ラン・アンド・スナイプズ
綴也は走った。
出口を出た瞬間に地面に音がしたのが耳に入った。
その音が何の音かは解らないが振り返る事も確かめる事もしない。
その音が一回だけではなく走って外に出た間の短時間でに何回いや何十何百
回も耳に入った。
これは振り返る事も確かめようとする事もすなわち午前中と同じ結果よりも
酷い結果になると悟った綴也は振り返らず走る。
止まればどうなるか考える事もする必要も無かった。
「さあ!!始まりました。姫神殺しの新天神エリア全てを使った無制限ラン
ニング!!実況は電子製命体ミトラの妹ミフルそして特別ゲストとして匿名
希望の仲良しご夫婦に来ていただきました」
「よろしく」
「はぁい」
綴也の耳に聞こえ続ける銃弾の音とは別の音声が流れている気がした。
普段ならば口で言いたい事ではあるが背後から聞こえる繰り返される銃弾の
着弾の音らしき音のを振り切る為に今は彼女の行動を突っ込む事はもちろん
そちらに思考を向ける余裕は無い。
「尚、この番組はイリュシオン内ではもちろん動画サイト等で配信される予
定はございません。いわば息子さんの走る姿撮っているホームビデオに実況
を付けるような物なので後で私と仲良し夫婦にしか渡りませんのでどうか安
心して走って下さいね」
「録画なんて何時以来かしらねえ?あなた」
「そうだね…小学校の入学式以来じゃないかな…」
「…そうね」
繰り返すが今は全力で走っている綴也に何かミフルが言っている気がしたが
頭に入らない。
「さあ、ただいま綴也はさんは順調に飛ばしております。しかし直ぐ後方の
狙撃の弾ががマシンガンの如く姫神殺しを追いかける様に背後に着弾し続け
ております。このマラソンにゴールはおろか制限時間なんて知った事か!!
ただ姫神殺しがこの狙撃の雨を振り切るか狙撃の雨が彼を打ち抜くのか勝敗
はこの二つ!!どんな決着が付くと思いますかお二人は?」
「そうね…現実に考えれば走っているあの子の体力が尽きればそれがあの子
の敗北ね」
「現実的にそうですね」
「でも私達は勝敗そのものよりもうちの息子がどのくらいまで頑張れるか私
達はそこに注目しようと思いますよ」
「そうね…私達はあの子の親だもの今は何にせよこの勝負を一生懸命頑張っ
て欲しいわ…」
「何とも親馬鹿もとい親心溢れるコメント!!と共に実況に戻りましょう…
尚姫神殺しは道路では無く歩道を全力疾走しております。安全ルールを守っ
ていますが皆さん歩道を全力で走る時は他の通行人に迷惑にならないように
お願いします!!」
何を言っているのか綴也には解らないが三人が実況(?)をしている中綴也
走っている。
ひたすらに走っている。
「しかし狙撃をどうするのって聞いて答えに驚いたよ」
「今あの子に出来る方法はそれしか方法は無いけど…」
綴也には狙撃を察知する様な事は出来ない見える攻撃ならば避ける事は可能
かもしれないが何処から狙って来ているのか解らない攻撃は避ける前に当た
ってしまう。
だから綴也もどうすればこの狙撃を止められるかを…。
狙撃手を止められるのが一番だが綴也にはその方法も思いつけなかった。
だから今の綴也が考えてできる事はコレだった。
向こうが狙撃を止めるまでひたすらに走って逃げ続けるという事だった。
「とても稚拙な答えですが実にゲームぽっぽい攻略法で私は好きですよ」
「そうだね…これはゲームなんだから」
「正しい攻略法も大事だけど楽しい攻略法を考える方のも良いだろうし」
もっと他に方法はあったかも知れ無かったがそれが綴也が自分一人で出来る
と考えたこの狙撃の攻略法だった。
しかし背後から綴也の予想の斜め上の銃撃が自分を追いかける様に付いてき
ている。
しかしやる事は変わらなかった。
これは綴也と最早狙撃と言って良いものか解らない狙撃者との根競べ。
自分か相手かどちらが先に根を上げるのかとことんやると綴也は決めている
から綴也は自分に出来る全力で走り続けている。
「さあ、姫神殺しは変わらず走り続けております!!その背後には狙撃の連
射が追いかけております!!両者の距離はそれほど広がっておりませんが縮
まってもいない!!」
「通行人がそんなにいないのが幸運だね」
「皆綴也を見て避けていくわ」
「姫神殺しの情報はこのイリュシオン内で拡散しております容姿を見た瞬間
