狙撃の雨と正義の集団
「え?」
綴也は何が起きたのか理解出来なかった。
先程狙撃されたので警戒していた心算だった。
だが自分を追いかけて来た者の相手をしようとした為か狙撃されたと理解す
るのに時間が必要だった。
「綴也君!!走れ!!」
「え!?」
「狙撃されたんです!!早く!!」
思命の言葉で綴也はようやく我に帰れた。
「おい!!待て!!」
話しかけて来た男性には申し訳が無いが狙撃がきた以上此処から全力で離れ
る為に走る。
このままだと彼も巻き込まれる可能性があると思ったからだ。
綴也が走り始めたその直後彼の後ろにはまるで逃がさないと言わんばかりに
銃弾が降り注ぐ音がした。
やがて銃弾の雨になり綴也の後方に降り注ぎながら追いかけて来た。
「凄い精度で狙撃を連射してるんですね…相当狙撃の腕を磨いた幻想住人で
すね…どんな住人なんでしょうね」
走りながらも感心している思命の言葉に確かにそうだと同意したいし寧ろ相
手の解説を自分にしながら走り余裕があるこの中身が同年代の少女の老紳士
は物凄いのではと思ったが走る綴也はその余裕は無い。
この狙撃手との再戦を待っていた気持ちはあった。
だが改めて対策が綴也は思いつけなくてただただ逃げる事に集中していた。
(とにかく今日こそ向こうが根を上げるまで逃げ切って!!)
「待てー!!」
と大きな声の方を綴也は向いた。
沢山の幻想住人が追いかけて来た。
「あれは…先程綴也君を追いかけて来た人達ですね」
突然逃げた様に思われて追いかけて来た様だった。
図にすると綴也が先頭を走り狙撃の雨が綴也を追いかけその後ろを父のファ
ンらしき集団が追いかけると言う奇妙なマラソン(?)になっていた。
彼らには申し訳ないが今は自分は狙撃の雨に追いかけられているので危ない
から綴也は離れるよう注意喚起しようとした。
「待って!!今…」
「ようやく見つけたぞ!!ストーカー野朗!!」
その前に集団の先頭を走る男にそんな言葉を浴びせられた。
「え?ッてうわ!?」
浴びせられた言葉の威力に一瞬集中が鈍り銃弾が身体を掠めた綴也は気を取
り直し走る速度を上げた。
「す、ストーカーって何ですか!?うわ!?」
この状況で質問をするのは集中できずに弾が掠るが言われた言葉が穏やかで
は無いのは解かったので被弾覚悟で綴也は問うしかなかった。
「お前だろう!?先生の奥さんに付きまとっていたストーカーだろう!?」
「だからストーカーって何ですか!?ってうわ!?」
「端的に言うと好きな相手の気持ちを考えずに付き纏う人間の事です」
集中しながらも浴びせられた言葉が解からない綴也は向こうに問い返すが思
命が言葉の意味を綴也の隣を走りながらに解説してくれた。
そんな事をしながらそれでも余裕があるこの中身同年代の少女の老紳士が本
当に凄いと思った。
しかし言葉の意味を理解できればそれはとても穏やかではない。
「母さんが付き纏われていた!?…うわ!?」
「ぬけぬけと母さんだと!?お前先生の奥さんをそんな風に呼んでるのか!
