第一幕
俺は米沢真、杉ヶ原高等学校の二年生だ。
俺は海鹿病院の医師になるのが昔からの夢で、友人の火鉢神風という中二っぽい名前のやつと共に、大学への進学をするために日々勉強している訳だ。
本日の授業もすべて終わり、時計の針ももう四時半を指していた。クラスメイト達はお喋りをしながら、塾や部活へと向かっていく。
先生方も会議へと向かい、教室には俺と神風だけが残った。帰りの準備を済ませ、席を立とうとした時、神風が話しかけてきた。
「なあ真、帰りに森へ行ってみないか?」
「いやいや。流石に子供じゃあるまいし、学校帰りに森で遊ぶとか、やめようぜ」
こいつ、成績は俺なんかより全々上なんだが、どうにも幼稚と言うか、子供心を忘れていない。その好奇心はどこから湧いてくるのだろうか。
…..まあしかし、折角の機会だし。と思い行くことにした。
「それにしても、どうして急に森へ?」
「それがさ、昨日うちの倉庫を漁っていたら、面白いものを見つけてさ」
「面白いもの?」
「妖怪大百科」
思わず吹き出してしまった。込み上げてくる笑いが抑えられない。
「何笑ってんだよ真。結構真面目な話をしているんだぞ」
「ははっ…..でも妖怪って」
「でもさ、この妖怪大百科、載っている奴らの生息地が全部、近くの森なんだよ」
「ハァ?じゃあそれを信じて探しに行こうってか?」
「話が早いな真。と言う訳で、すぐにも向かおう」
「えー、面倒くせえな」
「良いから行くぞ」
「分かったよ」
そう言って歩き出した俺達を照らす太陽は、もう赤く染まっていた。
森に着くころには陽が地平線へとかかり、空も陰りだしていた。
森の中は昼間とは違う静かな雰囲気で、梟の鳴き声だけが響いていた。まだかすかに残る陽の光だけでは周りも見えづらかった。このままでは危険だと神風に伝えると、鞄の中から徐に懐中電灯を二つ取り出し、灯りをつけてから俺に手渡した。
足を進めると、柔らかい感触が伝わってきた。
「うわっ」
少し飛びのき元いた場所を見ると、俺が踏んだのは小さい蛇のようだった。
一応近くに落ちていた枝を手にとり、つついてみるも、動き出す様子はない。