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殺し屋フウの異世界譚  作者: Bell
一章/前
18/25

トイレの普及は都市衛生の指標

 ギルドを後にしたフウとシルヴィは、朝陽も昇りチラホラと人の姿も見え始めたグラナタの大通りを歩いていた。


 気温も生暖かく感じる程度まで上昇しており吹き抜ける風が心地よい。


「…で当時、魔物相手の稼業をしていた傭兵達がその素材を扱っていた商会と組んで魔領域の開拓に乗り出したのが、冒険者とギルドのルーツという訳」


「へー、それが今じゃ大国にも並ぶ世界最大の商業組合まで隆盛して、この()()()の開拓利権まで握ってるだなんて凄い話だね」


 シルヴィから話を聞く中で新たに明らかになったのは、現在フウのいるグラナタは百年程前に発見された新大陸の開拓を担う最前線の街の一つであること。

 東の黒影海を挟んだ向こうには巨大な中央大陸が存在し、その西方に位置するいくつかの大国が競うように新大陸の開拓を手掛けているらしい。

 そして冒険者ギルドはその開拓事業へ莫大な投資を行っており既に新大陸に関する事業の多くを独占しているそう。


「だから新大陸、特に最前線の開拓地ではギルドの力が強いの。おかげで冒険者は兵役や国境を超える際の通過税の免除やらと様々な恩恵を得られているわ」


「なるほど、なるほど」


 冒険者として登録をしたのは正解だったと言えよう。


 求められるのは定期的な依頼の達成と緊急依頼が発せられた際の受諾義務の二点のみ。

 破ったとしても罰則は等級の降格から冒険者証の剥奪まで。

 それで恩恵を受けることが出来て、更にはギルドの後ろ盾まで獲得したのだから首尾は上々だ。


「と、話しているうちに着いたわね」


 そうシルヴィが足を止めたのは大通りに面した三階建ての木造建築の前。

 ギルド程ではないが周囲の建物に比べるとかなり大きい。


「ここが私が部屋を借りている宿『賢者の帽子亭』よ」


 扉を開け足を踏み入れると、フロントに立っていた小太りの中年女性がこちらへ視線を向け目を見開き固まる。


「ただいま、マルガリータさん」


「っ、シルヴィちゃんかい!?」


 宿の女主人であるマルガリータはいそいそとフロントから出て来ると、強くシルヴィを抱きしめた。


「生きていてくれて良かったよっ。一ヶ月も音沙汰なしで、あたしはてっきりもう…ちょっとあんたっ、シルヴィちゃんが帰って来たよ!」


 そんな呼びかけに隣の厨房から慌ただしく恰幅の良い壮年男性が姿を見せる。


「シルヴィちゃん、無事だったんかっ。良かった!本当に良かった!」


「ありがとうディエゴさん。二人とも心配かけてごめんね。でも私はこうして無事だから」


「無事だからじゃあないよ、随分と痩せこけて。積もる話は後さね。何かご飯作ってあげるから、ほらあんた」


「任せとけ!今日は祝いだっ、たんと豪華なの作ってやる」


「あ、ちょっと待って。その前に彼女の受付をして貰えるかしら」


 と厨房へ踵を返そうとした二人はその言葉に初めて、一歩後ろで感動の再開を眺めていたフウの存在に気付く。


「あぁ、ごめんなさいね。お客さんに気付かなくて」


「彼女はフウさん。こうして私が無事に帰って来られたのは彼女に助けて貰ったからで……」


「あら、命の恩人ってことね。じゃあ私達からもお礼を言わないと!本当にありがとう、フウちゃん」


 マルガリータはフウの右手強く掴みそう言って頭を下げた。


「へ?あぁ、どういたしまして?マルガリータさん、で良いのかな」


「えぇ何とでも呼んでちょうだい。それで宿泊の受付だったね。一週間以内の短期宿泊なら一泊銅貨五枚、それ以上の長期宿泊なら一週間で銀貨三枚になるけど」


「それじゃあ長期宿泊で一ヶ月取って貰えるかな?」


