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魔法は全少年の憧れ

マナト視点はこれ含めあと二話です

〘マナト、これより儂の魔力でお主の身体能力を底上げし、更にかつての担い手達の経験を肉体に直接投射する。一時的な付け焼刃じゃが、目的は戦いではなく魔領域から抜け出すこと。お主は真っすぐただ走り続け、自然と体が動いた時は深く考ず勘に従え、良いな〙


 そんなクルセイアの指示に従い、マナトは森の中を駆け抜けていた。

 

 全身を巡る不思議な熱と高揚感に身体が軽く、かなりの速度で走り続けて既に十分以上が経過している筈だが息は上がらず体力が尽きる気配も無い。

 これが身体能力の底上げのおかげだというのなら凄まじい効果だ。

 

 緑色の肌をした筋骨隆々な巨人の一団、体高三メートル近い巨大猪等々、時折見掛ける化け物じみた魔物達は基本的に無視して木々の間を縫ってゆく。


 そんな時ふと、自然に身体が動いた。


 大きく体を捻り()()()()()()()()()()()()()()()るのと同時に、体を駆け巡る熱が両手から聖剣へ集まり覆い固める。

 その翼に白金の刃を走らせ、重い手応えに腕が持っていかれそうなのを押し返し振り切れば、片翼を斬り落とされバランスを失った巨鳥が勢いのまま地面に激突しゴロゴロと転がった。


 傷と泥に塗れながらも即死は避けたらしく巨鳥は「ピュロロロッ」と鳴き声を挙げ、無事な片翼を広げながら立ち上がる。

 鷹のような頭部に巨大な翼と上半身は鳥そのもの。

 だが下半身、特にその後脚は鉤爪の根元までしなやかな筋肉と短い羽毛に覆われており、臀部には尾っぽまで生えており何処か肉食獣のよう。

 もう片方の翼も無事だったら翼幅は四~五メートル程にはなるだろうか。


〘グリフォンじゃな。翼を失ってはもう仕舞いじゃろう、放っておけ。血の匂いに惹かれて他の魔物達が集まって来おる〙


「あぁ分かった」


 その後も何度か魔物と遭遇しながらも走り続け、辿り着いたのは何かが崩れ果て植物に覆われたらしき瓦礫の山。


〘…ふむ、魔素も随分と薄くなった。魔領域は抜けたようじゃの〙


 その言葉に速度を緩め足を止める。

 

 ずっと走り続けていた割に肉体的な疲労はないが、精神的にはクタクタだ。

 森で遭遇した魔物はどれもゲームのような何処かポップで愛嬌のあるモンスターなどではなく、どこまでも現実線上に生まれた化け物でしかなかった。


 今更になって恐ろしくなり手足が震え、その場でへたり込む。


「ごめん。覚悟はしたつもりだったんだけど、魔物が想像以上に恐ろしくて」


〘恐れは悪いものではないぞ。大切なのは恐れ(それ)を飼い慣らすことじゃ。その点、お主はどんなに恐ろしくとも立ち止まることなく走り続けた。儂の担い手の初陣としては十分及第点じゃ。よくやったな〙


「あぁ、ありがとうルア。おかげで生き延びれた」


〘六百年ぶりの担い手に易々と死なれても困るからのう。森の中でまた何百年も野ざらしにでもされたら流石の儂も退屈で死んでしまうわ〙


「ははっ、そっか。そりゃあ途中で倒れなくて良かった」


 マナトは大きく深呼吸をしてから足をパンと叩いて立ち上がった。


〘してマナトよ。これからお主はどうしたい?〙


「うーん。じゃあルアに相応しい担い手になるってのはどうだ?」


 もしマナトが一人で魔領域を彷徨っていたのなら、今頃は間違いなく魔物達の腹の中だったろう。

 クルセイアは命の恩人、まぁ正しくは恩人ではなく恩剣だが、何にせよその恩にはしっかりと報いるべきだ。


〘そ、そうか、それは殊勝な心掛けじゃな。であれば付け焼き刃ではない剣術や魔法を…と、そうではなくて聞いておるのは当面の目標じゃ〙


「当面の目標は、とりあえず人里に出たいかなぁ」


 森で自給自足のスローライフ!なんて刺激のない生活には耐えられる気がしない。


〘うむ、それが良かろう、儂もこの六百年で人の世がどう変わったのか気になっておったのじゃ。ならばまずは目の前の砦跡の入り口を探すが良い〙


「これ、砦の跡だったのか。でも入り口見つけても、とても中に入れるようには見えないけど」


〘阿呆、かつてここに砦があったということは、人が往来するための道もあったということじゃろう〙


「あぁ、なるほど」


 砦跡の外周を辿ってゆくと、確かに崩れた砦の入り口から森へ木々が切り開かれた道の跡らしきモノが続いていた。


〘かつては近くの街道へ繋がっておった筈じゃ。まぁ六百年前の話である以上、街道も既に使われず荒廃しておるかもしれんが。他に当てもなかろう?〙


「そうだな。これに沿って進んでみるしかないか」


 もう獣道と見分けのつかないような跡を辿って歩き始める。


「そういえば気になってたんだけど、このルアの声が直接響くのってどういう仕組みなんだ?」


〘魔力の波長をお主に合わせ、耳の奥の情報伝達回路に儂の意思を直接割り込ませておる。ちなみに張り巡らせた魔力で五感情報を取得している故、お主が見聞きしたものは儂にも共有されている訳じゃな〙


