多脚戦車に関する一考察
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多脚戦車。
ロボットアニメにときおり出てくる戦車の未来形ロボットと言って良いだろう。
ロボットなんてと、正直思う。
フィクションとしては良いのだが、現在、実際に実用化や試験されているロボットをみて、「これは優れている!アニメを実現した!」とまでは思わないだろう。
もちろん、そこには世代差も存在すると思う。
鉄腕アトムのような人間大のロボを指向すれば、今のアシモのようなロボットこそ理想だろう。しかし、マクロスやガンダムのような人が乗り込む巨大ロボを見て育った世代にとって、アシモは物足りない存在だと思う。
現在、水道橋重工が製作した巨大ロボに期待したい。不完全ながら応援したいという気持ちを持つのではないだろうか。
多脚戦車はそうしたレールから少し外れて、現在ある装甲車や戦車に足を付けたロボットと見ることが出来る。
そもそも、二足歩行型ロボットに人が乗ろうとすると、三メートルをゆうに超える高さとなってしまう。その点だけを取ってみても、兵器としての実用性が低い。
戦場で必要な事は如何に姿勢を低くして敵弾から身を隠すかという事にある。当然、高さがあれば隠れる場所が限られ、敵に晒す面積が広いので、被弾しやすいことになる。
そうかといって、今現在の技術では、被弾を前提に装甲を配置すれば、戦車のような分厚いものとなり、せっかくの二足歩行が生かせなくなる。
軽快に動くには、軽さやスリムさが求められるだろうが、戦車のような分厚い装甲を付けると、スーパーモデルから力士へと変わってしまうことになる。
そうなると、重く動きにくくなるのは誰でもわかる事だろう。
多脚歩行の場合、昆虫を見ると分かるように、姿勢を低くすることが可能となる。というか、自由に高さを変えることが出来るので、いろいろと有利になるだろう。
これは、二足歩行に対するメリットばかりではない。車高の制御が難しい装輪式車両に対しても優位に立てるかもしれない。
そして、四足、あるいは六足であるため、不整地走破という点では、確実に装輪式に勝る。
では、履帯に対してはどうか?
この部分でも、走破性では優位にある。
履帯は走破性が高いという話をよく聞くと思う。確かにそうだが、それは溝を超える能力があるという話であって、岩場や傾斜地でもそうという訳ではない。
履帯式の建機、ユンボなどは、アームを利用して急傾斜や履帯以上の幅がある溝を超えるというテクニックが存在するが、多脚歩行はそうした悪路走破で履帯以上の能力を示せる。長い脚を器用に伸ばしてユンボのアームのように動かして前進すれば、深い谷や急傾斜すら移動が出来るのではなかろうか?もちろん、昆虫みたいに垂直や逆傾斜にまで対応するには別の技術が必要だろうが。
何を夢物語をと思う人も居るかもしれない。しかし、米軍が開発した無人輸送システムの実験動画を見たことがある人は「うわ~、気持ち悪!」じゃなくて、「もしかしたら、もっと大きなものでも」と思えないだろうか?
