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IFかもしれない世界で綴る物語(あるかもしれないみらいで生きるライフ・ストーリア)  作者: きちだ しんゆう
理想と幻想の間~ミックスド・リアリティ
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やれることを全て出し切る戦い~アステリーヴァが導く果ては…






「アイツ…何か取り出したぞ!?」

「玩具じゃないか!?アイディアルをバカにしてるのかあいつ!?」

「何をする気だ!?」

「会長気をつけて!!」


観客達から罵詈雑言が飛び交う。

しかしそれに構わず綴也は言葉を唱え出した。


「―この剣は世界の理想を切り裂きし武器…」

「!…させないわ!!」


綴也が何かを唱え始めた瞬間サクラが剣を綴也に向かって走らせた。


「―この剣はかの姫神を手にかけ貶めた凶器…」


綴也は詠唱しながらその剣達を避けたり拳で蹴りで弾く事を試みる。


「―この剣は我が罪であり我が宿業…」


しかし吐き気が集中を乱しその全てを受け止める事は出来ず傷だらけの体に

新たな傷を体に刻みだしていく。


「―この剣を振るう事は罪を重ねる事と同義…」


負けるのは嫌だ。

練習試合でも負けてばかりだからそれが楽しい事ではない事も嫌と言うほど

に思い知らされている。

ましてやこの試合に負ければ大好きなスポーツを辞める約束をしている。

だから負けたくなかった。

しかしサクラは自分よりも強く今の自分ではサクラ・レノンフォードに勝て

なかった。


「―この剣を振るう事は罪を悔いてはいないという証左…」


勝負は決した。

しかしこのまま負けるのはもっと嫌だった。


「―それでもこの罪業を何度でも繰り返す…」


負けるのならばせめて自分に出来る全てを使って負けようと自分でも少し自

暴自棄かなという思いが綴也を突き動かしていた。


「―何故ならそれはこの罪を悔いていない証だから!!」


自分が物語の主人公の様に勝利を掴む事は出来ない。

それでも主人公の様に最後まで戦って戦って最後はどうなるかは決まってい

ても。

綴也は最後まで戦うと覚悟を決めた。

それに何よりサクラとの戦いを…好きになった女の子と大好きなスポーツで競

うという最高の時間を終わらせたくは無かった。

様々な思い込めてその一言をあらん限りの声を上げた。


「アステリーヴァ…起動!!」


その言葉を唱えた瞬間光剣の玩具の周りに光の鎖が出現しそれが外れた。

光の鎖が外れたPDの噴出口らしき部分に光が収束し蒼く光る剣を形作った。

言葉にすれば何が起ったかと言えばそれだけだった。


「何だよ、光る剣が出ただけじゃないか!?」

「いい加減負けを認めろ!!お前のような卑怯者に会長は負けはしない!!」

「そうだそうだ!!」


綴也に対する野次や罵声は更に上がっていく。


「…とうとう出したわね…貴方のCOMクオム…」


そしてサクラの顔と声にはある種のやっぱりという諦念と安心が入り混じっ

たモノがあった。

彼がこれを出す事は予測していたかのように…。

理想求者の中にはアイディアル環境に適応してその個人特有の能力を持つよ

うになる者が存在するが実は理想求者だけではなく物が物特有の能力を持つ

事がある。

それは理想求者自身の衣服であったり自分の身につけている物だったりある

いはPDだったりする場合もある。

それらがアイディアルの環境下で理想求者の様に適応し固有の力発揮する事

があった。

これをクロス・オーヴァー・マテリアル頭文字を取ってCOMクオム

呼ばれる。

朝倉綴也のPDはこのCOMとしての適正を持っていた。

つまり玩具の光剣がこのアイディアルの中でも使えるという事だ。

ただし本人が自己申告していたが綴也はこの光剣を使用する際にアイディア

ルでのみあのような呪文の様な文言を唱えないと使う事が出来ない。

さらにこの玩具の光剣の存在はとある理由から多くの理想求者達からCOM

とは認められておらず違法手段として認識されている。

だから綴也を本当は敵視するサクラもこの存在を最も嫌っていた。

何故ならそれを使う事はサクラにとってそれは朝倉綴也という男がこの公衆

の面前で違法手段を迷う事無く使う卑怯者という本性を表わしたという事に

他ならなかった。


「やっぱり…貴方はそんな人間なのね」


先程の質問もサクラにとっては疑問というより何故違法な手段を使わないの

かというい意味での質問であった。

そして綴也の答を彼女は一切信じていない。

