異変を聞いたなら、すぐに報告すること
「じゃあ三つ目。半月くらい前に南門でゴブリンが出たらしいって話を聞かせてくれるかな?」
「それもさっきと同じ衛兵のおっちゃんから聞いたやつだな。動作の点検で南門を開いたらすぐ目の前にゴブリンが三匹いたから颯爽とその場で倒してやったんだって。その時も酔っぱらってたし多分話を盛ってるとは思うけど。これが証拠だって得意気に切り取ったゴブリンの耳を見せてくれたから、ゴブリンがいたこと自体は本当なんだと思う」
信憑性はそこそこといったところか。
その『衛兵のおっちゃん』とやらが、孤児相手に全くの嘘を得意気に自慢するためゴブリンの耳まで用意するような奇特な人物でない限り、南門の外にゴブリンが出たこと自体は事実の可能性が高いだろう。
にしても、
なるほど、南門の外でゴブリンにゴブリンが現れたって話だったのか。これは外れだったかな。
フウとしては南門近くの街中にゴブリンが現れたのかと思って聞いたのだが、少し認識が違ったようだ。
とはいえ興味を惹かれた情報の詳細を聞いたら思っていたものと違った、なんてのはよくあることだ。
そういったものが後々何かしらの役に立つこともある訳で、聞いておくだけ損はない。
「これは、って聞いても半月前だと君は知らないか」
そんな煽りや嫌味の類と取られても仕方ない発言にシルヴィは少し不愉快そうに眉を顰めるが、すぐにフウにはそんな意図はなく無意識に出たデリカシーが無いだけの発言だろうと理解し溜息を吐いた。
「えぇ、その頃の私は賊共のアジトの檻の中だったからね。けれど、それが本当なら衛兵から報告を受けたギルド経由で冒険者が調査をしているでしょう。街の眼と鼻の先で魔物が確認されるだけでも問題なのに、魔領域とは反対の南側でというのは明らかに異常事態だから」
「異常事態?」
現代地球の熊だって人里へ降りて来る。
魔物が街の近くまでくることだってあるだろう。
実際にフウも街道の近くでゴブリンも見掛けた訳だが、
「魔物というのは本能的に強い魔素に引き寄せられるものよ。だから魔領域の存在する周辺の地域はそこから離れれば離れる程に魔物の数と種類は減る。生態系の最下層に位置する弱い魔物ですら何とか魔領域の影響力のある範囲に留まろうとするの。それでも時折、イレギュラーな個体が街の北側の近くまで出て来ることはあるけど、南側でというのは聞いたことが無いわ」
話を聞く限り普通のことではないらしいが、現状その理由を推測出来るような情報は揃ってない。
とりあえず、後でもう一度ギルドへ行って聞いてみるとしようか。
思っていた内容とは違ったが想定以上に面白い情報がいくつも含まれていた。
「とりあえず気になったのはこれくらいかな。どれも有益な内容だったよ」
「じゃあっ…」
「あぁ勿論、まず情報への対価として銀貨を三枚」
そう提示された想像以上の金額にタンジは目を見開く。
「それからもし君がボクに情報を売った、という情報を誰にも言わないでいてくれるのであれば更に追加で二枚。合計、銀貨五枚でどうかな」
「勿論だっ、誰にも話さないって約束する!」
「そんな簡単に約束して良いのかい?これは契約だ。もし君が誰かにこの情報を漏らしたならボクは必ず違約金を取り立てに行くよ。例え意図的じゃなかったとしても、だ」
その言葉から滲み出る威圧感を真正面から受け、それでもタンジはフウの眼を見据えはっきりと頷く。
「じゃあ、はい。言うまでもないだろうけど、しっかりと仕舞って外では決して出さないようにね」
「ありがとな、フウの姉ちゃん」
「正当な取引だから気にすることは無いさ。あ、最後に一つ。昨日今日でローブを被った怪しげな四人組を見掛けたりしなかったかい?」
「四人組?うーん、南の方は怪しい奴なんてしょっちゅう見掛けるけどローブを被った四人組は見てないなぁ。昨日はほとんど東の方で客を探してたし」
「そっか、じゃあ下まで送ろう。もし知り合いにボクと一緒にいたところを見られていて何か聞かれたら、客になりそうな旅人が全然見つからないから街へ来たばかりの冒険者も対象に売り込みを掛けた、とでも言っておくと良いよ」
「分かった。そうするよ」
宿まではなるべく人目も避け大通りから一本裏の道を通り、誰かに後を付けられていたような気配もなかった。
とはいえすれ違った人はいるし、念には念を重ねておくに越したことはない。
そして宿を出て小走りで裏道へ姿を消したタンジを見送った後、先程からずっと深刻そうな表情で何か考えに耽っていたシルヴィが口を開く。
「あの子の話、ゴブリンが目撃されたというのは本当だとしたらかなり問題よ。それに旅人の減少と人攫いの噂も、何というか違和感がある」
「まぁそもそも旅人が減ったのはその原因が街の内側にある筈だからね」
旅人が減った影響は北や西では薄いからシルヴィが知らなくてもおかしくない、とタンジは説明していた。
確かにそれは一抹の真実ではあるのだろう。
だがそれはあくまで結果に対する意識の話であり、その原因に関してはまだこの街全体にある可能性もある。
加えてその二つの異変と賊の被害が表面化した時期が近しいというのも、偶然と一刀両断するには気持ちが悪い。
何せ旅人の減少、住人の夜逃げ、そして賊による人攫い、その全てに共通するのは人がいなくなったという結果だ。
「じゃあもう一度ギルドに向かうかい?」
「えぇ、悪いけど色々と確認したい。付き合って貰えるかしら」
「勿論さ。模範的冒険者を目指す身としても、街の危機に繋がる可能性がある情報は報告しないといけないからね!」
「…行きましょうか」
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