自分が望む自分
「はい、綴也さんのミフルさんですよ」
「ミフさんが…あの子だったんですか…?」
「そうですよ」
「……本当に?」
「さっきは助けてくれてありがとうお兄ちゃん。あのドラゴンに向かって行
った時カッコ良かったよ」
が彼女は直ぐに声色をあの幼い少女に変えてきた。
如何やら彼女があの幼い少女に変装と言うべきかそういう風になっていたら
しいと綴也は信じるしかなかった。
「あれは死ぬならせめて二人が逃げる時間だけでもと思って前にて行っただ
けですあれがゲームじゃなくて現実だったら三人供死んでたよ」
「私は真面目に返して欲しかった訳では無いんですけど…」
「?」
「からかおうと思って言ってみたのに真面目に返されて如何すればいんです
か!?」
「僕に聞かないで!!」
「まあ綴也さんは例えあれが実は現実だったとしても立ち向かって行ったん
でしょうね…」
「いや、それは無理です。でも、なんでミフさんが?だって今日は仕事…」
「ウフフ、私程になると違う場所で同時に仕事をする位はわけありません」
「同時…?」
「つまりスポーツセンターのインストラクターとイリュシオンでのサポート
業務を毎日同時にこなしているんですよ!!」
「ええっ!?」
「綴也さんは私が電子製命体だという事を忘れていませんか?」
電子製命体とはMR技術が普及していく中で誕生した存在。
AIと呼ばれる存在の中でも上位に位置するもの達である。
自己の判断で思考、判断、実行を行えるがこれでは知的生命体と区別が出来
ないという意見が根強い為に「製命」体とする事でギリギリ生命体呼ばれる
ものとの区別化を図ったいう。
綴也にはミフルと自分との違いは解っているつもりだがこうも毎日愉快痛快
なコミュニケーションを取られて来ると解っているはずの違いも半ばどうに
でも良くなっていく。
「忘れてた…ごめん」
「全く…」
彼女はそれなり話をしているが一日に複数の仕事場で働いたらいくらその電
子製命体でも過労死しかねないのではと思う綴也だった。
「私に過労死の心配は要りませんよ。何せ綴也さんをからかって遊んでスト
レス発散と元気を貰っていますから」
「それは…良かった…て言えない気がするんだけど…」
「綴也さん!!今日は用事があるからあそこには行けないと言われた時私は
どれだけ絶望した事か!!貴方をからかえない事は私から生きる事を奪うの
と同義であるという事を綴也さんも知っているでしょう!!」
「力説する程なんですね…ってミフさんは」
「まあそろそろ真面目に致しましょう。改めてこのイリュシオンのサポート
AIを勤めさせていただいています電子製命体ミフルと申します。先程はお
客様のサプライズイベントに協力していた為とはいえ失礼をいたしました」
「?サプライズイベント?」
「綴也さんに仕掛けたドッキリですよ。あれはあの生徒会に協力を依頼され
たからこういう事をしたんですよ」
「じゃあ…」
「ええ、こちらでも住人からの依頼でそういうイベントに協力するのもお仕
事ですので事実綴也さんは今日までイリュシオンを知らなかった訳ですから
…」
「うっ…」
「まあ、結果は予想外の結果でしたけどね私達が逆にサプライズされてしま
いました。けど私は綴也さんの勇姿を楽しませていただきましたが」
「じゃあ、あの両親って人達も…」
「ええ。あれはイリュシオンを作っている会社のスタッフです」
「そうなんだ…」
「実はあの二人は付き合って長いのですが中々結婚に踏み切れなくてこれを
切っ掛けにに結婚の話が…」
「僕、関係ないよね」
「いや、実は今彼が正に彼女にプロポーズの真っ最中で…」
「ちょっと待ってミフさん!?何やっているんですか一体!?」
「ああ!!彼女からも遂に…遂にYESという返事が出ました!!」
「ええ!?本当に!?」
「綴也さんのお陰で二人はめでたくゴールインですよ!!流石です!!」
「やっぱり僕関係ないですよね!?」
「いえいえ、貴方がいなかったらあの二人は結婚に踏み切れなかったでしょ
う。あなたがいたからこそあの二人は今この時結婚という新たな一歩に踏み
切れたんですよ!!」
「まあ、別れ話よりは良いけど…」
「でも、これがなくても結婚していたでしょうね」
「やっぱり関係ないんですね…」
「後でお祝いを贈らなければなりません」
「そうですね…でもその前にデザインを…」
「おっと…」
綴也の知らない所で二人の男女がめでたくゴールインをした事に関係ないが
綴也は先程出会ったばかりの二人におめでとうございますと心の中で祝福し
た。