ましてやサクラは今日までの綴也の言動は一切信じていない。

それは自分の周りの人間や生徒が彼の毒牙から守るためでもあった。

彼は悪人なのだと彼女は信じている。

サクラ・レノンフォードという少女はは朝倉綴也という人間が姫神殺しとい

う烙印を刻まれた事件が切っ掛けとはいえ朝倉綴也という悪人が許せないと

思う優しく善い人間だった。


「いいわ…此処まで来たらその剣も()()()()()の剣も打ち破ってやるわ!」


それは巨悪に挑む女の騎士が覚悟を決めたかの様にサクラは二刀を構え十二

の剣も構えるかのように宙に座している。


「そうだ!!会長!!頑張れ!!」

「こんな卑怯者に負けるな!!」


そして綴也はその光の剣を逆手に掴み左足を前に構える。

サクラもそれを見て来るかと待ち構える。

綴也がその剣を振るう…。


「…え!?」


自分の左足に突き刺した。


「…え!?…何!?」

「何やってんだよ…アイツ!?」


これにはサクラも観客達も同じ様に声を上げる。

綴也が何でそんな事をしたのか理解出来ないからである。


「ぐぁあああ!!」


綴也は苦悶の声を上げる。

それは当然だった。

MR環境内での再現とは言え自分の足に剣を突き刺せばその激痛はこの試合

が終わるまで消える事は無い。

只でさえ傷だらけの自分の身体をで自分を傷をつける等何を思ったら出来る

のかと言わざるえない行動だった。

ましてや自分の足を傷つければ攻撃の手段を自分で壊してしまう事だ。

この行動の意味を理解できた人間は一人しかいなかった。

その人間は明らかに顔を顰めていたが誰にもそれを悟られる事は無かった。

綴也の行動に一同が沈黙する中剣を自ら刺した綴也は痛みに表情を軋ませな

がら…。


「がぁあああああああああああああああ!!」


叫びを上げて左足から光の剣をまるで鞘から刀を居合い抜くかの如く引き抜

いた綴也がそんな更に傷だらけの状態でもサクラに向けて走り出す。

サクラもそんな綴也であっても迷う事無く十二の剣を綴也向けて放つ。

十二本の剣達が各々の構えで綴也に斬りかかる。

そこにサクラも己を十二本の剣を駆け抜ける十三本目の剣となるべく走る。

そこに三本の剣が先陣を切って綴也に斬りかかった。

それは先程よりも更に鋭く速い剣だった。

迫り来る三つの斬撃に綴也は再現された自分の足から引き抜いた蒼く光る剣

を剣達に向かって只振るった。


「え!?」

「うそ…?」


会場がどよめいた。

そこには試合中傷つく事の無かったサクラの剣が三本まるで柔らかい物の様

に左右半分に斬られていた。


「な!?」


サクラも驚く。

それでも綴也は光剣を手にサクラに向かって翔ける。

剣を斬られたサクラは直ぐに残った剣を綴也に差し向けその道を阻む。

綴也は再び光剣を振るうがサクラの剣は綴也の光剣を避けていくそして避け

て出来た隙に別の剣で綴也に斬りこもうとするが綴也がそこから斬りこもう

とする剣の方へ光剣の閃きを走らせようとする。


「させないわ!!」


すると今度はサクラ自身が剣がとなり綴也の剣を受け止める。

光の剣をよけて九本の剣が綴也を斬りかかろうとすると綴也がそれに斬撃で

応酬するが剣はそれを察知してそれを回避するか不可能であればサクラが間

に割って入り綴也の剣を受け止めた。

剣と剣が交差する事も音を響かせる事もない剣舞が一本の蒼い光剣を持つ少

年と十一本の剣を持つ少女で演じられている。


「卑怯者!!卑怯に卑怯を重ねてなんとも思わないのか!?」

「会長!!頑張れ!!」

「勝ってもお前なんて誰も認めないぞ!!姫神殺し!!」


サクラへの応援と綴也へのヤジというBGMと共に剣舞の速度が上がってい

く。

それは練習試合の時の剣戟よりも激しいものだ。

綴也の光剣がサクラの剣を捉えるか。

サクラの剣が綴也の剣を捉えるか。

勝負はそこに終着するように向かっていた。


「はあああああああああああああああ!!」

(何でこんなに簡単に斬れたのかはともかく何でコイツの剣の速さが上がっ

てるの!?まして剣だけで何でこんなに追い詰められてるの!?これもズル

なの!?それに足だって自分で傷つけて痛みが…まさか?)


そうようやくサクラは先程の綴也の行動の意味に気付いた。

綴也は自分の吐き気を忘れさせる為にワザと自分の足を刺したのだ。

動けば動くほどその激痛でそれどころでは無くなる様にする為にしかしそれ

で吐き気を忘れさせる事等完全には不可能だ。

人の感覚というのはそんなに簡単ではない筈である。

それなのに彼はこんな真似をしたというのか?