?奥さんはお前の母さんじゃないんだぞ!!」
「そうじゃなくて!!…うわっ!?」
男に悪意は無い。
男は善意とも言える意で綴也がそういう人間に写っているからその言葉を発
している。
「その上思命さんを脅して自分の傍に従わせやがって!!」
「え!?」
「絶対に許せない!!お前は住人失格だ!!」
きっと自分が悪人に見えるのだろう。
だからそれが許せないと彼は怒り叫ぶ。
誰かを脅して従わせる等許せないという感情は綴也も同感だったが自分がそ
そんな事をしている断定されるのは色々な意味で辛かった。
「クッ!!今狙撃されてて…」
「それだけ悪い事したんだろう自業自得だ!!」
「グッ!!」
そうしている内に綴也は走る事に集中できずに再び銃弾が綴也のあちらこち
らを掠め始めた。
彼等の言葉は綴也自身が思っているよりも彼の心を引っ掻いて行く。
「グッ!!」
「何処の誰だかは解からないけど貴方は他にも悪いことをしているみたい…
この狙撃手も私達の味方みたいね…」
「ならば此処でやっつけて運営から警察に引き渡してやる!!」
「おう!!」
男とその仲間達が各々武器を取り出した。
彼等は攻撃を綴也に向かって放って来た。
狙撃の雨から逃げる綴也にこれを防ぐ手立ては無かった。
「がはッ!!」
綴也は吹き飛ばされて身体は壁に叩きつけられた。
「ぐ…ゲホッ!!」
その衝撃とダメージが激しく動きが取れなくなった綴也に狙撃が襲い掛かる
が幸運か綴也の身体を幾つか掠めていった。
「痛っ!!」
「綴也君!!」
「思命さん!!こっち!!」
「私は良いんです!!彼は…」
「噂じゃアイツ悪名高い姫神殺しなんだよ!!だから…」
「ん?待って…姫神殺し…って…」
綴也に掛け寄ろうとする思命はあの集団に捕まっていた。
いや彼らからすれば保護されていた。
動けない綴也は壁を背に囲まれていた。
狙撃が迫ると思えば直ぐに動かなければいけないと思うが壁に叩きつけられ
た衝撃と受けたダメージの激しさからか思う様に動けなかった。
しかし不思議な事に狙撃は止んでいた。
(そっか…この人たちに囲まれてるから狙撃が出来ないのか?)
理由は解からないが狙撃が来ないありがたみは囲まれているこの状況では無
いにも等しいモノだった。
「まだ生きてるか…」
「今度こそ終わりだ!!」
「ええ!!これが幻想移住人の意思よ!!」
再び彼等は綴也に攻撃の意思を示す。
先程の比ではないものだとそれは必殺技と呼ばれる類のモノだと綴也は理解
出来た。
その押し寄せる攻撃の大波と呼べるものは綴也の視界も遮られ大波に飲まれ
る。
そして綴也を包み込み大きく弾けた。
「それで…運営への通報は?」
「此処に運営の人がいるし思命さんを通せば…」
「それもそうか…」
「じゃあ…思命さんに…」
そこには悪者を倒した事で正しさを証明した達成感に満たされた集団があっ
た。
「ねえ待って…思命さん…姫神殺しって…綴屋先生の…」
「ええ…彼はあの先生のむす…ん?」
ゲームの再現とはいえ激しい炎が燃える。
この中で無傷で生きている者がいればそれは幻想住人の中で強い奴は誰かと
いう討論で出てくる者位だと彼等は思っていた。
「な、何だ!?」
「何よ!?」
突如激しく燃えていた筈の炎が一瞬で吹き飛ばされた。
「は!?」
「何で!?何が!?」
赤い炎が吹き飛ばされた直後そこには蒼く燃え上がる炎があった。
「何だ!?これ!?」
そしてその中心に彼等の標的である朝倉綴也が立っていた。
「ええ!?」
綴也は驚いてそこに立っていた。。
所々に最初の攻撃や掠った狙撃の傷はあるが少なくとも先程の攻撃による傷
は一切無かった様に彼らには見えた。
「「「って!?何でお前が驚くんだ(よ)!?」」」
と男達は綴也の状況からすればズレた言動に反射的にそう叫んだ。
男のツッコミは間違っていないが綴也も自分の大剣から出るこの蒼い炎であ
れだけの攻撃から生還できるとは思っても見なかったからだ。
「成程…お前ストーキングや脅迫に飽き足らず不正行為にまで…」
「いや…その…え!?」
「とことん幻想住人を侮辱しやがって…」
「いや…ちょっと!!って…え!?」
自分が生還できた喜びよりもこんな風に相手に怒られるのを見て前にもこん
な事があった気がしたのを思い出した瞬間に綴也の周りに燃え立つ蒼い炎は
大きく広がり目の前にいる父のファン集団をまるで大波が人を攫うように吹
き飛ばしていった。
「な!?」
残ったファン集団は各々武器を持ち綴也に止めを刺そうとした攻撃を用いて
蒼い炎を押し返そうとするが蒼い炎はそれを「どけ!!」と言わんばかりに
逆に押し返し攻撃の嵐は放った当人達にそのまま返された。
「ええ!?」
「って…何でお前が驚くんだよ…くそ!!」
激しい爆発の後に弱々しくもツッコミを入れる男の声がする。
しかしファン集団はイリュシオンというゲームの素人である綴也でも解る位
の危険なダメージを受けていた。
しかし蒼い炎はそんなファン集団にまるで止めを言わんばかりに向かってい
った。
「待って!!」
綴也は叫んだ。
何かがひらめいた訳では無い。
この蒼い炎が何なのかも綴也は理解出来てもいない。
それでも蒼い炎が集団を倒そうとしたのは理解出来た。
だから辞めて欲しいと叫んだ。
彼等はもう動けない。
ならば止めを刺す必要は無いと思えた。
「……」
蒼い炎は綴也言葉を汲んだのかその瞬間何事もなかった様に出した覚えも無
いが綴也の背に差してある住人としての武器である蒼い大剣に戻ったのだっ
た。
(言う事を…聞いてくれた?)