「それでは綴也さんにはイリュシオンの幻想住人に登録
していただいた
訳ですがイリュシオンについては何処まで知っていますか?」
「複合現実を利用してこの街を舞台にいろんな人達が戦うゲームですか?」
「まあ…今はそれが正解としておきましょう」
「え?正解じゃないって事ですか?」
「ええ、それは綴也さんが考えてみて下さい…私が答を言うのは簡単ですが
自分で答を導き出すのも人生において必要ですからそのための練習と思って
考えてみてくさいね…」
「でも街一つを舞台にしているだなんて吃驚しました。こんなものがあった
なんて知らなかったし…」
「やっぱりイリュシオンの事は全く知らなかったんですね」
「は…はい。ゲームするのこれが生まれて初めてで…」
動画サイトでゲームの動画は見た事があるが実際にゲームに触れてプレイす
るのは綴也これが始めてだった。
「まあ綴也さんですから…」
「そう言いながら何で嬉しそうなんですか?」
「それは…」
「良い、言わなくてもわかる気がする聞いた僕が悪かったです」
「ウフフ、ではこのイリュシオンにおける綴也さんのデザインの説明に入り
ましょう…」
そう言いながら彼女は空間ウィンドウを開いて操作したすると綴也の目の前
にウィンドウが表示された。
それを見てみると幻想住人登録と表記された仮想ウィンドウと仮想キーボー
ドがあった。
「これに登録を行なうんですよ」
「これに…?」
ウィンドウの内容を見ると…。
名前、生年月日、年齢、住所がありその下には…。
「あのぅ、色々項目が一杯過ぎて十分で終わります?」
「終わりませんね」
「…ですよね」
性別、顔や手足、体付きは解る。
しかし、その一項目一項目が細かいのだ。
例えば、顔にしても大きさや肉付き何cm?。
眼の大きさは何cm?色は?。
唇は何cm?形は?等…。
コレが綴也が見ただけでも1千に迫っていた。
「あの…種族って何なんですか?」
「種族は種族ですよ。人間以外も選択できるんです。何故ならこのイリュシ
オンは自分が望む自分になれる事も売り文句にしていますから多種多様なデ
ザインが可能になっているんです」
「ごめんそんなに細かく考えられないよ…」
「ですよね。でもこういう自分でデザインが苦手な人の為にイメージで自分
のキャラクターを作れるシステムもありますから」
ミフルがウィンドウを操作すると綴也の目の前に有った細かすぎる設定画面
が消えて不思議な模様をしたサークルの様なものが現れた。
「この中に入って自分が作りたいキャラクターをイメージすれば一瞬で出来
ますから」
「あのミフさん。あんなに細かい設定する人居るんですか!?」
「ええ、登録する八割くらいは前者でやってますよ」
「ええ!?」
「まあ、綴也さんはこっちのほうが絶対良いでしょうけどね」
「それって、褒めてます?」
「褒めてますよ。貴方はそれで良いんです」
「…とにかく、この中に入ればいいんですね」
「ええ、後は貴方がどんな風になりたいかをイメージするだけですよ」
そう言われながら綴也はサークルの中に入った。
するとカプセルは光を放ち始め周囲の模様も回転し始めた。
「さあ、貴方はどんな自分を望みますか?」
そんなミフルの問い掛けが聞こえた。
そう言われれば自分が思い描くのは一つだけだった。
「…物語の主人公の様に…」
と呟いた。
物語の主人公の様に生きてみたいと思った。
しかし綴也は物語の主人公の様に何か特別な力というものは欲しいとは思わ
なかった…。
何か特別な武器もあまり好きではない…。
世界を救ったり、変えたりしたい訳でもない…。
周りの人間に称賛されたり持て囃されたいとも考えられなかった。
ただ、自分の人生という物語の中で主人公たちの様に物事に立ち向かい失敗
しても傷ついても立ち上がり、色々な事を乗り越えて生ていたいと思った。
格好が良いかどうかは関係ない。
それは誰もがやっている事だろうと思う。
それが出来るから英雄だと綴也にとってはイコールになりにくかった。
そんな自分の思いが現実にどれほどの意味があるのかは綴也自身それなりに
味わっている。
願う自分と言うにはあまりにも曖昧で主人公に憧れなりたいと思う子供の願
いよりも薄弱なもので物語の主人公に憧れているはずなのに主人公の行いで
はなく人生の中での姿勢に特化した矛盾を孕む憧憬。
例え特別な力も武器も人望も持っていなくても…。
永遠に手に入らなくても…。
そんな物語の主人公の様に生きる自分になりたいと望んだ。
(これって…どちらかと言うとこれって…ゲームでやる必要ないよね…?)
