戦いと書いて と読む…。
お昼ご飯が抜きという十代の学生にとっては死活問題になりかねないピンチ
をサクラそっくりの少女に助けてもらい事無きを得た綴也は不思議な程美味
しかったカスタードとホイップのクリームパンを食べて午後の授業を乗りこ
えて放課後を迎え生徒会の仕事のために生徒会室に向かった。
仕事が終わったらきっとまたあのイリュシオンに生徒会のメンバーもそして
綴也も行かなくてはいけないといけないと思っていた。
イリュシオンはゲームだというのに何故か行かなくてはいけないと思った事
に思わずおかしいなと綴也は苦笑してしまう。
それはそのイリュシオンというゲームは現実の街を舞台に複合現実を利用し
た綴也にとっては現実を超えたゲームだからだ。
今期の生徒会のメンバーは皆がイリュシオンを生徒会に入る以前からプレイ
しているし向こうでも敵対関係とはいえ知り合いだったらしい。
しかし綴也はイリュシオンはおろかゲームそのものもプレイするの初めてで
その上その現実を超えた世界に未だに圧倒されてゲームを楽しんではいなか
った。
どちらかと言うとそこでイリュシオンで危険に見舞われそうになったり襲わ
れそうになった人達を見てゲームと言われても現実に見えて思わず助けに行
ってしまうのだった。
そして実際に綴也はイリュシオンデでの死つまりはゲームオーバーを体験し
た。
あの時はゲームの中とはいえ本当に自分は死んだんだと思い今思い出すと怖
くなる。
しかしあの時あの歌姫の少女を助けようとした事に後悔は無いし物語に出て
くる誰かを助けて死んでいく人達はあんな気持ちで死んでいくのかなとも考
えた。
「って…僕にはあんな死に方は出来ないな…」
と綴也は二度目の苦笑をした。
自分はそんな人物ではないのだから現実にそんな事になったらきっとあっけ
なく死んでしまうか怖くて逃げ出してとても物語の人間の様に向き合う事は
出来ないと思った。
それは綴也自身が普通の人間だだと思って考えた訳ではなく朝倉綴也と言う
人間はそういう人間だと思っている。
イリュシオンの事だってきっとゲームだから出来た事なのだ綴也はそう結論
付けた。
「でもミフさんも言ったし…やってやるさ」
だがそれでも今の綴也はイリュシオンに恐怖を感じていてもそれでもどこか
自分は大丈夫という不思議な自信があった。
もしかしたらあの学食のクリームパンが予想以上に美味しかったので心が躍
っているのかもしれない。
何にせよミフルにもイリュシオンで死を体験した後イリュシオンと向き合う
事は言ったのでそれを破る事は綴也自身が嫌だった。
「でも…何か忘れている気が…」
決意を新たに両手を握るも綴也は何かそう感じていた。
思い出せるのはイリュシオンで自分がアイディアル最大の悪役姫神殺しである
事が自分で名乗ってイリュシオンのプレイヤーである幻想住人に知れ渡った
事と今日からイリュシオンは綴也自身が自分自身のありのままの名前と姿で
イリュシオンの幻想住人になる事だった。
それらは今後イリュシオンというあの世界に向き合う以上とても重要で大事
な事柄なので決して忘れてはいない。
だが何かを忘れていた気がしたのだ。
他にあるとすればあのイリュシオンで出会ったあの老紳士の桜羽 思命の事
だ。
あの老紳士は生徒会のメンバーの一人だと言ってたが正体はわからない。
だがこの種類のゲームの現実の姿の詮索はしないことが暗黙のマナーとなっ
ている。
それに彼にあったのはあの時から一度きりで再び会ってはいなかった。
それを必要以上に聞くのも何だか失礼であるし自分が信用されていないので
今の今まで忘れていた。
でもこれでは無い何だろうと考えながらも人にぶつからない様に注意して歩
いていると綴也は生徒会室の前まで来た。
「…ん?」