傷だらけの集団が物凄く睨んできているのがとても痛いが綴也はそれ所では
ない。
何が起きたのか解からない綴也の元に思命が駆け寄ってきた。
あの炎で保護していた集団から開放されたのだ。
ただかられからすれば自分に思命を奪われたと思われるかもと思うと何だか
悪い事をしているみたいで気分は良くなかった。
「無事ですね…傷だらけですけど…」
「思命さん…でも僕何が何だか…」
「その大剣のお陰ですね」
「え!?」
「丁度強制休憩時間が終わったのですよだから大剣も出せるんですよ」
あの集団が止めを刺そうとした時に綴也に掛けられた強制休憩が終わったの
でそれで大剣を出せたのだ。
しかし綴也には大剣を出そうとした止めを刺されそうになった時大剣を出す
事は愚か外見は変わらないが住人になっていなかった筈だった。
「まあそれ以外にも専用の解除コマンドを行えば直ぐに住人に変身出来るん
ですけどね」
「ですよね…でも僕コマンドで変身した覚えなんて…」
「綴也君は感情タイプですね…感情が昂ぶって変身して大剣が出て来れたの
でしょう」
思命の一言でそんな事があった事とあの歌姫の時に言われた事を綴也は思い
出した。
サクラやシアは変身の方法に問題があるらしく駅で解除していたが綴也は感
情が昂ぶると変身できると…。
イリュシオンでの自分の事を自分で理解出来ていない事にこのままではいけ
ないなと綴也は思った。
「まあ…何であれ邪魔者はいなくなりましたね」
「あの…そこの人は?」
綴也と話す思命の傍には一人の女性がいた。
綴也を追いかけていた集団の中にいた一人だった。
「ああ…彼女はもう問題ありません綴也君を攻撃する事はありませんよ…私
が事情を話して誤解が解けましたから」
「そ、そうですか…あの…」
「な、何?」
「色々巻き込んですみません!!」
「え?」
「でも僕は絶対にあの綴屋先生の奥さんのストーカーじゃありませんのでそ
れさえ解かってもらえれば…」
「え?あの…」
今の言葉を信じてもらう自信は無い。
しかしそれ以上は相手次第と綴也はそれ以上は考えなかった。
今は不思議な事に狙撃の雨は止んでいた。
向こうにどんな理由があるかは解からないが何時再び狙撃が再開されるか解
からない。
綴也は言いたい事だけは言ってそれ以上は何も言わず走り出した。
「という事ですから綴屋先生に息子さんの言葉をお伝え下さい…」
「え?…ええ!?」
思命も最後にそう女性に言い残し綴也を追いかけ数秒も経たない内に綴也の
右に伴走していた。
そして綴也が走り出した瞬間にまるでそれを待っていたと言わんばかりに狙
撃の雨が再び降り注ぎ始めた。
Mル…大変ですね。
お父様のファンに追いかけられるなんて…。
T也…でも心配なのはお母さんが誰かに付き纏われてる事だよ。
知らなかったよ。
Mル…それが本当ならばですけど…。
T也…ミフさんそんな…。
Mル…そんな奴がこのイリュシオンにいるのならば私がそのまま
のさばらせておくと思いますか?
T也…(沈黙)
Mル…まあ私が把握していなかったらのさばらせていると同じで
すけどね。
T也…監視しているミフさんを欺いて悪い事する人っているの?
と言うか出来る人がいるの?
Mル…まあ電子製命体といえど完璧ではありませんからね。
私でももしかしたらと言うのはあるかもしれません。
T也…大丈夫かな…。
Mル…(まあ…仮に彼女相手に付き纏っている相手がいるとして
大抵の相手はどうこう出来ませんけどね…)
今は綴也さんは狙撃手との再戦に集中するべきです。
どうやって狙撃手に勝つんですか?
T也…(沈黙)
Mル…まあそれは次回のお楽しみですか…。