 サラッととんでも無いことを言われた気がしたが、


「それってもしかして俺の心の中も分かったり……」


〘それは無理じゃな。心を操る脳はあまりに複雑過ぎて横入りは出来ん〙


 その返答にマナトは静かに胸を撫で下ろした。


〘まぁ心は読めないと聞いたお主が今、安心したことくらいは分かるがな。何じゃ、やましいことでもあるのか?〙


「そ、それより、この世界には魔法が実在してるってことだよな。それ俺も使えたりとかって……」


 地球全人類の憧れと言っても過言ではない魔法。

 先程から話を聞いている限り、やはりこの世界には存在しているらしい。


〘そうか、異なる世界には魔に関する理は実在しないんじゃったな。ふむ、何処から説明すべきか。まずこの世界の空気中には魔素というものが漂っておる。これを取り込み変換することで生成されるエネルギー、それが魔力じゃ。先程からお主も魔力を感じておろう〙


「あぁ、この全身を巡る熱みたいな感覚のことか」


〘うむ、それの大部分はお主に合わせて調節した儂の魔力じゃがな。胸の中心に意識を集中させてみよ〙


 胸のあたりを意識を集中させてゆくと、心臓の右隣りの辺りで燻り拍動する熱のようなモノに気付く。


〘それがお主自身の魔力じゃ。では次はそれを左手に集めてみるが良い。足は止めるでないぞ。魔力操作くらい歩きながら出来ねばとても魔法なんて使えん〙


「き、厳しいな」


 胸の熱を左肩へそして腕を通して掌へと収束させてゆくと、不思議と視覚では捉えられていない筈の魔力の存在が確かにそこに集まっていることが知覚出来た。


〘ふむ、もう魔力操作を掴んだか。筋は良いのう〙


「じゃあこれで俺も魔法が!」


 もし魔法が使えたら、そんな妄想をしたことがない人間がいるだろうか。

 そしてそれが今から自分の掌の上で実現されるのだと、興奮を抑えられず想像を膨らませるマナトだったが、


〘いや、使えんぞ〙


「えっ?!」


 その一言に冷水を浴びせられ愕然とする。


〘魔法の行使に必要な資質は魔力量とその操作技能、そして魔法属性への適性の三つじゃ。お主の魔力量がかなり多く、操作技能も最低限のラインはすぐ超えられそうじゃが。如何せん適性が分からん〙


「く、ルアなら担い手の魔力の適性が分かったりとかしないかっ?」


〘凡その見立てを付けることは出来ようが、断言は出来んのう。適性に合わない属性の魔法を無理に行使しようとすれば暴発で大惨事になりかねん。儂は確信が持てるまでお主に魔法を教える気はないぞ〙


「じゃあ魔法を試すのは……」


〘人里に出れば魔力の適性を調べるのはそう難しくなかろう。それからじゃな。あ、こら足を止めるなと言うとろうに〙


 マナトはあまりのショックに近くの木に左手を付き項垂れた。

 収束した魔力も揺らいで霧散してゆく。

 先程、魔物の恐怖にへたり込んだ時より重症かもしれない。


 散々期待だけさせておいて、魔法はお預けなんて。酷い、あんまりだ。


〘魔力操作は戦いにおいて不可欠な魔力強化にも必要とされる。お主はまずそちらを身に付け練度を上げるのが先じゃろうて〙


「魔力強化?」


 名前からして魔力を使って武器とか防具の強度を上げる、というような類の力だろうか。


〘己が魔力で対象の内部を満たし外部まで覆うことで、その強度を向上させるのが魔力強化じゃ。装備だけではないぞ。その効果は自身の肉体にも及ぶ。そして最も重要なのはこの魔力強化は魔法への対抗手段となり得るという点。極めた者は魔法を剣で斬り裂くことも、拳で打ち破ることも出来よう〙


「なるほど、よし分かった。まずはその魔力強化を極めよう!」


 剣で魔法を斬り裂く。

 そう言われると武の極みという感じがして確かに格好良い。


 格好良いは男子にとって全てを上回る判断基準になり得るのだ。


〘では儂に魔力強化を施してみよ。勿論、足は止めるでないぞ〙


 と、歩きながら魔力操作の練習を始め、クルセイアの喝を受けながら数刻が過ぎた頃。


 木々の隙間の奥が陽光で明るく照らされているのが見えた。

 先が開けた空間となっているのだろう。


「あれ街道じゃないか?」


 光の方からは小さく人の話し声のような音も聞こえる。


 森を抜けこの世界の人間とコミュニケーションを取れるかもしれない。

 そんな期待にマナトは走り出すが、


〘待て!〙


「どうしたんだ。もし人がいるなら早く…」


〘一度落ち付け。血の匂いじゃ。それに空気がおかしい〙


「え?」


 そう言われると、確かに周囲には鉄が錆びたような鼻を突く匂いが僅かに漂い、全身を圧迫するような重苦し空気を感じる。


 声を潜め、ある程度の距離で木々の隙間から先の光を覗くと、そこの先の街道は血で赤黒く染まっていた。

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