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殺し屋フウの異世界譚  作者: Bell
序章
7/11

ファンタジーには魔法が付き物

 賊が溜めた略奪品を吟味する中で、フウがまず目をつけたのは上等そうな衣服の収められた木箱。

 ジャケットとシャツと脱いだフウは、木箱から白い絹布を取り出すとさらし代わりに胸へ巻き付け、同じように絹で織られた無地のチュニックを被る。それからシャツは畳みジャケットだけを羽織り直した。


 身体の変化で戦闘時などに感じていたズレ、特に胸部周りの痛みと違和感はこれで多少マシになるだろう。


 そして木箱の上に置かれた麻袋から、価値の高そうな銀色の貨幣を選んで革の小袋に詰めベルトへ括り付けた。


 他の銘柄の記載された酒類や加工された宝石など足が付きそうなものは、下手なトラブルを呼び込みかねないため見送り。武器や防具の類は残念ながらここには置いてないようだ。


 フウが着替えと物品の選定を終えた頃、丁度囚われていた全員を解放したシルヴィが檻から出て来る。


「フウさん、だったかしら。結局あなたの目的はそれだったの?」


「いや、金品も拝借出来たら良いなとは思っていたけど主な目的は情報かな。ほら、さっき言った通りボクは迷い人だからこの辺りのこと知らなくてね」


 宗教、文化、社会、そのあたりのことを何も知らないままで人里へ足を踏み入れ、タブーを踏んで異端者だと囲まれでもしたら目も当てられない。

 加えて賊の支援者(パトロン)とやらの繋がりをやりようによって自身の伝手に出来たら、などとも考えていた訳だが、


「まぁでも、その辺りは君が代わりに教えてくれそうだから」


 更に現状フウに対して敵対的ではなくむしろどちらかといえば好意的な彼女から話を聞くほうが、賊と敵対して情報を絞り取るより楽そうだ。


「助けて貰ったのだからそのくらいはいくらでも教えるけど、その前に……」


「あぁ、流石に時間を掛け過ぎたね」


 先程も通った分かれ道の方からこちらへ近付いてくる新しい足音。フウが死体へと変えた二人の様子を仲間が確認に来た、といったところか。


 隣に置いてあるランタンとは別の薄明かりが曲路の先から岩肌を照らす。ナイフを手に意識を切り替えようとしたフウを、


「私がやるわ」


 瞳に憎悪を映し殺気立ったシルヴィが止めた。


「そんなボロボロで武器も持っていないのに?」


「私は魔法使いよ。枷鎖さえ外れれば賊如きに遅れは取らないわ。"水泡(エキュム)"」


 シルヴィが何やら呪文のようなモノを口にした瞬間、ザワリと周囲の空気が波打つ。そして上下左右の岩肌の隙間から水が滲み出し彼女の目の前で集束。およそ五十センチ程の球体を形作ると緩やかな弧を描くように飛翔し、


「…いつまで遊んでんだ。殺す前に楽しむのは良いがそろそろ頭がキレてっ…?!が、ぼっ」


 曲路から姿を見せた新手の男の頭部をズブリと呑み込んだ。


「”歪圧の水層(メルプロフォン)”」


 更に続けてシルヴィが唱えた別の呪文に呼応して水球はふるりと震え、同時に賊が血走った目を大きく見開きボコボコとあぶくを吐き出しながら藻搔き出す。やがて眼球がグルンと白目を剥いてその身体から力が抜け、耳から滲み出た血が水を赤く染めた。男は完全に息絶えたらしく水球が割れると同時に崩れ落ちる。


「何をしたんだい?」


 水を操って呼吸を阻むところまでは理解は出来た。魔法という言葉から想像できる範囲だ。しかし死因は明らかにそれ(窒息)ではない。


「水で頭を圧し潰しただけよ」


 数段階引き上げた警戒心を隠しながら問い掛けるフウに、彼女はなんてことはないようにそう答える。水圧を操作して圧死させたということらしい。


「恐ろしい魔法だね。水が液体である以上、避ける以外に対応法がない」


「そうでもないわ。水泡(エキュム)自体は初歩的な低級魔法だから魔力強化で簡単に防がれるし。今のも相手が手練れだったらすぐに内側から崩されてた筈よ。まぁそれはそれで次の手を考えていたけど」


 と、返答の中に酷く重要な情報がサラリと提示された。


「へぇ、魔法は魔力強化で防げるのか」


 この世界における戦闘行為では魔力が非常に重要なファクターとなるらしい。

 魔法やら魔力やらと、どうも昔読んだファンタジー小説を思い出す話だ。


「魔法のレベルと強化の練度によるけれどね。それで、他にも私に何か聞きたいことがあるのでしょう。時間が経てばまたこいつらの仲間が見に来るだろうから手短に」


「聞きたいことはたくさんあるけど…そうだね、ならとりあえずさっき君が言ってたグラナタの街?とやらまで案内して欲しいかな」


 百聞は一見にしかず、文化のズレも現地の人間である彼女がいれば安心だ。


「じゃあ街まではこのまま私達を手伝ってくれるってことで良い?」


「構わないよ」


「それは助かるわ。彼女達を連れて街まで帰るのに私だけじゃ不安があったから」


 視線を向けた先、檻から解放された四人の女達は全員ボロボロの様相でありながらも、その眼には力強い生への渇望が見える。

 檻の中にもまだ残るいくつかの人影は全て息絶えているよう。元々そうだったのか、解放した後で彼女が望みを叶えてやったのか。


 足手纏いであろう彼女達の護衛役までしてやらねばならないのは面倒極まりないが、この世界で活動してゆくうえで必要な情報と地盤を得るためと考えれば仕方ない。必要経費というやつだ。


 そんな損得勘定を済ませたフウに、シルヴィはランタンの明かりに眼を爛々と凶暴に光らせる。

 

「じゃあまずは賊共(あいつら)を皆殺しにしましょう」

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