と自分の願いに自分で苦笑しそうになった。
その瞬間サークルは綴也を中心に輝き光は綴也を包み込んだ。
「やっぱり…らしいと言えば貴方らしいですね…」
やがて光が消えて見えた綴也の姿を見てミフルはそう呟いた。
「あの…僕…どんな姿なんです?」
「鏡がありますけど見ます…?」
「あの…蒼色だらけ…なんですけど…」
顔つきや身体つきは変化しなかったが髪も眼も身に纏っている服も靴も自身
が先程まで着ていた服ではないが全て蒼色だった。
「綴也さんの好きな色じゃないですか?この蒼色マニア」
「確かに蒼色が好きだけど…なんか僕って…想像力が…貧困なのかな…?って僕
はマニアじゃありません!!」
「まあ、イメージで作るというのは想像力がモノを言うとは言え一から百ま
でイメージ通りにはいかないのですよ。イメージで全てが上手く行ったら一
からデザインする必要がなくなってしまいます」
「じゃあ、これが僕のイメージの結果って事?」
「そうですね。後武器ぐらいは使ったらどうですか?」
「武器?」
「このゲーム、超能力も魔法もあるのに素手で戦う気ですか?折角ですし…」
「え?PDじゃ駄目なんですか?」
そう言いながら綴也は自分のPDである光剣の玩具を取り出した。
「駄目ではありませんがそれは辞めて置いた方がいいでしょうね」
「何で?」
「先程の貴方とドラゴンの戦いがもう噂になっています。戦い好きの幻想住
人が探し回っているので見つかれば真っ先に勝負勝負と言われて一対一千人
なんて事も起こり得るかもしれません」
「いきなりそれは…ちょっと」
「だからまあ何度でも言いますがこれはゲームで遊びなんですよ。だから普
段の自分には使えない武器を使うというのもいいんじゃないですか?」
「普段使えない武器…」
そう言われて綴也の中で一つの武器が浮かんだ。
それは綴也の外見を考える時よりも簡単にイメージ出来た。
普段使えない武器、それで綴也自身が使ってみたい武器。
すると、再びサークルが光り始めイメージしたものが彼の手に現れる。
「大剣ですか?」
その手にあるのはさは身長より少し低く、綴也の背中より少し小さな幅を持
った大剣があった。
ここがゲームだと言うならこれが良いと綴也は思った。
元々はアイディアルを始めようとした時に大剣を使いたいと思っていたのだ
が当時小学生であった綴也がそれを使うのは不可能だった。
今は別の理由からアイディアルで大剣は使用する事が出来なくなっていたが
ここがアイディアルではないので大きな剣を使ってみようと思ったのだ。
同時に大剣が使える事がこのイリュシオンがゲームであり遊びである事を忘
れない為に綴也は心からこれを望んだ。
「うん。これがいい」
「大剣も蒼色ですけどね」
「う、うん」
「まあ、いいでしょう…最後に名前です」
「名前?僕の名前は…」
「違います!!これから着ける名前はこのイリュシオンで遊ぶ時の自分の幻
想住人としての名前ですよ!!」
「え?」
「不思議そうな顔しない!ゲームと言うのはそういう物なんです」
「そんな事言われても…」
「まあ、本名のまま遊ぶ人もいますから無理にとは言いませんけど…」
「じゃあ…アオヤ」
「後せめて苗字も考えましょう」
「うっ…じゃあ…アオバで…」
「この蒼マニア」
「うっ…」
「せめて山吹マニアになっ」
「なりませんから!!」
綴也はようやくイリュシオンの幻想住人のアオヤ・アオバとなったのであった。
「決まりましたね…ようやく」
「…ゲーム遊ぶのはこれが始めてだから…」
「まあ、一日中アイディアル漬けの貴方にはこれを機に他の
事にも目を向けませんとお嫁さんが出来ませんよ…」
