせた。
(ここだ!!)
と綴也の目には斬撃の隙が見えた。
それは偶然の賜物かは判らないが彼は騎士に迫り大剣でそれこそ最初で最後
のチャンスかもしれない一撃を叩き込む為に込められるだけのモノを込めた
一撃を放つ。
「遅い!!」
「うわ!?」
騎士の剣が大剣の一撃をまるで軽いものを払うかのように大剣諸共綴也は払
い飛ばされた。
(さっきから感じてるけどやっぱり力も強くなってる!?)
綴也は大剣ごと吹き飛ばされる様に弾かれて倒れた。
それでも何とか立ち上がり相手を見つめる。
最初で最後かもしれないチャンスは失われたが此処で諦めるなんて嫌だと思
った。
綴也は更に心をに熱を入れ騎士を見つめる。
「…え?」
しかし騎士はそのまま動いていない。
そしてその表情には最初の頃よりもどこか落胆しているように見えた。
「この程度なのか?お前は?」
「え…?」
「あの時のはやはり不正ツールの恩恵であったのか?」
「え?ええ!?」
騎士が突如として綴也の実力を断罪しだした。
再び出会った時よりも明らかに様子が違っていた。
「何を?…貴方が短い間に強くなり過ぎてるだけ…」
「ふざけるな!!貴様があの時よりも明らかに弱い!!天照の一件の時より
もだ!!噂通り運営から不正の罰で能力の制限を掛けられたのだな!!」
騎士の一言で綴也は自分に掛けられた自分自身というペナルティを思い出し
た。
(そうか…僕は…)
今自分は自分の身体能力だけで戦っていた事を…。
相手が強くなったのではなく自分が弱くなっただけなのだ。
前回自分があの騎士と戦えたのはイリュシオンの身体能力が通常よりも上が
っていた事によって吐き気に苛まれながらも相打ちになるかもしれないとこ
ろまで戦っていた。
しかし今は自分自身というペナルティで自身の実力のみで戦わなければいけ
ない。
それが苦労になるとは思わなかった。
寧ろ吐き気に苦しめられていた事から開放された気分だった。
それを理由か今の今まで失念してしまっていた。
例えその後アオバ・アオヤが歌姫を庇って死ぬと言う出来事が強烈だったと
してもそれは綴也の明らかな失敗だった。
「それは…メモリアル死亡で自分自身って…」
「そんな都合の良い事があるわけないだろう!!」
今の綴也の言葉に偽りは一つも無い。
しかし騎士は正論をもって否定した。
それを否定したかったが綴也自身言葉が出なかった。
騎士の言う事も間違っていないと感じたからだ。
その時のゲームオーバーに後悔は無いが騎士に偶然を否定されて綴也はメモ
リアルになるタイミングで死んだ自分はどんな運なのか運勢相談をしたくな
った。
しかしその沈黙は騎士の感情の炎に油を注ぐようなものだった。
「貴様が真っ当な住人のフリをして何を企んでいるかは知らないがやはり貴
様は此処で何として倒して運営に突き出して永久追放にしてくれる!!」
騎士の剣が更に激しくなり綴也を襲う。
更にその剣と目には先程にはなかった激しい悪者に対する正しい怒りが込め
られていた。
「どうだ!!そうだ!!」
「お前の様な不正住人は許しちゃいけないんだ!!」
それはギャラリーも同様だった。
「お前の様な奴にイリュシオンを…天照を好きにさせるか!!」
言葉と共に放たれた斬撃が綴也の左目を斬り裂きと大剣を持つ右腕を斬り飛
ばした。
現実にはそうはなっていないがゲームの中でとはいえその痛みは綴也の身体
に叩き込まれる。
「!?!?」
余りの痛さに悲鳴らしき悲鳴は上げられない。
その場で蹲るしかできなかった。
ギャラリー達から歓声が沸きあがった。
最早これは決闘ではなく公開処刑の様相だった。
「止めだ…」
「はあ…はあ…」
騎士が剣を両手に持ち上げる。
ギャラリーから歓声が上がる。
蹲る綴也を見る騎士の目は綴也でも解かる位悪者の死を望んでいたのが解か
る。
それは正義の味方が悪を断罪する様だった。
この騎士は綴也をそんな風にしか見ていない。
「姫神殺し!!」
騎士は綴也に振り下ろす。
(違う…)
騎士の一撃を目の前に綴也が思ったのはその一言だった。
(前は…こんなのじゃなかった…)
そんな事を思っていた。
自分が望んでいたのはこんな気持ちになる事じゃ無い。
以前の彼との戦いで何か思った事があったが綴也は思い出せなかった。
只こんな事じゃない事は解かった。
少なくともあの時自分は嬉しかったような気がした。
しかし目の前の騎士の顔を見ればこのまま戦ってもそんな想いが出来るとは
思えなかった。
(でも…ここで終わるのは…嫌だ!!)