しかし扉の前に立ち止まっている三人の人物達がいた。
それはルージュ、フラウス、シーニィ達生徒会のメンバーだった。
「ルージュ先輩?」
「!?…て、テツヤ…君!?」
「ど、どうしたんですか!?一体!?」
「な、なんでもない!!なんでもないのよ!!」
「そ、そうですか…」
「そ、そうなんです…」
体調が悪いという事では無いようだったが三人供明らかに様子がおかしいの
で聞きたいが自分が信用が無い事は明らかなので此処はサクラに言ってルー
ジュ達に聞いてもらうのが良いと思った。
流石に信用の無い自分よりもサクラが聞く方がルージュ達も何があったのか
答えてくれるかもしれないし何より明らかに様子がおかしいのでサクラも自
分が言ったら流石に信じてくれるかもしれないと考え綴也は生徒会室のドア
を開けた。
「あっ!?ちょ!?」
「うふふ…ちゃんと来たわね…えらいえらい」
「「「ひぃい!?」」」
するとドアの前には何故かこれ以上無い程ににこやかな顔をしたサクラが立
っていた。
「か、会長?」
「ふふ…綴也君も来たのね…じゃあ皆早く入って…」
「は、はい」
サクラがにこやかに綴也達を生徒会室に招く。
原因は不明だがこの時点で綴也はサクラの様子が明らかにおかしいと思わな
いほど鈍い感覚の人間ではなかった。
にこやかに発せられているがサクラの声には何か言い表せない重圧を感じて
いた。
何にせよ生徒会の仕事をしに来たので綴也生徒会室に入り後ろの三人もそれ
に続いた。
生徒会室に入ると室内はサクラだけだった。
「会長…副会長は…?」
「シアちゃんはちょっと確認の為に少し遅れてくるわ…」
「確認?何のですか?」
「今日の仕事に関する事よ…」
「関係する事…ですか?」
「ええ、内容は後で詳しく説明するけど今日の目標だけは確かよ…」
「目標?…ですか?」
サクラは自分の席に腰掛け一度眼を瞑りしばらくして眼を見開き再び立ち上
がり。
「今日中に昨日の分と今日の分の仕事を終わらせるのよ!!」
右拳を握り宣誓をしたサクラがまるで戦場に挑む兵を統率する将軍か王に綴
也は見えた。
「…今日中に…昨日のと今日の分のですか?」
「ええ…やらなければいけないの…私達は!!仕事を完遂しなければいけな
いの!!」
考えても見れば昨日はアイディアル部との練習試合という予想外の予定が入
ってしまい生徒会は仕事をする事が出来なかった。
ならば昨日の分も終わらせる為にもサクラがあんな風に気合が入るのも納得
できた。
「な、何だか凄い気合が入っている気が…」
「それくらい気合を入れなくてどうするの綴也君!!」
「へ?な、何かあったんですか?」
「ええ…」と呟き両手を机に置いて俯きまるで何かに耐える様にサクラはそ
の理由を明かす。
「そう…今日二日分の仕事を終わらせて明日こそはイリュシオンに行く為に
も気合を入れなきゃいけないの!!」
「…え?」
真剣に切実に真摯に発せられたサクラの言葉に思わず綴也はその一文字しか
返せなかった。
「綴也君…私達今週はまだ一回もイリュシオンに行けてないのよ…」
「そ、そういえば…」
サクラの言葉は今日はあの新天神に行く事は無い事を意味していた。
正確には今日もイリュシオンに行く事は出来ないという事だった。
月曜日はサクラの想い人が綴也の父親だった為に緊急会議を開き。
火曜日は綴也のアイディアルの武器をミトラに預かってもらう為にスポーツ
センターに行き。
水曜日は恵理香に頼まれてこの学校のアイディアル部の部員達と練習試合を
行った。
その為に生徒会は今週は一回もイリュシオンのエリアである新天神に行けな
かったのだった。
「もうこれ以上イリュシオンに行けないなんて…我慢の限界だわ!!」
そう言ってサクラが両手を力強く机に置いて立ち上がり再び声をあげた。