まるで旧約聖書の故事の様に人が姫神殺しを避けていく!!」
「そんなに僕らの息子って嫌われちゃったの!?」
「姫神殺しって言われてるけど家の子良い子だからね!!」
「お家の仕事は手伝ってくれるよ!!」
「だから料理は得意よ!!」
「真面目にコツコツやれるよ!!」
「だから今までゲームはやった事が無いのよ!!」
「あーお二人が息子の為に頑張っている所申し訳ありませんが実況に戻りま
しょう」
実況を聞く余裕が無い綴也は走り続けるしかない。
この長距離走にゴールと呼ばれるモノは存在しない。
それがあるとしたらそれは狙撃手が根を上げて狙撃が止む時しか無い。
その間に綴也は狙撃を走って避け続けるしかない。
「さあ姫神殺しの前には人だかりだ!!これは所謂歩行者天国だ!!」
「全然避ける気配が無いんだけど…」
綴也はとにかく走る事に集中している。
それ以前に何処を曲がればどの道に出るか解らない。
だからこの様な道に出る事もある。
「さあ、眼の前には歩行者天国後ろには狙撃の連射どうする姫神殺し!!」
後ろに方向転換すれば狙撃されるのは確実。
されど歩行者天国に突っ込めば他の通行人を巻き込んでしまう可能性もあっ
た。
その時走る事だけに集中していた綴也に一瞬止まるという考えが浮かんだ。
「狙撃が追い上げる!?」
「いや、彼の方が遅くなっている」
「通行人に迷惑かな…って考えたのかも」
「まあ…こういう時に住人の本質が出るんですよね…それに中にはいるんで
すよね…人の迷惑も考えずに街を真ッ平らにするくせに人気者な困った奴ら
が…」
「ああ…あの子ね…」
「知ってるの?」
「ええ…知ってるわ…良く…ね」
「?」
「お父さんがキョトンとする間に狙撃は姫神殺しに近付いて来る!!」
撃たれてゲームオーバーになっても自分はこれが終わりではない。
そもそもこれはゲームな筈なのだから何度も死んでももう一回やり直せる。
ましてや自分は自分自身というペナルティで死んでも自分自身である事に何
も変化は無い。
既に午前中に四回も狙撃されている。
だから一回狙撃されようがもう一回この道は人通りが多いと覚えておけば良
いと思った。
この方法で通行人に迷惑をかけている自覚が綴也自身ありこれだけの通行人
を巻き込むのは流石にためらいを感じなくもない。
それが綴也の動きに迷いを生んで狙撃の連射が見る見るうちに綴也を打ち抜
こうと迫ってきた。
「え?え!?」
狙撃の連射が綴也を捉えようとしたその寸前だった。
背中の大剣が突如として蒼い炎を噴出した。
「ええ!?」
大剣より噴出した蒼炎はそのまま大地を支えにするかのごとく剣を差してい
る驚いた綴也を空へと押し上げた。
「うえぇぇぇぇぇ!?」
綴也は歩行者天国を上から見ながらまるでアーチ状に飛んでいった。
「と、飛んでる…」
自分に何が起こって何故こうなったのかのか解らず綴也は今の自分の状況を
口にする以外できなかった。
しかし人のいない地上が近づき高度が墜ちると状況が飲み込めた綴也も息を
呑んだ。
(このままだと落ちて!?)
落ちた時を想像したした瞬間再び大剣から蒼い炎が吹き出て綴也をホバリン
グさせて着地させた。
自分に何が起こったのか綴也は理解は出来なかった。
だがこの背にある大剣が助けてくれたのだ。
そう思う事にした綴也は着地後再び体と思考を全力で走る事に向けた。
「これは…驚きました…」
「大剣から炎が出たわね…」
「でも綴也が自分で出した訳じゃないね…」
「まあ…流石に彼が打たれるのは嫌だと思ったのでしょう」
「成程…そういう事か」
「そういう事ね…」
両親が何か訳知り顔で何か言っているが全身全霊で走っている綴也に今は聞
こえないし突っ込む事も出来ない。
「これは全く走るペースを落とさない姫神殺し!!自分自身という名のイリ
ュシオンの最大のデスペナルティを受けている筈なのにこの速さは一体何な
のか!?」
「アイディアルに費やした時間は此処に現れているって事だよ…ね?」
「そうね…あそこでは何も出来なかったみたいだけど…」
「そうですね…ってああっと!!ご両親が訳知り顔で感慨に浸っている間に
此処でT字路だ!!姫神殺しどちらに行くのか!?」
走る綴也の行き先にT字路がある。
どちらにいくべきか考える間も無い綴也は即座に右側に方向を変えようとし
た。
(…え?)
