ひと悶着終えて…
「さて…これからどうしましょうか?」
曇り無い笑顔でガラーシアが綴也達に尋ねた。
その笑顔は先程までがまるで頑張って作った笑顔だったんだと思えてしまう
程に綴也には今のガラーシアの笑顔が楽しさに満ちているのが解かった。
「これから…ですか?」
「私は綴也君が此処にいるまで監視が仕事ですからどうも言えませんね…」
「そうですか…ならばどうしましょうか…GWも始まり色々面白そうなのは
あるのですが…さて…どうしたら良いものか…」
ガラーシアにはこれからの事に考えが有るのが解かったが綴也には予定は勿
論考えが思い浮かばなかった。
「先程の狙撃の件言わないんですか?」
「うん…」
思命の言う通り先程綴也は久々に狙撃されたのでその件を言うべきと思って
いた。
彼女を巻き込むのは綴也自身も気分が悪かった。
何より目の前のガラーシアの楽しそうな様子に圧倒されてしまって言い出せ
ずにいた。
「ああいけないいけない…今日はサクラの事為に此処に来て貰ったと言うの
に私は…服が元に戻れて浮かれてしまって…何だかすみません」
コレは綴也が感じた勝手な想像だが笑顔満開の今の彼女は彼を悩ませている
狙撃手を簡単に倒せそうな気がした。
「そんな事はないです」
ガラーシアの笑顔を見てると関わり始めて一ヶ月と少しだがこんなに楽しん
でいるテンションの彼女は初めてだった。
それはあの衣装がどれだけ彼女の重荷になっていたかの証明なのかもしれな
い。
例え誰かがこれが良いと思ってプレゼントした衣装であったとしてもそれが
当人に喜んでもらえるかは別なのだと綴也は思った。
綴也は自分の悪名がまさかこんな幸運を呼び込むとは思っても見なかった。
そして彼女の服装が変わって心から良かったと思った。
「ガラーシアさん」
「…?」
明らかに楽しんで考えているガラーシアには申し訳ないが此処は正直に話す
事にした。
先程のサチコの一件で話している最中に狙撃されてそれが誰なのかは解から
ないが自分はその狙撃手を探し出したいと…。
「成程…狙撃手ですか…私今まで聞いてませんでしたね…」
「いや…今まで言わなかったので…だから…」
「なら…お手伝いしましょうか?」
「だから僕は狙撃手を…って…え?」
「手伝いましょうか?狙撃手を探すのを?」
「…え?」
綴也はガラーシアから全く思ってもいないし見てもない提案をされた。
「…え?」
「どうしました?朝倉君?」
「え?いや…手伝うって…」
「あら…おかしな事を言いました私?」
綴也も自分で何でこんな事になっているんだろうと思っている事事態に何故
そう思っているのかと疑問に疑問が重なって正に混乱して普通に言葉が出な
かった。
「まあ…言ってはないですね…ですが私が何故と聞きましょう?」
「そんなの今回のお礼に決まっています…他に理由はありませんよ」
思命が混乱する綴也の代わりに問いガラーシアは答えた。
それは助けてもらったのでお礼がしたいという至極簡単な理由だった。
答と共に見える笑顔に曇りなどなかった。
彼女の提案は綴也にとっては幸運そのものだ。
「すみませんお断りします!!」
「朝倉君迷っている様に見えたのにこれでもかってキッパリと断りました!