 とりあえずこの世界における新しい人生の足元を固めるためにも、最低でもそのくらいはグラナタで活動するつもりだ。


「分かったわ。シルヴィちゃんの恩人ってことなら、一番広い角部屋を取っちゃおうかしら。あ、値段は普通のお部屋と同じだから安心して」


「宿代の支払いは私に付けておいて貰えるかしら」


「何から何まで悪いね」


「気にしないで良いわ。命の借り分と考えればまだまだ足りないくらい」


 一応フウも賊達から拝借した銀貨をそれなりに持ってはいるが、払って貰えるというのであれば断る道理もない。


「はい、じゃあこれがお部屋の鍵。そこの階段を三階まで上って右へ曲がった突き当りね。あ、そうだ。フウちゃんもご飯はいる?お客さんには朝食か夕食かどちらかを無料で提供しているんだけど」


「そうだね、お願いするよ」


 よく考えればこの世界で目を覚ましてからまだ口にしたのは水だけ。

 三日くらいなら何も食べなくとも問題なく活動できるが、だからと言って空腹感を感じないという訳でもない。

 端的に言えば腹ペコだ。


「じゃあ三十分くらいで出来るから、先に部屋を確認してきてちょうだいな」


「マルガリータさん、私は浴室を借りても良いかしら。一応、門の詰所で身体は拭いてきたのだけどまだ気持ちが悪くて」


「良いわよ。お湯は溜まっているから。はい、これタオルね」


「ありがとう。じゃあ私も湯浴みを終えたら部屋を訪ねるから、少し待っていて」


 と、シルヴィは足早に階段横の扉を開き浴室へと姿を消し、フウも階段を上り部屋へと向かう。

 

 指定された三階の角部屋は広さ目算十畳程のワンルームだった。

 ベッドと洋タンス、窓際には一人用のデスクとチェアが備え付けてある。

 そして入り口の横のトイレは驚くことに水洗式。

 

 街中に糞尿が撒き散らされていないことから最低限トイレの文化が根付いているであろうことは予想していたが、ここまで技術が発展しているのは予想外だ。


 色々と迷いながらも生理現象(トイレ)に片を付け、窓際のチェアに腰をかける。


 とりあえず冒険者として登録したことで身分証と金銭を稼ぐため職は獲得した。

 拠点も当面はこの宿で問題ない。この世界で生きてゆく最低限の足掛かりは出来たということだ。


 今後は冒険者として活動しながらの情報収集を方針とすべきだろう。


 身体の変化、消費した銃弾の自動復元、先送りにした問題はまだ解決した訳ではないが、正直そう急ぐ必要性がある訳でもない。

 ここまでの活動で変化した肉体には慣れ、銃弾の復元に関しては今のところフウにメリットしか無いのだから。


 どちらかと言えば現状一番の問題は、


「VSSの整備が満足に出来ないことだね」


 鞄から取り出した消音狙撃銃の部品をデスク上に並べ、フウは困ったように呟く。


 銃器のメンテナンス不足は暴発や精度低下にも繋がりかねない重大な問題だが、残念ながら愛用していた道具は地球の拠点に置き去りのまま。

 この世界で手に入れしようにも銃器が存在するかも怪しい。


「近しいモノを見繕うしかないかなぁ」


 冒険者の存在を考えれば街には武器屋がある筈。

 ダガーナイフとククリ刀の手入れも含め一度行ってみるべきか。

 

 あとはこの世界の一般人に紛れて違和感の無い服もいくつか買い揃えておきたい。


 そんなことを考えていた最中、ふと窓から見える裏路地の十字路に目が留まった。


 そこにいたのはローブを纏ってフードを深く被り、明らかに怪しい者ですと主張しているかのような格好の四人組。

 とりわけ目を引いたのはそのうちの一人の足元。

 見覚えのある黒い革のローファーだ。


 あれ、街道で見た学生服の少年だね。

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