しかし綴也は突如として自分の体勢が崩れるのを自覚した。
何があったのか解らない。
「ああっと!!姫神殺し!!こけた!!」
「「ええ!?何で!?」」
気付けば綴也は道路に倒れた。
倒れた僅か数秒に銃弾の雨に全身を打ち抜かれるのを最後に意識が消えた。
「あれ?…何で?」
意識を覚醒させた時には午前中に良く見た蒼い空と蒼い海の部屋だった。
そこには聞きなれた笑い声に二人ほど新たな笑い声が加わっていた。
言うまでも無く彼の両親達だった。
「…でも…」
「ぷっ…フフッ」
「て、綴っ也…さん…プウッ」
「何で三人供笑ってるんですか!?」
綴也の言葉を聞いて笑いを堪えるミフルが手を空に翳しウィンドウが出現し
その中には走っている己の姿を見た。
しかし先程のT字路に差し掛かった際に綴也は突如として転倒した。
転倒した綴也はそのまま狙撃の連射に打たれて此処にいる。
それは綴也も解っている。
しかし何で転倒したのか自分もわかっていなかった。
自分が打たれたシーンの続きでスロー画面になった自分が転倒する所が写し
出された。
すると綴也は何かを足で踏んだ瞬間に足を滑らせたのだ。
「え!?何!?何に踏んで滑ったの!?僕!?」
「…ナ…わ」
「な?わ?」
「バナナの…皮」
「バナナの…皮?」
父親の言葉を綴也は復唱しつつ顔を傾げす事しかできなかった。
「ば、バナナの皮で滑るって…」
「綴也本当に悪いんだけど…それは…」
「綴也さん…貴方はどれだけ私を…笑わせれば…」
「バナナの皮で滑るのってそんなにおかしいの?」
「え!?綴也?」
「あなた…」
「綴也さん?」
綴也の言葉に三人の表情は先程あれほど笑いこけていたモノから驚いていた
様だった。
三人の様子を不思議に思いながらも綴也は続ける。
「いや…何でバナナの皮であんなにすべるんだろうって思ったんだけど…」
「て、綴也…もしかしてバナナの皮が踏んだらすべるって…」
「え!?バナナの皮って踏んだらすべるの!?」
綴也の言葉に一切の偽証は無い。
綴也の言葉を聞いた三人は更に大きく笑った。
「全然知らなかった…バナナの皮が踏んだらすべるなんて…」
「いや…今の世代はこれは知らない人が多くなってるとは言われているんで
すが…この話は結構ピンクの扉くらいには由緒があると言って良いものなん
ですけど…」
笑い続けた為かミフルの言葉も何時もより喋り方に違和感があった。
そうなるだけミフルも先程の綴也の言葉と出来事は笑うくらい刺激が強かっ
たんだなと綴也は思った。
「え!?そうなの!?」
「元々はとある国の俳優さんが最初ですがそこから別の国のコメディアンさ
んが世界中に広めて世界の人々に笑顔を届けたんだよ」
「へぇ…」
「まあ…それ以前にバナナの皮でこける事故が発生していた時代もあったそ
うですがそれでもバナナの皮で滑るというのは何というか伝説のお笑いのネ
タの一つなのです」
そんな由緒正しい事を自分がやってしまったので三人は笑ったのかと綴也は
納得した。
「あの状況でバナナの皮滑って狙撃されるとか綴也さん…っぷ」
「あの…もうちょっと待ってましょうか?」
その綴也の心使いに三人は十分以上笑い続けた。
その間綴也はただ久しぶり全力で走った体を大の字に作り物ではあるが蒼い
空を蒼い海に寝そべりながらただただボーっと見続けていた。
「さて…イリュシオンの道行きに本物のバナナの皮を捨てた不届き者は監視
カメラの画像を解析してお説教部屋に連行しました」
「本物?」
「イリュシオンのバナナの皮で滑ったのならばこけても怪我は再現に過ぎま
せんが綴也さんは本物のバナナの皮で滑りましたのでもしかしたら怪我をし
ていたかも知れません」
「それでも皆笑ってましたよね?」
「綴也さんが気絶している間にメディカルチェックして異常は無い事を確認
して安心して笑ってます…貴方が怪我をして笑う様な世間の屑とは私は違い
ます」
