引退記念(人間)ピンボール
その日の放課後綴也は生徒会メンバーを連れて通い慣れたスポーツセンター
に足を運んだ。
もちろん生徒会の仕事を全て片付けた上である。
若干一名イリュシオンに行けなかった事に大いにむくれた生徒会長がいたが
それでも生徒会長を務めているので此処に来た時にはむくれていた素振りは
一切無かった。
「イリュシオン行く事は我が生徒会の義務に近い伝統なのですが…まさかこ
んな形で二日連続でサボる事になろうとは先輩達に申し訳ないですね…」
「何だかすみません…」
「いえ…どなたかは言いませんが誰かの恋の相手が緊急会議レベルの事態だ
ったので悪いのは…」
「うっ!?で、でも…好きになった事は間違いじゃないんだから…」
「それでも相手の事を考えるべきだという事だけは自覚すべきです」
「くっ…」
「あ、あはは…」
自分が言おうとした言葉をまさかサクラが使ってシアに反撃するとは思いも
せずその反撃もシアの一言で沈んでしまった事に綴也は苦笑いするしかなか
った。
「それにしても…ミフさんがいない…」
スポーツセンターの綴也が何時も使用している白い部屋に着いているのに彼
等は何故かこんな事をしていた。
それは此処に綴也が来ればすぐに現れる筈のミフルが何時まで経っても現れ
ないからだった。
「お留守という事は…」
「そんな事は無い筈です。ミフさんは此処に来ると必ず現れますから」
「でも全然そんな気配は無いけど…」
「え!?でも前に三日間此処に来なかったら胸倉つかまれて揺さぶられまし
たから」
「え?」
「僕をからかえなかったからって物凄い力でブンブンと振り回されて…」
今日は二日ぶりにここに来たのでもしかしたらまた怒っているのかも知れな
いとも考えた。
彼女いや彼も自分の事情は知っているがそれでもストレスが溜まっていると
自分をからかえなかった分何時もより奇天烈な行動を起こす。
ミトラでいる時は完璧な紳士のはずなのにミフルに変装するととにかく行動
がストレスの度合いによって突飛な行動がエスカレートしていくようだった。
しかしそれでも綴也自身が傷つく事はしない様にその分だけは守っているの
も長い付き合いの中で感じている事だった。
「からかえなかったらって…貴方達本当にどんな関係なのよ?」
「ミトラさんの妹さんはとても個性的な方なんですね」
(…二人が同一人物なのは…言わないでおこう)
そのことに関しては彼には口止めは一切されてはいない。
しかし彼のあの姿は綴也をからかって自分のストレス解消の為に作った変装
の様なものなのでプライベートに関する事を本人ではない自分が言うのもど
うかと思ったので黙っておこうと自制した。
「ねえシアちゃん?今更なんだけどミトラさんって…もしかしなくてもあの
…」
しかし此処まで待っても姿が見えないと言うのは珍しかった。
余程忙しいのかと思った。
そんな状況の時はこの間のイリュシオンで綴也が死んでゲームオーバーにな
った時もそうだったのがミフルの姿の心算だったのに姿はミトラのままだっ
た。
或いは姿がミフルで声がミトラだったというあべこべになっている事があっ
た。
しかし数日でイリュシオンの時と同じ様に余裕が無い程忙しいと言うのは珍
しいとも思った。
しかしそうなると怒っている上にその上忙しいと言うのが重なっているとな
るとどんな風に現れるのか綴也はミトラがどんな行動に走るのか少し不安に
なりそうだった。
「ええ、世界で製命体の資格を得た…って?」
「何!?」
突如として部屋で何かの音がした。
それは綴也はこの部屋で何時も聞いていたアイディアルのシステムの稼動音
だった。
「何でアイディアルのシステムが勝手に?」
「ええ!?」
綴也が尤もな疑問を口にしている間に綴也の手元に彼が何時も使いそして今
日の為に心を込めて磨いた武器が腰に鞘とホルスターと共に腰に装着されて
いた。
「アイディアルのシステムが勝手に起動って!?綴也君貴方何をしたの!?」
「違います!!システムが勝手に…あ!」
綴也はそこで一つの確信に近い仮説が浮かんだがそれを口にする前に目の前
の景色が大きく変わった。
白一面の部屋が一瞬にして上は一面の青い空下は青い海になった。