あの化けm・・輸送システムは四足歩行だった。動物のように岩山を乗り越えていくことが可能になるかもしれない。
しかし、兵器として考えた場合は必ずしも最適とは言えない。
四足歩行では、鹿や馬がそうであるように、移動中はどうしても姿勢は高く維持されることになる。そのため、現在の履帯式装甲車両に対してメリットは小さい。
そして、装輪式を例に出せば、四輪車両が比較的小型の装甲車両にしか採用されていないように、どうしても接地圧が高くなり、悪路走破が難しくなるだろう。
そう考えると、装輪式車両が六輪、八輪であるように、多脚戦車も六脚、八脚の方が有利と考えられる。
つまりは、哺乳類よりも昆虫や甲殻類に近いキモい動きが必要という事になってくる。
ここですでに、昆虫や甲殻類が苦手と言う人には受け付けないシルエットが見えてくるわけだが、それは何も、嫌悪感という点だけの問題に留まらず、現実的な実用性からもいくつかの問題をはらんでいる。
まず、いくつか、今現在の状況についておさらいして、そこから多脚戦車の問題を見て行こうと思うので、話しをガラっと変えることにする。
まず、履帯と装輪という、今ある装甲車両についてだが、これはどちらが優れているという問題ではない。
古くから両方存在していた。
戦車が出来た時、同時、あるいは少し前に装輪装甲車も誕生している。
塹壕のある戦場では履帯による超壕能力というものが求められるが、塹壕のない平たんな場所では移動速度が求められた。
このため、主力が衝突する正面には戦車が、後方警備や側面からの迂回など障害の少ない場面では装輪装甲車がというのは、はるか百年近く前からの住み分けが存在している。
冷戦後、装輪装甲車がもてはやされ、「もはや戦車の時代ではない」などと言われたことがあった。
それがなぜかと言うと、敵主力と対峙する場面が無くなり、防御力や突破力よりも移動力が求められた結果だった。
まず、履帯式というのは、その構造上、接地面積が広く、一輪当たりはがきやノート程度の面積しか接地しないタイヤに対して、接地圧が低い。つまりは、同じ重量なら、より悪路での行動力が確保されている。
しかし、履帯は構造上、長距離を高速で走ることに適していない。
タイヤと比較して接地面が大きいというのはそれだけ抵抗が大きく、燃料消費が多くなる。更には履帯の消耗も激しい事を意味する。
装輪式というのはその反対で、構造上、接地面積が小さく、平たん路の移動に関しては有利であり、高速で長距離を移動するのに適している。
しかし、履帯式の利点である接地圧では劣り、同等の重量では悪路走破性は低い。
更に、接地圧を下げようと幅の広い、あるいは直径の大きなタイヤを装備しようとすれば、車体の大きさに影響してしまう。
小型の建設機械にはタイヤを採用しながら方向転換を自動車のようにハンドルを切るのではなく、履帯式のように信地旋回させるものがある。
こうすることでタイヤを操舵せず、車体に余計な制約をかけない方法もあるが、タイヤの消耗や高速での方向転換という点では不利であり、大半の戦闘用装甲車両には採用されていない。
一般的な操舵式を採用するものが大半ではあるが、その場合、履帯に対して車体幅の制約が大きくなる。
幅広、大径のタイヤとなればそれは顕著であり、車体の幅が制約されたり、道路の通行や輸送機、艦船への搭載が制限されることとなってしまう。
例をあげれば、幅3.5mの車体を用意したとしよう。履帯であれば、履帯幅を除けば車体として有効活用が出来、仮に50cm幅の履帯を装着するなら、1mプラスクリアランス分以外の2.5m弱を車体幅として有効に活用できる。
対して装輪式の場合、信地旋回を採用すれば同等であるのに対し、操舵式の場合、タイヤの可動幅分、車体の幅が制約され、2m強しか有効に活用できないことになる。
接地圧を変えずに、車体幅を広く取ろうとすれば、細めの大径タイヤとなり、車高が増す。車高を低くしようとすれば幅広小径タイヤとなり、結局、車体幅を圧迫する。
車体の有効活用という点では、装輪よりも履帯式が有利というのは昔から変わりがない。
それでもなお、移動能力の高さ、履帯に対する製造や整備費用の安さという点で、冷戦後もてはやされたことで、先のフレーズが生まれてきたと言えるだろう。
話が飛ぶが、多脚についてはもう一つの側面も見る必要がある。
V-22オスプレイを知らない者はいないと思うが、あれは最近急に開発されだした新型の機体という訳ではない。
1950年代にはすでに実験機が作られ、飛行にも成功していた、正確には同形式ではないが、XC-142という機体をある程度以上の年代の人とは知っている事と思うが、この機体は開発にほぼ成功したものの、飛行制御が難しく、実用化されなかった機体だった。