「う、うん…ありがとう」
「で、大丈夫ですか?」
「うん、何とも無いよ…って異常は無いって言ってませんでした?」
「そちらではありませんよ…イリュシオン酔い?」
「イリュシオン酔い?」
「綴也さん?」
「イリュシオン酔い…イリュシオン酔い…ってあ!!」
10分間笑いこけ続けたミフルに突然聞かれた言葉を綴也は何度か繰り返しよ
うやく自分が何を聞かれているのかを理解いや思い出した。
「まさか…今の今まで忘れて…」
「……うん」
「……」
イリュシオン酔いは狙撃を突破する為の方策以上に綴也がこのイリュシオン
にいる際の最大の問題のはずだった。
綴也は此処では戦闘や激しい運動をするとこの世界に適応出来てない為に吐
き気に襲われていた。
しかしその最大の問題が何もしていないのに今日此処に来てから今の今まで
その吐き気を感じなかった。
全力で走った筈なのに今此処にあるのは疲れているが運動による充足感であ
って吐き気など一切無かった。
「で、でも…僕」
「言っておきますがイリュシオン酔いが克服できた訳ではありませんからね
…あと綴也さんは不正はしていませんよ」
「…じゃあ…何で?」
「自分自身が呪いではなく呪いになるとは…ウフフ」
「のろい?まじない?」
「詳しくは私が言ったので自分で思い出して下さいね。何にしても綴也さん
はまた走るのでしょう?だったら今は休んで次に備えるのが良いのでは全力
で走るのだから少なからず疲れているでしょうし…では少し仕事があります
からごゆっくり」
どこか呆れながらも微笑んでミフルは部屋から消えていった。
そして綴也の無事を確認した両親も部屋の外に出て行った。
気になる事は出来た綴也の現状で需要なのはミフルの言うとおり休む事たと
綴也はそのまま外に出ずに再び大の字になって休む事にした。
それから強制休憩の時間が過ぎた。
「…ってうわ!!」
綴也は飛び起きた。
休憩で休んでいた綴也はそのまま眠ってしまっていた。
時間はどのくらい過ぎていたかPDで確認すると二時間は過ぎていた。
(あの時の鬼ごっこの夢見ちゃった…)
先程まで銃撃に追いかけられていたので似たような経験を夢に見た綴也は身
体をほぐして転送部屋から駅の構内に向かいそのまま外に再び出ようと走り
出そうとした。
「…よし!!いくぞ!!」
入り口から先程の作り物ではない本物の青い空が見えた。
頬をたたいて気合も入れて先程の失敗を胸に刻んで外に翔け出ようとした。
「…え?」
その綴也の眼の前では大きな剣を持った紅い髪の少女と大きな剣を持った大
きな竜と呼ばれる者が街である関わらず戦っている光景があった。
ぶつかり合う両者。
その衝撃で崩壊し砕ける街や道路。
両者を止めようと向かっていく幻想住人達。
しかしそれはいとも簡単に蹴散らされていく。
両者を止めようとして蹴散らされた者達の中にイリュシオンに初めて来た頃
に出会ったロープを水着の様な形にした寒そうな格好の誰かの姿も見れた。
綴也がその戦いを見て間も無く眼の前には真っ平らになった街があった。
Mル…綴也さんは御自身の身体能力はどのくらいだと思います?
T也…身体能力…ですか?
そう言われるとどのくらいって気になるけど…
Mル…綴也さんの身体能力はこの世界では努力を怠らなければ辿
り位の身体能力くらいだそうです。
T也…へぇ…ってそれって…
Mル…まあ、綴也さんくらいの身体能力を持ってる人はこの世界
にはゴロゴロいるという事です。
T也…うん。
Mル…だから狙撃の連射を全力疾走で三十分間逃げられても何ら
おかしな事はありません人間頑張ればそれくらい出来る様
になるんです。
だから貴方は特別では無いんです。
安心して下さいね。
T也…うん、ありがとうミフさん。
Mル…こういう所が貴方の良いところです…ウフフ。
おまけですが綴也さんの後ろにずっと付きまとっていた連
射された狙撃は全て狙撃によるものです。




