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殺し屋フウの異世界譚  作者: Bell
序章
10/25

人畜無害な殺し屋です

「この柄の悪いのがジャックで、そっちがディラ。二人とも私と同じグラナタを拠点としている冒険者よ」


 そんな紹介と共にランタンの明かりに二人姿がはっきりと照らされる。


 斧槍を手にした頬の傷跡が目立つ筋骨隆々な強面の男がジャック。

 年齢は読みづらいがおそらく三十代くらい。


 ディラは中肉中背といった体格で両の腰に剣を携えた若者だ。

 得物は双剣だったらしい。

 

 そして二人とも革製らしい軽鎧を身に着け、明らかに戦いを生業としている格好。

 半ば予想はしていたが、冒険者というのは傭兵のようなものと見て間違いなさそう。

 

「それで姿を消してたこの一ヶ月、何があったのか端的に説明しろシルヴィ」


 そう凄むジャックにシルヴィの後ろで女達がビクリと怯えを見せる。


 身なりはそれなりに整えているようだが、その強面とガタイは賊達以上の迫力だ。


「そうね、少し前に新人冒険者が行方不明になったのを覚えてる?」


「お前がやけに熱心に面倒見てたあのガキ共か」


「えぇ、彼らの行方を探す中で最近噂になっていた賊に辿り着いたんだけど、間抜けにもそいつらに捕まってね。それからずっとアジトに捕らわれていたのだけど、半日くらい前アジトの檻の前を通り掛かった彼女に解放して貰って、連中を始末してから脱出してきたという訳」


「…突っ込んで聞きたいことは色々あるが、とりあえずガキ共はどうだった」


「この通り装備は見つけたけれど、姿はなかったわ。奴ら男は殺して装備だけ奪い女は奴隷として略奪品と共に何処かへ売っていたみたいだから」


「そうか…そうか。それで、そっちの嬢ちゃんが賊のアジトに通り掛かったってのはどういう了見だ?どう考えてもおかしいだろ」


 小さく息を吐いた後で、ジャックは警戒心を露わに鋭い視線をフウヘと向ける。


「フウだよ。ボクはこの森で迷子になっていてね。情報が欲しくてお邪魔したのが賊のアジトだったのさ。そこからは彼女の説明通り。今は彼女達の護衛をしながら街まで案内して貰っているんだ」


 相変わらず怪しさ満点の話だが、嘘ではないのだから仕方ない。


「こんな魔領域の近くで迷子ってのも意味が分からねぇが、じゃあその前はどうなんだ。何処で何をしてた。まさか記憶喪失だ、なんて言わねぇだろうな」


「ニホンって国で治安維持の仕事をしていた筈なんだけどね。気付いたらこの森の中に立っていたんだ。ボクも何が何だかって感じさ」


「ニホン?聞いたこともねぇ国だが……」


 その視線が更に剣呑さを帯び空気が張り詰める。


「シルヴィ、本気でこいつをグラナタへ案内するつもりか?気付いてるだろ」


「えぇ、けれど私にとっては命の恩人。どんなに怪しく危険だろうと、その恩に報いるのは道義でしょう。この場で排除しようとするなら、私は彼女の側に付くわよ」


「もし街で問題が起きたら責任を取ることになるのはお前だぞ」


「勿論、分かっているわ」


 一瞬の沈黙と睨み合いの後、折れたのはジャックの方。


「…それなら良い」


 そう言って大きく溜め息を吐いた。


「君、ボクを何だと思ってるんだい?基本的に人畜無害な一般人だよボクは」


 まるで猛獣を人里に連れ込もうとしているかのような対応にフウは不満を露にする。


 実際、地球でも仕事以外で他人を害したことなど数える程しかないというのに。


「嬢ちゃんみたいな死の気配を纏った人間が一般人だと、冗談じゃねぇ。これまでどれだけ殺してきやがった?まだ人食いの竜の方がマシなレベルだ」


「酷い言い草だなぁ。まだ森で鉢合わせたゴブリンと例の賊しか手に掛けてないよ」


 あくまでこの世界では、だが。


 そんな言い分も鼻で笑い飛ばすジャック、それを腕に包帯を巻き終えたディラが諫める。


「ジャックさん先程からずっと初対面の相手に失礼ですよ。不幸な行き違いも含め申し訳ありません、フウさん」


「いやいや、こちらこそさっきは突然仕掛けて悪かったね」


「気取られた私の未熟ですからお気になさらないで下さい。それにしてもシルヴィさんが遅れを取るとは、その賊とやらはそれほど手練れだったのですか?」


「純粋な練度で言えばそれなり。ただ相対した際、魔妨結界で魔法も強化も封じられてね。あとは多勢に無勢だったわ」


「魔妨結界、ですか。確か無許可での扱いは禁じられていましたよね」


「えぇ、それに加えて奴らは奴隷の枷鎖も有していた。どちらも賊如きが手に入れられるような魔道具じゃない。間違いなく裏に誰かがいるわ」


 フウが話をした賊も、確かにそんなことを漏らしていた。

 支援者(パトロン)が寄越した魔道具だとかなんだとか。


「だが、シルヴィ。お前そいつら皆殺しにしちまったんだろう?一人くらい残して情報を聞き出せなかったのか」


 その指摘にギクリと言葉に詰まるシルヴィ。

 

 賊を殲滅することを決めたのは、追っ手を掛けられないように先手を打ったという意味合いもあるが、それ以上に私怨が大きかったため。

 怒りと憎しみに判断力を欠いていたことは否めない。


「過ぎた事は仕方ないでしょう。とにかくもっと細かい話は歩きながらよ」


「そうですね。事が事ですから、早急に街へ戻ってギルドマスターへ報告するべきでしょう」


 そうして二人を加えた一行がグラナタの街へと辿り着いたのは、空が暁色に染まりだした明け方頃だった。

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