片目も見えず大剣は右腕と共に飛ばされたとしてもそんな気持ちが綴也の心
に広がってそれは身体にも表れた。
綴也は左手にPDを取り出しその光剣の玩具を起動して対抗しようとするが
そうする前にPDを握る左手も斬り飛ばされてしまった。
「!?!?」
「まだ悪あがきをするか!!」
再び激痛に綴也の顔が歪む。
騎士の表情に更なる怒りが灯りギャラリーからも野次が飛んだ。
だがそれでもこのまま終わるのは嫌だった。
綴也は両腕が無い状態で何とか立ち上がる。
何が出来るか考えられなかったが最後まで足掻くと決めたのだ。
左目は血の涙を流しながらも綴也は騎士の下へ駆け抜ける。
しかしその直後に綴也から走る感覚が消えた。
綴也の両足が膝から下が切り落とされたのだ。
「これで!!」
今の綴也には騎士の振り下ろされる剣に対して何も出来ない。
只残された右目で騎士を己の熱を込めて見つめるだけだった。
しかし騎士はそんな綴也の目に気付きもしない。
彼にとっては最早綴也は騎士として断罪ずべき悪だから…。
騎士の剣が綴也を半分に斬り裂く。
それがこの場にいる一人を除いて誰もが望み見たかった決着だった。
その際の際に黒い稲光が鳴らなければ…。
「!?」
この見世物の上空に黒い稲光が迸り集まっていた。
それは見る見るうちにそれは球体になり文様の入った卵の様になり其処から
大きな何かが出て来た。
綴也には見覚えがあった。
ましてや綴也を除くこのゲームの住人達は幾度もその存在が現れるのを見て
きた。
「さあ…ゲームを始めようか…」
そう…黒いドラゴンはそんな言葉と共に天から降りてきた。
Mル…本当ならばこの騎士君との再戦がこの日のイリュシオン最後のバトル
になる筈だったんですが…。
そうは都合よく行かないと言う展開の方が面白そうだという事になり
ました。
A父…それは僕もタイミング悪く家に帰っちゃったね。
見ごたえがありそうだったのに…。
Mア…まあ仕方がないわ。
これから仕事なんだから…。
A父…そうだね…。
皆も待ってるしね。
Mア…所であなた…イリュシオンも良いけどここ以外にデートに
は連れて行ってくれないのかしら?
(微笑みと共に)
A父…ごめん。
って解かってて言ってるよね。
Mア…あらら…うふふ。
Mル…お二人はまるで誰かさん達の様ですね…。(他人事…)
Mラ…しかし綴也君も酷い結果ですね。
まあ鍍金が剥がれればこの結果は当然且不正の無い公正な
勝負の結果ですが…。
Mル…が?何ですか?お兄様?
Mラ…まあ解かる者には解かるという事です。
これは愚か者には解からない勝負の結果なんですよ。
Mル…裸の王様ならぬ裸の騎士様…ですか。