しかしこれは彼らが現実に瞬間移動した訳ではなくアイディアルのシステム
で舞台の外観をこのように変える事が可能で実際には白い部屋にこのような
景色の絵が突然描かれたようなものである。
「これは…?」
「空と…海?」
「イリュシオンと比べても見事な出来だよね…」
「…」
「確かに見事なグラフィックですよね…」
「貴方達…そんな事を言ってる場合じゃないでしょ!!」
「あれ…?最近同じ風景を見たような…でも…」
「き…ん?何か見えない?」
その今は海になった地面に二つの光の柱が立ち上り光が消えた後に二人の人
影が姿を現した。
一人は全身が黒い装束を身に纏った忍びと呼ばれる者。
一人は白い髪に白い眼白い肌に白い装束を身に纏った少女だった。
「白い姫神!?」
「の…立体映像の様ですけど…突然何故?」
「それにもう一つのあれって…忍者!?」
「あれは何!?」
「全身黒の忍び…あれってまさか!?」
「やっぱり…」
「綴也君!?いきなり訳知り顔になっているんだけどどういう事!?」
自分の中にあった推測が確信になり綴也はサクラの質問に答えようとしたが
その前に二つの立体映像は各々の武器を手に綴也に向かって突撃してきた。
綴也も右手に剣を左手に銃を手に戦闘体勢に入り二人を迎撃しようとするも
綴也が戦闘態勢に入るよりも速く忍者の刀が綴也に斬りかかる。
「綴也君!?」
「くっ!?は!?」
かろうじてその一刀を受け止めたが綴也はそのまままるで漫画やアニメのシ
ーンの様に吹っ飛ばされる。
しかし吹っ飛ばされた綴也の右横に白い少女が現れその手に持つ剣で綴也に
斬りかかった。
吹っ飛ばされた状態で受け止めようにも受け止めきれなかった綴也はその状
態でも右手に持つ剣を白い少女の刃に向かわせた。
幸運と呼ぶべきがその剣は彼女の刃と交差させる事はできた。
がそれと攻撃を受け止められたかは別といわんばかりに綴也は再び吹き飛ば
された。
「ぐぅぅ!?」
先程までとは逆方向に吹き飛ばされて壁への激突は幸か不幸か避けられたが
今度は再び黒い忍者が綴也の背後に現れ刀を振りぬいた。
背後を取られた綴也に出来た事は苦し紛れに左手の銃で受け止める事だけで
再び綴也は逆方向へ吹き飛ばされる。
すると再び白い少女に吹き飛ばされて再びの黒い影そして再びの白い少女。
最早綴也は空中で高速で刎ね続けるボールのようであった。
幾度も幾度も綴也は上下左右前後と吹き飛ばれるのを繰り返した。
この時間は決して長くない時間だがこのまま繰り返されれば綴也は意識を消
失するのは秒読み段階だった。
そして何度いや何十度目かいや何百度の白い少女が剣を向けてくる。
「!?」
少女の剣が綴也に向かって振るわれる。
綴也はその剣を残った意識を振り絞り受け止めた。
しかし綴也は白い少女の剣を受け止めきる事は出来ずそのまま下に吹き飛ば
されその真下には忍者が拳を握り待ち構えていた。
「!?」
相手になっている立体映像は自分よりも遥かに上にいる理想求者のもので仮
に自分がPDを使えたとしても勝てない相手。
方や相手は女性で皮肉な事に今の人間ピンボール状態で体質による視覚ダメ
ージは何時もよりも圧倒的に無いが別の意味で吐きそうになる。
只、それでも片方の白い少女の本人には勝った事がある。
だがそれは綴也も実力勝った訳では無く本当に自分でも生身で地球に落下す
る人工衛星を破壊して生身で地球に生還したと言う不可能を成し遂げたよう
だと言いたくなる位の可能性を引き寄せた勝利だと思っている。
意味不明な例え方だが自分のあの姫神殺しと呼ばれる様になったあの勝利は
それだけありえなかったと言う自覚くらいはしている勝利だった。
(やっぱり、この二人は凄い)
勝敗等を語るならば相手が片方だけでも練習の時に忍者は十五分持って実力
の半分を出せるか否かで負けて奇跡の偉業で白い少女は女性なので結果は語
る事が残酷と言われる程で迎撃や耐える事に意味あるのかと言葉にする事も
本来残酷だと言われる程に差がある。
何故なら現在の人間ピンボール状態はどちらか一人だけでできる事で二人で
そんな事をする必要は無い。
(何で戦っているのかは解らないけど…)
そもそも綴也が此処に来たのはこのアイディアルで使用する武器をミフルに
