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殺し屋フウの異世界譚  作者: Bell
序章
9/12

夜道は不審者に注意

「やっと街道までは戻って来られたけど、辺りはもう真っ暗だね。ここから、どうするんだい?」


 洞窟を後にしたフウ達が街道へ辿り着いたのは、森を深い闇が覆った夜更けのこと。


「出来ることなら、このままグラナタまで夜通し歩きたいのだけど……」


 賊のアジトからそのまま拝借してきたランタンを片手にシルヴィは女達をチラリと確認する。彼女達の表情には薄明かりでも分かる明らかな疲れが滲んでいた。


「シルヴィちゃん、私達ならまだ大丈夫よ。まだ歩けるわ」


 しかしその眼からはまだ力強い光が消えていない。そんな彼女達の返答にシルヴィも「そうね」と頷く。


「この辺りは魔領域も近いし…大抵の魔物なら私と彼女がいれば何とか出来るだろうけど万が一ってこともある。早く離れましょう」


「魔領域?何だいそれ、名前からして碌なモノじゃなさそうだけど」


「まぁ、知らないわよね。魔領域は魔素濃度が特出して高い地域のこと。その環境に適応した強力な魔物が大量に生息していて大半が人類未踏のままになっているわ。これから向かうグラナタはそんな魔領域の開拓拠点として発展した街よ」


 この世界の技術水準は現代の地球に比べると低いようだが、それでも武装や衣服の質から見るに近世初頭から中期程度には発展している筈だ。加えて地球には存在しなかった魔法という理が強力であることは目の当たりにしたばかり。

 それでも未だに人が踏み入ることも出来ていない、というのはその危険性を如実に表していると言える。それが自然や地形ではなく、そこに生息している動植物によるモノというのなら尚更。

 魔物、というのはあのゴブリン達のような生物を指すのだろうが、


「その魔領域とやらの魔物はゴブリンとかと比べてどのくらい危険なんだい?」


「流石にゴブリンは知ってるのね。あれも大規模な群れなんかを作られると厄介ではあるけど、比べものにならないわ。単純比較は難しいけど無理に例えるなら、五十匹単位のゴブリンの群れと同等の危険度を誇る魔物がゴロゴロと生息している、と言えば分かるかしら」


 道具を作成して使うだけの知能を有する猿が五十を超えるような群れを形成していると考えればその危険性は想像に難くない。ちょっとした人の集落など滅ぼされかねないだろう。

 そしてそれに匹敵するような危険度の魔物が跋扈しているのであれば、なるほど魔領域が人類が未踏なのも納得出来る。


 というか、


「そんな魔物が出てきたら、何とか出来る自信なんてないんだけど」


「大丈夫。強力な魔物であればある程、魔素濃度の強い奥地の縄張りから出て来ないわ。この辺りに出没するのは魔領域外外周で縄張り争いに負けたはぐれがほとんど。まぁそれでも気を抜いて良い相手ではないけれど」


 若干不安の残る説明だが、一度彼女達の護衛役も引き受けると口にした以上、途中で放り出す訳にもいかない。

 

 厄介な仕事を受けちゃったなぁ。こういうのは得意じゃないんだけど。


 後の祭りではあるが、これならあの賊達とお話して情報と伝手を絞り取った方が楽だったかもしれない。

 そんなことを考えながらナイフを手に取ったフウは、くるりと振り返りながらそれを少し先の樹上へ投擲する。


「ちょっと突然何をっ……」


 突然の奇行にシルヴィが声を上げるのと同時に、ナイフが吸い込まれた樹葉の間から何かがガサガサっと落下。すかさずそちらへ踏み込んだフウはその場から逃走を図る人影を視界に捉えた。

 フード付きのローブを纏っており、左腕を庇うように押さえている。


 少し前からボク達を見張っていたのはコイツだね。魔物じゃなくて人みたいだけど。

 賊の生き残りか、はたまた別の勢力か。何にせよ無力化してから話を聞かせて貰うことにしようか。


 フウは即座に二本目のナイフを投擲するが、今度は人影が抜き放った得物の刃に叩き落された。刃渡りは目算で五十から六十センチ程度、形状からみるに小振りの片手剣といったところか。

 ナイフを弾くため足を止めた相手に対し、フウは極端に体勢を落とした前傾姿勢で間合いを詰める。そしてククリ刀を抜き、掬い上げるように片手剣を弾き飛ばした。

 バランスを崩した人影の太腿へ三本目のナイフを突き立てようとして、そこでフウは体勢を捻り木陰の闇の奥から姿を現した新手の斧槍(ハルバード)をククリ刀で受けながら後方へ飛び退き衝撃を殺す。


 仲間もいるのか、面倒だね。


 軽鎧の上からも分かる筋骨隆々な肉体に斧槍の太刀筋、見るからに手練れだ。


「こっちも魔法で援護を頼むよ!」


 援護を要求しながらも間合いをはかり隙を探るフウに、シルヴィが慌てた様子で止めに入る


「ちょ、ちょっと待ったっ。彼らは敵じゃないわ!」


 その姿を目にした男は困惑と苛立ちの混ざったような表情で斧槍の切っ先を降ろし、もう一方の人影も剣を納めフードを捲った。


「どういうことだ、シルヴィ?説明してくれるんだろうな」


「お久しぶりですシルヴィさん。ご無事だったようで何よりです」


 どうも二人はシルヴィの知り合いだったらしい。それを確認してフウもククリ刀を収める。


「全く、ならコソコソ後を付けてないで声を掛けてくれれば良かったのに」


 そんな愚痴を零しながら。

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