実用化された垂直離着陸機にハリアーがあるが、その離着陸には多数のスイッチ類を手動で操作する困難が伴い、当初は開発や訓練で事故が多発し、改善された後も他の航空機に対して事故率は高止まりしていたことはよく知られているのではなかろうか。
オスプレイ批判でよく言われるのも、XC-142やハリアー同様の操縦の難しさだが、実際は全く別物と言って良く、語弊を承知で言えば、オスプレイは自動化されたシステムで安全性は天と地レベルに仕上がっている。その事故率は許容範囲内と言って差し支えない。
そこまで安全性を高めることが出来たのは、ハリアーでは無数のスイッチをメーターを見ながらパイロットが操作していたのに対し、オスプレイではゲームでもするかのように僅かなスイッチ操作だけで可能なほど自動化され、すべてコンピュータが操縦を行ってくれるようになったからと言える。
脈絡もなく出したこの二つの話、多脚戦車には大いに関係がある。
まず、装輪と履帯に話。
四足歩行ならば、哺乳類のように機体に対し、垂直に脚を伸ばすため、幅の制約はほとんどない。ただし、高さは非常に高くなってしまう。
たいして六足以上となると、クモやカブトムシのように機体から横に脚を伸ばすことになるため、幅は機体の二倍以上に広がってしまう。ただし、高さは低く抑えることが出来る。
走破性という点では、長距離移動となれば、速度では明らかに四足の方が高速を出せるし、消耗も少なくキモい事だろう。
たいして、六足以上の場合、速度はあまり出せない代わりに、悪路への適応性は非常に高くなる、そして、四足以上にキモい。
そして、整備性という点では明らかに四足有利となる。が、高速移動が出来る代わりに、脚を一本でも損傷すれば行動は難しくなり、生存性という点では、あまり高くない。六足ならば、一本失っても最低限の移動は可能であり、生存性は高くなる。
履帯、装輪とは逆に、多脚式の場合、整備性が良い方が生存性が低いという逆転現象が起きるのはなんだか面白い現象ではないだろうか。
そうした事から、四足歩行型は今の装輪式がそうであるように、軽量で移動力に優れた輸送や後方警備、即応展開部隊向けというのが望ましい。
六足以上の型は今の履帯式同様の運用に向いていると言えそうだ。
ただ、クモやクワガタに類似したその幅の広さが実用化に際して大きな問題になることは否めない。道路移動や艦船への搭載などに際してはバッタのような脚の動かし方、悪路ではクモのような動かし方というのは果たして可能なのだろうか?それが出来れば実用性はかなり高いかもしれないが。
次に問題になるのがその走行についてだろう。人間が歩くときに一々バランスや各筋肉の動かし方など意識はしないが、意識しないだけで、脳内ではそのような複雑な問題を処理している事は確実である。
そもそも、四足ならば決められた可動パターンだけでも稼働が出来るのに対し、六足ともなると、オスプレイよろしく非常に複雑な演算や制御が求められることになる。今現在、F-35がそのミッションコンピュータのソフト開発で難航して言う様に、多脚戦車というのは、歩行制御プログラムの開発が難しく、非常に高額になるのかもしれない。
最後に、乗心地が問題になるかもしれない。
履帯であれ装輪であれ、いずれにしても、車輪が転がる事で移動している。たいして、歩行型というのは、馬や昆虫のように脚を動かすことで移動している。
馬というのは脚を動かすたびに上下動があるが、四足型だと同じような動きが再現され、乗り込む人間を襲うことになる。
六足型を見ると、クモの動きはずいぶん安定しているように見える。ただ、その分、脚は個々に複雑な動きをしているが。
一見すると、六足の方が四足より実現性が高く見える。四足型を実現するには、猫のようなしなやかさが必要かもしれない。
もちろん、無人化するならば乗心地などは関係なくなるが、その場合、センサーに頼った判断をしなければならず、現在のところは有人型のように中に乗り組む人間の五感による機敏な判断力というのは無くなってしまう。
こうしてみると、履帯や装輪の車両と同等か、より有利にも見えるのだが、まず第一に、脚に適した細くて強度がある構造が可能なのかどうかが問題となるだろう。数百キロの荷物を運ぶだけなら良いが、数十トンの装甲躯体を支え、動き回る性能となると、素材の選定も難しい、仮に可能だったとしてもかなり高価になることは間違いない。
一機当たり戦車数両分などというのでは、実用化のメリットはほとんどないだろう。
SFやアニメとして思い描くには良いが、現実に実用化できるかどうかを考えると、かなり難しいのかもしれない。そんな夢のない結論が出そうだが、誰も好んでキモい動きを見たくはないのだからそれで良いのかもしれないけれど。