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殺し屋フウの異世界譚  作者: Bell
一章/前
16/25

気苦労の多い管理職

 ジャックとディラが緊急依頼へと向かい、執務室に残ったのは三人。


「シルヴィ、彼女が賊の関係者である可能性は?」


「それはあり得ないわ。私と一緒に賊どもを殲滅したのも頭に止めを刺したのも彼女よ」


 一応フウの身の上に関してシルヴィに確認を取るエディットだったが、返って来た予想外の新情報を聞いて固まった。


「待て、賊は皆殺しにしたのか?一人残さず?」


「とりあえずアジトにいた連中は一人も残してないわ。追っ手を掛けられないように先手を取って奇襲で殲滅するしかなかったのよ」


 そして気まずそうに眼を逸らしながら言い訳するシルヴィに思わず手で顔を覆う。


 現時点でもう何とか賊を捕らえ尋問で情報を吐き出させる、というような手段は不可能だということ。


「フウさん、君の情報が事実である前提で話を進める。情報の対価はいくら払えば良い」


「彼らが調査を終えて帰って来るのを待たなくて良いのかい?」


「この状況で調べればすぐ発覚するような嘘を吐く意味がない。何より本当に街中に内通者がいるのなら、君達が賊を殲滅したことが伝わるのも時間の問題となる」


 確かに賊の全滅が伝わればその支援者とやらが逃げの一手に出る可能性は高い。

 尻尾を掴むのは時間との勝負という訳だ。


「賢明な判断だね。じゃあ遠慮なく交渉といこうか。ボクが欲しい対価は金銭じゃなくて冒険者としての身分だ」


「それはギルドからの指名手配を抹消して欲しい、というような話か?」


「指名手配なんてされた覚えはないよ。何で皆、ボクを危険人物扱いしたがるのさ」


「なら一階の受付で手続きをするだけで冒険者としての登録は完了だ。指名手配されている犯罪者以外、ギルドはどんな人間でも受け入れる。こんな交渉は必要ない筈だが」


「登録したばかりの新人冒険者じゃ意味が無いんだ。欲しいのは提示することで最低限の信用を得られる実績さ」


 その説明にフウの意図を理解したエディットは苦々しげに表情を歪めた。


「つまり君の冒険者としての経歴を偽造して登録しろ、ということか」


「ボクはこの街に来たばかりで身元の保証を出来るものもないからね。何かしらのトラブルに巻き込まれた時、どういう立場に置かれるかは想像に難くない。そういう事態を避けたいんだ」

 

 現代の地球でも何かしらの事件が起きた時、関係者の中に身元不明な人物がいたら真っ先に疑われる。

 それもこの世界の社会を地球における近世基準とするなら、怪しいから即断罪してしまえなんて可能性もゼロじゃあない。


「これからトラブルを起こす予定でもあるような口ぶりだな」


「そんな予定はないさ。けれど賊の情報を開示することでその問題に巻き込まれる可能性はあるんじゃないかい?」


 確かにその言い分は一理あるとエディットは押し黙った。

 

 本当に賊達が魔道具を有し何者かの指示で男爵家の令嬢を狙っていたのだとすれば、いくら冒険者ギルドとはいえグラナタ支部単独では手に余る話だ。

 当事者でもある領主のラーノード男爵家、場合によってはその寄親にあたるヘルクリン伯爵家が出てきてもおかしくない。

 そうして問題が大きくなれば情報提供者(フウ)が巻き込まれる可能性は高くなる。


「フウさん、いざとなったら私が貴方の身元を保証する。それじゃあダメ?」


「それはありがたいけど、いくら顔が利くとはいえ一個人の口添えじゃあ不安が残るかな。うーん、何らかのトラブルに遭遇した時、冒険者ギルド自体がボクの後ろ盾になってくれるならそれでも良いけど」


 冒険者としての経歴の方が他にも使い道があって便利そうではあるが、最優先事項は最低限の社会的信用だ。

 そこをギルドが担保してくれるならそれで構わない。


「…ギルド登録の偽造は万が一露見した場合、ギルド自体の信頼の失墜に繋がるため同意できない。が、後ろ盾であれば条件付きで受け入れよう」


「どんな条件だい?」


「君が冒険者として登録しこの街で活動を行うことだ。それならばグラナタ支部が君の後ろ盾となろう」


「冒険者になることでの制約はなんかはあるのかな?」


「先にジャックが話していた重要な情報の共有以外には特に無い。まぁそれを破ったことが判明したとしても、その事実が公表されるだけで具体的な罰則がある訳ではないがね。冒険者は基本的に自由がモットーだ」


 具体的な罰則が無いと言っても、誰かが情報を出し渋ったことで他の冒険者や街が大きな被害を受けたと公表されれば恨みは間違いなくその個人へと向く。

 そうなればその土地で生活していくのは難しくなるだろう。


 つまりこれ以上、情報を商品にギルドへ要求を重ねるようなことは許さない、と。まぁこのあたりが妥協点かな。


「良いよ、それで契約しよう。誓約書か何かを作ってくれるかい」


 エディットは引き出しから取り出した書類に羽ペンを走らせ印章を押す。


「これで構わないか」


 そして差し出された誓約書に並んでいたのは全く見覚えの無い文字。

 が、やはり何故かフウは慣れ親しんだ母語のようにその内容を理解出来た。


「うん、問題なさそうだね。じゃあ契約通りにボクも情報を提供しようか」


 誓約書に問題が無いことを確認したフウは鞄から小さな麻袋を取り出し、中身をひっくり返して宝石をデスクの上にばら撒く。


「これ、賊の頭が腰からぶら下げていた袋なんだけど、この通り宝石が入っていてね。少し不思議じゃないかい?」


 見覚えのある麻袋を目にしたシルヴィもそこですぐにフウと同じ違和感に気付いた。


「確か、奴らは宝石類も含めて略奪品は全て一か所に集めて保管していた。武器と防具は例外だけどそれもわざわざ丁寧に飾っていたし……」


「そう、何でこれらだけ無造作に袋に放り込んで持ち歩いていたのか、気になってよく見てみたんだけど、どうも何か文字らしき紋様の彫り込みのある宝石がいくつか混じっていたんだ」


 ばら撒いた宝石のうち一つを手に取り光へかざせば、浮かび上がったのは袋の中でついたであろう傷とは明らかに異なる紋様。


「暗号文などに使われる記号文字か…」


 街の中にいる支援者とやらは宝石を略奪させることで被害者を装いながら賊へ指示を出していたと推察できる。

 つまるところこの宝石の出処を辿ればおのずと、という事だ。


「どうだい、この有用な情報だろう」


「…あぁ、まだしばらくは徹夜が続きそうなくらいにはな」

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