?」
綴也は断った。
彼女の助力を断った。
「ガラーシアさんが助けてくれたら狙撃手さんは直ぐに見つかるって思うん
です」
「ならば何故…?」
思命の疑問は当然だった。
理由は答えるのに綴也自身は時間を要した気がした。
「僕が僕の手でその狙撃手さんと決着を着けたいんです…」
「あら…どうしてですか?」
そもそも綴也はこの時ガラーシアも自分を疑っている生徒会のメンバーであ
り彼女も綴也を疑っている事を忘却していた。
それ故に疑われている筈なのに会話はその様な雰囲気は感じられないものだ
った。
彼女に助けてもらえれば狙撃手の問題は解決する確信がある。
でもそれで良いのかという思いがあった。
彼女もこんない笑顔でいるが綴也といて楽しいのかと問われたらどう答える
かは火を見る間でも無い。
折角の笑顔も自分がいなければもっと咲き誇っているかもと思ったら申し訳
なさで一杯になった。
「その…ゲーマーの意地って事なのかな…?そうしたいって思って…」
それだけではない。
綴也はイリュシオンに身体も心も適応できている自身が無かった。
だから自分に出来る事は自分でやらないといけないと思った。
これが自身の口から出た言葉を正しく理解しているかも信じる事は出来ない
がそれも含め精一杯の理由だった。
「ふふ…成程…そうですねそれはそうです」
「ガラーシア?」
「ゲーマーとしては大先輩たる私がその様な事を失念するとは…全くゲーマ
ーとしてお恥ずかしい」
「ガラーシアさん?」
「解かりました…ですが相手は初心者の朝倉君からすればきっと強敵ですか
ら頑張って下さいね…」
「あ、ありがとうございます」
「お礼を言われる事ではありません。今の私が言うのも少しお恥ずかしいで
すが自分の手で攻略したいと言うのはゲーマーの欲求ですから…」
綴也にはガラーシアはとても自分を疑っている人とは思えない程の笑顔で言
い分を認めたのだった。
「ミフさんに言われたけど街一つをゲームの舞台に使えるなんて今って凄い
時代になっているんですね…今でもちょっと受入れ切れてなくて…」
「私には綴也君がイリュシオンの存在を知ったのが一ヶ月前だと言うのが驚
きなのですが…ミフルさんかミトラさんは言わなかったのですか?」
「此処で始めて会うまで何も聞いた事もなかったです」
「TVでもCMしてるんですけどね…一回は見た事は…」
「無い…かも?」
「どんな奇跡の確率ですか…」
そうして笑顔のガラーシアはこれからの予定を自由時間とし綴也は監視役の
思命と一緒に天神の街を歩いていた。
「さて…そうと決まれば何をしましょうか…折角のお休みですから…」
とガラーシアは折角元の服に戻ったという事でとにかく今日は遊ぶ事にしま
すと笑顔で飛んでビルの屋上に立ち手を振って去っていった。
「強制休憩中は街に出れないと思ってた…」
「強制休憩イコール街に出られない訳では無いんですその時は観客と同じ扱
いになりますけどね…」
「観客って…幻想住人じゃないけどイリュシオンで起る破壊や戦闘を間近で
見学したり逃げ回るスリルを楽しんでるって…サクラ会長が言ってた…」
「うーん…運営側の人間として否定をしたいのですけどサクラさんが言う通
り九割方その様な人達なので否定がしにくいですね…」
「ちゃんとした観客って…」
「本来ならばイリュシオンを見学してその様子を画面越しに見学する人達と
言うべきなのかもしれませんが…此処では観客は綴也君が先程言った通りの
人達が観客と呼ばれる様になってるんですよね…」
「それがイリュシオンでは普通の観客になるんですか?」
「偶然とはいえあの黒竜を退けた観客に言われると観客さん達は貴方に言わ
れたくないと言うでしょうね…」
「…うっ!!」
綴也は狙撃手を探したいが今は強制休憩中だった。
イリュシオンに適応できていない彼にとってはそれ程影響は無いが一時間は
大剣を使えない。
ガラーシアとの会話で二十分くらい経ったが時間はあった。
事実休憩中に外に出ると大剣が出なかったし外に出られる事を知らなかった
ので思命はイリュシオンを散策しましょうと提案してきた。
誘われた綴也も断る理由が無くこうして何という事の無い会話を交えながら
イリュシオンの散策していた。
「綴也君着替えはどうしたんですか?アイディアルウェアは元々綴也君の物
なのに着替えてませんね?」
「ああ…今日はガラーシアさんに貸したのでそれで流石に着るのはガラーシ