「うぐッ!!」
「もし貰い手がいないのならば私が貰ってあげましょうか?」
「だ、大丈夫!!自分で見つけます」
「そんな綴也君の将来良いお嫁さんが見つかる事を祈りながら登録を終了と
させて頂きます」
「…ミフさん」
「後は実際に貴方がこのゲームでどうするかは貴方次第なのでなんとも言え
ませんが貴方にとってこのイリュシオンが貴方の心に何を齎すか…
私は見守っていますよ」
「ミフさん…」
「詳しいルールはゲーム初心者初体験の綴也さんに聞かせるのは時間がかか
りそうなので後日スポーツセンターでアイディアルの練習の休憩中にでも致
しましょう。とにかく今はこのゲームをやってみて下さい後は社会良識を守
っていれば何をやっても自由ですから…」
「解った、ありがとう…ミフさん」
「さて、形式的なものも言い終えましたし後は綴也さんがイリュシオンを楽
しんでバシバシ会社のお金を下さいね…私のお給料の為にも」
「ミフさん…」
その言い草はどうかと思うがこうやってからかってくる所は彼女の良い所に
思えてしまうから不思議だと綴也は思った。
「それでは、出口はこちらからどうぞ」
と彼女が手をやる先に何の変哲も無い扉が現れひとりでに開いた。
「おお!でもなんで色がピンクなの?」
「それは秘密です。それでは…行ってらっしゃいませ綴也さん…いえアオヤ
君」
「…何か落ち着かないな…」
「此処では綴也さんはアオバ・アオヤ君ですからね。本名で呼ばれてうっか
り応えない様に気を付けてくださいね」
「う、うん」
そうしてアオバ・アオヤという幻想住人はその扉の向こうへと歩いて行った。
「まったく…あの糞女が…余計な事を」
彼が居なくなったその空間でそんな呟きがあった。
だが、その声は女性の声ではなく男性のものだった。
しかしその呟きはミフルの口から出たものだった。
「っと…いけませんね。お仕事中だというのに…どうかこの世界を楽しんでく
ださいね…綴也さん」
次の言葉にその声は彼女に戻った。
まるで別人であったかのように。
「さて、あの二人の結婚祝いも考えないといけませんね…アオバ君…いや綴也
さんにも協力していただきましょう…うふふ」
先程の事はまるで気のせいといわんばかりにミフルは先程結婚が決まった同僚
二人の結婚祝いを考えながらその場から消えていった。
T也…でも、ミフさんあんな変身も出来たんですね。
Mル…ふふふ、何時もは綴也さんの為に年上のお姉さんになって
いるのです。
T也…僕をからかうためでしょ?
Mル…当然です!!(真剣な断言)
人生に全てを懸けて挑む。
当然の事でしょう。
T也…人生と書いて僕をからかうといわれている様に聞こえるけ
ど…。
Mル…そんな風に通じ合っている私達は正に理想の関係でしょう
(心からの微笑み)
T也…(何かあったのかな?僕がいなかった間に…)
Mル…所で綴也さん。
綴也さんがイリュシオンで登録後キャラクターをデザイン
場所はどうでしたか?
T也…ど、どう…って?
Mル…蒼色だらけだ!!ってにはしゃぎたかったんじゃないんで
すか?本当は?
T也…誰から聞いたんですか!?それ!?
Mル…うふふ、素直に認める貴方が私は好きですよ。
本当に…。
情報源はお友達と糞でしたが…。
T也…ああ、そういう事ですか。
流石に何時もの所ならそうなってたかもしれないけど流石
にイリュシオンは寧ろ何が起ったのか警戒しちゃったんだ
よ。
Mル…じゃあ今度アイディアルで作ってあげましょうか?
T也…遠慮します。
Mル…私にも見せてくださいよ。
子供みたいにはしゃぐ綴也さんを!!
T也…お断りします。
※朝倉 綴也の好きな色 蒼色