サクラの言動が今までの中で見たことが無い類のものなので綴也は恐怖で震
える他のメンバーと違いただ戸惑うしか出来なかった。
そしてようやく綴也はルージュ達の様子がおかしい原因が理解できた気がし
た。
「だから今日は血の涙を流してでも仕事を完遂してそして明日はイリュシオ
ンに行くのよ!!だから綴也君…新人の君も大変だろうけど今日はもう下校
時間は夜の七時を超えると覚悟しておいて…」
サクラが綴也にまるで信頼する騎士に重要な命令を下す王が如くの視線をむ
けて来た。
ただ何にせよ仕事を溜めてしまったのは一応は生徒会一員としても仕事を溜
めた一因の一人として頑張ろうと気合を入れる。
「は、はい…でもその前に家に連絡して良いですか…連絡怠るとまた罰で家
の手伝いという事もあるので」
「お、お家!?…そ、そうねそれは…大事だわ…」
家に連絡すると言っただけで何故か顔を赤くするサクラを見て何を想像した
のかは綴也は考えるのは失礼だと思ったので無視して家に連絡する為にPD
を起動し電話のアプリケーションを使用しようとした。
「…ウフフフ」
その時扉の向こうから微笑む声がした。
直後にドアの開き微笑み共にシアが生徒会室にやって来た。
「シア先輩!?」
「あら…朝倉君ちゃんと来てくれましたね…これならいけるかもしれません
ね」
「?僕これでも生徒会のメンバーなんですよ中学の時のお手伝いも理由があ
って休んだ事はあってもサボった事は一度もありません」
「そうですか…それは良いことです…ウフフ」
「あの…シア先輩?どうしたんですか?今日はちょっと…」
「様子がおかしいですか?すみませんね大事な事を思い出して少し気が昂ぶ
っているのかもしれません」
「大事な事?」
明らかにシアもサクラと同様に様子がおかしかった。
普段から微笑を絶やさないシアの表情だがが今日はその表情が何かが異なっ
ていた。
「ええ…生徒会の書記が私達の大切な伝統を思い出させてくれたので忘れて
いた自分に少し腹が立っているのですよ…少しだけですけど…」
「伝統…ですか?」
「ルージュが言ってくれたのです「そういえば今週イリュシオンに行けてい
ないね」と!!」
右手を強く握り締めてまるで大切な何かを忘れていたように嘆くシアの言葉
の後綴也以外のメンバーが一斉に顔を逸らした。
尚メンバー達が顔を逸らした理由はサクラとルージュ達とで異なる理由であ
る。
「な、何だかすみません僕の所為でイリュシオンに行けなくて…」
「いいえ、朝倉君は今回は何も悪くはありません…約束の事は仕方がありま
せん」
自分の謝罪が本当に信じてもらっているかは解らないがシアは何時もの微笑
みと共に受け止められた。
しかしイリュシオンに行く事はこの学校の生徒会の伝統になっているそうだ
が恐らく彼女達はイリュシオンが大好きで大事なのだだから今週イリュシオ
ンに行けなかったのは自分も関係しているのでやはり申し訳が無かった。
「ですが覚えて置いて下さいね…仕事というのは溜めてはいけないんです。
これからの人生できっと役に立ちますから覚えておいてくださいね」
「はい…気をつけます」
「それでシアちゃん…先生への確認は」
「ええ最悪八時までの許可は得て来ました」
「緋途美先輩は?」
「風紀委員の仕事を終わらせてからこちらに来てもらえるそうですよ」
「そう、なら後は只やりとおすのみね!!」
「ええ、だから今日は可能な限り明日の分も進める位に頑張りましょう…ね
?皆さん?」
「そうね…良いわね三人共?」
「「「はいぃぃぃぃ!!」」」
「今日はしっかり仕事をして後顧の憂い無く明日は生徒会の伝統を全うする
としましょう…良いですね?」
「「「はいぃぃぃぃ!!」」」
サクラとシアは明らかに何時もの様子では無いと綴也は思った。