自分の武器を使ってくれる人を探してもらえないか相談する為であり実質ア
イディアルを引退すると言う約束を守る為に此処に来ている。
だから綴也がこの二つの立体映像相手に空中でボールの様に打たれる理由も
無い。
それでも忍者が刀ではなく拳を構える。
今のバウンドするボール状態の綴也ならば受け止めるだけで天井に吹っ飛ば
されて首が作り物の天井に突き刺さるだけでは済まないという結果をもたら
すのも綴也は想像出来た。
実力差など考える必要が無いくらい意味が無い。
アイディアルを辞める約束の事を考えなければいけない筈なのにそんな事な
どお構い無しに忍びの拳が放たれようとしている。
(この二人を同時になんて勝てるなんて全然思えない…)
ならばこのまま負ける選択肢もあった。
今日此処でアイディアルに別れを告げに来たようなもの筈だった。
「だけどそれでもこのまま負けられるか!!」
綴也から出たのは約束を守る事とは真逆といって良い言葉だった。
確かに此処にアイディアルに別れを告げる為にこの三年間慣れ親しみ自称イ
ンストラクターにからかわれ旧友三人も交じり語り合い一時期あの恵理香と
も修練した思い出の詰まったこの場所にやって来た。
未練が無い等言う事はしない。
そもそも未練は川のように流れていて止め処が無く。
ましてやこんな入学してばっかりでアイディアルを辞める約束をする事にな
るなんて思いもしなかったのだ。
だから突如としてのこの立体映像との試合。
あの電子製命体が何を思ってこんな事をしてくれたのかは綴也は解らない。
この二人は姫神殺しの仇名を貰ってから練習相手になってくれた。
この二人は立体映像だから会話は出来ない。
時々ミフルが白い姫神の方に変装か立体映像自体に入り込んで自分の顔を胸
に埋めさせて吐かされた事はあった。
この二人と会話が出来たらどんな事を言われるかは解らないこの二人も思い
出の在る者達だ。
だから理想求者としてこの二人を前に此処で負けるのは嫌だと…。
そう思った瞬間綴也は銃を空へ放って剣を両手で掴んだ。
「うぅぁぁああああああ!!」
有りっ丈の叫びと共にそのまま忍者に身動きの取れない空中で全身全霊を込
めて剣を振り下ろそうとした。
忍者も拳をまるでそれに応えるかのように高速で振るわれる鉄槌の様に拳を
振るおうとした。
しかし…。
「え!?」
剣と拳を振ろうとする両者に割って入ったものがあった。
それは白い立体映像だった。
割って入った白い立体映像は剣を振るおうとする少年の前に立ち両手を広げ
ている。
立体映像自身がおいでと言っている様にも見える。
一瞬の出来事に思考する余裕の無くなった綴也ではできない事で試合を見て
いた少女達からはあの立体映像は微笑んでいる様に見えた。
おいでと言っている様に立体映像はそのまま彼の顔を自身の胸に寄せ抱きし
めた。
Mル …ゴぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉル!!
綴也さんのお顔があの白い姫神の胸に突き刺さった!!
Mラ …ミフル、彼の顔はサッカーボールではありませんが。
Mル …おや、貴方が綴也さんを擁護するとは珍しい…。
何時もは綴也さんを貶すのがあなたの仕事のようなもの
なのに…
Mラ …今のは道義的に貴方が悪いと思ったから口にしたまでで
あの馬の骨を擁護しようという考えはありませんね。
彼に対する一言もそれにあれは貶す事が目的ではなく主
観も混じっていますがそれでも公正な判断で間違ってい
るとも思いませんし…。
Mル …はあ…この男はどうしてこう…
(自分の事の様に深い溜息…)
Mラ …と言うか我々が会話をするのは…何と言うか…
Mル …今の綴也さんを此処に呼べと言うのですか!?
我が兄ながらそれは酷い!!
Mラ …いやだから…この会話は…いや、今は別の話を…
「彼女」からクレームが来ているのですが…
Mル …それは仕方が無いでしょう…あそこに生身で来られたらそ
れだけで事件発生ですしょうし…。
アバター越しに会わせてもきっと事件ですし…。
Mラ …この会話所謂メタい会話と言うやつなのでは…
Mル …色々な意味でそうかもしれませんね。