アさんに悪いと思って…今日は着ません」
「ああ…成程…」
元々アイディアルウェアは綴也が一人だけ違うサイエンス・ファンタジー風
とはいえ学校の制服を使うのはいかがなものかと思い持ってきたのだが今日
は凄いアクシデントでガラーシアに貸した。
自分の服とはいえ貸した服を自分が着るのは何だかガラーシアに悪いと思い
今日は着るのは諦めて私服でイリュシオンにいる事にしたのだ。
「もしかすると綴也君」
「?」
「ガラーシアに貸した服を貴方が着るともしかすると新たな悪評が生まれる
かもしれません」
「え?」
「何も知らない人からすればガラーシアの服を貴方が奪って着ていると噂が
広まりそのまま他の幻想住人に正義感によるバトルが起る可能性が高いでし
ょう…」
「僕の服なのに…」
「なのでアイディアルウェアはイリュシオンでは持ってこない方が賢明でし
ょう」
思命の言葉は綴也には何かの宣告に聞こえた。
「じゃあ…」
「これから新しい服が買えるまでは学校の制服でプレイした方がトラブルを
起こす可能性は少ないでしょうね…綴也君は悪評が広まってしまいましたか
ら…」
綴也がガラーシアの服装という彼女にとっての呪いを解いた代償は新たな悪
評が生まれる可能性とイリュシオンでは学校の制服でプレイする事がほぼ確
定した事だった。
「まあ…しょうがないか…」
「あの制服本当にこのゲームに合ってますよ。学校の制服なのが逆に信じら
れませんね」
元々はその信じられない服を制服に制定している高校に通う心算だった綴也
はアクシデントで通えなくなりその制服まま今の学校に通う事になった。
制服は先生が言うには準備中との事なのでせめて高校の制服が届いてくれた
らあの制服も少しは気軽に使えるのかなと思った。
「うーん」
「どうしました?」
「狙撃手さんが全然狙撃してこないな…って思って…」
「まあ狙撃手さんもプレイヤーですからリアルのスケジュールも有るかも知
れませんし二十四時間綴也君を狙っている訳じゃありませんよ」
思命の一言は当たり前の事で間違いは無いし綴也も理解はしている心算だ。
しかし先程狙撃された綴也はまた狙撃されるのではと散策中も彼なりに警戒
はしていた。
だが未だに狙撃される様な事は無く平和に新天神散策は続いていた。
「コレは…もしかすると…」
「もしかすると…?」
「私が綴也君の人質に見えているかも知れません」
「え?何でですか!?」
「根拠は無いんですが私実は結構この桜羽思命の正体がバレているようなの
で…もしかしたら…少しすみません」
そう言って思命は端末らしき物を取り出して何かを調べ始めた。
「うわ…」
「ど、どうしたんですか?」
「自分でも思っていたよりも正体に関する噂が広まっていて…その上綴也君
が一緒にいる理由まで邪推されてますね…真っ当な理由が一切無いです」
思命の表情がその内容を語っていた。
思命はもしかしたらと言う事を言っただけだ。
だが悪名を持つ綴也と桜羽思命こと天宮桜だと知られているとしたらそんな
二人が一緒にいたらどんな風に考えられるだろうかと考えると決して良い考
えは浮かぶのは難しいと綴也も思った。
「すみません監視を頼んでおいて何だか巻き込んでしまって…」
「寧ろ最初に私が言っておくべきでした。サチコの支持者の中に私を知って
いる様子の子がいたので…前々からそんな噂を耳にしていたのですが…」
「もしかしてさっきの狙撃も…」
「綴也君が私から離れていたからかも知れませんね…」
確定ではないが今はどんなに待っても綴也は狙撃される確率が少ないかもし
れないがその間にもしかしたら思命と行動を共にする事で悪名が広がる可能
性も出て来てしまった。
「すみません…今のは推測に過ぎませんので気にしないで下さい…」
「いえ…大丈夫です…まあ…その…」
自分が知らないうちに悪名が自分の想像していない方向に行くのは沢山あっ
た。
でも綴也はそれをどうにも出来る方法も思いつかない。
何か自分の悪名が払拭できる事があったらと思うがそんな都合の良い事を求
めるのもどうかと思いその考えを打ち切って綴也は休憩時間の許す限りイリ
ュシオンの散策を続ける事にした。
「綴屋先生!!サイン下さい!!」
「いや…僕プロじゃないからサインは持って無いんだ…」
「じゃあ握手して下さい!!」
「私も!!」
「僕も!!」
「俺も!!」