彼女達生徒会は綴也が悪さをしないか監視するのを目的に綴也を生徒会のメ
ンバーにしている筈だった。
しかし今の彼女達は明日イリュシオンに行く為にありとあらゆる主義主張か
なぐり捨てようとしている様に綴也には見えた。
彼女達のそんな一面を見て呆然としながらも経った二日にもかかわらず溜ま
った生徒会の仕事という名の戦いは始まった。
「ルージュ!!その書類はそっち!!」
「ええ!?本当だ!テツヤくん!これ修正して!」
「これですか!?解りました!!」
「シアちゃん!!そっちは!?」
「まだ時間がかかります!!」
戦いは正しく熾烈を極める事になった。
「これでこれは終わり!!」
「次はこっちよ!!急ぐわよ!!」
「ちょ、少しは休憩は!!」
「今は駄目!!」
迫り来るタイムリミット。
山の様に積まれて減る事の無い書類の束。
逐一に飛び交うホウレンソウ。
これが途切れればそれだけで秒単位とはいえ時間が食われ時間内に終われる
可能性を奪われると言う綱渡り。
「綴也君…こっちの書類の整理を順次お願いします!!」
「私も!!」
「これ…シーニィ先輩とフラウス先輩のとどっちが先が良いですか?」
「それはシーニィの方が先!でも急いで!この後次々と来るから!!」
「解りました」
彼女達に休息は許されない。
今休息は彼女達にとっては癒しではなく毒だった。
だから彼女達はそれに眼を背け進み続けた。
「…私は何を手伝えば良い?」
「緋途美先輩は綴也君と一緒に書類の整理をお願いします!!シアちゃんは
緋途美先輩と交代!!」
「解りましたわ!!」
彼女達は机に向き合いそこにある書類の束を時には筆記用具で時にはMRの
コンピュータを武器に次々と片付けていく。
休息を断っているので疲労は増すばかりしかしそれでも誰一人として止まる
事は許されないし許さなかった。
全ては明日幻想の地を目指して一心不乱に机に向き合い続けた。
そして時間は流れた。
短くも長いと感じる時間は流れた。
「終わったわね…」
「ええ…これで明日は心置きなくイリュシオンに行く事ができるでしょう」
「まあ…明日の仕事を終わらせてだけど…」
「そしてイリュシオンをプレイするのが我が生徒会の伝統…ですから」
「ふふ…そうね…そうだったわね」
時間は夜の七時三十分。
二人が笑いあう。
サクラとシアは明らかに疲労していたが心からの安堵を表情に現れていた。
そう彼女達は戦いに勝利したのである。
「だ、大丈夫…ですか?先輩?」
「だいじょうぶ…だいじょうぶ…フーちゃんは?」
「明日…やすみたい…です」
「ルージュがあの二人の前であんな事言うから…」
「ごめんなさい…思わず出ちゃった…」
「先週の試合の時から一週間も経ってないじゃない…」
「うう…」
仕事を完遂し安堵する二人の向こうには呟き合う三人の屍そしてそれを呆然
と見ている綴也とこの状況で表情を変えない緋途美がいた。
「ええ、これで明日は…」
「ええ、イリュシオンが私達を待っているわ…シアちゃん!!」
夜の八時近くに二人は明日の放課後を楽しみで仕方がないという表情で今日
の勝利の美酒に酔っていた。
彼女達が顧問に申告していた八時なる十分前まで続きすぐに帰宅する事とな
った。
T也…仕事って残さない様にするのってどうしたら出来るのかな?
Mル…私の様な電子製命体みたいに並行処理が出来ませんからね…。
T也…でも溜めちゃうのは駄目だよね。
今回の様な事になるから…。
Mル…まあ…基本的な事ははっきりしてますけどね。
T也…基本的な事?
Mル…トラブルを作らない、起こさない…です。
T也…基本的なのかもしれないけど…。
Mル…基本こそが一番難しいのです。
トラブルとは基本が予想外!!ですから…。
作者さんも気をつけて下さいね?
???…そうします。