―卑怯者の筈なのに?という思考がよぎった瞬間。


「だあああああああああああああああ!!」

「グッ!?」


その一瞬の混乱が隙になりサクラの剣が一本斬られた。

そこからはまるで殺陣の様に綴也の光剣が残る剣を次々と斬り捨てた。

たったその一瞬の混乱していただけで宙を舞う見えない剣という名の騎士達

は骸の様に転がっていた。

それくらい今の綴也の剣は速かった。


「はあああああああああああああああ!!」


綴也はサクラに向かい翔ける。


(そんな筈はないこれも何かのドーピングか何かなんだわ!!そんな理由で

彼がそんな事する筈ないわ!!)


サクラも両刀を構え綴也に翔けていく。


「このぉ!!卑怯者ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


お互いの剣がぶつかる様に見えた。

しかしサクラの両剣は刃を両断され…。


「ッ!!」


その胸には蒼い光の刃が突き立てられていた。

サクラは自分を斬った相手に精一杯の敵意を向けた。


「ありがとう…先輩」

「…!?」


しかしその相手にお礼を言われた事に疑問符が浮かびそのまま意識が呑まれ

ていった。

あれだけの応援とヤジの飛び交っていた会場は一瞬にして静寂になった。


「うっえ…ぷ」


サクラが倒れた直後綴也も吐き気を再び催し口を押さえて倒れているサクラ

から離れて蹲っていた。

そんな静寂の中に審判である神条 恵理香が声を上げる。


「勝者、サクラ・レノンフォード!!」


戦いの終わりと勝利者の名を告げた…。


「え?」


審判の一言に観客達は思考が停止しした。

誰かが発した疑問符は広がって騒然とし始めた。

しかし綴也は審判の一言に驚きもせずにただ手を口に当てて蹲っている。

まるでこの結末が解っていたかのように…。


「審判として説明するがこれは朝倉 綴也の反則負けという意味ではない。

勝負の終盤に朝倉綴也は玩具の光剣を使用したがあれはズルではなくCOM

と呼ばれるアイディアルでは然程珍しいものではないものだ。但し皆も知っ

てのとおりこの男は姫神殺しという事件を起こしている。その罰の一つとし

て試合中にCOMを使用した場合は勝負は負けとして扱われる様になってい

る…」


その一言に観客達はその意味を理解していく。

そうあの少年は負けていたのだ。

あの剣を使った時点で。


「だがアイディアル協会も朝倉綴也のCOMの存在は知っているし認めても

いるので決してルールに反した事も行ってはいし彼が負けたのはルール違反

ではなくあくまでルールにのっとって勝負して負けたのだ。そこを誤解せぬ

ように理解して欲しい…」


そう彼女はあの卑怯者に勝ったのだ。

と綴也の敗北を理解した瞬間歓声を上げようとした。


「さあ、試合は終わりだ…早く片付けて帰りなさい。これ以上はこの施設の

人達や他のお客様に迷惑だからね…」


恵理香が諭すように皆に語りかけた。

確かにその通りだと会場の空気が統一されて観客達はまるで巫女の神託を受

けた民のように会場を後にしていった。

きっと彼等は外に出れば彼女の勝利を讃えるのだろう。

メディアでよく見る様な歓声を上げるだろう。

そして彼の敗北を心からの笑顔で貶すだろう。

しかし彼等は知らないし気付いていない。

自分達に向けられた彼女の諭す言葉の中には一切の暖かさが存在していない

事を…。


「本当に不愉快だよ、全く…」


そしてそれに気付けた者は少なくとも観客にはいなかった…。

サクラの方は生徒会メンバーとミトラがすでに駆けつけサクラの様子を見て

いる。

観客が一人もいなくなった競技場の中で再びサクラが目が覚めるのを見て息

をついて…。


「終わっちゃった…僕の…アイディアル」


綴也は楽しいことが終わった時の子供の様に呟いた。

これが勝ち負けの決まった戦いにおける朝倉 綴也の最後の選択であり最後

まで足掻いて辿り着いた理想の結末だった。



Mル…あの剣を使うという事はその時点で綴也さんは負けが確定

   してしまいます。


E香…それでも最後まで戦う事を止めなかった。

   いや…アイディアルを止めなかった。


Mル…この女も言っていた通りCOMも協会は認めているという

   のに…。


E香…COMを使っていれば今のサクラ嬢であれば間違いなく勝てていた。


Mル…何だか皮肉ですね。


E香…ああ、理想を求めるとは案外ああいうものなのかも知れな

   いと言うのにな…。


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