散策を続けている綴也達の前に人だかりが出来ていた。
多くの男女が中心に向かって握手を求めていた。
その先にいる人物は困りながらも一人一人に丁寧に対応している様だった。
「あれは…?」
「ああ…綴屋先生ですね…」
「有名な人なんですか?」
「有名な…同人作家さんですね…」
思命の話で綴也は自分の父の事を思い出した。
詳しい事は聞けていないが父も確か同人作家と言う者だという。
初めてイリュシオンで見た父も確か同じ様に揉みくちゃになっていた。
少しミフルに説明してもらったが今度父に説明してもらう事を決意して綴也
達は人だかりを通り抜けようとした。
揉みくちゃにされている当人には悪いが綴也はそれ程人混みの中心人物に興
味は持たなかったし以上止まっているのも通行の邪魔になるかと思ったから
だ。
「ごめんなさい…そろそろ連れを探したいから…って…え!?」
通り過ぎようとした瞬間綴也に人だかりから綴也に向けられた様な声が聞こ
えた気がした。
「ん?」
何気に気になってその方角を綴也は振り向くと…。
「…え?」
そこには幻想住人の時の自分の父親がファンと言う幻想住人達に揉みくちゃ
になっている姿が目に写った。
「ん?あれ?」
綴也は目をこすりもう一度その方角を見た。
見間違いだと思ったからだ。
「……」
「……」
両者は沈黙したままお互いを見合う。
綴也の目は幻想住人の姿をしている父の姿を捉えた。
幻想住人の時の父親は別人の顔で見たのは一回きりだったが綴也自身は家庭
の事情でその姿は一回で覚えていた。
綴也は見間違いはしていなかった。
目の前に実の父がいた。
「…」
綴也は無言で立ち去る事にした。
いや全力で走り出した。
「て、綴也!?ちょっと待って!?コレはサボってないから!!」
叫ぶ父には後で事情を聞くとしてとにかく此処を離れる事を優先した。
「て、綴也君!?」
「思命さんいきなりごめん!!説明は必ずするから今はあの人の為に一刻も
早く立ち去ろう!!」
「ど、どういう事ですか!?」
思命も突然の行動に戸惑っていた。
しかし綴也も説明が欲しいと思う気持ちがあった。
只一刻も早く此処から離れた方が良い思ったので綴也は全力で走る。
「待てぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「待ちなさぁぁぁぁぁい!!」
と声がした。
後ろを見知らぬ集団が綴也達を追いかけて来ているのが見えた。
「あれは…先程綴屋先生の所にいたファンの人たちですね…」
「何でこっちに!?」
「綴也君が綴也先生の前をいきなり走り去ったので不審者に思われたのかも
知れません」
「え!?」
単純に父から話は後で聞く事にして走り去りたかっただけだった筈が事が大
きくなってしまった。
しかし冷静に考えると父の事に関しては服装以外に疚しい事は無いのでもう
止まっても良いかなと思い始めた。
「逃がさないぞ!!お前には聞きたい事があるんだ!!」
綴也が止まり集団の先頭にいた男性が近付いて来た。
逃げた自分が疑われるのは仕方が無いとしてもとても友好的な雰囲気ではな
いではない綴也はどう説明したら良いのか困った。
「さあ…聞かせてもらうわよ…君は…」
何であれ正直に自分の父ですと口を開こうとした瞬間に銃が撃たれる音が綴
也の耳を突き抜け綴也の顔に何かが掠めた。
Mル…よーい…ドン!!
E香…運動会じゃないぞコレは!?
Mル…もう直ぐ運動会シーズンなので今回は此処で終わらるのが
思い浮かんだそうです。
E香…運動会か…。
何で中学から体育祭に呼び方が変わるのだろうな?
体育の祭と銘打っているがどこか名前負けして
いる気が…。
Mル…ならばまだ運動会の方が良いと?
E香…そうだな。
祭と付くが祭りらしくない気がしてな…。
Mル…ではどんな風にしたら体育祭と言うに相応しいですか?
E香…うーん最低でも大きな競技場を使って…。
全国の学生を集めて…。
設備も最新鋭の物を用意して…。
実況役のアナウンサーと専門の解説員をつけて…。
Mル…体育祭がその名に負けないものになる為にはどの様にすれ
ば良いか作者の時代では課題は山済みという事だけは解か
りましたね。
E香…だな…って何で貴様と二人で喋らなければならんのだ!?
Mル…今更ですね。
私達の様に仲が悪い奴程組み合わせられるのが宿命なので
す!!
E香…凄く納得してしまった。




